化石燃料からの転換で労働者を守る、公正な移行のあり方

by | 2026年10月22日 | Global View, アジア, テクノロジー, 世界, 環境, 経済・貧困, 農業・天然資源

(この記事はもともとメコン・アイに掲載されたものです)

労働組合員と気候変動活動家たちは、労働者と地域社会が取り残されないようにするため、「公正な移行メカニズム(Just Transition Mechanism: JTM)」として知られる新たな枠組みをトルコで開催されるCOP31で採択するよう求めている。

オートバイ、タイ(写真:shankar s. / Flickr [CC BY 2.0])

移行

9月、バンコクの政府庁舎前で、ガソリン車やディーゼル車向け部品を供給するタイの従来型自動車部品産業の労働者約500人が、炎天下に立ち続けた。

ホンダ、トヨタ、三菱など日本の自動車メーカーが所有する工場も多い中、各工場の労働者を代表する組合旗を掲げた彼らは、タイ政府が電気自動車(EV)生産を積極的に推進していることに伴う雇用喪失のリスクに懸念を抱き、政府による支援を求めた。

「この産業は、私が人生をかけて築いてきたものです。しかし今、受注は減り、それに続いて労働時間の短縮、ボーナスの減額、そして解雇が起きています」と語るのは、51歳のタワット・パクディーサコンウォンさん。職業学校を卒業してすぐにこの業界に入り、30年前からホンダ工場で働く組合員だ。

「私たちはEVへの移行に反対しているわけではありません。皆で一緒に乗り越えられる『公正な移行』を求めているのです。」

タイは長年「アジアのデトロイト」と呼ばれ、東南アジア最大の自動車生産拠点であり、内燃機関車を生産する日本メーカーが伝統的に主導してきた。産業は1980年代後半に大規模な生産拠点移転の波を経験した。

しかし、パリ協定の下での公約を達成し、2050年までにネットゼロ排出を実現するという圧力を受けて、タイは2020年代初頭からEV産業を推進し始め、2030年までに自動車生産の30%と新車登録の50%をEVとすることを目標に掲げている。

政府の補助金や税制優遇措置を通じて、化石燃料車からEVへのシフトは中国のEVメーカーをタイへの生産拠点移転へと引きつける一方、中国からのEV輸入も増加させた。

電気自動車の充電(写真:Ivan Radic / Wikimedia Commons [CC BY 2.0])

この移行により、従来の自動車メーカーや部品サプライヤーは競争に苦しむようになり、自動車産業で働く85万人以上の労働者の雇用の安全性に対する懸念が高まっている。

組合員たちは、タイ政府は中国製EVに過剰な補助金を出す一方で、国内の雇用を守り、国産部材の調達を促進するための規制を十分に施行していないと主張する。

「事業を継続させる責任が使用者側にあるのと同じように、自動車部品産業に公正な貿易ルールを整備する責任が政府にもあります」とタワットさんは付け加えた。

タイの自動車部品労働者の要求は、「公正な移行メカニズム」を求める世界的な動きと呼応している。これは、低炭素経済への移行を包摂的なものとし、その過程の中心に労働者、地域社会、脆弱な人々を据えることを目的とした枠組みだ。

11月9~20日にトルコ・アンタルヤで開催されるCOP31気候サミットは、この枠組みをめぐる交渉の主要な舞台になるとみられている。世界の労働組合員や気候活動家たちは、ネットゼロへの道筋を公正かつ包摂的で「誰一人取り残さない」ものとするため、このメカニズムの採択を各国に強く求めている。

公正な移行メカニズムとは何か?

公正な移行メカニズム(JTM)は、「ベレン–アンタルヤ・メカニズム」とも呼ばれ、化石燃料の世界的な段階的廃止が、労働者の生計、先住民族の土地、地域社会、新興経済国を壊滅させることなく、経済の持続可能性も維持できるようにするための国連の枠組みである。

このメカニズムは、ブラジル・ベレンで開催されたCOP30で初めて策定され、2026年6月のボン気候会議でさらに議論が深められた。JTMの草案テキストは、労働者の権利と地域社会の生計を守るためのグローバルなルールを確立することを目指している。

ブラジル国民議会のCOP30イルミネーション(写真:Agência Senado / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])

このメカニズムは、2018年以降、公正な移行政策に進展が見られなかったことへの気候交渉担当者らによる長年の問題提起の結果生まれたものだ。これまで公正な移行は各国の自主的かつ断片的な取り組みにとどまり、進捗の追跡も限定的だった。

2015年のパリ協定は「公正な移行」という概念には触れているものの、それを実施するための具体的なメカニズムは設けていない。

この草案テキストは、トルコで開催されるCOP31でさらに議論される予定だ。市民社会団体は、JTMが国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下での新たな国際気候協力の枠組みとして採択されることを期待している。UNFCCCは、温室効果ガス濃度を安定させ、人間活動が地球の気候システムを危険な形でかく乱するのを防ぐため、1992年に採択された国際条約である。

JTMは実際には何を意味するのか?

例えば交通部門では、化石燃料車からEVへの移行には、急激な雇用喪失を和らげるため、労働者の再訓練や職種転換を支援する取り組みが必要になる。

同様のアプローチは、自動車サプライチェーン全体にも及ぶべきであり、EV用電池の生産に使われる素材を供給する「クリティカルミネラル(重要鉱物)」セクターにおける人権尊重も含まれる。

報告書では、ミャンマーのような紛争影響地域で深刻な人権侵害が記録されている。あるレアアース採掘企業は、囚人や人身取引の被害者を強制労働に使っていたとされる。

公正な移行のもう一つの重要な焦点は、熱波や洪水などの極端な気象条件にさらされる労働者の安全な労働環境を確保するなど、労働安全衛生である。

いくつかの報告書では、極端な暑さが労働者に与える影響が強調されている。例えば3月には、カンボジアのハンドバッグ工場で、換気の悪い環境と不十分な暑さ対策の中で働いていた70人以上の労働者が次々と倒れた。

工場から帰宅する労働者たち(写真:Better Work Programme / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

「JTMは、労働者が労働組合を組織し対話する権利を保障しつつ、気候変動対策の実施を支えることにもつながります」と語るのは、世界最大の国際労働組合連合である国際労働組合総連合(ITUC)の気候政策担当官、バート・デ・ウェル氏だ。

「労働組合には、気候交渉のテーブルにつく場が必要です。」

JTMは、知識の共有、技術支援、能力構築を通じて各国が協力する手助けをする。しかし、その制度設計、すなわちどのように機能するのか、UNFCCC加盟国の財政的義務をどうするのかといった点については、さらなる交渉が必要となる。

JTMは気候対策を遅らせるのか?

市民社会の観点から見ると、JTMは労働者や影響を受ける地域社会を取り残さないよう配慮しつつ、関係者が協力して気候対策に取り組むことを促すことで、世界を1.5℃目標の達成に近づける可能性がある。

過去50年間、石炭産業に依存してきたコミュニティを想像してみよう。石炭を段階的に廃止すれば、炭鉱や石炭火力発電所を運営する企業だけでなく、その労働者や彼らの消費に依存してきた周辺のレストランや商店などの事業にも影響が及ぶ。

各国が2050年までに石炭を廃止しようとする中で、企業は再生可能エネルギーへの転換を迫られ、一方で労働者は職と生計を失うことを懸念している。

こうした懸念に対処する計画がなければ、取り残されることを恐れる労働者、企業、地域社会から、移行に対する反発が起こりうる。公正な移行の枠組みは、政府や他の関係者がこうした変化に備え、労働者の権利を保護し、代替となるビジネスモデルや生計手段を開発し、影響を受ける地域社会への支援を調整する助けになりうる。

インドネシアの炭鉱(写真:International Labour Organization / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

人々が自分たちの将来の道筋をより明確に描くことができ、自分たちの懸念が取り上げられていると分かれば、移行を支持しやすくなるかもしれない。この意味でJTMは、気候対策への社会的・経済的な障壁の一部を取り除き、各国が化石燃料から脱却するのを容易にする可能性がある。

「公正な移行は、化石燃料の段階的廃止、気候正義の達成、そして人々の繁栄を各国が確保できるようにすることなど、複数の目的を同時に達成する助けにならなければなりません。ですから、公正な移行こそが鍵なのです」と語るのは、気候行動ネットワーク・インターナショナル(CAN International)の公正な移行に関する上級アドバイザー、アナベラ・ローゼンバーグ氏だ。

JTMはまた、もう一つの気候イニシアチブである化石燃料からの移行(TAFF)ロードマップと並行して推進されている。TAFFはCOP30で発表され、合意形成がしばしば困難な伝統的な国連交渉プロセスの外側で、化石燃料の段階的廃止に向けた世界的な公約を後押しすることを目指している。

国連気候交渉は、民間企業や政府を含む化石燃料利害関係者が交渉に影響を与え、現状維持を図ることを許しているとして批判を受けてきた。これに対しTAFFは、より野心的な気候行動を求める国々が協力するための新たな場として「新鮮な空気の一陣」と歓迎されている。第1回会合は4月にコロンビアのサンタ・マルタで開催された。

JTMはCOP31で行き詰まりを迎えるのか?

JTMは多くの国から歓迎されているものの、高所得国と中・低所得国との間には摩擦が生じている。興味深いことに、開催国トルコは国際労働組合総連合の報告によれば、2025年の労働者にとって最悪の10カ国の一つに数えられている。

タイやベトナムといったメコン地域の国々やアフリカ連合を含む、G77+中国が主導する強力な途上国グループは、JTMを強く支持している。彼らは、豊かな国々の資金拠出に支えられた、中央集権的な国連機関を望んでいる。

G77会合、オーストリア(2024年)(写真:IAEA Imagebank / Wikimedia Commons [CC BY 2.0])

彼らはまた、途上国を債務に陥れるリスクのある融資ではなく、助成金ベースの資金を確保するメカニズムや、先進国からの技術移転を求めている。

9月に開催された「公正な移行フォーラム・アジア」のウェビナーでは、カンボジア政府の代表も富裕国に対し、JTMの支援を公然と呼びかけた。インドも強い支持を示している。

一方で、イギリス、カナダ、オーストラリア、欧州連合などの豊かな経済圏は、「損失と損害基金」や「緑の気候基金」といった既存のメカニズムを通じた既存の約束に加え、さらなる財政負担が発生することに懸念を示している。

彼らは、新たな財政的コミットメントを行うのではなく、政策ツールや技術的専門性の共有に重点を置いた、より軽いアプローチを望んでいる。

2026年6月のボン気候会議では、日本とイギリスは、新メカニズムを策定する前に、公正な移行に関する既存の取り組みを整理すべきだと主張した。この立場は、市民社会団体から批判を浴び、JTMの策定を遅らせかねないと指摘された。

ノルウェーは、公正な移行の取り組みは、新たな機関を設立するよりも既存の機関を強化することでより前進すると主張した。新機関の設立には、実際に機能するようになるまでに数年を要する可能性があるためだ。

世界の労働組合が、労働者保護なしの移行は、幅広い経済的反発と気候政策への抵抗を引き起こしかねないと警告する中、COP31でのJTM交渉の行方は、各国がどのように低炭素経済への移行を管理していくかを左右することになる。

 

執筆:ニチャ・ワチパニッチ(Mekong Eye向け)

 

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