この地球上には、莫大な種類の動物が生存している。人間は動物達を時に食料として、時にペットとして、また時に命を脅かす脅威として捉え、長い間共存してきた。テレビでは、可愛いペットが主役の娯楽番組や野生動物のドキュメンタリーを通じてその姿が見えてくる。テレビニュースでも、動物園の動物達に関する報道がある種の娯楽性をもって取り上げられることが多い。サバンナのライオン、動物園のパンダやペンギンなどが多く取り上げられていることは想像に難くない。それでは、映像に頼らないより堅い報道を提供する新聞においては、どの動物がどのような視点で取り上げられているのだろうか。

吠える子ライオン(写真:Casino Lobby/Flickr [CC BY 2.0])
動物に関する報道の概観
今回は2013~2017年の5年間分の動物に関する国際面における記事の文字数を、朝日・読売・毎日の3社について調べた。まず文字数の総計は185,215文字。これは国際報道全体の文字数の1%以下に過ぎない。地域別ではアジアが最多でその66%を占め、国際報道全体の傾向と比較するとアジアが占める割合が非常に大きくなっている。鳥インフルエンザ、パンダ関連で中国に関する記事が大変多かったこと、また象牙問題や日本・台湾間の漁業関連などの記事が多かったことが要因となったと考えられる。また世界全体だと中国が約3割となり、これも国際報道全体の割合と比べると大きな数字である。つづいてヨーロッパ(10%)、アフリカ(10%)は比較的多かった方だが、それ以降のオセアニア(5%)、北米(4%)、中南米(0.7%)は大変小さな数字になった。他の種類の報道と比べると北米が大変小さな数字に収まったこと、アフリカに関する報道が国際報道全体の割合の3倍程度あったことが特徴的だ。ヨーロッパ、北米、アフリカは登場する動物にばらつきがみられたがオセアニアでは鯨が登場する記事がほとんどとなった。これは調査捕鯨をめぐり、日本とオーストラリア・ニュージーランド間での対立と国際司法裁判所での訴訟が要因となっている。
分野別比較
では、どのような文脈で記事の中に動物が登場しているのだろうか。まずは動物の取り上げられ方を、人間の食料としての動物、動物の保護・減少に関するもの、人間の脅威としての動物、見せ物としての動物、政治の中心人物のペットや外交に関わる動物の5つに分類し文字数を比較した。
動物の種類別比較
では、どの動物が多く取り上げられたのか。見出しに動物の名前が含まれる記事の文字数で比較すると、次のようになった。

動物に関する報道 種類別ランキング
ランキング上位に昇った動物について順に見ると、1位になった魚、漁業については食料として漁業関連で取り上げられたものが8割以上となった。関連地域はアジアが過半数を越え日本・台湾間の漁業協定に関する記事が圧倒的に多かった。次いで多かったのはヨーロッパで、ここではロシアの欧米に対する食料禁輸措置についての記事がほとんどとなっていた。
続いて鳥がランクインしている。鳥に関しては、脅威として動物が報道された記事の8割以上が鳥に関する記事となっている。これは鳥インフルエンザの記事が大変多かったことが要因となっている。2013年に中国において鳥インフルエンザウイルスの人への感染例が確認され、それ以来感染者や死者の増加が多く報道されたのだ。世界保健機関(WHO)の報告によると2013年の発生から2017年9月13日までの総計で死者は600人を越えている。この影響で、鳥を見出しに含む記事の8割以上の関連国が中国となった。このように脅威として報道された鳥に関する記事が20,000文字を越える一方、食肉としての鶏を見出しに含む記事は4,300文字と少ない結果になった。
続いて2位となったゾウは、保護・減少に関する記事が全体の9割を越えた。ゾウに関する報道量が多かったのは2016年の締約国会議(COP17)で象牙の密猟問題が争点となったことが要因となっている。取り上げ方としては象牙密猟に反対し、ゾウを保護しようとする視点のものが多かった。関連地域はアジアが5割を超え、アフリカが4割弱と続いた。また、一部ではあるがゾウが脅威として書かれた記事もあり、ここではゾウに人が襲われた、人が殺されたなどの事件が取り上げられていた。
犬に関しては食料としての犬を報道したものが多数となり、3分の1を占めた。これは中国の「犬肉祭」に対する批判が一時期加熱したためであり、2014,15年に集中した。食用の犬肉についての記事は、犬を食料としてとらえることに批判的な見方の記事が多かった。次いで政治関係者のペットや外交の道具としての政治関連に分類される記事が多く見られた。例として、日本からロシアのプーチン大統領へ贈られた秋田犬や、大統領公邸に置き去りにされた朴槿恵前大統領のペットの犬の話題などが取り上げられていた。

引き上げられた魚(写真:Beneda Miroslav / Shutterstock.com)
5位にランクインしたパンダは、まず政治に関する記事が文字数では6,000文字を越え、パンダの記事の5割以上を占めた。外交目的でパンダが中国からドイツ、韓国、インドネシアなど他国へ贈られたことに関して書かれていた。これについては「パンダ外交」という言葉を用いて報じられていた記事も存在した。次いで「見せ物」としてパンダを報道する記事が多かった。中国・台湾でパンダが誕生、死亡したことやその成長について報じられていた。こちらは文字数ではパンダ全体の2割に過ぎないが、記事数ではパンダの記事の4割強を占めており、一度に報じられる情報は少なくとも頻繁にパンダについての報道がなされていることが分かる。他の動物が鳥インフルエンザや象牙問題など、何か特筆すべき事件や議論があった時期に集中して報道されていたのに対し、パンダの記事は他国への貸与など大きな出来事があったときはもちろん、それ以外にもパンダの成長や現在の様子を報じるものなどが大きな事件がなくとも継続的に報道される傾向にあった。ジャイアントパンダの推定個体数は2015年時点で2,000匹弱と、決して数の多い動物ではない。しかしながらこのように頻繁に報道されるのは、やはり日本と中国との地理的・政治的密着性が動物の報道にも影響を与えたのではないかと推測することができる。それだけではなく、「客寄せパンダ」という言葉もあるように、動物園の人気者であるパンダはやはり読者の興味を引き寄せるのかもしれない。

2匹のパンダ(写真:Todorob.petar.p/Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
動物に関する国際報道は数が多い訳ではない。しかしながらその中でも、保護、食料、脅威といった多様な視点から動物が取り上げられている。動物の世界においても、地理的・政治的繋がりの強い国・地域はやはり多く報道される傾向にある。また、普段報道が極めて少ないアフリカだが、動物になるとその注目度が増えることもわかる。そしてなんといっても動物園と同じように、新聞においてもパンダはやはり人々の目を引く存在であるようだ。
ライター:Eiko Asano
グラフィック:Eiko Asano
報道分析で動物に着目しているのが面白かったです。
アフリカは動物に関して報道されるといっても、10%に留まるというのは少ないと感じます。
パンダを代表例として、単に動物に関する問題の大きさだけでなく、他の国際報道と同様に地理的関係や政治的関係でニュースバリューが決まるという傾向が非常に興味深かったです。
パンダが5位なのは想定内ですが、見せ物としてのパンダの報道はナンセンスだし必要ないと思います。
パンダの報道はテレビの方が多い気がしますが、わざわざニュースとして報道するのはばかばかしくてあまり見てられないです。
国内の報道で見ると、もう少し動物が関連する割合が増えるかなと思いました。
日本では、名古屋の動物園にいるイケメンゴリラの「シャバーニ」が有名ですよね。
アフリカは動物なら出てくるんですね。人も取り上げてほしいです。
ランキングを見ていると、日本と関係が深いから取り上げられているような動物が多い気がしました。魚や鯨は言わずもがな、鳥については、中国と日本が近く、脅威になりうるし、何年か前に日本でも鳥インフルが問題になっていたことが大きいのかなと思いました。パンダは、日本国内の報道も多い気がするので、その傾向が国際報道にも顕われたのではないかと思いました。
漁業のニュースがあまり印象になかったので意外でした。
最近もザギトワ選手に秋田犬が贈呈されたことが頻繁に報じられていたことを思い出しました。