テレビには映らない紛争・避難民

執筆者 | 2024年06月6日 | News View, サハラ以南アフリカ, ヨーロッパ, 世界, 中東・北アフリカ, 紛争・軍事

GNVは紛争・貧困・政治等の多くのテーマについて、日本メディアで取り上げられる事象とそうでないものについて分析を行ってきた。その中でも今回注目するのは、難民・避難民に関する報道だ。近年紛争や自然災害により、住む場所を追われる難民・避難民の数は世界中で増加している。

そのような家を追われた避難民の人々は、日本のメディアでどのように取り上げられているのだろうか。GNVの過去の調査では、難民に関する日本メディアの報道は、対象となる人や地域が大きく偏り、ヨーロッパにいる難民ばかりが大きく注目されていたことを明らかにした。それでは住む場所は追われたものの越境せずに国内での避難を余儀なくされる国内避難民はどのように報道されているのだろうか?今回は2023年の1年間に発生した国内避難民と報道を比較し、実態に即した報道となっているのか、テレビ報道を主軸に分析を行う。

TBS本社ビル(写真:Dick Thomas Johnson / Flickr[CC BY 2.0])

国内避難民とは?

毎年、世界各地で紛争や自然災害により、多くの難民・避難民が発生している。その現状を見ていく前に、まずは難民・避難民の定義について見てみよう。 

国連が難民の法的地位について定めた難民条約の定義によれば、「『難民』は、人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々」であるとされている。一方でこの議定書に記載されている「難民」は実際に生じている避難民を包括できているわけではない。例えば、紛争により住む場所を追われた避難民は、厳密には難民議定書の定義に合致しない。また、越境はせず国内で住む場所を追われ庇護を求める「国内避難民」も非常に多く存在するものの、上記の定義に含まれず、特定の場合(※1)を除き国際的な保護を受けられないケースもある

ところが、この「国内避難民」の数が近年増加する傾向にある。ノルウェー難民評議会が設立したスイスに所在する国内避難民監視センターIDMC)の調査によると、2023年の間だけで、約2,050万もの国内避難民の発生が観測されている(※2)。また国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調査によれば、2023年時点で世界のあらゆる避難民の中において、国内避難民は全体の57%占めると言われいる。

2023年の世界の国内避難民

それでは2023年について、国内避難民の詳しい実態を見ていきたい。第一に、国内避難民はどのようにして発生しているのだろうか。理由は大きく2つあるが、その1つは自然災害だ。地震や干ばつ、洪水などの自然災害による避難民は2023年の間では国内避難民全体の約56%を占めている。もう1つは武力紛争による避難民であり、全体の44%を占めている。災害とは異なり、武力紛争に関する避難民の場合、紛争が長期間続き1度避難した人々が住む場所に戻れない、あるいは紛争の広がりによって別の場所へ複数回避難せざるを得ないケースも多い。このタイプの避難民は2022年以降、急激に増加傾向にある。今回は武力紛争により発生した国内避難民について詳しく見ていきたい。

それでは2023年の1年間で、紛争による国内避難民はどの国・地域で発生しているのだろうか。IDMCデータによると、多い順にスーダン、コンゴ民主共和国、パレスチナ、ミャンマー、エチオピア、ウクライナ、ブルキナファソ、ソマリア、コロンビア、ナイジェリアが、国内避難民が多く観測された10か国となっている。またこの10か国以外の国を見ても、紛争が原因の国内避難民の多くはアフリカ大陸で発生しており、全世界で発生した国内避難民のうち、サハラ以南アフリカ地域で1,346万人(65%)、中東・北アフリカ地域で405万人(19%)、東アジア地域で146万人(7%)の避難民が発生している。ここでは特に多くの国内避難民が発生している上位5か国について、紛争の背景について簡単に紹介する

スーダン 

スーダンでは20234月に、スーダン国軍(SAF)と軍事組織である「迅速支援軍(RSF)」との間の激しい武力衝突が発生し、多くの人が国内外への避難を強いられた。スーダンはの軍部クーデターを経て2019年に軍部と市民の共同統治体制へ移行したものの、2021年に再び軍部のクーデターが発生した。その後SAFRSFは協働する体制をとっていたが、SAFが正式にRSFを国軍の組織に組み込もうとするもRSFが抵抗し、20234月に首都ハルツームでの大規模な軍事衝突に発展した。この軍事衝突と異常気象による干ばつや洪水が相まって、スーダンでは多くの避難民が発生した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、20244月時点までの間で累計700万人以上の人々が国内外への避難を余儀なくされている。またIDMCのデータによると、2023年の1年の間だけで603万もの国内避難民の発生が確認されており、深刻な人道危機が発生している。

コンゴ民主共和国

コンゴ民主共和国は1994年に、隣国ルワンダのジェノサイドがきっかけで同国との関係が悪化し、ルワンダを含む周辺国家から1996年と1998年に2度の軍事侵攻が行われた。これにより1998年から2008年までの間だけで540万人もの人々が犠牲になったと言われるほど甚大な被害が出た。2003年に和平合意が結ばれたものの、国内ではそれ以降も東部地域を中心に紛争が続いてきた。2022年にこの紛争が激化し、202310月にもコンゴ軍と武装勢力の激しい戦闘が始まるなど、過去2年間で人道危機が拡大している。これらにより多くの避難民が発生し、2023年の6月までの間で累計600万人以上の人々が未だに国内外への避難を強いられている状態だ。またIDMCのデータでは、2023年の1年間だけで377万以上もの国内避難民の発生が確認されている。

コンゴ民主共和国での軍の訓練の様子(写真:MONUSCO Photos / Flickr[CC BY-SA 2.0])

パレスチナ

長年イスラエルはパレスチナを占領、あるいは境界線をコントロールしてきており、紛争が続いてきた。202310月にパレスチナのガザ地区を支配するハマスらがイスラエルに対し攻撃を行い、その報復にイスラエル側が数か月に渡ってガザ地区に大規模な進行を行っている状況だ。現在も戦闘は続いており、20246月の時点で36,439人の死者と、82,627人の負傷者が出ているとされている。IDMCのデータでは2023年の間だけでパレスチナで343万以上もの国内避難民の発生が確認されている。

ミャンマー

ミャンマーは長年軍事政権により統治されており、地方の少数民族の抑圧に対する反発から、反政府武装勢力が多数存在している。2011年以降民主化が進んだものの、2021年にクーデターによって再び軍政が復活し、それから逃れるために多くの避難民が発生した。国軍と反政府勢力との紛争もこれをきっかけに激化し、2023年には国内外の避難民の累計数が200万人を超えたと言われている。中でも国内避難民に限定すると、IDMCのデータによれば、2023年の1年間だけで129万人以上もの国内避難民の発生が確認されている。

エチオピア

エチオピアは冷戦期を中心に、独裁政権を敷く政権と反政府軍との紛争や、同国から独立したエリトリアとの紛争など、多くの情勢不安を経験してきた。中でも2020年に発生したティグレ紛争では、エチオピア政府とティグレ州を統治する武装勢力との間で大規模な武力衝突が生じ、260万人以上の大量の国内避難民が生じたと言われている。またそれ以降も、同国アムハラ・オロミア地域においても紛争が生じ、ティグレ紛争と相まって各地で多くの人々が住む場所を追われた。IDMCのデータによれば、2023年の間で79万以上もの国内避難民の発生が確認されている。

エチオピアにおける国連児童基金(UNICEF)の支援活動の様子(写真: UNICEF Ethiopia / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

以上のように、紛争や暴力により多数の国内避難民が発生しており、難民・国内避難民の発生の規模は、その紛争の規模や被害を測る1つの指標となっていると言えるだろう。

2023年 TBSニュースでの国際報道

ここまで世界各地での国内避難民とその背景にある紛争の実態を見てきた。2023年の1年間だけでも、数十万から数百万もの国内避難民を発生させている実態を、日本メディアの報道は伝えられているのだろうか。今回調査を行ったのは、TBS社が運営するニュース配信サイト「TBS NEWS DIG」である。これは全国のJNN系列のテレビ局で放送されたニュースの再配信を中心としたニュースサイトで、政治経済から芸能・スポーツまで日本全国・世界の幅広いニュースを、動画と活字の両方の媒体で閲覧できるものだ。調査期間は、202311日~1231日までの1年間で行った。対象とする記事は、ウェブサイトの検索機能に、同年の国内避難民の発生の上位10か国の国名を入力して表示される記事の中で、紛争・避難民に関するものとした(※3)。集計の方法については、ニュース配信の数をカウントし、放送時間等他の指標は考えないものとした。

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以上がその結果である。上位10か国について、記事が多いものから、ウクライナ1,455件、パレスチナ558件、スーダン99件、ミャンマー53件、ブルキナファソ・コロンビアが1件、その他の国は0件という結果だった。以下で報道された国の紛争と、報道が少なかった国についてそれぞれ内容を見ていきたい。

まず報道量が圧倒的に多かったのはウクライナ・パレスチナの2か国の紛争についてだ。過去のGNVの調査でも日本メディアは、ロシア・ウクライナイスラエル・パレスチナの紛争を集中して報道することを取り上げたが、民放テレビの報道でもその傾向が顕著にみられた。

特にこれらの紛争は、アメリカやヨーロッパの国々との関連で取り上げた記事が多数存在した。実際にパレスチナに関する558件の報道のうち、56件ではアメリカが関連国として登場しており、20231219日「ガザ北部の難民キャンプで100人超死亡 米オースティン国防長官イスラエル訪問 軍事作戦の縮小協議」や、20231125日「バイデン大統領『さらに多くの人質の解放を期待』ハマス24人の人質を解放」のような、アメリカ政府の対応に焦点を当てた記事が多く見られた。またウクライナの報道に関しても、20231221日「NATO大使 単独インタビュー『2か国を支援する義務、実行能力もある』 ウクライナ、イスラエルに対し支援継続の意向」のように、アメリカやヨーロッパの軍事支援について深く取りあげた記事も多く見られた。

またこの2か国に関しては、日本人との関連性や日本国内の避難民に焦点を当てた記事もあった。例えばパレスチナ紛争に関しては、20231116日「イスラエル軍がガザの病院突入『司令部あった』、紛争直前まで病院で活動 国境なき医師団・白根さん『全く別の場所のよう』【Nスタ解説】」のような現地の日本人へのインタビューや、20231123日「『心配してくれてありがとう』ガザで日本を身近に感じる人が多いワケと、子どもたちの悲痛な現状『3歳の子どもが空爆に』」のような日本に住む避難民への取材記事もいくつか確認された。このような日本が関連する記事は、パレスチナに関する記事558件のうち、46件確認できた。

続いて報道が多かったのはスーダンだ。202353日「スーダン軍と準軍事組織、停戦期間7日間延長で合意 4日から11日まで 南スーダン政府が発表」のような紛争の情勢に関する記事もある一方で、スーダンに関する報道99件のうち、半数以上の51件が日本に関連のある記事だった。その51件の記事のうち29件はスーダンからの日本人退避に関する記事であり、2023425日「スーダンから退避の日本人ら45人がジブチに到着 健康状態に大きな問題はなし」のような紛争地域からの日本人の輸送や、2023424日「【速報】松野官房長官、スーダンの日本人退避向け自衛隊部隊をスーダンに派遣へ」のような日本政府の対応を中心に取り上げたものが多数を占めていた。このような報道は紛争勃発直後に集中しており、全体の9割以上に及ぶ94件の記事がはじめの1ヵ月間のものだった。その後も紛争は続いていたにも関わらず、日本人の退避が終わった後は1年間で5件しか報道がされていなかった。

またミャンマーについても53件の記事で取り上げられており、うち9件が日本と関連する内容であった。たとえば2023年3月2日「ミャンマー軍事クーデターから2年 いまも続く惨状、村も家も焼かれ 富山から母国を思う」のように、日本に住む難民に焦点をあてたものもあったが、多くは紛争の実態や被害について伝える記事であった。

TBS NEWS DIGのウェブサイト

続いて報道が少なかった地域を見ていく。コンゴ民主共和国については長年紛争が続き、2023年には世界で2番目に国内避難民の数が多いにもかかわらず、年間を通じてその紛争に関するニュースは一切とりあげられていなかった。エチオピアに関しても、2023年の間ウクライナ紛争と同程度の国内避難民が発生しているにも関わらず、ウクライナとは対照的に全く報道されていないという結果になった。

またブルキナファソについては隣国ニジェールとの紛争に関する記事1件、コロンビアについては同国の紛争に関する記事1件あるのみであり、その他の国について取り扱う報道は年間を通じて1件もなかった。

またこれらは紛争全般に関する報道であるが、国内避難民についてはどの程度報じられているのだろうか。この調査で抽出した記事において避難民あるいは国内避難民について言及のあった記事は、ウクライナについて88件、パレスチナについて13件、ミャンマーについて13件であった。いずれも全体に対する割合が多いとはいえず、戦況や各国の支援状況に関する報道と比べ、国内避難民について注目度は高くないと言えるだろう。

なぜ報道量に差が出るのか

以上の通り、世界各地で紛争により避難民が発生しているにもかかわらず、その報道量には極端なほどの偏りが表れている。なぜこのような違いが生じるのだろうか。これまでのGNVの調査内容を踏まえて考察する。

まず報道量が多い国について、特にウクライナ・パレスチナの紛争はなぜこれほどまで報道が過熱するのだろうか。1つ目に挙げられるのが、日本との関連性だ。基本的にメディアは自国と関係が深い国や地域・出来事に注目し、それを取り上げる傾向がある。ロシア・ウクライナでの紛争は、核戦争に発展する恐れがあったことや、戦争による世界経済への影響が大きかったことから、日本メディアの報道が過熱するひとつの要因だったと言えるだろう。

2つ目の理由は、日本と関係が深いアメリカやヨーロッパの国々が注目する紛争だということだ。過去のGNV調査においても、日本のメディアはアメリカの政府やメディアの報道を追従する傾向がある、ということを明らかにしてきた。特にテレビ局をはじめとした大手メディアは、海外支局の数が限られていることから、海外メディアの報道を引用せざるをえない場合も多い。それ故に欧米メディアの世界の見方に影響を受けた報道となると言えるだろう。

3つ目は日本メディアの高所得国を重視する姿勢だ。過去のGNV調査では、日本メディアの報道は高所得国であるほど注目し、低所得国には注目しない傾向があることを明らかにしてきた。今回の調査でもその傾向は色濃く表れており、2023年の間前線が大きく変わっていないにもかかわらず、ウクライナの報道が圧倒的に多いことからもそれがうかがえる。またアフリカ地域に関する報道量の少なさは顕著であり、コンゴ民主共和国が2023年に世界で2番目に多く国内避難民が発生しているにもかかわらず、一度も報道されていない。

またこのような報道の姿勢は、TBS社の海外支局の配置にも表れている。TBS社の海外支局は世界13の都市に置かれており、そのうち3つの支局はアメリカ1か国、4つはヨーロッパ、4つはアジアに置かれている一方で、中東・アフリカ地域にはガザ地区に近いエジプトのカイロに1つしかない。支局が少なければそれだけ取材に割けるリソースは少なくなり、報道される割合も少なくなる。このようなアメリカやヨーロッパにばかり多数の支局が集中しているという状態は、報道機関がこれらの高所得国を重視している傾向を反映しているといえ、報道される地域の偏りを大きくしているだろう。

4つ目は、報道の対象となる人物との関係だ。GNVの過去の調査では、日本のメディアは権力者の動向に対して注目する傾向があることを指摘してきた。特に今回の調査では、アメリカの政治エリートが深く関与しているウクライナ・ロシアの紛争とパレスチナ・イスラエルの紛争が大きく報道されており、同じ傾向が表れていると言えるだろう。また報道される出来事・人物に対する読者・視聴者の共感度も、報道量を決定する要因の1つだという指摘もある。この点において、被害者が持つ文化や肌の色において欧米の市民のマジョリティーと類似点があり、その点から欧米で報道がされやく、それが日本メディアでの報道の多さに繋がっている可能性も否定できないだろう。

まとめ

 以上のように、紛争・難民というテーマに関して、TBSテレビの国際報道における報道の実態を分析した。実際の紛争・避難民の実態の深刻さと、報道量・内容には大きな乖離が見られ、これまでGNVが指摘してきた国際報道の偏りが顕著に表れる結果となった。国内避難民やその背景にある紛争の解決には、世界全体からの理解・支援が必要であるが、このような国際報道では、この問題の全体像は伝わらず、必要な理解、外交や支援などの対策も届けられないであろう。

 

 

1 UNHCRは数百万人の国内避難民に対し支援を行っているが、それらがすべてに生き届いているわけではない。

2 IDMCのレポートでは、当該期間において避難民が観測された回数を計上し、データとして集計している。したがって同一の人物が複数回移動している場合はその移動の回数が計上されており、純粋な避難民の人数とは異なる。

3 以下の要件を満たす記事を該当記事としてカウントした。①TBS NEWSDIGのウェブサイトの検索機能において「国名」を検索してヒットする ② ①の記事のうち、紛争・避難民 というキーワードを記事の中に含んでいる、あるいは記事の中でそれらに言及している。

 

ライター・グラフィック:Takumi Kuriyama

 

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