コロナ禍での世界格差の急激な広がりは想像を絶する。2020年だけで9,700万人もの人が極度の貧困状態に陥ったことが世界銀行のデータから明らかになった。世界の全人口でみると、極度の貧困状態にいる人数が増えたのは1998年以来のことであり、「歴史上類を見ないほどの増加」でもあると世界銀行は言う。
同年、世界の億万長者たち(※1)の手に渡った富が急激に増加し、その金額は約4兆米ドルにものぼるという衝撃的な数字も世界不平等研究所によって発表された。この億万長者の富の増加も記録的な増加であり、25年前の記録史上最高額となった。この2つの現象が直結しない部分はあるにしろ、世界規模で貧困層と裕福層の格差が拡大していることは間違いなく、世界経済においても異例な動向だ。
しかし朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞(以下日経新聞)などの大手メディアでは上記のような驚きの数字を見ることはできない。さらに、これらのメディアが提供する情報を通じて、読者たちはこの世界の格差の問題自体とその背景を把握、理解することができるとも言い難い。なぜこれほどの重大な問題が報道されないのだろうか。この記事で探る。

富と貧困。インド、ムンバイ(Adam Cohn / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
格差の現状
これほどの人数が新たに極度の貧困状態に陥ったことは世界的な悲劇だ。しかし、この9,700万人という数字は「貧困」状態に陥った人数の一部に過ぎない。世界銀行が定義する「極度の貧困」とは、1日1.9米ドル以下で暮らす人を指しており、GNVで取り上げてきたきたように、1.9米ドルのラインを上回ったところで、「極度」の貧困状態から脱出したとは言えない。世界銀行は貧困の現状を捉えるために、3.2米ドルと5.5米ドルの別のラインを設けているが、これらの定義での「貧困」状態に陥った人数はそれぞれのラインでさらに2億人ずつが加算される(※2)。
億万長者の富の増加についても説明を加える必要がある。コロナ禍の最中に世界の億万長者が新たに入手した約4兆米ドルだが、これは全世界の国が出費している公共の保健医療の予算額に近い金額である。億万長者が1年で集めた富の少しでも各国のコロナ対策に割り当てることができたのなら、何人の命は救えたのだろうかという疑問が湧く人は少なくないだろう。この富の増加の一部はコロナ対策とも直結している。ワクチン開発の大部分の資金は各国の税金から賄われていたにもかかわらず、そのワクチンから得た利益は製薬会社の手だけに残った。結果的に、ワクチン開発と関連して9人の億万長者が新たに生み出された。医薬品業界全体を含めると、その数は40人にも上る。
しかしこの億万長者たちの急激な富の増加はコロナ対策だけで説明できるような金額できない。もちろん、ロックダウンなど人の流が少ない状態では通販やオンライン通信関連のビジネスは大きな利益を得ることができた。アメリカの通販企業であるアマゾン社の事例が示すように、多くの場合、その莫大な利益は主に企業の役員や株主に分配され、感染の危険性にさらされながら現場で低賃金で作業をする労働者に還元されることは極めて少なかった。また、過去の経済危機でもみられたように、政策の面でも企業や富豪に有利な対策が多く通された。結果的に、アメリカや日本などの国では政府による大企業への救済措置は中小企業や国民へのものを上回っていた。

病院前で体温検査。ジンバブエ、ハラーレ(International Labour Organization / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
しかし世界の格差はコロナ禍以前から長年広がってきたとも言える。GDP平均で見ると、過去数十年で低所得国の1人当たりのGDPは少しずつ増加傾向にあった。しかし、高所得国においてはそれをはるかに上回る勢いで1人当たりのGDP平均は増えていた。加えて、コロナ禍以前からも、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール1に掲げられている「極度の貧困をなくす」というターゲットを達成する見込みはなかった。企業や富豪にとって有利な経済システムがその背景にある。アンフェア・トレード、タックスヘブンを通じた租税回避や脱税、各国政府による企業への莫大な補助金も関連する問題として挙げることができる。
世界の格差は報道されたのか?
では、世界が直面するこの格差の現状は日本のメディアでどのように報道されてきたのか。新型コロナウィルスが発生してからの2年間(2020〜2021年)、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、さらに経済専門紙である日経新聞を調査(※3)してみた。調査の焦点としたのは、極度の貧困状態にいる人数と億万長者(または富豪、超富裕層)が所持する富の増加、及びこの2つの問題のつながりに関する報道だ。
調査から明らかになったのは、どの新聞においても、どの観点からみても、急増する世界の格差は重要視されているとは言えないことだ。確かに「格差」に言及している記事数は増えた。例えば、コロナ禍発生前の2年間(2018〜2019年)に比べて、発生後の2年間(2020〜2021年)ではその単語が登場した記事数は各紙で1.5から2倍程度に増えた(※4)。しかし、日本国内での格差が中心に書かれたり、一言の言及にとどまったり、漠然と書かれたりしたものが大半だった。世界の格差が急激に増え始めてからの2年間で、世界の格差の現状を深堀する記事がほとんどなく、取り上げる社説は各社ともにひとつもなかった。また、極度の貧困状態にいる人数と億万長者の富の激増というもっとも極端な格差の現れについての報道も極めて少なかった。

支援物資を待つ人々。バングラデシュ、ダーカー(UN Women Asia and the Pacific / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
まず、極度の貧困状態に置かれた人数の増加はどのように報道されていたのだろうか。4紙において、この問題を中心にした記事はほぼ皆無だったが、コロナ禍が台頭した早期の段階に関連する記事がいくつかみられた。朝日新聞には2020年5月にひとつの本格的な記事と同年10月に翻訳されたニューヨーク・タイムズ紙のコラムが掲載された。毎日新聞は2020年10月に同月の世界銀行の発表を受けて、共同通信からのひとつの短い記事のみを掲載した(※5)。読売新聞は2020年5月にひとつの短い記事で世界経済の縮小の文脈で極度の貧困問題も取り上げているが、極度の貧困の問題を中心に書いている記事はなかった。最後に日経新聞だが、2020年4月に子どもの極度の貧困が増えていることに関する短い記事と、読売新聞と同じく、世界経済の縮小の一環で取り上げている記事がひとつあった。つまり、1年間でこの問題について書かれている記事は4紙で合わせて、6記事だった(※6)。
しかし、2021年に入ると、どの新聞にもこのような記事はなかった。また、世界で極度の貧困状態に陥るであろう人数の予測が含まれていた記事は2020年にはいくつかあったが、2021年にはそれもなくなった。世界銀行が2021年1月には予測を修正し、6月には予測ではなく実際何人がその状態に陥ったかの統計を発表したにもかかわらず、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞ではこれらの数字が報じられることは一度もなかった。日経新聞は翻訳記事がひとつでおおよその数字に言及するにとどまった。
格差の文脈に限定せずに各紙の全記事で検索しても、「極度の貧困」という言葉の登場回数も少なかった。日経新聞では「極度の貧困」への言及が最も多かったが、それでも2年間で26件で、その半分の13件はファイナンシャル・タイムズ紙の翻訳記事からであった。読売新聞(12件)、朝日新聞(11件)、毎日新聞(3件)ではさらに極度の貧困への言及が少なかった。また、貧困状態にいる人数が急増する前に比べても、その登場回数が増えているわけでもない。2018年〜2019年の2年分の報道で「極度の貧困」に言及している記事数も調査してみたが、コロナ禍の前後では極度の貧困への言及数に大きな差はみられない(※7)。
では、億万長者が所持する富の増加に関する報道はどうだったのか。2020年〜2021年の調査期間において、「億万長者」、「富豪」、「超富裕層」の引用回数が「極度の貧困」の大幅に上回っていた。例えば、毎日新聞では前者のいずれかの言葉が102件の記事に登場し、後者の30倍以上であった。その中には、特定の人物を説明するために用いられた単語のみの言及も少なくなかった。より本格な内容が含まれた言及としては、2020年のアメリカ大統領選挙の関連で紹介された記事が多かった。例えば、民主党候補、共和党ともに億万長者の候補が出馬していたことが注目された。その他に、国内外の長者番付のランキングの動き、億万長者のプロフィール、次から次へと宇宙旅行をする億万長者などの記事はいくつかみられた。

スーパーヨット(Max Pixel [CC 0 Public Domain])
しかし、貧困状態にいる人数の増加と富豪が所持する富の増加を批判的につなげた記事は少なかった。またそのほとんどはアメリカに関する記事(※8)で、世界を視野を入れたものは皆無に等しかった。例えば、朝日新聞では、調査期間の2年間でコロナ禍における貧困と富のそれぞれの増加をつなげ指摘した記事は12件あったが、そのうちの9件は主にアメリカ国内での格差に関する記事であった。朝日新聞で世界全体の問題について言及したものは1件のみであり、記者解説の記事で、億万長者の富が増加していることと、コロナのワクチンが不足している問題を短く対比させる程度であった。
また、調査対象の4紙において、コロナ禍で増えた億万長者の富についての衝撃的な統計を発表した世界不平等研究所による報告書に言及したのは日経新聞のみだった。発表から約3週間遅れの記事で、この報告書の内容を元に書かれた記事がひとつ掲載された。記事では億万長者の富がどれほど増えたのかについては触れられていないものの、「世界の上位1%の超富裕層の資産は2021年、世界全体の個人資産の37.8%を占め、下位50%の資産は全体の2%にとどまった」などと、報告書からの他の統計がいくつか羅列された。その統計に関する解説は少なかったが、この問題を中心に書かれた記事だと言える。
知らなかったとは言えない
このように、急増する世界の格差に対して大手の報道機関が取り上げられることは少なく、この実態を示す世界銀行や世界不平等研究所などによる衝撃的な統計に触れることもほとんどなかった。
しかし、報道機関はこれらの統計の存在を知らなかったとも言えない。上記の通り、2020年中にどれほどの人が極度の貧困状態に陥りそうかという世界銀行の予測を引用する記事は少ないながらも4紙ともに掲載されていた。つまり、世界銀行が発表していた統計の存在を認識していた。実際、2020年に世界銀行がこの予測を最初に発表したのは4月で、その後の6月と10月に修正している。上記の通り、2021年に入ると世界銀行が極度の貧困に陥った人の数として9,700万人という確定された数字を発表した。この肝心な統計はどの新聞でも報道されなかった。たとえ世界銀行の発表そのもを追っていなかったとしても、他国の報道機関などでもそれなりに報道されていたため全く知らなかった可能性は低い。例えば2021年6月の確定版の統計はCNNや世界経済フォーラムなどによって報じられた。

道端で野菜を売る人々。ケニア(World Bank / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
億万長者への富の集中に関しても同じことが言える。新型コロナウィルスに対するワクチンの開発を通じて新たに生まれた9人の億万長者についてはロイター通信やニュースウィーク誌などで取り上げられた。医薬品関連業界で新たに生まれた40人の億万長者については、フォーブス誌で大きく報じられ、その日本語版にも言及されていた。
コロナ禍での世界全体の格差問題について詳しい統計を発表した世界不平等研究所による報告書については、本調査の対象とした報道機関の中で日経新聞だけが取り上げている。しかし、朝日新聞は中国の格差に関する記事でこの報告書のデータを利用していることから、少なくとも朝日新聞は同研究機関とその報告書の存在自体は把握していると言える。毎日新聞と読売新聞はこれまで、同研究機関について一度も言及していないが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙やガーディアン紙などで、格差に関する新たな報告が幅広く報じられたこともあり、その情報を入手していないとは考えにくい。
さらに、国連事務総長も急激に増える貧困と格差問題に対して強い口調で度々公式の場で警鐘を鳴らしてきた。例えば、2021年10月には、コロナ禍で悪化する貧困状況は「私たちが生きる時代の道徳の欠如」としつつ、それに対する「世界的な団結は行方不明」だとした。また、2022年1月に国連総会では「世界の金融システムは道徳的に破綻している。富裕層を優遇し、貧困層を罰している」とも述べている。また、コロナ禍で富を増やした者への富裕税の導入も提案した。
このように、世界銀行や国連事務局等の国際機関から、研究機関や他国の大手報道機関まで、具体的な統計を含め、急激に広がる格差について情報が多く発信されてきた。日本の報道機関はこの問題について詳しく知り、事の重大性に気づく機会はいくらでもあったはずだ。

新聞配達中。日本、神戸(halfrain / Flickr [CC BY-SA 2.0])
なぜ報道しないのか
では、日本のメディアはなぜ、この問題について知りながらも重要視してこなかったのだろうか。世界の格差の問題は出来事・現象としての内在的な報道価値が低いのだろうか。この現象のニュース性が低いとは言えないだろう。それは全世界を取り巻く異例な問題であるだけでなく、巨大な規模の動向、衝撃的な統計の発表など、出来事の規模や新規性の観点からも明らかだ。
取材を望んでいたのに、物理的、あるいは法律的にアクセスが遮断されるなどという制約もなければ、コスト面での制約もなかったはずだ。世界銀行(ワシントンDC)も世界不平等研究所(パリ)も、各紙が特派員をすでに配置している都市にある。極度の貧困が急増した場所での現地取材や、億万長者へのインタビューができることは当然望ましいだろうが、そのような取材をしなくとも、これらの機関が発表した報告書だけを題材にした記事を作成することはできたはずだ。報道機関における縦割り取材体制が関係していたのかもしれない。つまり、パリの特派員はフランス、ワシントンDCの特派員はアメリカの情勢が中心の役割となっており、駐在国の動向に関する報道が優先されたのだろうか。しかし、これだけが驚くべき世界の格差拡大や極度の貧困について報道されない理由とは考えにくい。
読者や報道関係者自身がこの問題に関心がないということなのだろうか。確かに、日本の新聞の購読者で極度の貧困状態にいる人はほとんどいないだろうし、遠く離れた国で貧困状態にある人にどこまで共感持てるのかと、報道機関内で報道すること自体への疑問が生じるのかもしれない。また、大手メディアの記者や編集者自身の多くはいわゆる「エリート」という立場であることからも、極度の貧困状態に対して当事者としての視点を持った報道ができないのかもしれない。しかし、メディアが報じてきた大富豪の長者番付や彼らによる宇宙旅行などに関する記事に鑑みると、超富裕層への関心は確実にある。また人間には正義感というものも存在する。富が貧困層から富裕層に移転しているという事実そのものが正義の観点から問題意識を呼び起こし、一定の読者の関心を惹くことは予測できる。「世界の格差に読者が関心を持っていない」、つまり読者ニーズという観点から見たとしても、急速に広がる世界の格差を報道しない説明とはならないだろう。
権力者との関係のほうが説得力が強いのかもしれない。報道と政治との関係を解明する多くの研究では、報道の自由が保障されているはずの国においても、メディアが何をどのように取り上げるのか、その意思決定過程において権力者が大きな影響力を持っていることが確認されている。アメリカの大統領、あるいは日本の総理大臣がある事態に関心を示せば、日本のメディアも関心を示すという傾向は様々な場面でみられる。今回の調査にもみられたように、日本のメディアがアメリカ国内の格差に注目したきっかけは、同国の政治家たちが格差に注目したことにあった。政治経済を動かすことのできる権力者を情報源として重要視する報道がなされれば、結果的に実際に世界や社会でおこっている問題よりも、権力者が重要視する問題が優先的に報道されるようになる。世界経済のいわゆる「勝ち組」となっているアメリカや日本の政治界が世界の格差を問題視するメリットは考えにくい。逆に、国連の事務総長は注目されてもおかしくない立場でいながらも、いわゆる「負け組」となる貧困層を代弁する役割があるとされる。しかし、実質的権力も経済力もほとんどない状態であることからか、国連事務総長が問題視した格差問題が注目されることは少なかった。

コロナ禍からの経済回復について議論する世界銀行、IMF、米政府の代表たち(World Bank / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
また、報道機関と自社のオーナーやスポンサー、あるいは企業や富裕層全般との関係も報道が何に着目するのかに影響を与える。そもそも、大手新聞社は大企業であり、利益を生むために営業する営利団体だ。読者が払う購読料は収入源の一部を担うが、広告を掲載するスポンサーも大きな収入源となり、経済的に余裕のある企業をスポンサーにつける必要はある。しかし企業は一般的にいえば、人件費や税金を抑えて利益を高めたい組織であり、こういった態度は労働者や一般市民の利益を損なう。そういう意味で利益が相反しかねない有力企業と貧困層が天秤にかけられたとき、新聞が貧困層を代弁すればするほど、スポンサーになってくれるかもしれない有力企業に嫌われることは想像できる。さらに、世界が舞台となれば、自国に所属する会社を応援するというナショナリズムも働く傾向がみられる。
そうした中、ジャーナリストのレベルにおいても大手新聞社に就職するため、組織の中で出世するため、上記のような利害関係から生まれる社内文化や価値観に合わせた行動をとるという傾向がみられる。さらに、アメリカの報道機関を対象にした調査では、3人に1人の記者や編集者は自社の利益のため、または仕事の確保あるいは出世のために、自己検閲を認めた。
政治界、経済界、報道界をつなげる経団連、電通といった広告代理店、PRコンサルティング会社、シンクタンクなどを通じて、企業や富裕層に有利な情報環境や「常識」が作り上げられている。例えば、世界情勢を分析する国内の大手シンクタンクとして、度々メディアの取材対象にもなる日本国際問題研究所に関しては、ホームページに掲載されているトピックスや研究活動を見る限り、世界の格差や貧困を真に「国際問題」として捉えた活動を行なっているかは疑問である。
社会のあらゆる方面に行き渡った「常識」がある中で、世界格差の異例な激増という現象を重要視しないという報道関係者の判断は、無意識のうちに行われているであろう。そのため、報道機関のオーナーやスポンサーが報道を抑圧したり、政府関係者が圧力をかける必要もない。報道機関の中で、格差報道の少なさを指摘する者もいなければ、疑問視する者もいないのではないだろうか。

丘の上。ペルー、リマ(Geraint Rowland / Flickr [CC BY-NC 2.0])
「常識」を問えるメディアへ?
世界の貧困問題、格差問題を軽視するメディアの傾向は決してコロナ禍で始まったものではなく、長年続いている現象である。GNVはこれまでも多くの記事で低所得国に関する報道の少なさを指摘してきた。しかし、コロナ禍でみられた格差の広がりの規模とそれに関する報道量の少なさの対比はあまりにも大きい。
この現状をみている限り、世界情勢において、報道はありのままの現実を伝える「鏡役」も権力を監視する「番犬役」も果たせていると到底言えない。権力や富が集中する組織や者を問うどころか、これらに寄り添い頼っている。
極度の貧困状態が広がる中、これほど人命が脅かされている危機的な状況を重要視できていないメディアの果たす役割とはなんなのだろうか。この負のサイクルを断つのもメディアの力が必要不可欠である。1記事ずつでも、現状が変わっていくことを願うばかりである。
※1 10億米ドル以上の資産を保有する者。
※2 GNVでは世界銀行が定める極度の貧困ライン(1日1.9米ドル)ではなく、エシカル(倫理的)な貧困ライン(1日7.4米ドル)を採用しているが、このラインに関するデータが不足しているため、今回は世界銀行の極度の貧困ラインを利用している。詳しくはGNVの記事「世界の貧困状況をどう読み解くのか?」参照。
※3 この記事で使用したメディアとそのデータベースは、朝日新聞(聞蔵IIビジュアル)、毎日新聞(毎日新聞 マイ索)、読売新聞(読売新聞 ヨミダス歴史館)のデータベース及び日本経済新聞オンライン。この調査では「極度の貧困」および「億万長者or富豪or超富裕層」の検索フレーズを中心に調査を行った。期間は2020年1月1日〜2021年12月31日。
※4 各紙で「格差」「経済」「世界」のキーワードを用いた。2018〜2019年・2020〜2021年(コロナ禍の発生前後の2年間)の記事数はそれぞれの機関で:朝日新聞315・510、毎日新聞204・291、読売新聞222・294、日経新聞640・1,296。
※5 2020年10月8日掲載の「世界銀行:『極度の貧困層』20年に7億人超 世銀推計」。(紙面での報道のみで、毎日新聞のウェブサイトには掲載されていない)。
※6 その他に、「極度の貧困」ではなく、「貧困ライン」という表現を用いる朝日新聞の別の記事(2020年10月18日)では世界銀行の極度の貧困を引用する別の記事もあった。
※7 各紙において、※3と同じ条件で2018年1月1日〜2019年12月31日、「極度の貧困」をキーワードに検索を行ったところ、朝日新聞は11件、毎日新聞は4件、読売新聞は7件、日経新聞は14件という結果が出た。
※8 その中でも、新型コロナウィルスによる影響ではなく、アメリカの大統領選挙の一環で、同国の政治家による国内税制への批判などに焦点が当てられた記事が多かった。
ライター:Virgil Hawkins
「客観的」な報道の実現がいかに困難かを知ることができる記事でした。当事者意識が持ちにくい事柄に対して関心を寄せない読者や、様々な団体によって現在の偏った報道が成立しているという背景を詳しく学びました。
記事興味深く拝読しました。よく「読者のニーズに合わないから」と国際報道を敬遠する風潮が大手メディアに見られますがら興味を喚起するのもまたメディアの役目ではないでしょうか。潜在的なニーズを掘り起こすのも企業としてのあり方だと思っています。そして1つのトピックを追い続けるのは大変でしょうが、1度報道したものに関しては責任を持って追いかけてほしいものです。