報道される国とされない国、その決定の背景にあるものは何だろうか。まずニュースの読者とその国との関係が挙げられる。しかし、「関係」とは何なのか、そしてどのように測るものなのか。そもそも「関係」というものは、その国と何らかのつながりを持った時点で生まれうる。それはプライベートでの「関係」かもしれない。例えば旅行だが、単なる娯楽か、親戚を尋ねるのか、はたまた恋人とのひとときかも知れない。ビジネスにおける「関係」の可能性だってある。こちらも貿易や海外展開、経済移民など一言に纏めるのは難しい。
今回は、「関係」の中でも貿易に焦点を当てる。日本における貿易と報道の関係性、即ち、日本と経済的なつながりがあるかどうかが、その国の報道量を左右するのかを見ていきたい。

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日経新聞における国際報道:注目される国々
貿易について分析するため、調査には日本経済新聞(日経新聞)を採用した。日本においてビジネス紙としての評判・信頼が高い同紙は、多くの会社役員を始め大衆に広く読まれているからである。
まず、下記のグラフを見て欲しい。2000年からの約10年間、日経新聞にて報道量が最も多かった国々である。(※)
ここから、アメリカ合衆国に対しての圧倒的な報道量が見て取れる。実際、北アメリカ大陸(この記事ではアメリカ合衆国とカナダの2国を意味する)とアジア(中国に多くの視線が注がれていたこともあり)が国際報道の内、80%を超える割合を占めている。<
興味深いことに、トップ2国を詳しく見てみると、2011年には中国に対する報道量がアメリカのそれを上回っていることが分かる。
貿易がマスコミ報道に影響するのであれば、 ここ数年で日本と中国の経済的つながりがアメリカとのそれよりも強くなったと、このデータは示していることになる。事実として、日本の中国貿易はこの10年間で大きく伸び、2007年には中国との貿易量がアメリカとの貿易量を越えていた。これは貿易と報道の関連性を示唆する一つの事実と言えよう。 中国との貿易量がアメリカとのそれを上回った2007年時点では、日経新聞の中国報道がアメリカ報道を上回ることはなく、実際に順位が入れ替わったのは2011年になってのことであった。4年間のタイムラグは、時の流れの中で、経済的なつながりが強くなればなる程、報道量が増加するという、貿易と報道の因果関係の可能性を我々に提示している。
日経新聞における国際報道:注目されない国々
経済的つながりとその国に対する報道の関連性がアメリカや中国のような経済大国について当てはまることはこれまで見てきた通りである。では、他の国々はどうなのであろうか。アメリカや中国のような大国に比べると、殆どの国の報道量がその10分の1にも満たない。そのような国々についても貿易と報道の関連性が同様に認められるのだろうか。
一先ず、日本と世界との経済的つながりを考えてみよう。下の円グラフからは、2001年から2012年にかけ、日本の貿易量の半分以上がアジア諸国との間で交わされたものだということが分かる。日経新聞を見てみると、やはりアジアについての報道量がトップを占めている。アジアに次いで、北米、ヨーロッパ、オセアニア、中南米、アフリカと並ぶ貿易割合だが、この順序も日経新聞における報道量順序とほぼ一致しているのだ。
日本経済におけるアジアの立ち位置は2000年からの10年間で大きく上昇した。だからといってアジア以外の地域と日本との貿易の絶対量が減ったわけではないが、他の地域に比べてアジアとの貿易が大幅に増加したのは確かである。このような変化は、貿易についてだけではなく、日経新聞の報道にも表れている。
日本の貿易の90%を占めるアジア、ヨーロッパ、北米。一方でオセアニアや中南米、アフリカ大陸はグラフ上部を凝視しないと見えないほどに存在感が無い。特に、全世界の4分の1の国が在り、7分の1の人間が住むアフリカが圧倒的最下位となっている。日本と世界各地域との貿易量は2009年の世界金融危機の影響で一旦低下したものの、その後すぐに回復した。しかしアフリカだけは2012年時点でも金融危機以前まで回復することはなかった。これは興味深い事実だろう。さらに分析を深めてみよう。
より詳しくアフリカ大陸を調べてみると、日本との貿易量の大きな偏りに気づく。アフリカ大陸において日本との貿易量の半分近くを南アフリカが占めているのだ。これより、南アフリカを除くアフリカ大陸の国々と日本との経済的つながりは極めて少ない。
次に、経済大国についての調査同様、日本で殆ど報道されず日本との貿易量も少ない国々について、貿易と報道の関係があるかどうかを調べたい。時の流れの中で、経済的なつながりが強くなればなる程、報道量が増加するという、貿易と報道の関係は、こちらでも見られるのであろうか。これはアフリカのモザンビーク、そして中南米のキューバについて、日本との貿易および日経新聞での報道量を表すグラフだが、これより、貿易と報道とのつながりが見えてくる。似たような傾向は、コンゴ民主共和国やグアテマラといった他の国にも同様の関係を確認できた。 経済的なつながりが強くなればなる程、報道量が増加するという、貿易と報道の関係は、その名をあまり聞かれないような目立たない国においても同じく存在するようだ。
これまで、日本と世界の国々との経済的つながりが、ビジネスメディアにおける報道と密接に関係していることを見てきた。経済的結束が強い程、日経新聞における報道量が増えることが分かった。しかしながら、貿易量が多いからと言って、それが報道量の増加に直結すると断言はできないだろう。なぜならそこには他の要因、例えば物理的距離などが存在する可能性が在り、それによって貿易量も報道量も左右されているかもしれないからだ。だが今回の分析から日本のメディアに対して一つの問題を投げかけることはできる。果たして日本のメディアは自国の企業やビジネスマンに関連するニュースのみを報道し続けるべきなのか、それとも公平な視点から偏りない国際報道を行うべきなのか。勿論答えは「両方行う」のが良いのであろうが、現状の日本のメディアが公平な視点から国際報道を行うにはまだまだ乗り越えるべき課題が多そうである。これが実現すれば、我々の考える「関係」もいつか変化する日が訪れるだろう。
※日経新聞における報道量のグラフは、記事の見出しに該当する語句が表れた記事数を計測している。また、今回の記事で用いられたメディア調査方法は、読売新聞・朝日新聞・毎日新聞を対象としたGNVのデータベースのそれとは異なることを追記しておく。
ライター: Yani Karavasilev
翻訳: Tadahiro Inoue