変容する西アフリカの国際関係

執筆者 | 2024年10月10日 | Global View, サハラ以南アフリカ, 政治, 紛争・軍事

西アフリカでは、サヘル地域における過激派武装勢力の台頭を主な原因とする治安上の課題が増大し、文民政権がそれを制御することができなくなった。それにより2020年から2022年にかけて、マリとブルキナファソはクーデターが相次いだ。同様の問題に直面した両国の軍事政権は互いに緊密な関係を築いた。そして2023年7月、隣国ニジェールでも軍事クーデターが発生した。

この3か国が加盟していた西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、臨時首脳会議を開催し、クーデターを非難した。 さらにECOWASは、追放されたモハメド・バズーム大統領を釈放し民主主義を回復するための軍事介入を行う可能性を示唆した。これに対してブルキナファソとマリの両政府は、ニジェール政権を標的にしたいかなる攻撃も彼らに対する「宣戦布告」であると解釈するとの共同声明を発表した。2023年9月、ブルキナファソ、マリ、ニジェールの3カ国は、独自の組織であるサヘル諸国同盟(AES)を結成し、2024年1月にECOWASを脱退することを発表した。それ以来、2つの組織の間では外交的な主導権争いが続いている。

この記事では、ECOWASとAESという2つの機関の関係と西アフリカを待ち受ける未来を説明する。

ECOWASの起源と目的

ECOWASはナイジェリアのラゴスにて、当初は経済グループとして1975年5月に設立された。ベナン、ブルキナファソ、カーボベルデ、コートジボワール、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、シエラレオネ、セネガル、トーゴの15か国で構成される。ECOWASの構成国の総合人口は3億人、国内総生産(GDP)は7,348億米ドル、領土は500万平方キロメートルにも及ぶ。

ECOWASの当初の目的は構成国間での経済的に連携し、それを強化し、統合を図ることであった。そののち1990年代にはその機能が政治的問題にまで拡大した。このようにして、現在のECOWASは加盟国同士の武力行為を行わないという誓約と、民主的統治の促進と強化、地域内の平和、安定、安全の維持という基本原則を掲げるようになったのである。この組織が問題に対して平和的な解決を導き、その地域での平穏を維持するべく打ち出された基本原則であった。

ECOWASと安全保障問題

1990年代以来、当時武力紛争に直面していたECOWASの加盟国もまた、軍事介入を受けることになった。ECOWASの軍事介入部門である西アフリカ諸国経済共同体監視団(ECOMOG)は、リベリア(1990)、シエラレオネ(1997)、ギニアビサウ(1999)、コートジボワールとリベリア(2003)に介入した。2013年、ECOWASはアフリカ主導マリ国際支援ミッション(AFISMA)の下、部隊を派遣した。AFISMAの任務は、マリ北部で勢力を拡大していた反政府勢力に対抗するマリ政府を支援することだった。AFISMAは後に国際連合マリ多元統合安定化ミッション(MINUSMA)として引き継がれた。ECOWASの直近の部隊派遣は2017年のガンビアであり 、選挙問題の後に起こった「民主主義回復作戦」の際であった。

武力紛争に加え、この地域では軍事クーデターや憲法クーデターが発生した。憲法クーデターは、現職の大統領が憲法上の任期制限(通常は2期まで)を変更し、在任期間を延長するときに起こる。軍事クーデターに対処するにあたって、ECOWASは通常、対象国家の加盟国資格を停止させ、経済制裁を科す。軍事クーデターが発生したマリ(2020年)、ギニア(2021年)、ブルキナファソ(2022年)に対して、ECOWASは経済制裁を科し、加盟国資格を停止させた。またECOWASは暫定政府が権力を市民に返還させるための支援をする。

米兵と共同訓練するECOWAS諸国(写真:U.S. Army Southern European Task Force / Flickr[CC BY 2.0])

AESの始まり

マリでは、MINUSMAだけでなく、フランス(バルハン作戦)やヨーロッパによる軍事介入(タクバ・タスクフォース)もあったにも関わらず、紛争が続いている。長年にわたり、複数の武装集団(主に「イスラム教及びイスラム教徒の守護者(JNIM)」「大サハラのイスラム国(ISGS)」など)がマリ全域で影響力を及ぼし続けている。2015年より、これらの武装集団による武力行為はブルキナファソとニジェールにまで及ぶようになった。このうち最も激しい戦闘は、3か国の接する境界であり、広大で侵攻を防ぎにくいリプタコ・グルマ地域で発生した。

マリと隣接する2つの国が抱える紛争の背景は複雑だ。主にトゥアレグ民族に構成される集団によるマリ北部での分離独立運動に端を発する。その対立に地域の過激派集団が加わった。この紛争の背後にある他の重要な要素は、定住農民と遊牧民の間にあった土地問題と、乾燥した周辺地域で貧困に苦しむコミュニティに必要な公共サービスを提供できなかった政府の失敗にある。マリ(2020年8月と2021年5月)とブルキナファソ(2022年1月と9月)でクーデターは、このような武装集団とそれを抑えようとするリーダーの失敗が生み出した不安定さに起因するのである。

たった3年のうちに、ECOWASの構成国の中では5回のクーデターが発生した。マリで2回(2020と2021)、ギニアで1回(2021)、ブルキナファソで2回(両方2022)。その後、2023年のニジェールでのクーデターがECOWASにとっての決定的な一撃となった。ECOWASはサヘルでマリ、ギニア、ブルキナファソに対して経済制裁を科した。しかしこのニジェールのケースでは、更に強い姿勢をとった。通常の経済制裁を超えて、バズム大統領を解放し、憲法に基づいた政権を回復させるために軍事行動をとると警告した。この強硬姿勢はニジェールのクーデター後の軍事政権が権力を維持するのを阻止し、他国に対する抑止目的もあったと思われる。ECOWASは、軍事介入をする前に、ニジェールの軍事政権に対して退陣するよう要請しつつ、交渉人を派遣した。

フランス政府は、即座にニジェールのクーデターを止めるために軍事介入に対して支持表明した。この支持表明にはさまざまな意図がある。フランスの企業はニジェールのウラン生産の多くを占めており、フランスはニジェールには相当な経済的・エネルギー的利益を有している。フランス政府はまた、このクーデターによって、ニジェールとの軍事協定が停止され、ニジェールに駐在しているフランス軍が撤退することになるかもしれないという懸念があった。

ニジェール軍の訓練の様子(2018年)(写真:US Africa Command / Flickr[CC BY 2.0])

このような状況のなかでのECOWASの強硬姿勢は、ECOWASがヨーロッパの影響下におかれていると解釈する人は少なくなかった。ECOWASの介入計画はブルキナファソとマリの軍事政権の反発を呼び、「ニジェールに対するいかなる軍事介入も、我々に対する宣戦布告に等しい」との警告する共同声明を発表させた。彼らはまた「ニジェールの人々と権威に対する違法で不当で非人道的な制裁」を施すことはしない、と主張した。

ブルキナファソ、マリ、ニジェールはもとよりフランスの植民地支配という共通の歴史により強い繋がりがあったが、3か国の接するリプタコ・グルマとして知られる国境地帯と2013年以来そこで起こった数々の武装集団による武力行為も繋がりを強める要因だった。彼らはまた、モーリタニアとチャドとともに軍事協力を行った。これはサヘルのG5として2014年に始まり、経済成長と治安向上を目的としていた。地域の不安定化により、2017年にはG5サヘル合同部隊が結成された。しかしながら、フランスの強い影響力に不満を示し、2022年にマリ、2023年にブルキナファソとニジェールが撤退した。

ブルキナファソとマリの両政府がニジェールの軍事政権に軍事支援を申し出たことは、ECOWASの意表を突くものだった。また、2023年9月16日にブルキナファソ、マリ、ニジェールの3か国がリプタコ・グルマ憲章に調印することで最終決定したサヘル諸国同盟(AES)の構想と成立につながった。この同盟の主な目的は集団的相互防衛であり、加盟国は、武力紛争や外部からの侵略が発生した場合に互いに軍事的に支援しあうことが求められた。国の主権や領土保全を脅かす攻撃は、加盟国全体に対する攻撃とみなされることとなる。

それだけでなく、2024年7月にニジェールのニアメー首都で開催された首脳会議でAESはさらに拡大され、サヘル諸国連合(頭字語はそのままAES)となった。

軍事政権のトップに立つゴイタ氏(マリ)トラオレ氏(ブルキナファソ)、チアニ氏(ニジェール)(写真:President of RussiaCC BY 4.0]、Lamine Traoré / VOA[Public domain]、Office of Radio and Television of NigerFair use]/ Wikimedia Commons)

AESの決定と計画

AESは、ニジェールがECOWASの経済制裁の中で生き残れるよう支援し、連携を強め、ECOWASを離れて対外的な提携を多様化することから始まった。提携の多様化にはロシアとの軍事協力も含まれる。AESの構成国であるマリとブルキナファソは2021年と2022年からすでにロシアとの軍事協力を始めていた。マリとブルキナファソに続いて、ニジェールはフランスとの軍事協定を放棄し、アメリカにも国内に駐留する軍を撤退させるよう求めた。ニジェールはG5サヘル合同部隊からも脱退し、ロシアとの軍事協力を開始した。2024年1月、AESの構成国はECOWASからの脱退を決定したと発表した。彼らはニジェールへのECOWASの経済制裁はヨーロッパの、特にフランスの権力の方便だとした。

AESの新たな協力国はロシア、中国、北朝鮮、トルコを含む。ロシアは、反政府勢力や過激派と闘い、共通の領域を確保するために必要な武器提供することをヨーロッパ諸国が拒否しているといい、これらの国々への強力な武器の提供国となっている。マリにおけるロシアの存在感が強まっているのに加え、ロシアはブルキナファソとニジェールにも軍事訓練に人員を派遣した。トルコはドローンの主な提供国である。AESは、これらの軍事協定はフランスやアメリカとのものとは異なり、中立的な合意と双方向の利益に基づいて行われたものだ主張としている。AESの指導者たちにとって、多様な協力関係を自由に築いていくことが、現体制では主権と独立の証だとみなされているのである。

提携の多角化と同時に、2024年3月、AESは反政府勢力と闘い、自国の安全保障上の課題に対処するための合同部隊を創設することを発表した。しかし、今のところAESの武装勢力との戦いは評価しがたい。2023年11月、マリ北部の町キダルをトゥアレグ分離主義グループの手から奪還したことを報道し、軍事政権の勝利を謳った。しかしながら、テロ攻撃などは未だ多くが続いている。

これらの攻撃は、地域の不安定さと新しい組織に対する新しいやり方の欠点を反映していると批判されている。また、軍事政権による人権侵害も批判の的だ。これに対して、AESは2024年7月にソーシャル・メディア・キャンペーンとウェブテレビ・プラットフォームを組むプロジェクトを始動した。これは、同盟国をターゲットとしたいわゆる「組織的偽情報」に対抗するためでだとした。3か国の市民の政府に対する忠誠心を煽りつつ、AESの国際的な評判を高めようとしているのである。武装勢力に対抗するためのみならず、「愛国的ジャーナリズム」の促進を通して、他国との「情報戦争」をも勝ち抜こうとしているのである。

マリとニジェールの国境付近のイスラム過激派勢力(写真:saharan kotogo / Wikimedia Commons[CC BY-SA 4.0])

同盟を連合へと発展させることで、AESは7,200万人の国民を一つの共同体に結束させようとしている。この変更により、3か国間では製品や個人の自由な移動が可能になる。長期的な目的は、最終的に個々の国家としてのアイデンティティーを超越した連邦へと移行することである。この連邦では、マリ、ブルキナファソ、ニジェールの国民は「AESの国民」と呼ばれるようになる。行政上の障害も取り除かれてゆくという。

この統合に向けた一歩として、マリのアシミ・ゴイタ大統領はAES地域内外での移動を簡易化するため、同地域圏でバイオメトリック(生体認証)パスポートの発行を開始すると発表した。同時に、3か国は協力して広く輸送・通信インフラを整備し、商業と製品、人の移動を自由化し、産業改革のために農業・鉱業・エネルギー部門に投資するとした。

3か国はすでに協力を深めているようだ。2024年2月ニジェールはマリに対して1.5億リットルのディーゼルを国際価格のほぼ半分の値段で売ることに同意した。これは頻繁にエネルギー不足に直面するマリにとっては大きな支えとなる。ブルキナファソもまたニジェールの石油に恩恵を得ている

それだけでなく、2024年7月、AESは外交におけるイニシアティブを調整し、投資銀行と安定化基金を設立すると発表した。この発表の前、ソーシャルメディアではたびたびAESが「サヘル」という名前の単一の通貨を導入するという噂が流れた。現在使われているCFAフランを代替するものとなる。CFAフランはフランスの影響を強く受けるため、地域のたいはんの人から植民地通貨として捉えられていると言っても過言ではない。あたらしい通貨が導入された場合、AESはかつての支配者であったフランスからの財政的・経済的自由に向けて画期的な一歩を踏み出し、国民からの信頼をさらに高めることになる。

ベナンとニジェールの国境付近(写真:NigerTZai / Wikimedia Commons[CC BY-SA 4.0])

2つの組織の現在

マリ、ブルキナファソ、ニジェールのクーデターは、この地域に緊迫した関係を生み出した。最初の対立は、ブルキナファソとマリがニジェールに対するECOWASの制裁を拒否し、ニジェールの政権を支持したことから生じた。その後、AESの設立が始まり、2024年1月にはAES加盟国がECOWASからの脱退を表明した。それ以来、西アフリカの旧ブロックとその離反メンバーとの和解への試みはことごとく失敗に終わっている。2月、ECOWASはブルキナファソ、ニジェール、マリの3カ国に対し、政治・経済同盟からの脱退を再考するよう促し、この措置が国民に与える苦難について警告した 。

しかし、AESがさらなる苦難を受けることはなかった。第一に、3カ国で軍事クーデターが広く国内で支持されたため、制裁はほとんど効果がなかった。制裁は、経済的困難によって国民がクーデター指導者に反抗するようになり、クーデター計画者が権力を放棄させるはずだと想定していた。しかし、制裁はそのような効果をもたらさず、むしろECOWASに対する否定的な意見を増大させた。AESの多くの人々は、ECOWASを「民衆のECOWAS」ではなく、欧米列強の支援を受けて政治権力と影響力を強化しようとする「首脳のECOWAS」と考えているのである。

また新軍事政権はクーデターを起こした後、さまざまな分野でロシアからの支援を受けた。さらに、ECOWASから切り離されたことにより、内陸の3カ国は海へのアクセスを失う可能性があったが、これらの国々に大西洋へのアクセスを提供するモロッコのような新たなプレーヤーの存在にあやかった。AESに対するECOWASの制裁や脅しは新たな協力者を得るきっかけとなったのである。

これに対応して、ECOWASはニジェールに対する制裁と国境閉鎖を解除した。また、新たに選出されたセネガルのバシルー・ディオマイェ・ファイエ大統領を調停役として任命した。しかし、AES諸国の指導者たちは離脱の決定を変えず、「ECOWASに背を向けたことは決定的である」と強調した。こうして、西アフリカを2つのブロックに分割されることになったのである。

ECOWAS会議でギニア及びマリでの情勢について議論する各国代表たち(2022年)(写真:Présidence de la République du Bénin / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])

現在の西アフリカで2つのブロックが形成されていることは、世界が西と東という2つのブロックに分かれていた冷戦時代を思い起こさせる。現在、西アフリカのAES連合には東側のパートナーがおり、ECOWASには西側のパートナーがある。AES諸国政府は自分たちの正当性を維持しようとしており、欧米列強がECOWAS諸国を不安定化させるために利用したと主張している。両者の主な対立点は、国際パートナーの選択にあるようだ。

しかし、分断が決まったわけではない。発足して1年になるAESは、ECOWASからの分裂に向けて歩みを進めてはいるが、3か国は2国間協定を通じて周辺諸国との良好な関係を維持したいと主張している。また、様々な違いはあっても、AESは必ずしも「反ECOWAS」の組織ではない。そしてECOWASはAESとの交渉の試みを止めず、理想的には再統合か、あるいは「ECOWASの中の一員」としての存在を望んでいる。しかし今はまだ、先行きは不透明なままである。

 

ライター:Gaius Ilboudo

翻訳:Kyoka Wada

グラフィック:MIKI Yuna

 

1件のコメント

  1. 匿名

    So informative !

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