世界には193もの国があり、日本がそうであるように、世界各地で、毎日政治、経済、社会が動き、事件や事故が起こっている。また、戦争や紛争が起こっている地域もある。しかし、我々が日々目や耳にするニュースは、本当に実際の世界全体を映し出しているのだろうか。例えば、地球儀上の大陸をイメージしてみよう。アメリカ、アフリカ、ユーラシア、オセアニア、南極。ニュースでよく聞く地域は、その極一部ではないだろうか。アフリカ、中央アジア、オセアニア、中南米。果たしてそういった地域のニュースがどれだけ話題に上るだろう。今回は、どのような偏りが日本の国際報道にあるのかを見ていくことにする。
日本の国際報道について、地域別、国別の報道量に注目して分析していく。データは、2015年に朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の三社の国際報道の記事を用いた。地域は、UNSD(United Nations Statistics Division、国連統計部)の基準に従い、アジア、アフリカ、オセアニア、ヨーロッパ、北米、中南米の6地域に分けた。報道量は、記事の文字数で測っている。GNVの国際報道の定義については「GNVデータ分析方法【PDF】」を参照されたい。
でははじめに、地域別の報道量について見ていこう。図1は地域別の報道量の割合を示したものである。アジアが圧倒的に多く、次いでヨーロッパ、北米が多い。アフリカ、中南米の87ヶ国の報道量をすべて足し合わせても5.5%に過ぎず、1ヶ国であるフランスの報道量(5.2%)と大きな差はないのである。
それでは、これらの報道量が少ない地域では、どの国が最も多く報道され、どのようなことが報道されているのだろうか。まず、アフリカの中で最も報道された国は、チュニジアである。全体では21位であった。報道内容は、テロに関するものが多い。特に2015年は、3月に起きた博物館襲撃テロについて詳しく多く記事になっている。次に、中南米で最も報道された国は、キューバである。全体では19位であった。報道内容のほとんどがアメリカとキューバの国交正常化に関するものである。
では次に、国別の報道量について見ていこう。2015年の国際報道の中で、報道量の多かった上位10か国を図2に示した。また比較対象として、日本に関連した国際報道の字数とその割合を掲載している。
まず目につくのは、国際報道の中でも日本に関係している報道が多いということである。このグラフの序列の中で、一番右の日本関連の国際報道量を数えてみれば3位に入るほど、日本関連の国際報道は多い。これは、日米関係などの諸外国との関係についての記事や、日本人が巻き込まれた海外の事件に関する記事が取り上げられやすいためだ。日本についての報道はやはり国内での注目度が高いため、国際報道の中でも重点を置かれることとなる。日本関連でいえば、中国、韓国、アメリカ、ロシアといった政治・経済的、或は地理的に日本と近い国がランクインしている。
また、これら報道量上位の国を地域に分けると、アジアが4か国、ヨーロッパが5か国、北米が1か国である。アフリカ、オセアニア、中南米の国は1つも入っていない。それでは、報道量が多い国の特徴は何なのであろうか。一つは、常日頃から日本に政治的、経済的に関係の強い国ということが考えられる。もう一つは、国の経済的な地位が高いほど報道されやすい、ということである。2014年のGDP上位10か国と報道量の上位10か国を照らし合わせると、アメリカ、中国、フランス、ロシア、ドイツの5か国が重なっていた。また今回ギリシャとミャンマーが上位10以内に上っている。ギリシャに関しては、ヨーロッパ経済危機の元凶として、またその後の経済協議の当事者として多く報道された。ミャンマーは、改憲への動き及び総選挙の模様、移民としてのロヒンギャ族が取り上げられ、政治体制が大きく変わる、日本と政治経済的関係の強い東南アジアの一国として報道された。
しかし、GDPが大きいからと言って、報道量が大きいとは限らないようだ。GDPの大きい国の中で、報道量の小さい国を見てみよう。インド、ブラジルはそれにあたる。それぞれのGDPは、世界でブラジルは9位、インドは7位を占めているが、その報道量はそれぞれ0.4%、0.7%で、それぞれ35位、24位に過ぎない。(The World Bank, World DataBank)両国はGDPだけではなく人口も大きく、インドは13億人(世界2位)、ブラジルは2億人(世界5位)だ。
さまざまな側面において「大きな」この2ヶ国は、なぜ紙面に上らないのだろうか。日本との貿易量で見ると、インド、ブラジルはアメリカ、中国、ヨーロッパを大きく下回っている。これがひとつの原因かもしれない。また、ブラジルに関しては地理的な距離があるのかもしれない。しかしもう一つの要因は「貧困」という現状にあるとも推測できる。一人当たりGDPも、日本は32,500 USDであるのに対して、インド、ブラジルは順に1,600、8,500 USDである。平均で見ると、生活水準が比較的に低い国々と言えよう。今回の調査でも、貧困を抱えている国々に対する報道量は全体的に少ないことがわかった。日本での生活水準と似た、理解やイメージがしやすい国々のほうがが、人々の興味を引きやすいという判断が働いているとも考えられる。
今回の分析で、日本の国際報道は、報道される地域、報道されない地域に大きな差があることが顕著に認められた。特に中南米、アフリカの報道量の少なさは明らかだ。また、日本とかかわりの深い国が報道されやすい傾向があり、貧困国より豊かな国のほうが、報道量が多くなるとも言えるのかもしれない。グローバル化が進み、世界各地との関係が必然的に深まる中、このような情報の偏りは見過ごせることだろうか。報道が変われば、世界情勢の現実を伝え、読者に世界への理解を進めさせることへ大きく貢献できるかもしれない。
ライター:Miho Horinouchi
グラフィック:Mai Ishikawa