2020年8月の中旬に東地中海でトルコとギリシャの軍艦が衝突した 。ギリシャ側は「事故」だとしているが、トルコ側は「挑発行為」とみているようだ。ギリシャとトルコは長年にわたって緊張関係にあり、これまでも数回にわたり軍事衝突があった。さらに、2010年にこの地域で発見された大量の天然ガスの存在はこの2カ国の緊張感をさらに高めている。東地中海で現れた新たな資源は、ギリシャとトルコだけでなく、ヨーロッパや中東、北アフリカに至るまで広範囲の国家間関係に影響を及ぼすようになっている。この記事では、東地中海の歴史と共に、天然ガスを取り巻く状況について見ていく。

国際宇宙ステーションから見た東地中海及び中東の様子 (写真:NASA Johnson / Flickr.com [CC BY 2.0])
東地中海の舞台
東地中海という地域が含む範囲については諸説あるが、主にヨーロッパ東南部、特にギリシャ、トルコの大部分を占めるアナトリア地方、キプロス島、シリア、レバノン、イスラエル、エジプト、リビアを含むとされている。また、東地中海はダーダネルス海峡とボスポラス海峡を通れば北側にある黒海に出ることができ、スエズ運河と紅海を通れば南側にあるインド洋に出ることもできる。歴史を遡るとこの地域は、古代ギリシャの都市国家、ペルシャ帝国、オスマン帝国などにとって、経済的にも文化的にも重要な地域であった。
15世紀、オスマン帝国はビザンティン帝国の首都コンスタンチノープル(現在のイスタンブール)を制圧し、東地中海とギリシャ領土で覇権を確立した。1821年に始まったギリシャ独立戦争では、ギリシャがイギリス、フランス、ロシアの支援を受けてオスマン帝国から独立した。その後、ギリシャとオスマン帝国との間で、露土戦争(1877年)や第一次バルカン戦争(1912年)などが起こり、この地では長きにわたり争いが続いてきた。
第一次世界大戦が終わりを迎えるとともに、オスマン帝国は崩壊した。ギリシャはビザンティン帝国時代に領有していた土地を取り返そうとアナトリアに侵入し、1919年に希土戦争が始まった。この時、オスマン帝国はトルコ共和国として生まれ変わる最中であった。ギリシャ軍の進撃はアナトリアの中西部まで及んだものの、1921年にトルコ軍の反撃によって追い返された。1923年のローザンヌ条約では、ギリシャとトルコの間で領土をめぐる取り決めや、少数派住民の交換に関する合意がなされた。
しかし、主にギリシャ系住民とトルコ系住民によって構成されているキプロス島をめぐり、1974年に再び対立が起こる。19世紀後半、キプロス島の支配権はオスマン帝国からイギリスへと移っていた。その後、イギリス支配下のキプロス島で、ギリシャ系住民はキプロス島のギリシャへの合併を、トルコ系住民はギリシャからもトルコからも独立した国家建設を主張し始めた。1950年代後半にギリシャ系住民を中心とした武装勢力が結成され、この勢力は英国支配からの独立およびギリシャとの合併のためのゲリラ戦争を開始した。1960年、キプロス島はイギリス支配から独立し、キプロス共和国(以下:キプロス)を建国した。しかしトルコ系住民との対立が続き、1974年にギリシャ系住民はギリシャからの支援を受けてクーデターを起こした。これに対し、トルコ系住民の保護のためにトルコ軍がキプロスに軍事介入を行った。その結果、キプロス島はギリシャ系住民が中心となるキプロス共和国とトルコ系住民が中心となる北キプロス・トルコ共和国(以下:北キプロス)に分断された。

キプロス共和国と北キプロスの境界線(写真:Marco Fieber / Flickr.com [CC BY-NC-ND 2.0] )
東地中海における問題の当事者はギリシャとトルコだけではない。イスラエルやエジプトなどの中東諸国も重要なアクターである。1948年にイギリスによるパレスチナ統治が終了し、その領土内にイスラエルの建国が宣言された。その結果、それまで続いていたユダヤ系住民とアラブ系住民との対立は全面的な戦いに拡大した。この争いに周辺のアラブ諸国が軍事介入し、第一次中東戦争が始まった。この大規模な戦争は1973年(第四次中東戦争)まで続き、世界貿易の主要な航路の一つであるスエズ運河も巻き込まれた。
スエズ運河はエジプトの領土内に位置し、地中海と紅海・インド洋を結び、スエズ運河を通ることでヨーロッパ・アジア間の航行時間が半減するため、とても重要な位置にある。現在では、世界貿易の約12%がスエズ運河を利用しており、石油と天然ガスの運輸にとっても欠かせない運河である。スエズ運河はフランスの会社によって1859年から建設が開始され、1869年に開通した。1956年にエジプトが国有化したことをきっかけに、フランス、イスラエル、イギリスが軍事介入し、いわゆるスエズ運河危機が発生した。また、イスラエルとパレスチナとの政治的な確執も東地中海の情勢に影響を与えている。人道的問題をめぐり注目が集まりやすいガザ地区は地中海に面しており、ここへのアクセスはイスラエルが制限している。
また、シリアとロシアとの関係も東地中海に影響を及ぼしてきた。ロシアは地中海には面していないが、シリアとは密接な外交関係を維持しており、シリアの領土内に海軍基地を構えている。ロシアは、ソ連時代から中東の国々と良好な関係を築いてきた。特に、1966年から親子で続いているアル=アサド政権下のシリアは、ロシアの同盟国であり、ロシア側から継続的な支援を受けてきている。2011年に始まったシリア紛争で、2015年にアル=アサド政権はロシアからの軍事的支援を求めて、ロシア空軍がシリアに介入した。現在も、ロシア軍はシリアに動いている。
スエズ運河、イスラエルそしてシリア、それぞれの問題は独立しているかのように見られがちだ。しかし、後述するように、東地中海を中心に開発が進む天然ガス田とその輸送ルートという視点で見るとこれらの地域は密接に関わりあっており、地政学的にもリスク要因の多い地域になっているのだ。これらの国以外にも、リビアやレバノンは東地中海に面している国として利害関係があり、地域外のイタリアやフランス、アメリカなどの影響も無視できない。
天然ガス田の発見・開発
2010年に東地中海のイスラエル水域で莫大な天然ガス田が発見された。このリヴァイアサン(Leviathan)と呼ばれる天然ガス田は、過去10年に世界で発見されたものの中で最大規模であった。リヴァイアサンはイスラエルの40年分のガスの需要を満たし、輸出するにも十分な埋蔵量があると推定されていた。リヴァイアサンの登場で各国では新たなガス田発見への期待が高まり、東地中海周辺でも次から次へとガス田の探索が始まった。 その後、キプロスの水域でのアプロディーテガス田(Aphrodite)、エジプトの水域でのゾフルガス田(Zohr)が発見され、東地中海の国々は主要な天然ガス輸出国となる機会を得た。新たな天然ガス田をめぐり、各国がトラブルを起こさず効率よく採掘を進めるために、イスラエルやキプロスなどの東地中海各国は協調関係を築きながらガス田の開発を進め始めた。しかし、トルコと北キプロスはこの協調関係には含まれていない。

イスラエル、リヴァイアサン天然ガス田(写真:Deror Avi / Wikimedia [CC BY-SA 4.0])
キプロスとイスラエルにとって、新たな天然ガス源を探しているヨーロッパ諸国は最も魅力的な顧客だ。天然ガスを輸出するには、パイプライン(輸送管)が必要となる。東地中海地域からヨーロッパ諸国に天然ガスを輸出するには、ギリシャを経由してイタリアへ向かい、ヨーロッパの既存パイプラインに接続するというのが、ヨーロッパ諸国への最短ルートである。それを踏まえた上で、ギリシャとキプロスとイスラエルは、天然ガス田の開発と輸出協力に向けた3国間協定を結んだ。
2014年に欧州連合(EU)諸国はエネルギー輸入源多様化の一環として、南ガス回廊(Southern Gas Corridor)と呼ばれる3つの天然ガスパイプラインを「共通利益プロジェクト」(※1)として指定した。3つのガス回廊のうち2つは天然ガスが豊富なカスピ海からトルコとギリシャを経由して、ヨーロッパに天然ガスを運ぶ。この2つのパイプラインはそれぞれ、2018年に完成したアゼルバイジャンとトルコ・ギリシャとを結ぶアナトリア横断天然ガスパイプライン(Trans-Anatolian Natural Gas Pipeline:TANAP)、2020年に完成したギリシャからイタリア向けのアドリア海横断パイプライン(Trans-Adriatic Pipeline:TAP)と名付けられている。しかし東地中海に天然ガスが発見されたことにより、西ヨーロッパ諸国はカスピ海のガス田より近くに代替の天然ガス源を見つけた。それが2013年の南ガス回廊プロジェクトの中で新しく考案されていた東地中海パイプライン(EastMed Pipeline)である。このパイプラインが完成すれば、TANAPとTAPを回避して、イスラエル、キプロス、エジプトからギリシャを経由して西ヨーロッパに天然ガスを届けることができる。合計約1,900キロメートルに及ぶ東地中海パイプラインは2027年に完成予定だ。南ガス回廊によって、EU諸国は天然ガスの最大の供給者であるロシアへの依存度を低減し、他の供給源からの天然ガスの輸入量を増やすことを期待している。
また、ゾフルガス田を発見したエジプトも、東地中海のエネルギー分野で重要なアクターになろうとしている。エジプトはすでに天然ガスを液化することができる施設を備えており、他国からの天然ガスも一旦エジプトで受け入れ、液化し、輸出する予定である。2018年にエジプトとキプロスは、アフロディーテガス田からの天然ガスを、パイプラインを通してエジプトに運ぶことに合意した。液化された天然ガスはタンカーで世界中に輸送される予定である。
東地中海での天然ガスの開発をめぐり更なる調整を行うために、ギリシャ、キプロス、イスラエルの3国間協定以外の国々も協力関係を築こうとしている。2020年にエジプト、ヨルダン、パレスチナ、イタリアが、ギリシャ、キプロス、イスラエルとともに東地中海ガスフォーラム(EMGF)を公式に設立した。同年9月にはフランスもメンバーに加わり、アメリカ合衆国の常任オブザーバーとしての参加も決定されていた。EUも2021年4月、常任オブザーバーとしての加盟を申請したが、決定に至っていない。2021年3月9日EMGFの 憲章は正式に発効していた。
多くの国がこのEMGFに加わる中、地域大国であるトルコが参加していない。これが東地中海における地政学的リスクの現れである。
排他的経済水域(EEZ)問題
近年、トルコと地中海の近隣諸国との間で起きている摩擦の主な原因は、海洋境界にある。特に、トルコ海岸にはギリシャの島々の多くが近接しているため、両国が水域の画定を巡って対立している。トルコとキプロスの間でも同じような状況が見られる。このような摩擦を調停するものとして、海洋法に関する国際連合条約(United Nations Convention on the Law of the Sea:UNCLOS)が存在するものの、トルコはこの条約に署名していない。
UNCLOSの目的は、排他的経済水域(Exclusive Economic Zone:EEZ)を明確に画定することで、海洋活動と海洋の活用に関するガイドラインを制定することである。基本的にEEZは、ある水域の天然資源及び天然エネルギー、さらに海洋資源の探査と利用に関して国家の主権が及ぶ水域である。UNCLOSはEEZの範囲を海岸から200海里以内の水域と定めている。これは島々にも適応され、島の海岸から200海里がEEZと定められる。国家間のEEZが重なる場合は、協力と信議誠実の原則に基づき、二国間条約で解決するという仕組みとなっている(※2)。
しかしながらトルコ政府は、UNCLOSが島国や島嶼領域が多い国に有利であり、不公正であると主張し、同条約に署名していない。例えば、ギリシャのカステロリゾ島がトルコの海岸からただの3キロメートルしか離れておらず、UNCLOSに基づいて定めると、ギリシャのひとつの島として数えられるためにトルコの水域が大きく縮小する。このためトルコは、UNCLOSの原則に代わって、大陸棚に基づいてEEZを定めるべきだと主張する。トルコの主張では、自国のEEZは200海里にとどまらず、大陸棚の端まで続いている。

ギリシャ、カステロリゾ島からの景色 (写真:Mark Gregory / Flickr.com [CC BY-NC-ND 2.0])
このようにギリシャとキプロスのEEZがトルコの大陸棚と大きく重なることが東地中海での対立の背景にある。さらに、トルコはキプロスを承認していない。そのため、キプロスの領海にある天然ガス田の開発と東地中海パイプラインの建設にも反対している。アプロディーテーガス田の発見後、キプロスはガス田の開発を模索し始めたが、トルコに激しく批判された。トルコは、キプロスが北キプロスの許可を得ずに一方的に天然ガスの探査をする権利はないと主張した。一方、トルコはガス田や油田を探索するために、東地中海に探査船を派遣し始めた。これらの船は、UNCLOSがギリシャとキプロスの水域と定める水域を中心に航海しているが、トルコ側は自国と北キプロスに開発権があると主張している。
トルコにとって、東地中海の天然ガスの開発はキプロス島付近の問題だけではない。2018年に完成されたアナトリア横断天然ガスパイプラインは、中央アジアとヨーロッパの間のエネルギーハブとしての地位をトルコに与えるはずだった。しかし東地中海パイプラインの完成後、アナトリア横断天然ガスパイプラインの重要性が弱まり、その結果トルコの立場も弱まっている。そこで、この地域での影響力回復に向けて、トルコはリビアに向かっていった。
リビアとの繋がり
東地中海の天然ガス田から遠く離れたリビアもトルコの政治的接近により海洋境界の争いに加わることになった。近年、リビアでは武力紛争が繰り広げられてきたが、この背景にはガス田開発に利害関係を持つ複数の当事国の存在もある。2010年から始まった、北アフリカから中東諸国の独裁政権に向けられた市民運動、いわゆる「アラブの春」は、2011年にリビアの政権交代をもたらした。ムアンマル・カダフィ氏による長期独裁政権は崩壊したが、その後、リビアでは権力が二極化していった。また、2015年に発足しリビアの正式な政権として承認されていた国民合意政府(Government of National Accord:GNA)と、対立するリビア国民軍(Libyan National Army:LNA)との間の紛争で様々なアクターが介入を行ってきている。GNA側にはトルコが軍事介入をし、カタールも支援を行ない、LNAに対してはエジプト、アラブ合衆国(UAE)、ロシアなどが軍事支援を行ってきた。
そんな中、2019年にトルコはGNAと海洋境界に関する覚書(MoU:Memorandum of Understanding) を締結した。UNCLOSで定められるEEZであれば、リビアとトルコのEEZが接することはない。しかしトルコが主張する大陸棚に基づくEEZをベースに作られているこの覚書では、2カ国のEEZがつながることになっている。覚書に基づけば、ギリシャのクレタ島の周辺に近づく形で、UNCLOSで定められているギリシャのEEZにも大きく重なっており、予定されている東地中海パイプラインにも影響を与える恐れがある。この合意の背景にはトルコとリビアのGNAにはそれぞれの思惑があると考えられる。トルコにとっては、大陸棚に基づいたEEZの正統性を示すと同時に、天然資源の探索及び開発ができる水域を広げることにつながる。他方、GNAにとっては、トルコの主張に賛同することで、政権を維持し基盤を固めるためにトルコからの軍事支援を受けることができる。

トルコの軍船(写真:495756 [Pixabay License])
これに対して、ギリシャ、キプロス、エジプト、さらにはEUやアメリカも強く反対の声をあげている。加えてトルコとGNA間の覚書は国際法上には無効であると欧州議会も主張している。その理由として、国同士の合意が有効となるには、双方の政府が批准する必要があることを挙げられている。今回の覚書はトルコとGNAの間で合意されたものだが、トルコ議会にしか批准されていない。リビアの議会には上院と下院があり、両方が合意しない限り、国際条約の批准ができない仕組みとなっている。しかし2019年、リビア下院の議長は、この覚書は地中海の隣国との良好な関係を脅かす恐れがあるとして、合意しないことを表明した。
他国の利害関係
新たに発見された東地中海での天然ガス田に対して、地域内外からも動きがみられている。ロシアとシリアは、お互いの良好な関係から、2000年代からエネルギー分野での協力関係が続いている。最近では、シリアのEEZにも天然ガスが埋蔵されているとみられている。2013年、シリアのバッシャール・アル=アサド氏が率いる政権は、ロシア系の大手エネルギー会社ソユーズネフチガス(Soyuzneftegaz)にシリアのEEZでの天然資源の調査・採掘権を与えると規約した。しかし、シリア政府に対してはアメリカが経済制裁を課しており、シリア政権と取引をしている外国企業もその対象となる。この制裁措置を回避するために、ソユーズネフチガスの隠れ蓑として別の会社がロシア側によってパナマに設立されていたことが明らかになっている。シリア紛争が続いているため、ソユーズネフチガスはその権利を長年使用していなかったが、2021年3月にシリア海岸の周辺に探索を始めた。世界最大の天然ガス輸出国であるロシアにとっては、東地中海の天然ガス田の価値は資源そのものよりも、この地域での影響力を高める狙いが大きいと指摘されている。ロシアはこの地域での天然ガス競争に参入することで、ヨーロッパ市場への影響力をある程度維持したいという思いがあるのかもしれない。ロシアの企業はシリア以外にも、イスラエル、キプロス、レバノンなど東地中海で開発権を獲得している。しかしながら、シリアがソユーズネフチガスに与えた掘削作業可能地域の範囲は隣国のレバノンの領海に踏み入れており、シリアとレバノンの間の摩擦の原因にもなっている。
他方で、アメリカは東地中海の天然ガスより、海上交易路の安保を重要視しているようだ。安全な海上航路の確立のためには北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるギリシャとトルコの両者の協力が必要であり、この2カ国の緊張が続くことは避けたい。トルコのEU加盟、移民をめぐる問題、そして最近ではリビアとトルコとの覚書をめぐりトルコと対立するフランスの外交戦略も東地中海地域の情勢不安を煽る要因となっている。EMGFのメンバー国であるフランスは東地中海の天然資源開発にあたりギリシャとエジプトへの支援を行うとともに軍事支援などを行なっており、これらの国々とトルコの対立構造の悪化を招いていると言えるだろう。さらに、東地中海地域での軍事的な存在感を高めるトルコを懸念し、フランスは地中海に海軍の派遣も行なっている。

2021年4月27日のキプロス問題非公式会議 ( 写真:UN Geneva / Flickr.com [CC BY-SA 2.0]
天然ガス争いの解決へ
東地中海の天然ガスをめぐる縄張り争いは、多数の国々を巻き込み、いくつかの武力紛争とも関連する非常に複雑な問題である。その利害関係は、地域の枠を超えており、東地中海の紛争解決のためには、トルコとEMGF加盟国とが何らかの形で妥協をすることが必要となる。例えば、トルコがクレタ島のEEZを承認する代わりに、ギリシャがカステロリゾ周辺のEEZを放棄すれば、解決に向けた譲歩となると指摘する専門家もいる。
また、この東地中海の問題を環境問題という別の視点で捉えることもできる。気候変動を引きおこす化石燃料である天然ガスのさらなる開発を進めるべきではないという見方だ。しかし、現状では東地中海での天然ガスの開発は減速するどころか、加速し続ける可能性が高い。
いずれにしろ、この地域で武力紛争が勃発することを阻止する必要がある。すべての当事国を含む緊張緩和と解決策への模索を進めることが急務である。
※1 共通利益プロジェクト(PCI:Project of Common Interest)は、EU諸国のエネルギーシステムをつなぐ国境を越えた重要なインフラ開発プロジェクトである。
※2 国連海洋法条約第74条による。
ライター:Yosif Ayanski
グラフィック:Mayuko Hanafusa
トルコ・ギリシャ・キプロスの間で問題が起きていることはおぼろげに知っていたのですが、東地中海の資源およびEEZを巡ってこれだけの国々が関わっていることを初めて知りました。今後の各国の外交努力に期待し、平和的に解決する道を探してもらいたいです。難しいですがとても読み応えのある記事でした。