砂を巻き上げ砂利道を進む戦車の列、市街地での爆発、涙の枯れた子供たち。武力紛争を報じるニュースで一度は目にしたことがある一コマではないだろうか。これらの映像はいかにも現地の様子を、刻々と鮮明に我々に伝えてくれているように感じる。しかしながら、こういった映像はその紛争の実情をどこまで伝えることができているだろうか。このようなイメージで伝えられる紛争報道では、我々は紛争の「緊迫感」、「激しさ」、「悲惨さ」を理解したつもりになるかもしれない。しかし、恐らく紛争の背景や平和に向けた取り組みを含めた紛争の全体像を理解することは難しい。そこで今回、紛争報道の実情を捉えつつ、より良い紛争報道に向けた動きを考える。

戦車で移動するイラク兵(写真:United States Forces Iraq / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])
ウォー・ジャーナリズムとピース・ジャーナリズム
そもそも、「戦争報道」、「紛争報道」とはどのような報道であろうか。我々が容易に想像できるものとして、武力が行使されている場面や権力者が声明を発表している場面に焦点が当てられたものが考えられる。そしてこのような報道をする人々のことを「戦争ジャーナリスト」や「戦場カメラマン」と呼ぶ 。しかし逆に、平和的な側面に焦点が当てられた報道はあまり目にしないのではないだろうか。例えば「平和報道」や「平和ジャーナリスト」といった言葉も耳にしない。これらのことから、一般的に紛争について報じられる際、平和よりも武力関連の事象に焦点が当てられていると考えられる。
こういった傾向は紛争報道に特徴的なものであると言えるかもしれない。現在世界が抱える深刻な課題に関する報道として感染症報道と比較してみよう。ここでは、2020年頃から毎日のように目にするようになった、新型コロナウイルス関連の報道について取り上げる。新型コロナウイルス関連の報道においても、もちろん日々の感染者数や死亡率、医療体制のひっ迫などネガティブな報道もあるが、同時に治療薬やワクチン、感染や重症化を防ぐ方法など、いかにこの感染症に対処するか、解決するかというところに焦点が当てられた報道も多い。こういった報道では一貫して人々の「健康」が目指されており、「不健康」ばかりを報じるのに終始するものはほとんど見かけないのではないだろうか。
このように、報道において健康を脅かす病気の扱い方と、平和を脅かす紛争の扱い方が大きく異なるようだ。現在の紛争報道の傾向を問題視する研究者は、紛争に関する報道をウォー・ジャーナリズム(war journalism・戦争報道)とピース・ジャーナリズム(peace journalism・平和報道)の2つの報じ方に分けると主張する。それぞれの報道の仕方について順番に見ていこう。
まず、従来型の紛争報道の仕方とも言える、ウォー・ジャーナリズムについて、その特徴を挙げながら整理していく。ウォー・ジャーナリズムの特徴は、スポーツ実況を想像してみるとわかりやすいだろう。スポーツ実況では、明確に2チームに分けられた選手の攻防の様子を伝えることが中心である。試合中にはその瞬間に起きている事実を伝えながら、終始どちらが勝つのかに着目していく。ウォー・ジャーナリズムとされる紛争報道でも基本的な構図は同じである。ここでもやはり、紛争当事者(チーム)を明確に2つに分けて、その対立軸が強調される。実際にはこのような単純な構造に当てはまらないその他の関係国、組織、関係者などがその紛争に影響を及ぼしている可能性があるにも関わらず、二項対立を中心に報道するのである。さらに、場合によっては特定の紛争当事者を「悪」として報道することがある。特に自国が関わっている場合には、初めから「相手」を「悪」と位置付けて報道する傾向が目立つ。中には、メディアが自国の理不尽な言動や嘘、隠ぺいには目をつむり、相手側の問題のある言動のみが取り沙汰される場合すらあるという。
加えて、ウォー・ジャーナリズムには反映される「声」と反映されない「声」がある。つまり、報道の情報源や当事者として取り上げられるものとして、参戦している当事者の首脳、大臣、軍人などのエリートの「声」がより多く報道されているということだ。逆に一般市民や、平和を求める人々や組織の「声」はあまり報道されないのである。また、一般市民が取り上げられるとしても、死傷者や避難民といった、量的に測れる側面の報道が多い。一方で、人々が心に負う傷や、貧困層の増加などの社会構造への影響といった、目には見えにくい現実は報道されにくい。

女性、平和、安全保障についての会議(写真:UN Women / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])
こういった紛争報道の現状を批判して生まれたのがピース・ジャーナリズムである。これは1991年の湾岸戦争時に、従来のような紛争報道では紛争に対する理解を妨げ、かつ紛争を助長させてしまうとして、長年平和学の研究に取り組んできたヨハン・ガルトゥング氏 によって提唱された。ピース・ジャーナリズムは、上に述べた健康報道のようなあり方で、紛争を報道しようとするものである。その特徴 としては紛争の背景・原因にも着目し、あらゆる関係者の声や観点に光を当てること、そして平和的な可能性や動きについても報道するということが挙げられる。また、仮に報道を行うメディア機関にとっての「自国」による理不尽な言動や嘘、隠ぺいがあったとしても、それを暴き白昼の下に晒すことが目指されている。ピース・ジャーナリズムは紛争の様々な側面を包括的かつ客観的に捉え、平和に向けた情報や観点を提供することで、紛争の解決にも寄与する可能性を持つのである。
ここまでで、紛争報道をウォー・ジャーナリズムとピース・ジャーナリズムの2つの観点から見ることができると述べてきた。ただし、実際の紛争報道においては、両方の要素が含まれていることが多い。そのため、紛争報道の実情をより客観的に理解するためには、ウォー・ジャーナリズムとピース・ジャーナリズムのどちらの要素がより強調され、より多く報じられているのかを詳細に見ていく必要がある。
NHKニュースウォッチ9から見る紛争報道の傾向
ウォー・ジャーナリズムとピース・ジャーナリズムについて、様々な研究機関によって多くの国のメディアを対象とした調査が行われている。また、この概念は実戦的にも用いられており、多くの国でもジャーナリストを対象に研修や講座も行われている。しかしながら、日本のメディアを対象とした調査はあまり見られない。では、日本のメディアが紛争を報道する際には、どのような報道がなされているのだろうか。ウォー・ジャーナリズムに近いものなのか、はたまたピース・ジャーナリズムの傾向が見られるのか。
今回はテレビのニュース番組を事例として調査を行うことにした。具体的には、2021年10月1日から2021年12月31日の3か月間の、NHK放送の「ニュースウォッチ9」を調査対象とした。期間中の全ての放送を見た上で、紛争や摩擦、対立について報じる、紛争報道と言えるものを抽出した。その結果、紛争報道と言える報道は18件あり、合計でおおよそ60分間の報道を精査した。18件の紛争報道の内訳として、武力を伴うものとしては、ミャンマーやスーダンでのクーデターとそれぞれに対抗する動きを報じたもの、アフガニスタンでのテロ、イエメンでの武力衝突があった。直接的な武力衝突を伴わず、摩擦や対立の段階のものとしては、ロシアとウクライナの間の緊迫していく情勢、北朝鮮のミサイル開発と発射について、中国の、台湾や日本の領域と主張されている地域に対する進出を報じたものなどがあった。
分析の手法としては、それぞれのニュースについてウォー・ジャーナリズムとピース・ジャーナリズムのどちらに偏りが見られるのかポイント制で評価することにした。ポイントを付ける基準として、下に示す先行研究(※1)にある8つの特徴(※2)を用いた。
それぞれのニュースに対して、上記の要素が当てはまった場合に1ポイントを加算(※3)し、そのニュースがどちらの要素をより多く含んでいるのかを調べた。調査対象とした18件の報道の日付・報道時間・内容・どちらの報道に偏っているかを以下の2ページの表にまとめた。各項目の右側に表示されている棒グラフにおいて、黄色の部分がウォー・ジャーナリズムの特徴が見られた割合、青色の部分がピース・ジャーナリズムの特徴が見られた割合をそれぞれ示している。
今回行った調査の結果、日本のメディアの紛争報道における特徴をいくつか挙げることができる。第一に、今回分析対象とした18件の報道のうち、17件の報道でウォー・ジャーナリズムの割合が大きいという結果になった。それぞれに加算された点数を平均しても、ウォー・ジャーナリズムが約4.1ポイント、ピース・ジャーナリズムが約1.8ポイントと、ウォー・ジャーナリズムの方が2倍以上高いことが分かる。これらのことから、全調査を行った期間の紛争報道がウォー・ジャーナリズムの傾向を強く示していたと言うことができる。
第二に、日本が当事者である場合や、当事者との関係が深い場合に特に強くウォー・ジャーナリズムの傾向が現れるということが分かった。今回の分析対象の中では、北朝鮮のミサイルについての報道や、中国の日本付近の海への進出に関する報道、ロシアの軍事的な動向に関する報道が、日本が当事国である、もしくは比較的日本への影響が大きい紛争であると言える。ロシアの報道に関しては、ロシアと対立するNATO勢力の中心国が日本の同盟国であるアメリカであることや、ロシアの軍事演習が日本の近海においても行われていることから日本への影響が大きい報道とした。実際に、それらの計9件の報道では、平均してウォー・ジャーナリズムに約5.2ポイント付いたのに対して、ピース・ジャーナリズムは約2ポイントの加算にとどまった。また、これら以外の紛争報道の平均が、ウォー・ジャーナリズムが約3ポイント、ピース・ジャーナリズムが約1.7ポイントであり、ウォー・ジャーナリズムの方がポイントが高くなっている点では類似する。しかし、日本が当事者になっている場合や当事者に近い立場をとっている場合と比較して点数の開きが少ない。この傾向が見られる理由として、日本が当事者になりうる場合に、メディアが恣意的に緊迫感を伝えようとしている可能性が考えられる。
以下では、今回分析対象とした紛争報道のうち事例として、ウクライナにかかるロシアの動向の報道、北朝鮮のミサイルの報道、スーダンにおける紛争の報道、イエメンにおける武力衝突の報道、の4つについて順に見ていく。
ケース1:ウクライナにかかるロシアの動向
1つ目に、2021年12月24日放送の、ロシアがウクライナとの国境付近に軍隊を集結させていることを受けての約10分間の報道を取り上げる。近年、ウクライナを舞台に、北大西洋条約機構(NATO)とロシアとの間で勢力圏争いが激化していることを踏まえ、今回のロシア及び欧米の動向には注目が集まっているのである。
この報道の流れをまとめておこう。まず今回起きた事象として、ロシアがウクライナとの国境付近に軍隊を集結させていることが述べられる。そしてソ連が崩壊して以後、東欧諸国がロシアとNATO勢力の意図がぶつかり合う場となってきた歴史的背景が紹介される。そこからは、主にロシアの国際政治学者にロシアの安全保障戦略についてインタビューするという形式で報道は進む。最後にロシアの動向が日本にも影響を及ぼしていることや、今後の展望などに触れて締めくくられている。

クリミア半島に派遣されたロシア兵 2021年12月24日放送
この報道に現れていたウォー・ジャーナリズム的特徴を挙げていこう。まず、使用される映像から、ロシアがいかにも戦争に向かっているかのような緊迫感が演出されている。前半部分では、実際の軍事衝突は発生していないものの、「ロシア国防省が公開した訓練の映像」として、戦車が走行しながら砲弾を発射する様子や、2008年にロシアがジョージアに侵攻した際の映像が流されている。後半部分でも、かつてロシアがジョージアやウクライナに介入したことに言及しつつ、出所が不明の砲撃シーンが用いられている。これらも、ロシアが武力行使を行いかねない国であることを印象付け、報道内容に緊迫感を持たせるための演出であると見ることができる。
さらに、映像だけでなく、ナレーションやキャスターの言動からもメディアの姿勢が見て取れる。まず、ナレーションでは、ウクライナに対するロシアの動きを、「牙を剥いている」と表現し、今にもロシアがウクライナに危害を加えようとするかのような表現している。さらに、キャスターがロシアの学者にインタビューするシーンでは、「あなたの国はウクライナに侵攻するのか」、「なぜロシアと中国の海軍は一緒になって日本を脅かしたのか」などと質問し、ロシアを「悪」と固定して報道する様子が見て取れる。
加えて、東欧諸国においてロシアを包囲しているとも捉えられるNATO軍やこれまでのウクライナでのアメリカの言動についてはほとんど報道されず、その狙いも問われていない。この報道では、ロシアが不可逆的に戦争に向かっているように見せており、平和的な解決の可能性について言及されていない。それでも、ソ連崩壊以後のNATOとの関係など、今回の動向に至るこれまでの経緯が一定程度説明されているといった点で、ピース・ジャーナリズムにも多少のポイントがつけられた。
ケース2:北朝鮮のミサイルについて
続いて、北朝鮮のミサイルについての報道について取り上げる。今回は北朝鮮のミサイルの開発及び発射に関わる6件(※4)の計10分の報道を分析の対象とした。国連が禁止しているのにもかかわらず、これまでも北朝鮮は弾道ミサイルや核兵器の開発・実験を繰り返し、厳しい制裁が科されてきた。そして今回分析した6件の報道では主に、北朝鮮がミサイルの開発を進め性能を向上させていること、実際にミサイルが発射されたことやそのミサイルの特徴、それに対するアメリカや韓国の反応といったように、新たな出来事や情報に合わせて一連の報道がなされている。

北朝鮮のミサイル発射の様子 2021年10月20日放送
まずそれらの報道に概ね共通して見られる傾向としては、徹底して北朝鮮を脅威の核保有国として印象付けている点である。専門家にインタビューをして、北朝鮮のミサイルの性能が向上していることを裏付けたり、ミサイルの発射シーンを繰り返して流したり、「速報」として報道したりすることで、視聴者に身近な危険として認識させる狙いがあると考えられる。中でも、2021年10月21日に放送されたものでは、金正恩氏が政府高官を従えてミサイルの前を闊歩する様子や、軍事パレードを高い場所から眺める様子を同時に流すことで、金正恩氏の北朝鮮国内における権力の大きさを示し、核・ミサイル問題の原因を金氏一人に帰するよう印象付けていると考えられる。さらに10分ほどの報道のうち、4分を超える部分でミサイルの映像や写真が用いられている。この報道でもロシアのケースと同様に武力に関連する要素が大半を占め、北朝鮮、そして金正恩氏を、恐怖をもたらす「悪者」と固定して報道していることが分かる。また、この問題について解決策や外交的な要素についての報道はほとんど無く、ひたすらに緊迫感を伝える内容となっている。中には、国連安保理の動きを報じたものやアメリカと韓国、そして日本が協力して新たに対応を検討していることに触れられた報道も見られたが、傾向としてはウォー・ジャーナリズムの特徴が強く現れていた。
ケース3:スーダンにおける紛争
3つ目のケースとして、2021年10月25日と26日にそれぞれ放送された計2分ほどの、スーダンでの紛争について伝える報道を取り上げる。スーダンでは、2019年に独裁的な長期政権が崩壊し、民政への移管が進められてきた。しかし2021年10月に軍部によるクーデターが発生し、当時の首相が拘束されるという事態になった。11月には一旦首相が復職し、民主化への兆しが見られた。それでも民主化勢力を中心に、確実な民主化を求めてデモを呼びかけた。2022年に入っても、民主化勢力と軍との衝突が続いている。今回分析対象とした2件の報道では、軍部がデモを受けて緊急事態宣言の声明を出す様子と、デモの様子を映像で流しつつ、死傷者の数や民主化勢力の動きについて報じられている。

スーダン軍部の声明 2021年10月26日放送
これら2件の報道は、報道時間のうちの大部分をデモの様子を伝える映像が占めており、いかにも現地の様子を克明に伝えているかのようである。人々と軍が衝突して煙や炎が上がる映像からは、まさしく混乱の様子が見て取れる。民主化勢力や現地の医師会の声明など、一部に情報源として複数の当事者が示されていた。しかし、それぞれ1分ほどの報道の中では、クーデターやデモの背景、平和に向けた動きなどについてはほとんど報道されることはなかった。この報道を通して視聴者には衝突の印象は残るであろうが、スーダンが現在抱えている問題点とその原因、そして解決策について充分に考えたり理解を促したりすることは難しいであろう。
ケース4:イエメンにおける武力衝突
最後に取り上げるのが、2021年10月20日放送の、1分ほどのイエメンの紛争報道である。イエメンでは、「アラブの春」後に政権内で内部抗争が起こり、さらに周辺の国や勢力のさまざまな利権が絡み合って複雑化した武力紛争が2014年から続いている。2021年末までに死者は37万7千人に上るとされ、この紛争は「世界最悪の人道危機」と形容されるほどである。

イエメンの武力衝突の様子 2021年10月20日放送
報道内ではこの紛争を「忘れられた内戦」として、各国の着目と支援の必要性について述べている。これまでの日本のメディアによる報道量という観点から見ても、日本の報道機関からも「忘れられてきた」とも言える。しかし、複数の他国軍が参戦しているこの紛争を「内戦」と呼ぶこと自体が状況の理解を妨げているとも考えられる。このことから、この報道を通じて得られる情報ではイエメンの紛争に関する誤解を招いていると言える。そして、紛争が起こった背景や平和への動きなどについても一切触れられていない。このような極端に短い報道時間では、上に挙げたスーダンの報道と同様に視聴者がこの武力衝突について理解することは困難であろう。
より良い紛争報道へ?
ここまで、紛争において暴力や対立を伴う部分を強調するウォー・ジャーナリズムと紛争の根本的な原因や平和に向けた動きにも注目するピース・ジャーナリズムの観点から日本の報道機関による紛争報道の様子を見てきた。しかし、ピース・ジャーナリズムについても批判的な見方がある。その批判は、平和に着目するあまり報道としての客観性を失っているというものだ。つまり、本来事象を観察してありのままを伝えるのがジャーナリズムであるが、平和を促進しようとすると、その事象の当事者となってしまう。これによって、ピース・ジャーナリズムはジャーナリズムというよりむしろ、平和の提唱者となってしまっているという主張だ。
しかし、ここまで述べてきたように、従来型のウォー・ジャーナリズムにも大きな問題がある。そこで、新たな紛争報道の在り方として、ジャーナリストであり研究者でもあったロス・ハワード氏を中心にコンフリクト・センシティブ・ジャーナリズム(conflict sensitive journalism・紛争に敏感な報道、以下、CSJ)が提唱されてきた。CSJとは、ただ紛争に関連する出来事の事実を伝えるのではなく、記者自身が紛争の原因を理解した上で、積極的により多くの視点、多くの声を拾う。そうして原因から和平に向けた動きまで、なるべく包括的に捉え、伝えようとするというものだ。これはピース・ジャーナリズムと被る側面は多いが、決定的な違いは、CSJでは平和を促進・寄与することが目的ではなく、そのような報道もしないことだ。より正確・包括的に捉えることは、結果的に解決・再発につながる可能性は高いが、あくまでそれを目指すものではない。

イエメンの和平交渉会議に臨む記者たち(写真:UN Geneva / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])
ここまで、従来の紛争報道であるウォー・ジャーナリズムは紛争の一つの側面に集中することによって、紛争への理解を妨げていることや、その結果として、平和的解決の可能性が見にくくなることを確認した。今回の分析でもこういった傾向が見られたが、これは日本の紛争報道一般にも通ずるのではないだろうか。一方で、紛争の原因や平和に着目して報道するピース・ジャーナリズムが存在すること、さらに客観性をもってより包括的に紛争を報道することで、人々の理解に寄与しようとするCSJという新たな動きが見られることを紹介してきた。紛争報道は何のためにするのか。各メディアやジャーナリストには、紛争について伝えることの意義を再確認して紛争報道をしていくことが求められているだろう。
※1 2019年に、マレーシアの新聞が南シナ海問題についてどのように報じているのかを研究したもの。この文献の中で、ヨハン・ガルトゥング氏の主張をもとにウォー・ジャーナリズムとピース・ジャーナリズムを特徴付ける8つの項目が示されている。
※2 8つの特徴:ヨハン・ガルトゥング氏が提唱するウォー・ジャーナリズムとピース・ジャーナリズムを、対にして特徴づける8つの項目である。
エリート志向、人々志向:情報源、当事者として、政府軍の関係者ばかりが取り上げられているか、一般の人々が取り上げられているか。
差異志向、合意志向:争点や立場の違い、摩擦などにばかりに着目しているか。それとも当事者が合意する可能性がある事象に着目しているか。
今ここ、因果:起きたことのみを報道しているか、それとも事の背景や長期的な帰結まで報道しているか。
相手悪、責任分担:相手国を「悪」と決めつけて報道しているかどうか。
二者構造、多重構造:対立構造を、単なる二者間のものであるかのように簡素化して報道しているか、それとも異なる多数のアクターの存在を考慮して報道しているか。
片側肩入れ、中立的:アクターのどちらかに肩入れしていたり、バイアスを掛けるような報道をしたりしていないか。
勝ち負け、ウィンウィン:帰結をどちらかのアクターの勝敗にのみ委ねているか、それとも別な解決策に言及しているか。
主観言葉、客観言葉:「悪」とするアクターを、ネガティブな言葉や誇張表現で表しているか、それとも客観的な言葉で表しているか。
※3 同じ項目の中で両方の特徴が見られた場合、それぞれの特徴の報道時間の内訳などを集計して、それに合わせて1ポイントを割り振った。従って、少数が発生したものもある。
※4 それぞれ、2021年の10月1日、10月6日、10月12日、10月19日、10月20日、12月2日に放送された報道。
ライター:Yosuke Asada
グラフィック:Yosuke Asada
限られた時間、文字数で視聴者にインパクトのあるメッセージを残すために、テレビ、新聞は、ともすれば紛争の極一部を切り取り、実際とは逆のような印象を与えることもあるかも知れない。ピースジャーナリズムよりウォージャーナリズムの方が、より多くの人の目を引くのは確かだろう。そんな中、北朝鮮の紛争などは例外だが、私の思った以上に日本のピースジャーナリズムも頑張っているな、と言う印象だった。
浅田氏はここからさらに踏み込み、より客観的なコンフリクト、センシティブ、ジャーナリズムを紹介している。
我々日本人も、対岸の火事だとは思わずに、一人一人が民族問題に積極的にかかわること、またメディアはそのような人に対して客観的な情報を提供することが求められる。
ストーリーで気になったから見にきました。
浅田の記事?を読むことによって、確実に自分の視野が広がりました。
今回紹介されていた紛争報道に限らず、ニュースを見るだけで全てを知った気にならず、ニュースを切り口にし、世の中で起きている事柄に注目して、偏りのない情報を得る必要があるのかなと感じました。
こういった固い文章を読むことが少なくなってしまったので、久しぶりに読んで面白かったです。ありがとう。
次の記事も楽しみにしています。
ストーリーで広報してね〜
ウォー・ジャーナリズムとピース・ジャーナリズムという考え方を初めて知りました。日本は報道に関してもアメリカの追随、とはよく言われることですがこの問題でも非常に偏りが多く、安易に敵・味方を作り出し分かりやすい構造に落とし込もうとしていることが気になっていました。もう少しその問題が起きた背景や関係する国々(2国間あるいは3国のみはありえないので)についても伝えるような報道が増えてこないと物事の本質を理解するのに役に立たないですよね。興味深い記事をありがとうございました。