移民が武器化されたとき、国際法は何ができるのか

by | 2026年09月17日 | Global View, ヨーロッパ, 中東・北アフリカ, 共生・移動, 政治, 法・人権

(本記事は JusticeInfo.net に掲載されたものです。許可を得て再掲載しています)

2025年5月19日、リトアニアはベラルーシによる「移民の密輸の疑い」を理由として、ベラルーシを相手取り国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。ビリニュスによれば、アレクサンドル・ルカシェンコ政権は、移民の国境越えを促進・支援・可能にすることによって、移民の密輸に関する議定書の下で負う義務に違反したという。

国際的な保護制度は、ノン・ルフールマン(送還禁止)の原則、庇護手続きへのアクセス、および各申請の個別審査という原則に基づいている。これらのセーフガードは、人々を恣意的な送還から守り、国家に対して確立された法的手続きを遵守することを求めるものである。

リトアニアによれば、ルカシェンコの権威主義体制は、こうした手続きの予測可能性を政治的圧力の道具として利用した。「2021年には、合計4,115人の不法移民がベラルーシとの国境を通じてリトアニアに入国した。その多くはイラク出身であり、その他は主にコンゴ、カメルーン、シリア、イランからの者であった」と、同国内務省は述べている。第三国国民を国境へと移動させることを組織することによって、つまり、2021年11月に欧州委員会が指摘したように、この体制は彼らを利用してリトアニアの法的・行政的・人道的メカニズムを作動させ、その法制度インフラを政治的圧力の標的へと変えたのである。

このように国際法上の義務は、ベラルーシ政権が作り出したとされる危機のコストをビリニュス側へと転嫁するメカニズムとなった。ICJにおける今回の訴訟は、国際法が、巻き込まれた人々の保護を弱めることなく、一国による組織的な「移民圧力」を別の国に対する行為としてどこまで問うことができるのかという、より広い問いを提起している。

ベラルーシ=リトアニア国境(写真:jo.sau / ウィキメディア・コモンズ [CC BY 2.0])

政治的圧力の対象となる国際法

国際法は、保護を求める個人とその申請を審査する国家との関係を詳細に規律している。こうしたセーフガードは、他国がそれらを意図的に政治的圧力の手段として利用することを想定して設計されたものではない。通常の移民危機においては、これらのセーフガードは個人を保護し、誰が保護を受ける資格を持つのかを判断する助けとなる。しかし移民が政治的圧力に用いられる場合、同じセーフガードが他国への圧力の一部となってしまう。

申請を処理するには、国境および移民当局、裁判所、医療サービス、通訳、法的支援などの関与が必要となる。大量の流入があれば、その負担は増大し、追加コストが発生し、国家の資源は他の分野からそらされる。

その影響は国家機関や国内政治にも及び、内政上の対立を先鋭化させる。国際法上の義務と国家の法制度インフラそのものが、搾取の対象となるのである。

EU制裁へのベラルーシの対応

この危機は、ルカシェンコ政権と欧州連合(EU)との対立、制裁措置、関係の急激な悪化を背景として、2021年に始まった。リトアニアおよびEU諸機関によれば、同政権は第三国国民のベラルーシへの到着を組織し、ビザの発給を容易にし、フライト数を増やし、人々をEU国境へと向かわせるための宿泊・輸送インフラを整備した。

リトアニアがICJに提出した訴状によれば、ベラルーシ治安当局は移民をリトアニア国境まで輸送し、同行し、彼らに不法に国境を越えるよう強要したという。リトアニア当局は、違法な国境越えの映像や写真などの証拠をベラルーシ側に提供し、これらの事案についての共同捜査を提案したが、ベラルーシ当局は不正行為を否定し、リトアニアとの協力を行わなかった。

2021年末までに、ポーランド当局は、ベラルーシ当局が移民の集団をポーランド国境まで誘導し、越境地点を示し、国境フェンスを超えるためのボルトカッター(金属用カッター)、鉄パイプ、はしごを彼らに提供していたと主張した。ポーランド当局はまた、国境障壁の破壊や、ベラルーシ当局による組織的な大規模越境試行についても報告している。衝突の際、移民はポーランドの国境警備隊、警察官、兵士に対して石やその他の物を投げつけ、複数のポーランド人要員が負傷した。

ベラルーシ=ポーランド国境の移民(2021年)(写真:Kancelaria Premiera / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

リトアニアは、各人を個別に検討し、個別の決定を行い、それに対する不服申立ての機会を提供することを求められていた。国境に向けられる人の数が増えれば増えるほど、リトアニアは自国の法的義務を履行するためにより多くのリソースを割かなければならない状況になった。

トルコ、モロッコ、ロシアが移民を利用するとき

ベラルーシの事例は例外ではない。トルコ、モロッコ、ロシアもまた、移民を民主国家への圧力の手段として用いてきた。

2020年2月、トルコは移民がギリシャ国境に向かうのを阻止しないようになった。数千人がギリシャ=トルコ国境へと向かった。欧州連合理事会は、トルコの行為を「政治目的のための移民圧力」として明示的に表現している。

2021年5月には、モロッコがスペイン領セウタとの国境管理を緩和した。数日のうちに数千人が国境を越えたが、これは西サハラ問題をめぐるモロッコとスペインの対立の最中で起きた出来事だった。欧州議会は、この危機をスペインに対する政治的圧力の手段として移民が利用されたことと結びつけている。2026年7月には、モロッコからセウタへの大規模な越境が再び起きた。スペイン当局によれば、約7万2,000人が国境を越えたという。

2023年には、フィンランドがロシアを経由して自国の東部国境へ向かう第三国国民の組織的な移動に直面した。ペッテリ・オルポ首相は、ロシアが人の移動を容易にし、フィンランド国境に向かわせていると明言した。マリ・ランタネン内務大臣はこの状況を「フィンランドの国家安全保障を脅かすロシアのハイブリッド作戦」と表現した。これを受けて、フィンランド政府はロシアとの陸上国境の全ての通過地点を閉鎖した。

いずれの事例においても、移民フローは権威主義体制が民主国家に対して行使する政治的圧力の手段となったのである。

移民の尊厳を求める行進、セウタ(2020年)(写真:Fotomovimiento / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

ICJでの訴訟が国際法にとって意味しうること

リトアニアがICJに提起した訴訟は、組織的な「移民圧力」を、責任を負うべき国家に帰属しうる行為として扱うための基盤を国際法に与える可能性がある。国家当局が、人々の到着を組織し、彼らを輸送し、国境まで連れて行き、隣国への政治的圧力をかける目的で越境を支援しているのであれば、そうした行為は個々に切り離して考えるべきではない。それらは一連の単一の作戦を構成する。

ICJの判決は、他の国家が同様の行為に対応するための法的手段を提供しうる。ある国が別の国に圧力をかける目的で意図的に移民フローを組織している場合、国際法はその行為を一体の作戦として評価し、それを組織した国家の責任を確立すべきである。

難民保護と国境保護の間で

国際的な保護を受ける権利は、無制限に国家の国境を越える権利を意味するものではない。しかし、違法な入国であっても、それ自体によって庇護申請を行う権利が否定されるわけではない。

難民条約は、迫害から逃れる者が必要な書類を持たずに安全な国へ入国する場合があることを認識している。したがって、人がどのような方法で国境を越えたかと、その人が国際的な保護を受ける権利を有するかどうかとは、分けて検討されなければならない。

自ら迫害から逃れてくる個人は、他国によって政治的圧力を目的として系統的に外国の国境に向けて送り込まれる数千人規模の人々とは異なる状況に置かれている。各個人の権利は保護されなければならないが、国家は起きている事態の大規模かつ組織的な性格を考慮することが認められる。

国境障壁の破壊、国境警備隊への攻撃、当局による適法な命令への抵抗は、保護付与の根拠とは別個に評価されるべきである。庇護を受ける潜在的な権利があるとしても、それによって当該領域内にいる国家の法令を遵守する義務から免れることはない。

ハーグの国際司法裁判所(写真:United Nations / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

2020年、欧州人権裁判所(ECtHR)大法廷は、メリリャにおける集団による違法な越境試行の事案を審理した。約600人がフェンスを越えてスペインに入国しようとしたのである。裁判所は、申立人らが入国および国際的保護を求めるために利用可能な合法的手続きではなく、意図的に集団による国境突破の試みに参加したと認定した。ECtHRは、彼らが直ちにモロッコへ送り返されたことが集団追放の禁止に反するとは認めず、送還を争うための個別手続きがなかったことを、申立人ら自身の行為と結びつけて判断した。

国際的保護を受ける権利は、確立された国境通過手続きを無条件に無視する権利を与えるものではなく、国家に自国領土を守る能力を失わせるべきでもない。この原則は、別の国家によって組織された大規模な国境越えが政治的圧力の手段として用いられている場合には、特に重要である。

国際難民保護制度の再考が必要

1951年難民条約は、迫害から人々を守るために創設された。各個人の権利は保持されなければならないが、国際法はまた、人々の大規模移動を組織し、他国の国境に向けて送り込む国家の行為にも対応しなければならない。

2024年5月、この問題に対処するEU規則が採択された。同規則は、特に「第三国または敵対的な非国家主体が、連合もしくは加盟国を不安定化させる目的で、第三国国民または無国籍者をEU外部国境または加盟国に向けて移動させることを助長または促進する状況」を想定し、そのような危機に対応するため、通常の庇護手続きを調整することを認めている。

国家が組織する移民圧力が存在する場合、国家は自国の国境を守り、保護申請をより迅速に処理し、滞在権のない者を送還し、その圧力を組織した国家の責任を確立できるようにすべきである。同時に、1951年条約に明記されているノン・ルフールマンの原則、すなわち、人の生命や自由が脅かされるおそれのある領域へその人を送り返すことを禁じる原則は、維持されなければならない。

1951年に構築された制度は、21世紀に用いられている国家間圧力の手法を踏まえて、再考される必要がある。

 

著者:Aleh Baradzin(for Justice Info

 

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