日本の国際報道において、報道される地域や内容に一定の偏りが見られることはこれまでのGNVで取り上げてきた通りだ。日本と地理的に近いアジア、特に中国や朝鮮半島のニュースは頻繁に取り上げられ、距離が遠くとも、政治的・経済的につながりの深いアメリカやヨーロッパのような先進諸国もまた、報道されることが多い。では実際に「日本」が関係している出来事や国についての報道(例えば二国間関係、日本の閣僚が参加している国際会議、日本人が負傷した事件・慰安婦問題などについての報道)が、国際報道のどれくらいを占めるのだろうか。国際報道における日本に関連する報道の割合を、GNVのデータ(2015年分)を使って分析した。
上記の図は、国・政府・企業・個人レベルで日本が絡んでいるニュースが国際報道の中で占める割合である。ご覧のように、朝日新聞:16.8%、読売新聞19.4%、毎日新聞19.7%、と朝日新聞が少し低いものの新聞社ごとの大きな差はない結果となった。この数値を高いと見るかどうかは議論の分かれるところであろう。しかし国際報道が全報道の10%程度であることを考えると、「日本」が話題に上らない記事が全報道量の8%にも満たないという事実は読者にとって留意しておくべきことであろう。
では次に、日本が関連する国際報道はどういった内容が多いのだろうか。以下朝日新聞、読売新聞、毎日新聞が2015年に報道した日本関連の国際報道における分野別の割合を調査した。
いずれの新聞社でも政治分野の報道が最も多く、次いで経済や戦争・紛争が多い順番となった。全国際報道における分野別の割合では、3社とも割合が大きい順に政治、戦争・紛争、社会、経済、事件・事故と並んでおり(※1)、それと比較すると、日本絡みのニュースでは朝日新聞を除いて経済の話題が戦争・紛争よりも多く報道されており、差異が見られる結果となった。(朝日新聞は「戦後70年」などの特集記事が他紙に比べて多く、戦争・紛争分野が多かったものと考えられる。)政治分野に関する話題として多かったのは首相会談や国際会議について、特定のトピックでは北方領土問題や慰安婦問題についての報道だ。経済分野では群を抜いてTPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋経済連携協定)の話題が多く、3社平均で25%以上(毎日新聞では約40%)もの報道がTPPに関するものであった。
ここで視点を変えて、国際報道においての報道量が多く、日本とも政治的・経済的に近い国々の報道における日本絡みのニュースの割合について見ていこう。ここでは2015年の国際報道に登場した国TOP5(アメリカ、中国、フランス、韓国、ロシア)について見ていくこととする。
上記の図から見てわかるように、フランスは9%と低いものの、アメリカ・中国・ロシアは日本絡みの報道が約20%という数値に落ちついた。注目すべきは韓国であろう。慰安婦問題や日米韓協議に関する報道が多く、韓国の全報道の46%以上が日本関連のニュースとなっており、他国と比べても群を抜いている。これでは報道によって映し出される韓国の姿の半分が「日本」というレンズを通しており、客観的な視点で韓国を捉えることが出来ているのか不安が残る。
また、今回の分析では報道量の多い国についてのみ日本絡みのニュースの割合を見たが、日本関連の記事の割合として全世界各国を見た場合、韓国をはるかに超える国もあった。例えばパラオやトンガのように天皇陛下の訪問があったために注目を浴び、報道量の80%以上が日本絡みの国があった。またアルバニアやサモアは日本大使館新設に関して1度報道されたのみで、全報道量における日本関連の記事の割合が100%を記録している。つまり、日本との関連がなければそれらの国はほとんど、もしくは一度も報道されることはなかったということだ。このように日本関連の記事の割合を見ていくと、国際報道に頻繁に登場し、よく知った気になっている国も実はその大半が「日本」という視点で見ている場合があることが分かる。また数少ない報道があったとしても「日本」が何かの形で関係している出来事しか報道されておらず、その国・地域の理解までは及んでいない場合もあるといえよう。
人が社会の中で他者と関わりながら生きていく以上、相手の立場になって物事を考えることはとても重要だ。これは「国」という視点になった時も同じことが言えるのではないか。グローバル化が進み国際社会の重要性が増した今、個人と同様に「日本」という視点だけでなく、相手国視点や国家や国境のような概念を越えた客観的な視点で物事を見ていくことが重要であろう。また、今は直接関係していなくても、意外な場所で日本に関連するできごとが起きた場合に適切な理解や対応をしていくためには、日頃からの客観的な情報が欠かせない。世界は広く、どこの国・地域の出来事も私たちの日常生活に影響を与えうることを忘れてはならないだろう。
脚注
※1、グラフの5項目は、以下の内容を内包する。
「GNVデータ分析方法【PDF】」参照
政治:政治
戦争・紛争:戦争/紛争・軍事・テロ・デモ/暴動
社会:スポーツ・科学技術・環境/公害・教育・芸術/文化・社会/生活・保健/医療
経済:経済
事件・事故:事件・事故・気象/災害
ライター:Hiro Kijima
グラフィック:Hiro Kijima