《The Conversationの翻訳記事(※1)》
世界保健機関(WHO)が2020年3月11日にパンデミックを公式に宣言したとき、地球はすでに産業革命以前より約1.2℃気温が上昇していた。世界の多くの地域ではロックダウンが行われ、工場の操業は停止、自動車のエンジンは切られ、航空機も地上にとどまることとなり、人類の活動はかつてないほど急激に減少し始めたのである。
それ以来、顕著な変化が多くみられたが、気候学者である私たちは、この時期に全く新しく、また時には予想外の知見を得ることもできた。
ここでは、私たちの3つの発見を挙げていきたい。

ロックダウン中のバンガロール、インド(写真:Nicolas Mirguet / Flickr [CC BY-NC 2.0])
気候科学はリアルタイムで動いている
パンデミックをきっかけに、私たちはリアルタイムで温室効果ガスの排出量、特に二酸化炭素(CO₂)をモニタリングするという難題の解決方法を迅速に考えられるようになった。多くのロックダウンが始まった2020年3月、その年の排出量を規定する次の総合的グローバル・カーボン・バジェット(※2)は同年末まで設定されないため、気候学者たちは、CO₂の変化を示す別のデータを探し始めた。
ロックダウンに関する情報は世界の排出量を映す鏡として使われた。つまり、パンデミック前と比較して経済セクターや国の排出量、またどの活動がどれだけ低下したかがわかれば、その排出量も同じように低下したと考えられるのである。
2020年5月までの政府のロックダウン政策と世界中の活動データを組み合わせた画期的な研究によると、同年末までにCO₂排出量が7%減少すると予測され、後にグローバル・カーボン・プロジェクトがこの数字を確認した。この研究に続いて、私のチームでグーグルとアップルのモビリティ・データを使って10種類の汚染物質の変化を示す研究を行い、3つめの研究では、化石燃料の燃焼とセメントの生産に関するデータを使って再びCO₂排出量を追跡した。
最新のグーグルモビリティ・データによると、日々の活動はまだパンデミック前のレベルには戻っていないものの、ある程度回復している。これは最新の排出量推計にも反映されており、最初のロックダウン後の限定的な回復に続いて、2020年後半には世界の排出量はかなり着実に増加している。その後2020年後半から2021年前半にかけて、第2の波を象徴するような2度目のわずかな減少があった。

(図:Piers Forster)
一方、パンデミックが進むにつれ、カーボン・モニター・プロジェクトで確立したCO₂の排出量をほぼリアルタイムで追跡する方法は、この種の科学の貴重な新手法となった。
気候変動への劇的な効果はない
短期的にも長期的にも、今回のパンデミックが気候変動対策に与える効果は多くの人が期待していたほどではない。
2020年春、澄み切った静かな空だったにもかかわらず、ロックダウン中にわずかな温暖化効果が見られることが関連する研究でわかった。産業が停止し、大気汚染だけでなく化石燃料の燃焼によって発生した微細な分子で地上から太陽光を反射して地球を冷やすエアロゾルの機能も低下した。地球の気温への影響は短期間で0.03℃と非常に小さいものだったが、それでもオゾン、CO₂及び航空機のロックダウンに関連によるものよりも大きかった。
さらに2030年を見据えると、単純な気候モデルでは、パンデミックの最中に各国がすでに実施していた排出量の誓約に従っていたと仮定すれば、新型コロナの結果、世界の気温は0.01℃程度しか下がらないと推定される。のちにこの結果は、より複雑なモデルシミュレーションによって裏付けられた。
これらの国家による誓約はこの1年で更新、強化されてきたが、危険な気候変動を回避するにはまだ十分でなく、排出が続く限り、残されたカーボン・バジェットを食い潰すことになるだろう。対策が遅れれば遅れるほど、より厳しい排出量の削減が必要となる。

コロナ禍で解体される予定の旅客機(写真:Clint Budd / Flickr [CC BY 2.0])
これは気候変動対策のための計画ではない
連続するロックダウンにより、私たちの見てきた通常の生活が一時的に停止したが、それは気候変動を止めるには十分ではなく、また持続可能でもない。気候変動と同様に、新型コロナは最も弱い立場にある人々に最も大きな打撃を与えている。私たちは、ロックダウンによる経済的・社会的影響を受けずに排出量を削減する方法、また健康、福祉、平等を促進する解決策を見つける必要がある。個人、機関、事業による広範な気候変動への熱意と行動は依然として不可欠だが、それは経済の構造的変化に下支えされるべきだ。
私は同僚ともに、世界のGDPのわずか1.2%を景気回復策に投資すれば、地球の気温上昇を1.5℃以下に抑えることが可能なのかということと、より深刻な影響と高いコストに直面する未来になるかということの差を予測してきた。
残念ながら、グリーン投資は必要とされるレベルに何も達していない。しかし、今後数ヶ月の間にさらに多くの投資が行われるだろう。今後の投資には、強力な気候変動対策を組み込むことが不可欠だ。投資は高く見えるかもしれないが、潜在的な見返りははるかに高いと言えるだろう。
※1 この記事はGNVがパートナー組織として参加する「気候報道を今」(Climate Covering Now)の同じくパートナー組織であるThe Conversationのピアズ・フォースター氏(Piers Forster)の記事「I’m a climate scientist – here’s three key things I have learned over a year of COVID」を翻訳したものである。「気候報道を今」は2021年4月12~22日の一週間を報道週間として定めている。この場を借りて記事を提供してくれたThe Conversationとフォースター氏にお礼を申し上げる。
※2 カーボンバジェット(炭素予算)とは、世界的な平均気温の上昇を2℃以下に抑えられる範囲で、人間が排出できる最大の炭素量のことである。この「世界的な平均気温の上昇を2℃以下に抑える」というものは、気候変動枠組み条約の下で、2015年のパリ協定で定められた目標である。
ライター:Piers Forster (リーズ大学)
翻訳:Ayako Hirano