大西洋に面するナミビアの海岸、スケルトン・コースト(Skeleton Coast)。日本語に直訳すると、「骸骨海岸」という不気味な名称の海岸である。それもそのはず、スケルトン・コーストには、無数の座礁船やクジラなどの水生動物の骨が散在しているのだ。
長さ500㎞にもおよぶこの海岸は、ナミビア北西部のナミブ砂漠と、アフリカ西岸を北上する冷たく荒々しいヘンゲラ海流がぶつかり合う場所に位置する。周囲海域の濃霧や、アフリカ西岸を北上するヘンゲラ海流など、この地域特有の気候が周辺を航行する多くの船舶を座礁させ、ゆっくりと時間をかけて、海岸全体を座礁船の「墓地」へと変容させていった。かつて、先住民のサン人は「神の怒りによって作られた土地」と呼び、この地域で遭難したポルトガルの船乗りは「地獄の門」と呼んだほどである。
難破した船舶から逃れ上陸できた船員も、荒涼とした海岸では生き残る術もなく、食料と水を求めこの地をさまよいながら命を落としていったという。この地ではほとんど雨が降らず、数滴の水がダイヤモンドよりも貴重なものだといわれるほどである。船乗りにとってこの海岸がいかに不吉な地であったかは、想像に難くない。
スケルトン・コーストの中で最も有名な難破船が、「ゼイラ号」である。ゼイラ号は、2008年8月25日の早朝、ヘンティーズ・ベイの南約14㎞にある釣り場付近で座礁した。もともと地元の漁業会社所有の漁船だったが、インドの企業にスクラップとして売却されることとなり、インドのボンベイに向かうために港を出港して間もなく、曳船用のロープが外れたことが座礁の原因となった。その後、ゼイラ号は放置され、今となっては無数の鵜の住居と化し、異様な雰囲気を放っている。
スケルトン・コーストは、1971年にナミビアの国立公園に指定され、人気の観光スポットとなった。「世界で最も危険な海岸」などと称され、多くの観光客を魅了し続けている。
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(写真: Olga Ernst / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])