ガイアナは資源の呪いから抜け出せるのか?

執筆者 | 2025年10月23日 | Global View, 南アメリカ, 政治, 環境, 経済・貧困, 農業・天然資源

2015年に油田が発見されたガイアナは、2020年に石油の輸出を開始したことで大きな経済的機会を得ている。しかし、これらの資源がもたらす利益と潜在的な悪影響はまだはっきりしていない110億バレル以上の海洋石油の発見と商業生産の開始により、この国は世界で最も急速に成長している経済の1つとしての地位を確立した。国内総生産(GDP)は急増している一方で、依然として人口のかなりの部分が貧困の中で暮らしており、経済成長がまだ広範な社会福祉に結びついていないことを示している。

ガイアナの石油生産と輸出は、政府歳入の増加、インフラ開発、地政学的重要性の高まりなど重要な機会をもたらすと同時に、石油への過度の依存のリスク、環境破壊、政治的および民族的緊張の高まり、石油収入を管理するための公平なシステムの開発の必要性など、多くの課題も生み出している。さらに、ベネズエラとの長年にわたる領土紛争は国際的な側面を増し、ガイアナの安定的かつ持続可能な成長を確保するための取り組みをさらに複雑にしている。

この記事では石油生産がガイアナの国内政治、民族関係、市民社会、環境、および地域的および国際的なつながりにどのような影響を与えるかを見ていく。そして、新しい産油国になるための機会と課題を評価し、持続可能で包括的な開発を促進するために資源の富をどのように管理できるかを探っていきたい。

ガイアナの議会議事堂(写真:Leonid Andronov / Shutterstock.com)

ガイアナの概要

ガイアナ協同共和国は81万人の人口を抱える南米の国であり、ベネズエラ、ブラジル、スリナムの間に位置している。この国はカリブ諸国と歴史的、文化的に強い結びつきがあり、カリブ共同体(CARICOM)の創設国の1つでもある。また、南米で唯一の英語圏の国としても知られている。

ガイアナの社会は、アフリカ系住民(アフロ・ガイアニーズ)、インド系住民(インド・ガイアニーズ)、複数の民族的背景を持つ人々、先住民のアメリンディアン、その他いくつかのグループで構成されており、民族的にも宗教的にも多様性に富んでいる。ガイアナの人口の約90%は、国土全体のわずか10%を占める低地の沿岸地域に居住しており、首都ジョージタウンをはじめとするほとんどの経済活動や農業生産はこの沿岸地帯に集中している。その立地の特性上気候変動と海面上昇の影響を受けやすく、これらにより沿岸部の洪水が悪化すれば人間の居住地と経済インフラの両方が大きな被害を受けることになる。

ガイアナの国土の80%は広大な熱帯雨林に覆われているが、肥沃な農地も利用されている。天然資源も豊富であり、近年まで金とボーキサイトが主要な鉱物資源であった。2015年に海洋石油が発見され、ここ数年で経済構造が根本的に変容した。推定される資源量は石油換算で約112億バレル、天然ガス約4,810億立方メートルだと考えられている。

2010年から2019年にかけて、GDP成長率は概ね1%から5%の範囲で推移し、2015年はほぼ停滞状態(0.1%)であった。しかし、石油生産が開始された2020年には、GDPは43.5%という驚異的な増加を記録した。その後も毎年驚異的なGDP成長を続け、2022年には63.3%、2024年には43.4%の成長を記録している。こうした成長率により、ガイアナは近年世界で最も急成長している経済を持つ国の1つとなっている。

一方でガイアナでは石油生産開始以降、貧困率に関するデータは収集されていないが、貧困水準は依然として比較的高い状態にあると見なされている。人口のかなりの割合がまともな生活水準に必要な最低所得を下回っており、経済成長がそのまま倫理的に持続可能な福祉につながっているわけではないことを示している。また、人口のかなりの部分が海外からの送金に大きく依存していると報告されている。

歴史と政治的な文脈

ガイアナの歴史的・政治的発展は、その現代社会と統治を理解する上で欠かせない要素だ。現在ガイアナとして知られる地域には、カリブ人、ワラオ人、アラワク人など様々な先住民が古くから居住していた。これらの人々は河川や海岸平野に沿って独自の文化的・言語的伝統を発展させつつ、主に漁労、狩猟、小規模農業を基盤とした社会を組織し、この地域の人口構造の初期形態を形成した。1580年頃、オランダ人がこの地域に進出し入植を開始した。彼らはプランテーション農業を導入し、後に奴隷制をもたらした。この時期、奴隷は主に西アフリカから砂糖きび農園での労働力として運ばれ、先住民は大部分が追放または同化させられた。

 ナポレオン戦争後の1814年、イギリス軍はオランダ植民地を掌握し、1831年にはベルビス、エセキボ、デメララの植民地が統合され、イギリス領ギアナとして統治された。1834年に奴隷制度は廃止され、イギリス植民地政府は、プランテーション経済を維持するために、主にインドから、またポルトガル領マデイラ諸島や中国からも契約労働者を呼び寄せた。この過程が多民族社会の形成に貢献することになった。

ガイアナでは、独立前からさまざまな民族グループ間の緊張を反映した政治運動や政党が形成され始めた。1966年にガイアナはイギリスから独立し、議会制民主主義を確立した。しかし独立後の数十年間、民族や階級に基づく緊張が国の政治的発展を形成した。また、選挙をめぐる争い、経済的課題、統治改革がガイアナの政治のあり方に影響を与えた。

モハメド・イルファーン・アリー大統領(写真:PMO Barbados / Wikimedia Commons [Public domain] )

独立以来、この政治情勢は主に二大政党、すなわち人民国民会議(PNC)と人民進歩党(PPP)によって支配されてきた。主にアフリカ系住民のコミュニティからの支持を受けたPNCは、フォーブス・バーナム氏のリーダーシップのもとで1966 年から 1992 年まで政権を握っていた。1992年、インド系の人々からの支持を基盤とするPPPが政権を掌握し、その後も多くの期間にわたって政権を維持している。この期間を通じて、選挙連合や政党支持の決定要因として民族的アイデンティティが重要な位置を占め続け、しばしばイデオロギーの違いを上回る影響力を持っていた。しかし、最近の動向は有権者の行動に変化が生じていることを示唆している。2025年の総選挙では、新たに結成された労働者独立ネットワーク(WIN)が最大の野党勢力として台頭し、ガイアナの有権者が従来の政党と民族の結びつきを超えた投票行動への意思を強めていることを示している。

石油の富と、政治的・地域的・社会的影響

ガイアナ沖で発見された石油資源は、2019年の商業生産開始とともに同国の経済・政治情勢を大きく変えた。総量110億バレルを超える石油の発見はガイアナの発展の伸び代を大幅に増やしたが、同時に重大な管理上の課題ももたらしている。確かに石油収入により同国は急速な経済成長を遂げ、これはGDPの上昇に反映されている。しかし、この急激な拡大は「オランダ病」を引き起こすリスクがある。これは、天然資源発見による国民所得の大幅かつ急速な増加が、農業、鉱業、サービス業などの他セクターの競争力を低下させ、経済の均衡を乱すことで石油関連以外の産業を弱体化させる現象である。弱体化したこれらのセクターでは生産性の低下、コストの上昇、国際的な需要の減少に直面する可能性があり、所得格差はさらに拡大する恐れがある。

石油収入を持続的に管理し、予算支出を規制するため、政府は将来の世代のための資源保護を目的とした国家資源基金(ガイアナ国家資源基金)を設立した。しかし、効果的な管理、透明性のある報告、腐敗の防止を確保することは依然として大きな課題である。また、石油セクターの急速な拡大は政府と石油関連企業の間で技術的知識と経験に差があり、契約の適切な実施や規制の執行が困難であることから、国家機関の限界も浮き彫りにしている。石油収入による一部の利益は、現金給付やインフラプロジェクトを通じて国民に還元されているが、特に農村部の多くの国民は、依然としてこの富の恩恵を十分に享受できていない

ガイアナの首都、ジョージタウン(写真:Matyas Rehak / Shutterstock.com)

さらに、同国は急速な経済成長を遂げている一方で、石油生産は外国企業によって行われており、これらの企業が石油生産から最も利益を得ていると考えられている。具体的にはガイアナ政府とこれらの石油会社との間の合意により、所得税を支払うことなく石油を採掘することが認められている。例えば、ガイアナの油田で最大の権益を持つ米国の石油大手エクソンモービルは、2024年にガイアナ政府に税金を一切支払わなかったと報じられている

そして石油資源による富は、既存の民族間・政治的緊張をさらに激化させた。石油資源の支配権は主要政党間の競争の種となり、どのコミュニティが投資や社会プログラムの恩恵を受けるかを左右している。この状況は分断を深化させ、特定の地域への優遇や排除の認識が不信感と社会的摩擦を助長しており、石油を経済的資産であると同時に政治的な問題を引き起こしやすい問題にしている。

外交政策と外国との問題

ガイアナの石油資源は国内にとどまらず、国際的な地政学的問題にも密接に関連しており、特にベネズエラとのエセキボ地域をめぐる長年の国境紛争が焦点となっている。ベネズエラはガイアナ領土の約3分の2を主張し、歴史的権利を主張するとともに、植民地時代の合意が不公平であったと論じている。そして係争海域付近での沖合石油発見は緊張を高めている。ベネズエラは時折外交的警告を発し、国境地域付近での軍事的な存在感を高めている。こうした動きは、ガイアナのエネルギー投資の安全性、石油生産の中断の可能性、そして同国の広範な経済安定性に対する懸念を高めている。この紛争は外国投資も複雑化させており、国際企業は係争海域で事業を行う際、地政学的リスクを考慮しなければならない。

カリブ共同体(CARICOM)は、ガイアナとベネズエラ間の緊張緩和において重要な役割を果たしてきた。例えば2021年2月には、ベネズエラ当局に拘束されていたガイアナの漁船と乗組員の解放を実現する支援を行った。同組織はまた、紛争を激化させる一方的な行動を非難しつつ、国際的な仕組みを通じた対話と法的解決を一貫して支持してきた。カリコムに加え、他の地域・国際的な関係主体も外交的関与を促し、事態の悪化を防ぐため状況を監視している。こうした取り組みは、安定の維持、ガイアナのエネルギー投資の保護、そして長年の国境紛争の平和的解決を促進することを目的としている。

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(ガイアナ領となっているエセキボ地域を含むベネズエラの地図を見つめるベネズエラの政治家)

しかしガイアナの石油をめぐる地政学的状況は、アメリカと主要な多国籍石油企業の関与によって複雑化している。米国のガイアナの領有権主張への支持は、ガイアナの主権防衛と石油資源管理能力を強化する一方で、地域競争の要素も加えている。ガイアナの石油は米国企業、特にエクソンモービルとシェブロンに経済的利益をもたらすが、これを支える地域における米軍の存在はベネズエラへの圧力を増大させている。2025年、米国は地域での軍事活動を強化し、ベネズエラ近海の公海上で船舶への攻撃を実施した。米国政府はまた、中央情報局(CIA)によるベネズエラでの秘密作戦を公に承認したと発表しており、同国政府の転覆を計画している可能性を示唆している。

石油管理と環境へのリスク

環境保護もガイアナにとっての懸念事項の1つである。ガイアナにおける海洋掘削活動は、特に同国がアマゾン流域に近接していることから、いくつかの環境リスクをもたらす。これらのリスクには、海洋生物やサンゴ礁に被害を与えうる石油流出、沿岸漁業の汚染、水生生物の回遊パターンの混乱、隣接する森林生態系に影響を与える森林破壊や汚染などが含まれる。海上交通量と産業活動の増加も生物多様性を脅かし、生息地の環境破壊を加速させる可能性がある。

市民社会組織は、生態系への損害を防ぐため、より強力な環境監視を提唱し、厳格な規制、定期的な環境影響評価、石油事業の監視を求めている。これらの団体は、透明性のある報告と環境ガバナンスへの市民参加の必要性を強調し、石油収入の活用が持続可能な発展という目的に沿うことを確保するよう求めている。他の団体は、化石燃料の採掘と消費による温室効果ガス排出量増加の世界的な影響を考慮し、ガイアナにおける石油生産の追求そのものを見直すよう訴えている

ガイアナ政府は、炭素排出量削減政策の採用、海洋掘削の厳格化、パリ協定などの国際枠組みへの参加を含む環境保護対策を公約している。石油開発と環境保全の効果的な両立は依然として核心的な課題であり、経済成長を追求しながら生態系を保護するためには、政府機関、産業界、市民社会が連携して取り組みを進めることが必要である。

デメレラ川、ジョージタウン付近(写真:Leonid Andronov / Shutterstock.com)

持続可能な発展に向けて

ガイアナが石油生産国として台頭したことは、大きな経済的機会をもたらす一方で、構造的・社会的・環境的課題も提示している。海洋油田はガイアナのGDPと経済成長の見通しを急速に押し上げたが、こうした利益は社会のあらゆる層に公平な福祉として還元されているわけではない。

石油資源の管理には、経済成長と環境保護、強固なガバナンス、社会的包摂のバランスが求められる。オランダ病、環境破壊、地域緊張の高まりなどのリスクは、慎重な監視の必要性を浮き彫りにしている。石油の富が持続可能で包摂的な開発を支えるためには、市民社会の関与や国家資源基金のような仕組みが不可欠である。

結局のところ、ガイアナの事例は資源の富だけでは繁栄が保証されないことを示している。長期的な成功は、経済的・環境的・社会的配慮を統合した持続可能性を中心とするアプローチにかかっており、その実現によって同国の石油資源は国民と生態系の双方に利益をもたらすことができるだろう。

 

ライター:Esma Akcicek

グラフィック:A. Ishida

 

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