リヒテンシュタイン:サイバー攻撃で揺らぐ金融の秘匿性

by | 2026年08月10日 | GNVニュース, ヨーロッパ, 政治, 法・人権, 経済・貧困

GNVニュース 20268月10日

2026730日深夜、正体不明のサイバー攻撃者が、リヒテンシュタインで設立・管理される企業や財団などの実質的所有者の身元を記録する公式登記システム「実質的所有者登記簿」に侵入し、企業・財団・信託など31000法人分のデータ(氏名、生年月日、国籍、居住国など)を盗み出した。ただし今回、資金や銀行口座への被害は確認されておらず、データの削除・改ざん、身代金要求、著名なダークウェブ市場への流出も見られない。金銭目的ではない可能性もある。

リヒテンシュタインは長年タックスヘイブン()とされてきた。軽税率で資産を管理できるうえ、法人や財団の名義に実質的な所有者を隠せることから、匿名性を利用した資産隠しや脱税・租税回避・マネーロンダリングの受け皿としても機能してきた。人口わずか41000人の国に対し、2025年末時点で22927もの企業・法的構造が設立されている。世界的な税逃れを助長することで、他国に生じさせている税収損失は毎年4500万米ドルに上るとされている。

こうした構造への国際的な批判の高まりを受け、欧州連合(EU)のマネーロンダリング対策指令を実施するため2021年に施行された法律により、実質的所有者を当局が追跡できる「実質的所有者登記簿」が設けられた。その情報は一般公開されていないが、他国の当局や金融機関は一定の条件のもとでデータの開示を請求できる仕組みになっている。しかし、2025年のアクセス請求はわずか35、承認された23件もほぼすべて銀行・金融機関向けで、第三者の請求が通った例は一件もない。財団の所有自体は合法であり、この極端に限られたアクセスこそが、合法性と秘匿性を両立させてきた仕組みであった。

秘密主義的なタックスヘイブンから透明性の高い金融国家へと移行し始めていたリヒテンシュタインにとって、今回の攻撃は国の外交努力を何年分も揺るがしかねない打撃であると指摘されている。透明性向上を目的にデータを電子化・一元管理すること自体が、新たなセキュリティ上の弱点を生みかねないことが浮き彫りにされ、同様の登記簿整備を進めるスイスなど近隣国にとっても、制度への国民や政界の信頼をどう確保するかが課題となる。

 

 法の支配を逃れ、本来事業を行っている国や居住国で支払うべき税額よりも少ない税金しか納めずに済むよう、多国籍企業や個人を助ける国・法域

 

タックスヘイブンの実態を公表したパナマ文書についてもっと知る→続くタックスヘイブン問題:パナマ文書から10年

タックスヘイブンについてもっと知るタックスヘイブンとカリブ海付近の諸島

 

リヒテンシュタイン公家が所有するLGT銀行ファドューツ本店(写真:Julian Salinas/ Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])

0 Comments

Submit a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *

CAPTCHA


GNV:報道されない世界がある

新着記事

アーカイブからの注目記事