新聞は、政治経済を始め生活に関する話題まで、多岐に渡る種類の情報を毎日提供する。報道内容を決めるのはもちろん新聞社であり、報道の仕方や量が人々の興味の形成に多大な影響を及ぼすが、逆にその決定は、読み手である我々の関心の有無に左右される。両者が一体となって日々移り変わる社会の眼は、主にどの分野に、どの地域に注がれているのだろうか。日本全体の報道量の10%程と量の限られた国際報道において、注目される話題とされない話題には明確な線引きがなされる。
上記の図は、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞が2015年に報道した全国際報道における分野別の割合である。三社とも、割合が大きい順に政治、戦争・紛争、経済、社会、事件・事故と並ぶ(※1)。具体的な数字まで酷似しており、日本の新聞社が提供する国際報道の優先順位と言って良い。
では地域別に見た場合、分野ごとの報道量はどのようなものだろうか。
上記の図(国連統計部による地域区分)が示す通り、全体での割合に準じてほとんどの地域は政治が中心に報道されている。注目に値するのは、紛争関連の事柄が占める割合に地域ごとの大きな差があることである。特にアフリカについては、紛争に関する報道が42.1%に対して政治が24.8%と、他の5地域に比べかなり特徴的だ。
ここで2015年の世界の紛争状況と、地域別の紛争報道の割合を比べてみたい。

(Conflict Barometerの基準に基づく)
アフリカ、そして中東地域に紛争が集中している。中東(国連統計部の地域区分での「西アジア」)における報道は、中東報道全体の半数以上が紛争関連で、政治は3割に満たない。危機的な紛争問題を抱える地域については、政治や他のトピックスよりも紛争関連の情報が多く発信されるようだ。
しかし実際の状況と比べ、紛争記事の割合が明らかに大きい地域がある。ヨーロッパだ。ヨーロッパ全体の約3割を占める紛争報道は、ほとんどがフランスで発生した2度に渡るテロ、そしてウクライナ・ロシア間の紛争に関するものである。
ヨーロッパでのこれら2つの問題に対する世間の注目度の高さは、報道の絶対量を見るとより明らかだ。
全体で2位を占める紛争報道の出処は、中東を含むアジア、そしてヨーロッパだ。逆に多くの紛争地域を抱えるアフリカに関しては、量で見た時その危機的状況を伝える情報はごく僅かに過ぎない。死者数で問題の規模を一概に測ることはできないが、2015年アフリカでの紛争による死者35,220人(戦闘による死者のみ)の情報は、フランスでのテロによる死者数約150人の情報に凌駕される現実がある。
アフリカの報道については矛盾が多い。紛争数に対して報道は僅かだが、その反面紛争報道の割合が大きいことは、情報不足と相まって不明確でネガティブな印象を人々の中に形成する。紛争が多いと言え地図上で色づいた国はアフリカの5分の1程であることからも、他の分野の知るべき情報の存在が伺える。
日本の国際報道の報道分野における大筋の見方は、全体量で見てもほとんどの地域においても政治に関する情報が中心だが、紛争が多い地域に関してだけは例外的に紛争報道が政治を上回るということだ。また、地域別に見た紛争報道の割合と絶対量、実際の紛争状況との比較は、紛争の数や規模よりも、その発生地域が社会の興味・関心引く重要な要因になることを顕著に示した。
最後に、紛争の多い中東やアフリカといった地域において、政治に関する情報が減ることに疑問を呈したい。近年複雑さを増す武力紛争の実態について、全体像を把握することは簡単ではない。ただ、より広い視野を持って問題を捉えるために、政治状況や社会状況、その地域の前提となる知識などに関する十分な情報が必要である。限られた国際報道の中で、取り上げられる地域と取り上げられない地域、また地域によって注目されるトピックとされないトピックの間に大きな差があることは、人々の世界の見方に直接的な影響を及ぼすだろう。
脚注-------------
※1、グラフの5項目は、以下の内容を内包する。
「GNVデータ分析方法【PDF】」参照
政治:政治
戦争・紛争:戦争/紛争・軍事・テロ・デモ/暴動
社会:スポーツ・科学技術・環境/公害・教育・芸術/文化・社会/生活・保健/医療
経済:経済
事件・事故:事件・事故・気象/災害
※2、図1、2、3における割合は、全て文字数に依る。
※3、日本の大手全国紙とは、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の3社を意味する。
ライター:Miho Kono
グラフィック:Yosuke Tomino
私はメディア分野を勉強している大学生です。
日本における国際報道の現状を知る上で、
大変参考にさせて頂きました。
今後も参考にさせて頂きたいと思います。