現在、南米では大陸横断回廊を建設する計画が進んでいる。この回廊はパラグアイとアルゼンチンを経由してブラジルとチリの港を結び、太平洋と大西洋へのアクセス網を増やすことが目的である。内陸国のパラグアイではその一部となる道路の舗装を始め、人口の少ないチャコパラグアイ地域の開発計画の第1段階を実行し始めた。すなわち、4か国をまたぎ2つの海洋を結ぶ南米大陸横断回廊においてパラグアイが建設する道路はチャコパラグアイ地域を東西に通る。この道路の20個の部分から成り立つ第1段階に取り掛かっているのである。内陸国であるパラグアイは、海に面している国に比べて3分の1も貿易費用が多くかかるようだ。そこでパラグアイ政府は、この回廊の建設で、余分な貿易費用負担を削減し、海洋へのアクセスが容易になることを期待している。

トランスチャコ回廊(写真:Cmasi / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
さらに、パラグアイはこの計画を通してトランスチャコ回廊の再建も目指している。トランスチャコ回廊は、チャコパラグアイを南北に縦断し南米大陸横断回廊に直接つながっている。政府はこれらの計画がこの地域の開発のためには欠かせないとしている。しかし、環境や地域住民への負の影響も予想されている。
そこでこの記事では南米大陸横断回廊やトランスチャコ回廊の再建計画、そして、この計画によってパラグアイやその地域が受ける影響について述べていく。
南米大陸横断計画
近年、南米諸国政府は、南米大陸を通り大西洋と太平洋を結ぶ大陸横断回廊の計画と開発によって、より統合された南米大陸を構築しようとしている。鉄道や道路、水路は南米大陸内における地域の経済と社会の協力関係を向上させることを目的とした新しいインフラ網の一部になるとされている。
2015年4月、第49回メルコスール(※1)首脳会議においてアルゼンチン、ブラジル、チリ、パラグアイの首脳が新しい道路である「南米大陸横断回廊」の建設に合意した。地域統合や、関税手続きの効率化を図ることで貿易や開発を促進することを目的としている。また、これにより南米の製品をヨーロッパやアジアの市場に届けやすくすることや、4か国間でのコミュニケーションの向上も意図されている。ボリビアは当初、道路の建設に含まれていたが、ボリビアとチリの関係悪化の影響で除外された。国際司法裁判所がチリに対して、太平洋へのアクセスを求める内陸国ボリビアと交渉するように判決を下したことが原因である。それにもかかわらず、ブラジル、ボリビア、パラグアイ、ペルーを電車でつなぐ「中米大陸横断回廊」の開発にボリビアが含まれるともされている。
パラグアイとアルゼンチンを経由してブラジルとチリを結ぶ道路は2,945kmで4か国を通るものと計画されている。この道路の建設にあたり、各国の部分の進捗状況を調整するために定期的に会議が行われている。南米大陸横断回廊の重要な部分の資金調達や計画に関しては4か国で進行させなければならないものもあるからである。例えば、パラグアイの川にかかる、ブラジルとパラグアイを結ぶ橋や、まだ計画段階ではあるがチリとアルゼンチンを結ぶ全長14kmのアグア・ネグラ・トンネルなどである。当初の計画では2023年までに完成すると見込まれていたが、延期の可能性も残されている。

アルゼンチンとチリを結ぶ鉄道トンネル計画(写真:Benjamin Dumas / Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])
パラグアイにおける大陸横断回廊
全長約3,000㎞の南米大陸横断回廊のうち、約574㎞はチャコパラグアイを通過してパラグアイに通される。チャコパラグアイはパラグアイで最も広大な地域であるが人口が最も少ないので、この地域を東西で通る南米大陸横断回廊の建設計画及び南北に通るトランスチャコ回廊の再建がこの地域の経済的な発展を促進することを政府は期待している。
2018年3月、4億2,100万米ドルの金額でブラジル・パラグアイの企業のコンソーシアムとの間で、パラグアイにおける南米大陸横断の第1段階の契約が締結された。大陸横断回廊の第2・第3段階の契約の締結はまだ行われていないが、2019年後半から行われる予定である。

チャコパラグアイ(写真:Ilosuna / Wikipedia [CC BY 1.0])
第1段階は、20の部分に分けられる。この20の部分のうち、チャコパラグアイの中央に位置するロマ・プラタで行われる1つ目の部分と、ブラジルとの国境に位置するカピタン・カルメロ・ぺラルタで行われる20個目の部分は同時進行で行われる。この2つの部分は合わせて24kmに及ぶが、道路の整地と下水のシステムはすでに完成しており、9月30日までにすべての工事が完成する予定である。パラグアイの公共事業通信省によると、大型車両の移動に耐えることができる安定した道路になるように、パラグアイにいままでなかった強度を持つ構造の道路となっている。これは、チャコパラグアイの一部であるアルトチャコ地域では初めて舗装された道路となり歴史的な発展とされた。
グランチャコとチャコパラグアイ
グランチャコは、「乾燥したチャコ」や「平らなチャコ」と呼ばれ100万㎢の表面積をもつ南米大陸の地域である。その面積の25%は西パラグアイが占め、残りの部分はボリビア・ブラジル・アルゼンチンに広がっている。グランチャコは南米で最も大きな乾燥林であり、アマゾンにつぎ2番目に大きな森林である。多くの動物と植物が生息しサバンナから湿地までの幅広い地域を含んでいる。
グランチャコはもともと人口が少ないために保護されていた。しかし、現在では木材や木炭などの木を使った生産物を作るために行われる森林伐採や、家畜の増加による放牧の影響で危機に瀕している。世界自然保護基金(WWF)によると、1分間に0.004㎢もの速さでもともと生息していた植物が減っており、農業と家畜の影響で2030年までに何百㎢も失われると予想されている。木材などの資源や製品の輸送を容易にする南米大陸横断回廊のようにより良い交通インフラを作ることはさらなる危機をもたらすことになるだろう。
パラグアイは2つの大きな地域に分けることができる。西側は約23万人が住むチャコパラグアイ、東側は約693万人が住むパラネニャパラグアヤである。しかし、人口の多いパラネニャパラグアヤは国の領土面積の39%であり、チャコパラグアイの人口密度の少なさがこれらの数字からでもわかる。
南米大陸横断回廊と修繕されたトランスチャコ回廊は人口の少ないチャコパラグアイを通ることになっている。この地域の経済は、他のグランチャコと同じように農業と家畜によって支えられている。しかし、チャコパラグアイの一部であるアルトチャコがほとんど手を付けられておらず未開発であることを踏まえると、南米大陸横断回廊が大西洋と太平洋をつなげることで、地域の開発と人口の増加に伴いこの地域の成長の可能性が広がる。パラグアイの公共事業通信大臣は、チャコパラグアイの新たな交通網の開発は「前例のない発展」となり、現在の幹線道路で輸送される商品の3倍にあたる約500万米ドルもの価値の創出をもたらすと想定している。
一方で、この地域の開発による森林伐採や汚染からどのように環境を保護するのかが問題になっている。さらに先住民との関係においても問題が発生している。チャコパラグアイにはアヨレオ、グアラニー、イシールといった先住民グループが暮らしているが、彼らは小さな農地、狩猟、採集をもとに生計を立てている。そのため地域の開発によってどのような影響を受けるのかも懸念されている。
持続可能な開発に向けて
このような問題があるなかで先住民の住む地域の開発計画を続けるのかという問いに関して、公共事業通信省の大臣は交通手段の向上によりチャコパラグアイの生活をより良いものにすると答えている。こうした先住民の地域と新しいトランスチャコ回廊をつなげる砂利道を作る計画があるので、教育や保健機関を利用しやすくなるようだ。
そして、大臣はトランスチャコ回廊も南米大陸横断回廊も環境の持続可能な計画を戦略に含んでいると弁論した。具体的には、どちらの回廊も野生動物が安全に道路を渡れるように、トンネルが建設されるようだ。つまり、動物が自然の生態系に沿ってチャコパラグアイを移動できるように、動物が車などの乗物に轢かれない構造が考えられている。加えて、この開発計画を実行するためにチャコパラグアイから伐採される森林の再生を実行する計画についても言及している。

中央チャコパラグアイ(写真:Andrea Ferreira / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
政府がチャコパラグアイの環境への影響に配慮した開発を行うことの確約を示すために、公共事業通信大臣は非政府組織であるSOSパラグアイと協定を結んだ。協定の内容は、環境保護と気候変動の問題に対応しながら経済と社会を成長させる計画を実行するというものである。国連のかかげる持続可能な開発目標(SDGs)を達成できるように、新たな開発による環境への影響を制限することに合意している。
しかし、こうした方法がすでに消滅しつつある生息環境を保護するのに十分であるかどうか、さらにこの新しい交通網はチャコパラグアイに持続可能な発展をもたらすのか、それとも地球上の最も大きな森林の一つでもあるグランチャコの破壊を促進させるのか定かではない状況である。
※1 メルコスール(MERCOSUR):1995年に設立された南米南部共同市場。加盟国はアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ。準加盟国にボリビアやチリなどを含む。域内関税撤廃などを目指す関税同盟である。
ライター:Elisabet Vergara Velasco
翻訳:Saki Takeuchi
グラフィック:Saki Takeuchi
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とてもわかりやすかった