マングローブ林は1952年から2002年にかけて約3分の1が失われたとされ、世界的な問題として認識されるようになった。地球の環境、人間の経済や社会においても大きな影響を持ち、数十年にわたり国際的な場で取り上げられ、保全活動が続けられてきた。そのような中で近年、一部の地域でマングローブ林が拡大し総面積の減少速度は鈍化しているという報告も出てきている。しかし、その内訳や保全活動にはまだ課題が残る。本記事では改めて、マングローブが有する価値、保全における実際の植林の現場、保全における課題について総括する。

マングローブの苗、カンボジア(写真:Yuka Chijimatsu)
目次
マングローブとは
マングローブとは、熱帯・亜熱帯の海と陸の境界で、満潮時に海水が入り込む汽水域に生育する木本植物の総称である。マングローブ植物は世界で50~80種存在するとされ、いずれも低酸素・高塩分濃度環境での環境に適応している。アーチ状の根は深く低酸素の泥に刺さり軟質の堆積物の中で樹体を安定させるとともに、地上に露出している部分で酸素を取り込んでいる。種によっては地下の根から根系が垂直に地上に伸び上がることで、低酸素環境での呼吸を可能にしている。また、高塩分濃度環境で生育できる理由として、耐塩性機構を有しており、例えば根が水分を吸収する際に最大90%の塩を濾過したり、吸収後に根や葉から余分な塩分を排出したり、古い葉に塩分を隔離したりしている。これにより、マングローブは他の樹木が生存できない過酷な塩性湿地に森林を形成することができる。
分布は南北緯おおむね25〜30度の範囲、120カ国以上の熱帯・亜熱帯沿岸に広がり、海岸線の約15%を占める。マングローブの衛星観測データベースである「世界マングローブウォッチ(GMW)」によれば、2025年時点の世界のマングローブ面積は約1473万ヘクタールとされる。2025年において、地域別ではアジアが最大で全体の約4割を占め、次いで南北アメリカ、アフリカ、オセアニアと続く。国別ではインドネシア一国で世界のマングローブの約2割を占め、インドネシア、ブラジル、オーストラリア、ナイジェリア、メキシコの上位5カ国だけで世界全体の約47%、マレーシア、ミャンマー、パプアニューギニア、インド、バングラディシュを加えた上位10カ国で約64%を占めるという偏った分布が特徴である。

巨大なマングローブ、コスタリカ(写真:edward stojakovic / Flickr [CC BY 2.0]
資源としてのマングローブの生態系サービス
マングローブ林は、木材や観光資源、豊かな漁業環境の創出等人間の直接的な経済資源となるだけではなく、次章で述べる目には見えにくい、気候調節・防災としての機能まで、極めて多面的な「生態系サービス」を沿岸の人々に提供している。
木材利用としては、マングローブの木材は塩分やシロアリへの耐性が高く、建材や伝統的な屋根材、燃料として、樹皮はタンニン抽出や、茶の材料としても古くから利用されてきた。観光資源としてのマングローブ林は、ボートツアーや野鳥観察、カヤック、スノーケリングなどのエコツーリズムの舞台としても発展しており、特にインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムなど東南アジア各国で観光開発が進められている。
漁業への恩恵も大きい。2020年の研究では世界で推定410万人のマングローブ関連の小規模漁師が存在すると推定されており、世界の商業漁獲対象種の約3割がマングローブに依存しているとされている。
機能としてのマングローブの生態系サービス
前章で述べた豊かな漁業環境は、マングローブ林が育む生物多様性を基盤としている。加えて、マングローブは気候調節や防災といった、より広い範囲に及ぶ目に見えにくい機能も担っている。推計ではマングローブは世界全体で年間700億匹を超える幼魚・幼生の甲殻類を育んでいる。というのも、マングローブの根は水面下でホヤ類・海綿動物・藻類・二枚貝などの付着生物に覆われ、根の間の空間は捕食圧が低く餌も豊富なため、エビ・カニ・魚類にとって隠れ家と餌場を兼ねる理想的な生息地となっているのだ。また、樹冠は鳥類・昆虫・哺乳類・爬虫類の生息地として機能し、落葉由来のデトリタス(微細な有機物の粒子)やプランクトン、藻類がマングローブ特有の食物網を支えている。根系は堆積物・汚染物質を捕捉し、沖合の珊瑚礁・海草藻場の水質を保つ役割も担う。

水面下から見たマングローブの根(写真:Phil’s 1stPix / Flickr [CC BY-NC-SA 2.0]
注目されるのは漁業への寄与だけではない。マングローブ林の面積は地球の森林総面積の約0.4%にすぎないが、その「炭素貯留能力」は非常に大きく、陸上の熱帯林と比べて単位面積あたり最大10倍の炭素を土壌中に貯留できる。世界マングローブ同盟(GMA)の試算では、2022年時点で現存するマングローブは合計で210億トン超の二酸化炭素に相当する炭素を貯蔵しているとされている。陸上の植物は落葉するとその炭素を蓄えた葉が比較的速やかに分解され、主に二酸化炭素として大気中に戻るのに対し、マングローブではこの炭素を蓄えた落葉が泥中に沈んで数百年単位でゆっくりと分解されることで、この高い炭素貯留能力(※1)を支えている。
沿岸保護による防災機能も近年特に大きく注目されている。マングローブは津波や高潮のエネルギーを減衰させる天然の防波堤として機能する。これは、密集した根や枝葉が水流との摩擦によって森林に入る水流を遅くする他、樹幹が物理的な障壁となって衝撃を吸収し、漂流物を食い止めることによる。マングローブ林の幅100メートルあたり、波の高さは13~66%削減されるとされている。
世界全体でマングローブは年間650億米ドル以上の洪水被害を回避しており、失われれば年間1500万人が新たに浸水被害を受けると推計されている。2024年に世界銀行が発表した報告書によれば2020年時点でマングローブによる洪水低減効果の現在価値は総額8550億米ドル (割引率4%、100年資産として算定)と算出されている。この防災機能に由来するマングローブ林の価値は近年、マングローブに保護される地域での人口・資産価値が増加する中高まっている。
他にも、マングローブは海岸線後退の原因である海岸侵食の抑制、河川からの淡水供給の維持、農地の塩害防止等にも寄与する。このように、マングローブ林の喪失は漁業・防災・生計といった複数の側面に影響を及ぼすのである。

マングローブ林、インドネシア(写真:Blue Forests / Flickr [CC BY-NC 2.0])
マングローブ林の喪失
初めに述べたように、マングローブ林は1952年から2002年にかけて約3分の1が失われたとされる。その後もマングローブ林は喪失され続け、GMWによれば、1985年以降マングローブ面積が最大であった1996年と比較すると、2025年時点で約321万ヘクタールの「既存」生育地域での縮小が見られている。1996年から2020年までの世界全体の正味マングローブ喪失の47% を東南アジアが占めており、1985年から2025年にかけて特にインドネシアとミャンマーだけで正味面積が約35万ヘクタール減少している。国際自然保護連合(IUCN)が2024年に発表した、マングローブ生態系のグローバルレッドリスト(※2)によれば、マングローブ生態系単位の50% が「絶滅危惧」に当てはまっており、今後も減少の危機は否定できない。
喪失の原因の一つに気候変動による海面上昇が挙げられる。海面上昇により根が冠水すればマングローブは十分に呼吸できず生育が阻害され、背の低い幼苗ではより被害が大きくなる。IUCNは、海面上昇によって2024年以降の50年間で世界のマングローブ面積の25%が水没すると予測している。サイクロン・台風・ハリケーン、干ばつ、エルニーニョ等の激甚化にも敏感であり、例として2017年にオーストラリア北部の全長1000kmにわたるマングローブは、エルニーニョが一時的な海面低下と顕著な降水量減少をもたらしたことにより、大規模な枯死が生じた。2000年から2020年にかけてのマングローブ林総面積減少の26% はこの自然的退縮とされている。
人為的な要因による減少も顕著である。2000年から2016年の衛星画像を用いた研究では、この期間の世界的なマングローブ喪失の62%が土地利用転換(主に水産養殖・農業)によるものと推定されており、そのうち最大8割が東南アジアの6カ国に集中していたことが示されている。都市化に伴う沿岸開発は、直接的にマングローブが除去される以外にも、海面上昇に伴うマングローブの内陸部の高い標高への移動を妨げる他、川からの水・堆積物の供給量を変化させたり、汚染を招くことが指摘されている。また、薪炭材・建材のための過剰伐採は集落近くの縁辺部で圧力が強く、種組成の変化や林の分断を招いている。淡水の広範な農業利用により、マングローブ生育地への淡水や堆積物の供給量が減り、マングローブの生育が妨げられている例も見られる。

マングローブの伐採が進むバングラデシュ(写真:Ayman Nakib Badhan / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
マングローブ林の回復?
既存マングローブ林の喪失が見られる一方で、1996年から2025年にかけて正味面積の縮小は約1.2%にとどまっている。正味面積というのは、既存生育地域での減少を新たな地域における拡大で相殺した結果の面積である。この正味面積の減少量は近年鈍化傾向にある。つまり、一部の地域でマングローブ林が拡大している。最も縮小が進んだ2014年と比べ、2015年以降は大規模な河川・河口・三角州周辺を中心に徐々に拡大が進み、2025年時点で2014年比約21万ヘクタールの正味増加となった。正味増加を牽引した上位2カ国はオーストラリアとインドで、両国だけで1985年以降約26万ヘクタール増えている。
これは、海面上昇下でもより高い海岸層を占有できるマングローブが生育できる地域や、海面上昇に土砂堆積が追いつくことで海面上昇の影響をあまり受けていない地域が存在することに加え、熱帯・亜熱帯で生育するマングローブの分布が、新たに高緯度の温帯域に拡大していることに由来する。この拡大は地球温暖化で海陸ともに温度が上昇していることが原因と考えられる。また、放棄された養殖池にマングローブが再生している例もみられる。2000年から2020年にかけての拡大の内82%はこれら自然拡大とされており、残りが人間による植林等の修復活動によるものである。
新規地域での拡大により正味面積の減少ペースは鈍化しているが、相殺前の縮小面積そのものが減っているわけではない。既存生育地の縮小が止まらない限り、そこに支えられていた生態系や生活は失われ続ける。例えば、カンボジア・カンポット州の沿岸地域では、違法伐採と政府主導による大規模な港湾開発の結果、広大なマングローブ林が失われた。その結果、漁業資源は著しく枯渇し、主要産業を失った住民は過酷な生活苦に直面した。近隣国への出稼ぎを余儀なくされ、子どもたちは学校にも通えなくなった。
また、若いマングローブ林は、成熟した生態系と比較して生態的利益を提供する能力が低いことにも注意が必要である。炭素貯留の面でも、1996〜2016年の研究では、伐採により実際に大気中へ放出された炭素量が2億3,260万トンと算出される一方、マングローブの拡大によって実際に吸収された量は7,420万トンにとどまり、排出は吸収の約3倍に上ったと報告されている。ただし2014年以降のマングローブ林面積の拡大傾向を踏まえれば、この炭素貯留量の純減少は近年緩和されていると可能性がある。もっとも、新たに拡大した森林は成熟した森林に比べ炭素密度がまだ低く、面積の回復ペースほど炭素の回復は速くないと考えられるため、これはあくまで筆者による推測にとどまる。

マングローブの苗、キューバ(写真:UNDP Climate / Flickr [CC BY-NC 4.0])
マングローブ林に関する国際的な動き
マングローブを守る国際的な動きには、大きく3種類ある。①「守るべき湿地」として登録・保護する条約、②破壊を止めた分だけ経済的な見返りがある仕組み、③保全活動に直接資金を出す仕組み、である。
まず1つ目の、守るべき湿地として登録・保護する仕組みとして「ラムサール条約」がある。1971年にイランのラムサールで採択された「湿地に関する条約(ラムサール条約)」は、重要な湿地を登録して保全する国際的な枠組みであり、マングローブなどの沿岸湿地もこの対象に含まれる。2018年の締約国会議では、マングローブが持つ炭素貯留の価値をこの条約の枠組みの中で位置づける決議も採択された。また、生物多様性の観点からの取り決めもある。2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」は、2030年までに陸と海の30%を保護区にするという「30×30目標」を掲げており、マングローブを含む沿岸域もこの対象になる。
2つ目の、守れば経済的な見返りがある仕組みとしては「REDD+」と「ブルーカーボン・クレジット」がある。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のもとで2010年に正式に採択された「REDD+(※3)」という制度は、もともと熱帯林の伐採を止めた国・団体に資金を提供する仕組みだったが、近年はマングローブなどの沿岸湿地も対象に広がっている。これと連動する形で、企業などが自主的に温室効果ガス排出量を相殺するために購入する「炭素クレジット」の市場でも、マングローブの保全・再生によって生まれた「ブルーカーボン・クレジット」(※4)が売買されている。ただし、この市場全体の規模はまだ小さく、自主的炭素市場全体のわずか1%程度にとどまっている。
第3章で述べたように、マングローブが生み出す洪水防御効果だけで年間8550億米ドルの経済価値があるとされる一方、2014年から2025年までの11年間で発行されたブルーカーボン・クレジットは合計でも約700万トンで、1トン27米ドル前後で取引されており、金額に換算すれば2億米ドル(出典の数値から算出)にも満たない規模であり、真価に見合っていない。また、炭素貯留量の検証プロセスへの労働集約的な負担が供給を制限しているとの指摘もあり、クレジットの多くが低・中所得国のプロジェクトから米欧の買い手へ、実質価値を下回る価格で移転されているという対価配分の不公平も指摘されている。

REDD関連の国際会議、ノルウェー(2016年)(写真:Norad / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
3つ目の、直接、保全活動に資金を出す仕組みとしては、二国間援助機関からの個別プロジェクトへの資金提供や、国際連合体としての「マングローブ・ブレイクスルー」がある。後者は、2022年の国連気候変動会議(COP27)を機に立ち上がった枠組みで、2030年までに合計1500万ヘクタールのマングローブを保全・再生し、そのために累計40億米ドルの資金を民間・公共・慈善資本から動員するという目標を掲げている(※5)。2025年11月時点で、世界のマングローブ面積のおよそ4割を有する44カ国政府がこの枠組みを支持しており、ジャマイカやパプアニューギニア、ブラジル、パキスタンなど複数国がパリ協定(※6)の下での自国が決定する国別貢献(NDC)にマングローブ関連の数値目標を組み込み始めている。
マングローブ林に関する資金の流れにおける課題
政府が拠出する資金は、外交上の約束や政策判断によって動くものであり、必ずしも「儲かるかどうか」で決まるわけではない。しかし、民間投資家からの資金は事情が異なり、利益の有無に大きく左右される。マングローブ再生は、植林や工事といった初期投資に対し、便益や炭素クレジット収入が積み上がるまでに20年以上の時間軸を要するとされ 、短期的な回収を求める通常の投資基準とは相容れにくい。加えて、植林した森が将来枯死・消失する「パーマネンス・リスク」を抱えるため、投資対象として慎重に評価されがちであり、これがブルーカーボン・クレジットの価格の低さや市場の小ささにつながっていると指摘されている。
投資家側の評価が不足がちな領域がある一方で、逆に過大評価が生じている領域もある。企業の非財務的な健全性を測る評価指標である環境・社会・ガバナンス(ESG)格付けは、2008年の金融危機以前の状況と似た問題を抱えていると指摘されている。当時、格付け機関は個々の融資の実態データを十分に検証せず、根本的に不健全な証券にAAAという最高評価を与えていた。今日のESG格付けにも同様の構造が見られる。海洋生態系を損ねながら利益を上げる企業であっても、具体的な対応計画がなくとも「リスクが存在することは認識している」と述べるだけで、一定の高いスコアを得られる傾向があるためだ。既存の会計制度も海洋やマングローブを「価値が目減りしていく資産」として扱っていない。こうした評価・会計の両面での空白を埋めようとする動きも出てきている。例えば、自然関連財務情報開示タスクフォース( TNFD)は、企業に自然への依存・影響を開示させる新しい情報開示の枠組みを策定しており、重要な一歩とされる。ただし現状はまだ、企業の自主的な自己申告に依存する段階にとどまっている。
こうして見ると、マングローブを巡る資金の流れには、2つの異なるねじれがある。再生プロジェクトのような前向きな取り組みは、時間軸の長さやリスクの高さゆえに投資家から厳しく評価され、資金を集めにくい。一方、海洋生態系を損ねながら利益を上げる企業は、格付けや会計制度の目が届きにくいために、資金が引き上げられることなく居座り続けてしまう。この評価基準そのものの歪みをどう正すかに、国際的な枠組みが掲げる目標の達成もかかっている。

グリーン投資に関する会議、ルワンダ(写真:Ministry of Environment – Rwanda / Flickr [CC BY-ND 2.0])
現地での保全活動
国際的な枠組みや制度が動く中、実際に保全をしている現地の状況は公の場で取り上げられることは少ない。2020年時点では、縮小したマングローブ林の内8183平方kmが復元可能とみなされており、各地で縮小を食い止めようとする活動が続く。しかし、東南アジアやラテンアメリカの一部において復元プロジェクトの約70%が健全な森林の確立に苦労していることが示唆されるなど、マングローブの植林においては、さまざまな課題がある。具体的には、幼苗の低い定着率、水捌け調整の失敗、資金・技術的助言・長期的な支援体制の不足、植林後も保全を続けるインセンティブの不足、関心の低下、継続的なモニタリングの不足、周辺の農地開発・インフラ整備からの継続的な圧力等が挙げられる。また、エビ養殖も多くの低所得国にとって重要な外貨獲得源であり、保全と地域経済の両立は容易ではないことも指摘されている(※7)。
ここで、より具体的に、カンボジアでNGO(※8)が実施するマングローブの植林プロジェクトに参加した身として、現場の物理的な負担を説明しよう。マングローブの植林は、種子の採取から苗の育成、干潟での植え付けまで、多くの工程を人手に頼らざるを得ない労働集約的な作業である。既にある程度繁茂している場所では種子の自然落下による拡大が見込めるが、そうでない場所では、樹上の種子を一つひとつ手作業で採取し、泥のポットで苗に育てたうえで、満潮時には胸元まで浸かるような泥地に一本ずつ植え付けていく必要がある。足元は深い泥に沈み込み、波や潮流で苗が流されないよう、植え付けにも一つひとつ手間がかかる。
こうした物理的な負担に加え、現地では「他産業との摩擦や規制の限界」という構造的な課題にも直面する。木炭の原料などを目的とした違法伐採が今なお存在する一方、コミュニティが管理できる区域には管轄上の限界があり、区域外での伐採を取り締まる権限がない。伐採が進めば自らの漁業資源にも悪影響が及ぶと分かっていながら手出しできない現実は、住民主体の保全活動が抱える限界を示している。それでもカンボジア・カンポット州では、こうした地道な活動の積み重ねにより生態系と漁獲量が回復し、住民の帰還やエコツーリズムによる新たな収入源の創出にもつながっている。
保全活動では、女性が果たす役割の大きさも注目されている。IUCNの2017年報告は、沿岸コミュニティで貝類採取やマングローブ木材の利用といった、無償・非公式になりがちな資源利用の担い手が女性であることが多い一方、実際の保全計画や資源管理の意思決定の場からは女性が排除されがちだという構造的なギャップを指摘する。
この点を踏まえ、資源利用の当事者である女性を意思決定にも組み込むことで、保全の実効性を高めようとする取り組みが各地で進んでいる。セネガルの「ナチュレル(Natur’ELLES)」プロジェクトは、女性団体と共同で植える樹種の組み合わせを設計した結果、保護区管理委員会における女性の代表率を3倍に高め、190ヘクタール超のマングローブ再生を実現した。ケニアの「ミココパモジャ」では、女性が管理するエコツーリズムの収益が地域の学校や医療に還元される仕組みが、保全活動を続けるための地域の動機づけにもなっている。

マングローブの植林、インドネシア(写真:Irwandi wancaleu / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
まとめ
マングローブは漁業・防災・気候変動対策など多大な価値をもたらす一方、人為的な沿岸開発や激甚化する気候変動によって今なお既存の豊かな森林が失われ続けている。近年、地球温暖化に伴う高緯度化などの「自然拡大」や、植林活動によって正味の減少ペースは鈍化し、一部で面積の増加が見られ、回復への希望も見出せる。しかし、「正味面積の拡大」という数字だけを見て悠長に構えている余裕はない。 縮小地域では既存の生態系サービスやそれを元に成り立っている生活が「失われている」のであり、拡大地域でも未熟林の機能が低いように、何百年もかけて形成された原生林の消失による生物多様性の喪失や大量の炭素放出は、自然な自生だけで即座に補えるものではないからだ。
重要なのは、人為的な破壊を止め、既存の森林と生態系を守り育てることである。そのために、マングローブの価値を正当に評価し、生態系破壊に甘く保全リスクを過大評価する市場や資金の構造的歪みを正し、国際的な制度や資金の潮流を整えること、そして現場の長期的な保全・植林活動に対し、マングローブ保全を侵害する圧力を上回る正当な対価と権限、支援を届けていくことが求められている。
※1 なお、湿地の嫌気分解は一般にメタン生成を伴うが、マングローブでは海水由来の硫酸イオンが豊富なため、硫酸還元菌がメタン生成菌より優勢となり、淡水湿地に比べてメタン排出は相対的に抑えられている。そのため、優良な炭素貯留能を持つと言える。
※2 国際自然保護連合(IUCN)の「(生態系レッドリスト(RLE)」は、生態系に対するリスクを評価するための世界共通の基準である。これにより、(空間的・機能的の両面における)共通の兆候を特定し、ある生態系がどの程度のリスクに直面しているかを把握することができる。
※3 「REDD」は森林減少・劣化に由来する排出の削減、「+」は森林の持続可能な経営、森林炭素蓄積の保全・強化という追加的な活動を意味する。
※4 2009年、国連環境計画(UNEP)を中心とする報告書により、海洋・沿岸生態系が貯留する炭素を指す「ブルーカーボン」と言う概念が導入された。以降の研究整理により、数ある海洋・沿岸生態系の中でも、マングローブは塩性湿地・海草藻場とともに、湿地・森林の定義に合致し、REDD+や炭素クレジット市場といった既存の政策・金融メカニズムに組み込むことができ、かつ気候変動の緩和と適応の双方に貢献できるという条件を満たす、「実行可能なブルーカーボン生態系」としての位置づけを確立している。認証団体ヴェラが発行するクレジットが主流で、パキスタンの「デルタブルーカーボン」やケニアの「ミココパモジャ」といった実際のプロジェクトがこの仕組みで資金を得ている。
※5 ①喪失を食い止める、②1996年以降に失われた面積の半分を再生する、③保護面積を倍増する、④既存マングローブの持続的な資金基盤を確保する、という4本柱のもとで目標が立てられている。
※6 パリ協定とは気候変動対策と適応のためにすべての国が初めて一堂に会した、法的拘束力のある国際条約である。2015年12月12日、フランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において195の締約国によって採択され、2016年11月4日に発効した。(2026年1月にアメリカが離脱し、7月現在、パリ協定の締約国は194か国・地域)。最重要目標は、「世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く保つ」とともに、「気温上昇を産業革命前より1.5℃に抑える努力を追求すること」である。しかし国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、1.5℃の閾値を超えるとより頻繁で深刻な日照り、熱波、大雨など、はるかに甚大な気候変動の影響が引き起こされるリスクがあると指摘して以降、世界は今世紀末までに地球温暖化を1.5℃に抑える必要性を強く強調している。地球温暖化を1.5℃に抑えるには、温室効果ガスの排出量を遅くとも2025年までピークに達させ、減少へと転じさせるとともに、2030年までに43%削減する必要がある。
※7 近年マングローブを伐採せずに、あるいは再生させながら養殖と組み合わせるシルボフィッシャリーが注目されており、これによって泥蟹などマングローブ林面積と養殖業を両立させている例もある。しかし養殖業で主要なエビ農場は閉鎖されたシステムであり、開放空間では肥料になるマングローブの落葉が閉鎖空間にあると腐るという指摘もあり、広範な養殖業への解決策にはまだ至っていない。
※8 2007年に現地の漁民らが主体となり「トラペアン・サンケ漁業コミュニティ(Trapaing Sangke Fishing Community: TFC)」を結成。彼らは環境省とも連携を図りながら保全の道を模索し、2012年からは国際ボランティアNGO「カンボジア・ユース・アクション(CYA)」や日本の「NICE」といった外部団体との協働を開始した。現在までに28ヘクタールに及ぶマングローブ林の再生に成功している。
ライター:Kanako Kinoshita, Yuka Chijimatsu





















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