紛争、貧困、人権問題、難民・移民、環境破壊など、世界が抱えている問題は深刻だ。これらの問題への対策において、中心的な役割を果たしているのは193カ国が加盟している国際連合(以下国連)である。しかし、国連とその幅広い活動はどれほど伝えられ、知られているのだろうか。これまでのGNVでも伝えてきたように、日本の国際報道は、世界に関する報道自体は少なく、地域やトピックの偏りが大きい。では、国連に関する報道はどうなのだろうか。同様に報道されていないのだろうか。国連は実際、どの地域で、どのようなことをメインに活動しているのか。また、国連の報道は実際の活動と、どれほど差があるのか分析していきたい。

各国の旗が並ぶジュネーブ国連本部(写真:UN Photo /Jean-Marc Ferré [CC BY-ND 2.0])
国連とは
国連は主要機関として、加盟国がすべて参加する総会、紛争と平和について議論する安全保障理事会、国際公務員で構成される官僚組織となる事務局、国家間の対立に対して審判の役割を果たす国際私法裁判所の他に、経済社会理事会と信託統治理事会の6つの機関を設けている。また、国連世界食糧計画(WFP)、国連開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官(UNHCR)、世界保健機関(WHO)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、などの15の専門機関や、多くの計画、基金、その他 の機関が国連システム(国連ファミリー)を構成している。さらに、紛争後など不安定が残る地域では、平和維持活動(PKO)も行われており、124カ国から10万人以上の兵士や警察が世界各地で活動している。上記の通り、安全保障以外に、難民・移民、開発、人権、保健医療、環境など活動分野は多岐に渡る。世界各地で活動しているが、紛争、難民問題、貧困が特に深刻なアフリカや中東は、活動の大きな部分を占めている。
報道量でみる国連活動
では、報道を通して、どんな国連が見えるだろうか。2016年から2017年の2年間の朝日新聞の国連報道を分析した(※1)。また、現在国連広報センターは国連の活動を記事にし、UNニュース(UN news)として発信している。 国連(事務局)自身が重要視する主要な活動(UNニュース)と、朝日新聞が重要視する国連の活動を比較してみよう。以下のグラフは国連活動をUNニュースでの分け方と同様に、安全保障、人権、経済開発、保健、人道支援、持続可能な開発目標(SDGs)、移民・難民、気候変動、国連内部、法、女性を分野に分けたものだ。
UNニュースも朝日新聞も安全保障がトップであった。 UNニュースでは、アフリカでのPKO活動や、中東、アフガニスタンの和平協議が多く取り上げられていた。朝日新聞は安全保障が圧倒的に多い。全体67,784字のうち47,530字と約70%に上る。これは次のグラフの解説でも触れるが、北朝鮮の核問題が2017年は頻繁に取り上げられたことが大きな要因であろう。UNニュースではWHOの活動や、HIV/エイズ、コレラなどの感染症、ワクチンに関する記事などで、上位に取り上げられていた保健に関する記事は、0字だった。移民・難民は朝日新聞でも比較的取り上げられていた。UNニュースではアフリカの記事が多かったが、逆に朝日新聞ではアフリカの記事はなく、パレスチナ難民に関する記事や、シリアの周辺国は難民受け入れに悲鳴をあげているという内容が多かった。逆にUNニュースでは取り上げられることが少なくトップ10入りしなかった女性に関する記事は、朝日新聞では合計3千字以上書かれていた。内容は国連委員会が女性差別撤廃勧告を日本に出したというもので、女子差別撤廃条約に付属する選択議定書の批准について、日本は毎回の勧告にもかかわらず批准していないというものだった。また、UNニュースに比べ国連内部に関する報道が多かったが、これは国連事務総長や次期総長の立候補に関する記事が占めていた。
安全保障の中身の違い
では、報道が圧倒的に多かった安全保障に関する記事をさらに細かく分析してみよう。こちらのグラフは、UNニュースで取り上げられていた安全保障の内訳のトップ10を取り上げ、朝日新聞と比較したものである。
ご覧の通り、どちらも安全保障がトップであったが、その中でも取り上げられていた内容は大きく違う。UNニュースではアフリカや中東の問題に関する安保理決議、PKO活動、中東の和平交渉が多く取り上げられていた。一方、朝日新聞ではUNニュースではあまり注目されなかった制裁や核がトップとなり、2位の核の記事の文字数は、3位の和平 協議の文字数の倍以上となった。安保理は10数カ国に対して制裁を実施しているが、制裁に関する記事は、16記事のうち14記事が核問題で取り沙汰されていた北朝鮮への制裁に関するものだった。2位の核に関する記事は、核兵器禁止条約や、核実験禁止条約、またその演説に関する記事が多かった。日本はアメリカの核の傘下にいるため、核禁止条約に参加していない現状が問題視されていることや、また、地理的に近い北朝鮮の核開発、核実験が相次ぎ、核ミサイルが日本の安全保障上、大きな脅威だと見られていることが原因として挙げられる。また、3位の和平協議はシリアの和平協議に関する記事が多かった。
PKO報道の偏り
では、安全保障分野で、国連の主な活動の一つであるPKOをさらに詳細に比較してみよう。PKOの活動の現状(規模)と報道の比較をしたのが以下のグラフである(※2)。
驚くことに日本が当時派遣していた南スーダン以外の国でのPKO活動は、今回の分析では記事がひとつもなかった。実際には、コンゴ民主共和国やスーダン(ダルフール)は南スーダンより多く派遣されており、マリ、中央アフリカ共和国、レバノンも南スーダンと同様1万人以上がPKO活動で派遣されている。朝日新聞のPKO報道で独占した南スーダンは、2011年にスーダンから独立を果たしたが、独立後も紛争は続き、2011年にUMMISS(国際連合南スーダン派遣団)が設立され、約1万7千人規模の兵士が国連から派遣された。このうち日本は2011年から2017年までに約300名の自衛隊員を派遣していたため、日本では度々、日本の観点から報道された。
伝えられないPKO活動
では、報道されていないPKO派遣上位の国の実態はどのようなものだろうか。1位のコンゴ民主共和国は、1998年以来、約540万人以上といわれる死者をだす朝鮮戦争以来の世界最多の死者を出した紛争がある。1999年にMONUC(国連コンゴ民主共和国ミッション)が設立され、翌年から活動をしているが、いまだ2万人以上の大規模な人数が派遣されている。2位のスーダンでは、2003年ごろからダルフール紛争が激化し、大量の難民や武力勢力が発生した。2007年に国際連合アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)が設立され、1万9千人程派遣された。4位のマリ共和国は、2012年から反政府勢力が大きくなり、治安が悪化した。2013年4月にMINUSMA(国際連合マリ多元統合安定化ミッション)が設立され、1万4千人以上が派遣された。また、5位の中央アフリカ共和国は、2014年頃、一時治安は回復していたが、2017年から再び悪化した。そのため、3年前と比べ、PKO派遣数は4千人ほど増え、1万3千人以上が派遣された。レバノンでは南部で武装組織ヒズボラとイスラエルの衝突があり、2007年からUNIFIL(国際連合レバノン暫定駐留軍)が置かれている。1万人以上が派遣され、南レバノンからのイスラエル軍部隊の撤退の監視を行っている。
このように、多くは報道はされないが、南スーダン以外の国でも、大規模な紛争と大規模なPKO活動が行われているのだ。また、PKO部隊が襲撃され、殺される事件もある。例えば、2017年12月8日には、コンゴ民主共和国で活動していたPKO隊員14人が死亡、53人が負傷し、PKO部隊に対する近年で最悪の襲撃になった。
報道量でみる地域の偏り
では、国連報道において、注目は世界のどこに集中しているのだろうか。上記からすでにさまざまな偏りは見えているが、地域別でまとめるとどうなるのか。UNニュースの記事数と朝日新聞の文字数で比較したものがこちらである。
先ほどのPKO派遣数では上位4カ国すべてアフリカであった。しかし、ご覧の通りUNニュースではアフリカがトップだが、日本の国際報道では、アフリカは5地域のうち4位となった。さらに下のグラフは朝日新聞の国別トップ10である。
北朝鮮は核や制裁に対する国連の姿勢が多く報道されたため、トップとなった。2位の韓国は慰安婦問題をめぐる国連委員会の動向に関する記事が多かった。3位の南北アメリカは、ほぼアメリカの記事であり、内容はアメリカの北朝鮮への制裁の国連決議や、オバマ前大統領が、核実験禁止を安保理決議で目指しているという記事が多かった。アメリカ以外の南北アメリカの記事は、国連事務総長候補のアルゼンチン外相コメントの1記事だけであった。ここで注目したいのは、4位のアフリカは南スーダンの記事だけだったことだ。つまり、地域別のグラフと国別のグラフにより、日本の国連報道では国連活動が圧倒的に多いアフリカ全土より、アメリカ1つの国の方が注目されているということが分かる。5位のシリアは、国連主導の和平協議が難航しているという内容が多かった。また、UNニュースではアフガニスタンでのUNAMA(国連アフガニスタン支援ミッション)の活動や、イスラエル・パレスチナの和平協議、マリ、中央アフリカ共和国でのPKO活動が多く報道されていたが、これらの国々はいずれも朝日新聞の報道ではランクインしなかった。

コンゴ民主共和国でのPKO活動、女性隊員が巡回している(写真:MONUSCO Photos /Flickr [ CC BY-SA 2.0])
国際報道において、報道される地域は、報道機関が拠点とする地域に集中するのは仕方ないかもしれない。「日本の」国際報道として、地理的に近いアジアや、日本とより密接に関係している国に注目を当てているのだろう。しかし、世界全体の国際問題を取り組むことが目的である国連についての報道までもが、ここまで偏っていていいのだろうか。国連での活動の大部分を占めるアフリカは、日本から少数のPKO派遣があった1カ国しか報道されていないのが現状だ。中南米での活動も、この調査においては、全く触れられていない。これではメディアが「国連」という存在とその活動の全体像を伝えることができているといえるかは疑問である。現在の国際情勢を理解する上でも、国連はどこで何のために、どんな活動をしているのか、自国に偏重せず報道する必要があるのではないだろうか。
※1 見出しに「国連」という字が入っているものを取り上げている。朝日新聞の分析はすべて朝刊のみで、朝日デジタルは含んでいない。「国連」が見出しに含まれていないが国連の活動を紹介している記事もあるが、本分析には含まれていない。
※2 PKO派遣数は2017年8月31日現在のデータをもとに作成している。
ライター:Mizuki Uchiyama
グラフィック:Mizuki Uchiyama
「日本のための報道だから仕方ない」という人もいますが、
今回の記事を読めば、そのような意見はまったく説得力がないですね。
世界が客観的に見れなければ、理解することもできないし、対策もとれません。
国連についてはなおさらです。