続報:2024年潜んだ世界の10大ニュースはその後どうなったのか?

執筆者 | 2025年10月30日 | 10大ニュース, Global View, 世界

GNVは2018年以降、毎年12月に「潜んだ世界の10大ニュース」を発表している。多くの人々や地域・世界の仕組み、あり方に大きな影響を与えたにもかかわらず、日本の大手メディアがほとんど、あるいはまったく報じなかった事象を取り上げランキング化する企画である。

日々生まれる新しい出来事に注目していくのはもちろん重要だが、以前注目した事象がその後どうなったのかについて追い続けることも忘れてはならない。昨年同様、2024年にランクインした10大ニュースを個別に取り上げ、2024年の年末から2025年10月現在までの間にどのような展開があったのかを確認していく。

第1位 世界で18歳未満の少女の8人に1人が性的暴行の被害に直面

2024年のニュース:国連児童基金(UNICEF)の報告書により、世界で8人に1人の少女と女性が、18歳になる前にレイプや性的暴行の被害を受けていることがわかった。

【続報】202510UNICEFなどの報告を受け、新たな研究が発表されている。20255月に発表された研究によると、2023年に18歳未満で性暴力を受けた女性の割合は世界全体で18.9%、男性は14.8%と推定された。性暴力の被害を受けるリスクは、武力紛争下でさらに高まる。たとえば、2025年のUNICEFの報告によると、紛争が続くスーダンでは、少女や女性への性的暴行が横行しており、性暴力のリスクにさらされている人の数は人口の約25%、すなわち1,210万人にのぼることが分かっているまた、紛争が続くコンゴ民主共和国東部地域では、20251月から2月の2か月間で約1万件の性的暴行事件が報告されており、その被害者のほぼ半数は子どもだった。さらに、武装集団が首都の大半を支配するハイチでは、治安が極度に悪化し、子どもに対する性的暴行の報告件数が10倍に増加した。一方、2011年にコンゴ民主共和国で発生した同国の兵士による集団レイプ・暴行事件に対して、アフリカ人権・民族権委員会は202510月、コンゴ民主共和国政府に対し、責任者の処罰や被害者への補償を求める決定を下した。これにより、性暴力、特に国家主体による暴力を処罰しない国は法的義務に違反するという判例が確立されたことになる。

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コンゴ民主共和国の首都キンシャサで会議する国連紛争下の性暴力担当特別代表(右)(写真:MONUSCO / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])

第2位:44億人が安全な水へのアクセス不足、これまでの推定の2倍に

2024年のニュース:2024年8月にサイエンス誌に発表された研究は、世界人口の半数以上が安全な家庭用飲料水にアクセスできていないとした。これまでの調査ではデータが十分ではないことを指摘し、水の質を考慮することの重要性を強調した。

【続報】2025年10月:2025年8月、世界保健機関(WHO)とUNICEFは、2020年から2024年までの家庭用飲料水と衛生環境の改善状況を検討した共同報告書を発表した。この報告書によると、2015年以降、9億6,100万人が安全に管理された飲料水へのアクセスを得た一方で、2024年の時点でも21億人が依然としてアクセスできていないとされた。国連の持続可能な開発目標(SDGs)における安全な水への普遍的アクセスに関するターゲット(6.1)を達成するためには、現在の進捗速度を8倍にする必要があるという。衛生サービスについては、基本的なサービスさえ利用できない人が19億人に上ると推定されている。しかし、これらの問題に関するデータ収集能力はいまだ十分ではない。安全な水へのアクセスに関するデータは、世界人口の72%を対象としているにすぎない。また、2024年にサイエンス誌に発表された研究については、WHOとUNICEFとは異なる手法を用いているものの、その後の更新はない。

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水を汲む女性、ケニア(写真: DFID / Wikimedia Commons [CC BY 2.0] )

第3位:避難民、10年で倍増

2024年のニュース:世界の避難民の数が12年連続で増加し、20246月末時点で10年前のほぼ倍となる1億2,260万人に達したと推定された。そして避難民全体の3分の2が、たった10の国と地域から出ていることが指摘された。

【続報】202510月:2024年末には避難民はさらに60万人増加して1億2,320万人と推計された。しかし20254月末の推計によると、避難民は1%減の12,210万人となり、ここ十数年で初めて減少に転じた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、この減少傾向が続くかどうかは紛争地の和平や停戦の実現や、不安定な地域での情勢の改善、難民の帰国のための条件を整えることができるかどうかなどにかかっているとしている。一方で高所得国からの人道支援費用の削減などにより、難民を支援する機関の資金不足が悪化しており、2015年時点からほぼ倍増した避難民に対して当時と同程度の資金しか得られていないという問題もあり、状況は以前深刻だ。

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スーダンからチャドに逃れた人々が生活する難民キャンプ(写真:Global Partnership for Education – GPE / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0]

4位 イスラエル・パレスチナ紛争で脅かされるヨーロッパの表現と集会の自由

2024年のニュース:2023年10月の紛争激化を契機に、複数のヨーロッパの国がパレスチナへの支持を表明する人々の表現と集会の権利への制限を強めた。欧州連合(EU)は、人権と法の支配の推進者を謳っているが、同紛争への対応からは実態との乖離が見られた。

【続報】202510月:欧州法務支援センター(ELSC)が2025年8月に発行した報告書によると、パレスチナへの連帯に対する圧力は、ケーススタディの対象としたイギリス、ドイツ、オランダ、フランスにおいて、制限がさらに強まっているという。またイギリスを中心とする親パレスチナ団体「パレスチナ・アクション」をテロ対策法の下で活動を禁止したことに対する抗議デモに関し、1500 人弱の逮捕者が出たと報道されている。これは、2025年6月に「パレスチナ・アクション」の活動家たちがイギリス空軍基地に侵入して軍用機2機に赤い塗料を吹き付けるなどして損傷させた事件を受け、イギリス政府が7月にテロ対策法に基づいて「パレスチナ・アクション」を非合法化し、同団体への支援の表明を違法とした事によるものである。

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「パレスチナ・アクション」への支持を表明する男性と対峙する警官(写真:indigonolan / Wikimedia Commons [CC BY 4.0])

第5位 チャドとセネガルからフランス軍の撤退へ

2024年のニュース202411月、チャドがフランスとの軍事協力を終了すると発表した。これに伴い、セネガルも、国内の全フランス軍基地を閉鎖すべきであると述べた。チャドは、フランスとの関係自体は継続しつつ、他国との関係を強化すると考えられている。

【続報】20251020251月、フランスはサヘル地域に残る唯一の軍事拠点である、チャドの軍事基地を引き渡した。また、2月にはコートジボワール、7月にはセネガルに残る、それぞれ最後の軍事基地を引き渡した。加えて、ガボンの基地を中央アフリカとの共同キャンプへと変更したため、アフリカにおけるフランスの軍事基地は、ジブチのみとなった。フランスとその旧植民地諸国は完全に関係を解消するのではなく、セネガル等の国は、今後も経済等の分野でフランスとの協力を続けると示唆している。しかし、ロシアや中国などは、新たにこの地域と関係を強化しようとしており、力関係は変化する可能性がある。一方、仏軍の撤退に伴い、民間の軍事企業が仏語圏アフリカ諸国に進出する動きもある。ロシア、中国、トルコ、アメリカ、イギリス等の民間軍事会社がこの新たな市場に参入し、元フランス軍人などを派遣しているという。

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ジブチの基地で離陸準備を行うフランスの軍用輸送機(写真:U.S. Air Force photo by Senior Airman Blake Wiles / Wikimedia Commons [Public domain])

第6位 気候変動対策について過去最多の91か国がICJで意見陳述

2024年のニュース:2024年12月、国際司法裁判所(ICJ)で過去最多の91か国が、気候変動対策に関する公聴会で意見陳述を行った。高所得国の温室効果ガス排出に対する責任を問う内容で、海面上昇などの被害を受けている島嶼国が主導して実現した。

【続報】2025年10月:2025年7月23日、国際司法裁判所(ICJ)は、気候変動に関する国家の義務について全会一致で勧告的意見を示した。ICJは、各国が気候変動に対して、国際法上の拘束力を持つ法的義務も負っているという見解を示した。これらの義務には、温室効果ガスの排出削減、清潔で健康的かつ持続可能な環境の保障が含まれる。2015年のパリ協定などの国際的な合意が、人権法や重大な損害を防止する義務などの国際慣習法とも結びついていると捉えることができる内容となった。また、ICJは初めて、気候変動に関して適切な立法的・行政的・規制的措置を取らない場合、損害賠償や補償などの法的な結果を招く可能性があると明示した。この意見自体に法的拘束力はないものの、脆弱な国家の国際的な気候交渉における法的立場を強化し、国内外での気候訴訟の拡大につながる可能性がある。この勧告的意見は、大気中の二酸化炭素濃度が過去最高を記録し、温室効果ガスの削減計画が地球温暖化の抑制には極めて不十分であるという現状の中で示されたものである。

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ICJでの勧告意見が発表される様子(写真:UN Photo/ICJ-CIJ/Frank van Beek [Fair use])

第7位 世界人口の半数、社会福祉制度へのアクセスを獲得する

2024年のニュース:国際労働機関(ILO)は2024年9月、世界人口の52.4%が少なくとも一種の社会福祉制度の保護を受けられると報告した。2015年の42.8%から改善したが、ILOは進歩の遅さ、最貧国の取り残されている状況、国や地域による保護水準の格差を問題視している。

【続報】2025年10月:2025年9月、ILOは2024年の世界報告書の補足として、ヨーロッパと中央アジアに焦点を当てた報告書を発表した。報告書によると、これらの地域では人口の約85.2%が少なくとも一つの社会保障制度の保護を受けており、世界平均よりはるかに高い。しかし、地域内で格差は大きく、コーカサス地域ではわずか50.9%にとどまっている。また、報告書は気候変動や人口の高齢化が現在の社会保障制度に追加的な負担を与えていることを指摘しており、単に制度の空白を埋めるだけでなく、制度自体を強化する必要があることを意味する。さらに、2025年には社会福祉に関連する重要なイベントも開催される予定である。4月にはドイツで世界障害者サミットが開かれ、各国政府による800件の新たなコミットメントが実現した。また、カタールでは11月に、第1回から30年目となる第2回世界社会開発サミットが開催される予定である。

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車椅子を押す女性、日本(写真: ajari / Wikimedia Commons [CC BY 2.0] )

第8位 南米でコカインの製造が増加

2024年のニュース:国連薬物犯罪事務所(UNODC)の2024年の報告書で、2022年にコロンビア、ペルー、ボリビアで製造されたコカインの量が前年比で20%も増加したことが明らかになった。コカインの増加は製造地、中継地、消費地で暴力を増加させている。

【続報】2025年10月:20256月に公表されたUNODC報告によると、2023年のコカインの製造、押収、濫用はそれぞれ過去最多を記録した。製造量を見ると2022年からさらに34%増加して約3,708トンと推定されている。特にコロンビアでの生産量が大きく、コカインの原料となるコカの生産では世界の約67%を占めているという。また、コカインの密輸ルートの主要な中継地となっているエクアドルでは2025年に大規模な抗議活動が起きたが、コカインの密輸に関連する治安の悪化が背景にあると指摘されている。さらに、20259月から薬物のアメリカへの流入を阻止するためとしてドナルド・トランプ大統領による公海上でのベネズエラ船等への攻撃が繰り返し行われるなど、薬物を理由とした政治的、軍事的な動きも活発化している。なお、コカインのアメリカへの密輸においてはコロンビア、ペルー、エクアドルからが多く、ベネズエラはそれほど主要な積出港ではないとも指摘されている。

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半潜水艦で密輸されていたコカインを押収するアメリカの沿岸警備隊(写真:Coast Guard / Wikimedia Commons [Public domain]

9位 欧州司法裁判所、西サハラの自治権を認める裁定

2024年のニュース:2024年10月4日、欧州司法裁判所は2019年にEUとモロッコ間で結ばれた貿易協定について、西サハラ側の同意を得ていないため無効であるとの判決を下した。

【続報】202510月: 上記の判決を受け、西サハラ側の当事者としてポリサリオ戦線が参加することで、モロッコと西サハラ間の紛争解決が後押しされる可能性も示されたが、状況に大きな変化は見られない中、EUとモロッコは、2025年10月2日に、両者間の貿易協定における「原産品」の概念の定義を修正した。この修正は西サハラ地域を原産とするもの、特に農作物や水産物がモロッコ産と同じ優遇関税を受けることを保証し、西サハラ地域の原産物にモロッコがその地域の行政区画で使用している地域を指す表示を認めるものである。欧州司法裁判所の判決を受けた協議の結果としているが、実質的には司法判断を回避し、西サハラ地域のモロッコの領有を貿易面で認めることにつながるものとも言える。西サハラ側の当事者としてポリサリオ戦線は、この修正は欧州司法裁判所の司法判断を変更するものだと主張し、西サハラの人々の権利と資源を保護するためにすべての法的手段を使用すると宣言した。

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第10位 中央アジア最後の国境画定で合意

2024年のニュース:202412月にタジキスタンとキルギスの間で、最後の国境画定が合意された。両国の間では曖昧な国境が軍事衝突や汚職、武装勢力や薬物などの問題の原因の1つになってきた。しかし、合意が実行に移されるかは不透明だとも指摘されていた。

【続報】2025年10月:2025313日、キルギスとタジキスタン両国の大統領がキルギスの首都ビシュケクで正式に国境画定の取り決めに署名し、20229月の武力衝突以降中断されてきた両国間の陸路、空路交通が再開された。また、331日にはウズベキスタンも交えた3カ国の首脳がタジキスタンのホジェンドで会談を行い、国境画定に加えて経済的、政治的関係を強化していくことで一致した。この合意の実施は、地域の安定化による経済的な利益が大きく、両国の政権も比較的安定していることから、安定的に実施されるという見方がなされている。一方で、大統領の強権的な協議の進め方や、合意の詳細、特に水利権の分配や画定に影響を受ける住民に対する補償内容などが明らかになっておらず、住民が意思決定から排除されていることが指摘されている。

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すでに画定されているレイレク地区のキルギスとタジキスタンの国境検問所(写真:Nataev / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0]

以上見てきたように、2024年に10大ニュースとして取り上げた問題それぞれで新たな進展が見られた。改善された問題もあれば悪化した問題もあるが、いずれも注目すべき懸念点が残っており、継続的な注目が求められる。

GNVは、2025年12月、2025年の10大ニュースを発表する予定である。

 

ライター:Seita Morimoto, Virgil Hawkins, Maiko Takeuchi, MIKI Yuna

 

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