今日、地球上ではモノ・カネ・ヒト、そして情報が国境線を軽々と超えて移動している。多くの人が外国で作られた製品を使い、外国で生み出された有形無形の商品を消費している。一言でグローバル化と呼ばれるこの現象は、様々な利益と問題を世界中にもたらしている。世界規模の経済活動がある国での紛争を助長していることもあれば、世界全体の問題であり自分とは関係が薄いと考えていたものがいつの間にか自分の生活を脅かしていることもある。
このような世界に関する情報を提供するものが国際報道だ。国際報道は身近には感じにくいかもしれないが、世界中で起こる出来事の情報は個人の関心、消費行動や企業の活動、政治の動きに影響を与えうる。そして国際報道の最前線で活躍するのが特派員と呼ばれる存在だ。
本記事では、過去35年で日本の計68の報道機関が外国に派遣してきた特派員の人数や配置、そしてその傾向について分析した。そしてこの特派員の分析から日本の国際報道の現状を捉えていきたい。

記者会見で一斉にカメラを向けるジャーナリストたち(写真:stockphoto mania / Shutterstock)
目次
特派員とは?
そもそも特派員とはどういうものだろうか。辞書的な意味では「特別にその地に派遣された人」を指すが、報道においては報道機関が外国に派遣している記者を指すことが多い。特派員には駐在する常駐特派員となんらかの事件をきっかけに臨時的に派遣される移動特派員があるが、本記事では常駐特派員を扱うことにする。なお特派員とは別に「通信員」という用語もあるが、こちらはより広く報道機関と契約して取材活動などを行う現地出身者や契約社員なども含むとされる。
特派員の主な仕事は現地の出来事やニュースを本国の報道機関に伝えることである。彼らは国際報道において遠く離れた国の情報を素早く、正確に提供するために重要な役割を果たしている。そしてその仕事の性質上、特派員には高いコミュニケーション能力と言語能力、そして現地の文化、歴史、政治、社会などへの深い理解が求められる。
また、情報社会の進展や様々な国からの情報を報道機関に提供する通信社の発達により、外国の出来事についての情報源が増えたことで、特派員の役割が変化しつつある。実際、特派員の役割は単なる事実報道にとどまらず、社会に知られていない問題を発掘して文脈や分析を交えた多角的な報道を行うことだと考える記者もいる。
特派員の仕事を理解するためにもう1つ考慮すべき要素がある。特派員の仕事を補佐する、現地の事情に精通した「フィクサー」と呼ばれる人たちだ(※1)。特派員といっても言語や文化などのバックグラウンドが異なる外国から来た記者が、駐在国や担当する周りの国々の事情について完全に把握することは難しい。そこで、特派員は現地の知識や人脈を持つ現地出身のジャーナリストと契約し、フィクサー(世話役)として取材活動の補佐に当たらせることがある。フィクサーは現地の移動手段やホテルの手配から、取材対象との連絡や当局への許可申請などの準備、取材時の翻訳などを行う。その役割は単なる「世話役」にとどまらず、現地で特派員が取材をするにあたって極めて重要なものとなっている(※2)。
このように、特派員は報道機関の耳目として、時にフィクサーと協力しつつ、独自の視点から見た現地の情報を本国に伝えることが求められる。

紛争中のウクライナで取材活動を行う特派員の様子(写真:Jose HERNANDEZ Camera 51 / Shutterstock.com)
特派員数の分析
特派員の分析に入る前に、特派員の派遣を決定する報道機関の視点も確認しておこう。
そもそも特派員の派遣は大きなコストがかかる。正確な費用については報道機関と場所によって大きく変動するが、参考として、2000年代のアメリカのメディアは外国の拠点1つを維持するために年間平均で20〜30万米ドルかけていたという計算もある。また、特派員は高い能力と知識、そして多くの場合現地の言語に堪能であることが求められるため、人材への投資が必要となる。このように特派員は一般の記者に比べて金銭的、人材的コストが高いため、各報道機関が派遣できる特派員の人数と場所には限りがある。
なお、今日では外国の情報は通信社やインターネットの情報から間接的に得ることもできるため、特派員の代替手段がないわけではない。
一方で、自社の特派員は報道機関が国際報道を行う上で最も重要視している情報源だ。社員として自社の立場や見解を理解する特派員が、現地で得た豊富な見識と現場感覚を交えて執筆する記事は、その報道機関にとって内容の充実と独自性という価値を持つ。これはその報道機関が他社と競合する上で差別化できる重要な要素になる。
報道機関はこのメリットとデメリットを秤にかけて、どの国、都市に何人特派員を派遣するのかを決定する。このように考えると、報道機関が派遣する特派員の数と分布は、その報道機関の、コストとリターンを踏まえたうえでの世界に対する関心度とその分布を表したものだと考えることができる。
では、実際に日本の報道機関が世界に関する情報を収集するにあたって、どのように特派員を派遣しているのだろうか。これを調べるために、日本新聞協会が毎年発行している「日本新聞年鑑」の「海外特派員一覧」から、日本の報道機関が派遣する特派員の数と分布を調査した。データは1990年、1994年、1999年、2004年、2009年、2014年、2019年、2024年のものを使用した(※3)。分析は、特派員の地理的分布と、報道機関別の特派員数の2つの観点から行った(※4)。対象の報道機関は、記載のあった新聞社27社、通信社2社、テレビ、ラジオ含む放送局39社となっている。
特派員の地域的分布
まずは特派員の地域的分布から見ていこう。
特派員全体の増減を見ると、1994年の625人をピークに減少傾向にあることがわかる。2024年には1994年のおよそ84%となる524人にまで減少している。地域的な分布に目を移すと、アジア、北米、ヨーロッパに多くの特派員が派遣されている事がわかる。実際にここで挙げられているすべての年で、特派員の9割以上がこの3つの地域に集中している。一方でアフリカ、中南米、オセアニアに派遣される特派員は極端に少なく、地域的な偏りが見て取れる。なお、このアジア、北米、ヨーロッパに偏るという全体的な傾向はGNVが分析している報道量のデータとも一致する。
特派員数が多いこの3地域の増減を見ると、アジアは特に増加傾向にあることがわかる。特に増加が著しいのは中国であり、1990年は36人だったのが2014年には96人にまで増加した。その後は減少したが、2024年でも84人の特派員が駐在している。他にタイや韓国の特派員数も全体を通して概ね増加傾向にあった。この動きは、それぞれの国の経済的な発展に呼応する形で関心が増したためだと考えられる。
北米に関しては大きな増減の傾向は確認できないが、世界全体で見てもアメリカへの特派員が圧倒的に多く、どの年でも少なくとも25%以上、数にして150人以上の特派員がアメリカに派遣されている。一方で派遣都市を見るとワシントンD.C.とニューヨークの2都市への比重が大きく、アメリカに派遣される特派員の6割以上がこの2都市に集中している。
ヨーロッパへの特派員数は1994年から減少傾向にあることがわかる。1994年にはそれぞれ20人以上の特派員がいたイギリス、フランス、ドイツ、ロシアではそれぞれ減少がみられる。一方で同じく減少傾向にあったベルギーでは、2019年から2024年の間で急に増加に転じたが、これはロシア・ウクライナ紛争の勃発により北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の本部があるベルギーに報道機関の関心が集まったことが一因として挙げられるかもしれない。
一方、特派員が元から少なかったアフリカ、中南米、オセアニアでは、2009年以降一貫して減少傾向にある。この中で、アフリカに派遣される特派員はエジプトに、中南米ではブラジルに集中している。オセアニアでは、オーストラリアのシドニー以外の都市には特派員は派遣されていない。
ここで特派員が派遣されている都市の数の推移を見ると、特派員数ほど明確な減少は見られなかった。しかし、派遣都市数に比較して特派員数は明確に減少していることから、特派員1人あたりが接する情報が増えることで、取捨選択の中で取り上げられない出来事や問題が増えることも考えられる。
さらに、このような特派員の傾向が国際報道の減少と関連している可能性もある。過去のGNVの記事で朝日新聞と読売新聞の国際報道が長期的に見て減少傾向にあることを指摘しているが、その要因のひとつに、特派員の減少や接する情報の増大によりニュースとして拾い上げられる情報が減ったことを考えることもできるだろう。
特派員の報道機関別分析
続いて、特派員の増減を報道機関別に分析していく。ここでは特派員を派遣している報道機関を大きく新聞社、通信社、放送局の3種類に分けて考える。
これを見ると、新聞社がどの年でも最も多くの特派員を派遣していることがわかる。ここに放送局が続き、通信社が人数で見るともっとも少ないように見える。ただし、通信社は共同通信と時事通信の2社のみであるため、1社あたりでは平均して最も多くの特派員を派遣していることになる。増減をみると、放送局、通信社は2004年以降大きな変化が見られないのに対して、新聞社は1999年以降加速度的に特派員数が減少しているように見える。
一方、派遣都市数の推移を確認してみると別の姿が見えてくる。こちらは新聞社27社と通信社2社が近い数の都市に特派員を派遣しているのに対して、39の放送局が派遣している都市数はこれらに比べて10都市以上少ない。なお、推移については2004年以降大きな動きは見られないが、ここに新聞社が派遣する特派員の数が著しく減少していることを踏まえると、1人あたりの接する情報量が増加しているのは特に新聞社の特派員であると考えることができる。
ここからは3種類の報道機関についてそれぞれ詳しく見ていく。新聞社の中では特に日本経済新聞(日経新聞)、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞の4つの新聞社が特派員数で大きな割合を締めており、どの年も新聞社全体の7割以上の特派員を派遣している。一方で読売、朝日、毎日の3社は2009年以降減少傾向にあるのに対して、日経はむしろ増加傾向にある。これは日経新聞が経済専門誌であり、日本の経済のグローバル化に対応して外国の情報をカバーすることが求められたからだと考えられる。なお、この4社以外の特派員数は2004年以降減少が続いており、中小の報道機関では特派員の維持が難しくなっていることが窺える。
次に通信社について見ていく。通信社は共同通信と時事通信の2社で新聞全体の約半分もの特派員を派遣している。その推移を見ると、1994年まで増加したあと2004年まで減少がみられたが、これ以降は大きな変化は見られない。これを見ると、減少が見られた特派員全体の傾向とは少し違う形になっているようだ。
この点について考えるために、通信社特有の事情を考慮しなければならない。通信社の主な役割は他の報道機関にニュースを提供することであり、その性質上情報の発信よりも収集を優先的に行う必要がある。このため、通信社は一社あたりで新聞社よりも多くの特派員と支局を維持しているのだと考えられる。
通信社は、特に特派員の不足から独自の国際報道のための情報収集能力を失っている中小の報道機関にとって重要な情報源となっている。そのため、この先も大きく減少することは考えにくい。しかし、多くの報道機関が通信社の事実報道に依存してしまうと、報道の多様性の減少や、文脈を踏まえた詳細な国際報道の弱体化に繋がるおそれがある。
最後に放送局を見ていこう。放送局は全体としてみると1994年まで特派員数は増加したが、それ以降は大きな変化は見られない。なお、放送局の中で突出して特派員を派遣しているのは日本の公共放送であるNHKだが、これに注目すると放送局全体の傾向に反して増加を続け、2009年以降は放送局全体の4割以上の特派員を派遣していた。これは公共放送という点から、単純な事業の利益で営業しているわけではないことが関係していると思われる。
また、新聞社とは対照的に派遣人数に比べて派遣都市数が少ないという特徴があり、1つの都市に特派員が集中しやすい性質があるようだ。加えて他の放送局は、特に地方の局で顕著だが、複数の局が共同で特派員を派遣する形式が多い。これらは放送局が扱うメディア、つまりテレビという媒体特有の事情があると考えられる。放送局には映像を撮るための特殊機材とそれを扱う人材、場合によってはスタジオが必要であり、他の媒体よりも拠点の設置・維持にコストがかかると考えられる。このコストを下げるために、放送局は共同で特派員を派遣したり1つの拠点に多くの特派員を派遣したりするのかもしれない。
特派員の偏りと減少の裏には
これまで見てきたように、特派員の分布には大きな地域的偏りがあり、その数も減少傾向にある。その原因についても考えてみたい。
まず、特派員の地域的偏りについては報道機関の関心が強く影響していると考えられる。報道機関の関心の偏りは、自国中心主義の観点からの説明がわかりやすい。例えば、安全保障や観光、貿易などで日本と結びつきが強い国に対しては読者や視聴者が興味を持ちやすいため、日本の報道機関もそのような国に注目しやすい。あるいは、貧困率が高い地域では報道量が少なくなるという傾向にも見られるように、報道機関は貧困率が高い地域には関心を持ちにくいとも考えられる。このようにして形成される報道機関の偏った関心が特派員の分布にも反映されている可能性がある。
特派員の減少に関しては、従来の報道機関のビジネスモデルの崩壊が挙げられるだろう。ニュースをインターネットで見ることが当たり前となった今日、ニュース記事は報道機関のサイトよりもむしろ他のオンライン・プラットフォームで読まれることが多く、購読料や広告に頼る形のビジネスモデルは持続可能ではなくなっている。このように根本的な改革を迫られているメディアにとって、コストの大きい特派員を派遣し、維持するのは難しくなっているという現実がある。

多くの人が利用するようになったオンライン媒体のニュース(写真:Tero Vesalainen / Shutterstock)
さらに、デジタル化の進展により通信社や外国のメディアの情報が迅速に手に入るようになったため、これらを情報源として活用することで国際報道にかかるコストを大幅に下げることが可能になった。近年では報道機関がSNS上の投稿を情報源とすることもあり、国際報道の情報源は多様化が進んでいる。したがって、報道機関にとって相対的にコストのかかる特派員の必要性は低下しているのかもしれない。
特派員の減少と揺らぐ国際報道
では、特派員の減少はどのような影響をもたらすのだろうか? 先ほど確認したように、派遣都市数は現時点では大きな変化が見られないことから、特派員1人あたりの接する情報量が増大していると考えられる。拠点数が少ない地域では1人の特派員が数カ国、場合によっては数十カ国を担当することもあり、その結果取材の数、質が低下するおそれがある。
そして特派員が取材に十分な時間をかけることが難しくなれば、作業の効率化のために時間や労力のかかる取材を減らし、記者会見など受動的な情報収集に頼る傾向が強まる可能性がある。この場合、特派員の強みである現地取材に基づいた問題の深堀りや埋もれた情報の発掘が一層難しくなるだろう。また、政府発表などに頼るような報道の受動的な姿勢は、メディアに対するエリートの影響力を強めてしまうおそれがある。
また、なんとか取材を行うことができたとしてもフィクサーへの依存傾向が強まり、記事の客観性や透明性、あるいは特派員自身の独自性が損なわれる事も考えられる

2015年に韓国で行われた外国特派員向け軍事ガイドツアーの様子(写真:Republic of Korea / Flickr [CC BY-SA 2.0])
さらに、特派員の減少を補うものとして通信社や外国のメディア、SNSなどの情報源があることは先に述べたが、これらが国際報道の信頼性を低下させているという見方もできる。実際、二次情報の転載が連鎖的に行われることで不確かな情報や政府のプロパガンダが拡散されることも確認されている。
このように、特派員の減少は国際報道をより脆弱なものにしている。そして現場の視点を欠いた国際報道は、人々の世界への関心を弱めてしまうと考えられる。報道機関が読者や視聴者の関心を重視するとすれば、大きなコストがかかる特派員はさらに減ることになるだろう。この報道と関心の負のスパイラルは、日本の情報環境を加速度的に悪化させるおそれがある。
広がる世界から撤退する記者
これまで国際報道で偏りを抱えつつも中心的な役割を果たしてきた特派員だが、ビジネスモデルの崩壊と情報源の多様化により、今その役割は問い直されている。もし今後特派員が更に減少することになれば、日本の国際報道はますます取材力を失い、多くの報道機関は与えられる情報を受け取るばかりになってしまうかもしれない。
一方で、特派員の代替手段についても検討されている。例えば、特派員を派遣する代わりに現地のジャーナリストと契約して情報を得ている報道機関もある。彼らは現地通信員と呼ばれることもあり、実際に本国から派遣された特派員がいない状況で現地視点の情報を提供したこともある。現地通信員は特派員よりもコストがはるかに小さく、現地に深い理解があることが大きな利点として挙げられる。
ただし、フィクサーと同じく現地通信員は現地の情勢に関して利害関係や主観的意見を持っている可能性もある。このように考えると、報道機関の耳目として派遣されるいわば「よそ者」の特派員だからこそ拾える情報もあると言えるだろう。情報源が多様化する中で、特派員には受け身ではなく、現地取材に基づく積極的な問題の発掘がますます求められている。
※1 「フィクサー」という名称には議論がある。彼らは専門的な知識を持つジャーナリストであり実質的な取材活動に関わっているが、フィクサー(世話役)という名称はこれらの事情を見えにくくし、事務処理を行う裏方という印象を与えてしまうからだ。より適切な言葉を当てはめようと様々な代わりの名称が提唱されているが、まだ名称に一致が見られていないことから、本記事では混乱を避けるために「フィクサー」という名称を使用する。
※2 その一方で、フィクサーは報道機関に所属する特派員に比べて賃金面、安全面に加えて執筆者として名前が載らないなど名誉の面で不平等な立場に置かれていることが多い。また、フィクサーの多くは現地出身者あるため、現地の問題に主観的な見解を持っている可能性がある。その場合、特派員の報道姿勢がフィクサーの影響を受けるおそれもある。
※3 2025年11月時点で最新の年鑑は2025年版であり、ここに記載されていたデータは2024年のものであったため、2024年から5年ずつ遡っている。ただし、日本新聞年鑑1990年版は1990年のデータを使用していたため、このデータを使って分析した。
※4 なお、1人の特派員が複数の拠点を兼任する場合もある。この場合、2拠点の兼任の場合はそれぞれ0.5人、3拠点の場合はそれぞれ0.3人としてカウントした。
ライター・グラフィック:Seita Morimoto






















多くの機関が海外特派員を減らす一方で、日経のみ増えているというのは興味深いですね。
記事の内容は金融、経済系の話題が多くを占めているでしょうが、その背景にはその国や地域の政治・社会情勢が必ず影響を及ぼすため、政治・社会分野に関する取材にも注力がなされていると推測します。
GNVが国際報道の充実を提唱する根拠の1つでもある、世界情勢と日本での生活は深くつながっているという事実に、最も近づいている報道機関であるかもしれません。今後日経新聞の国際報道についての分析などあれば、ぜひ拝見したく思います。