ニュースメディアの役割とは、「苦しんでいる人々を楽にし、楽をしている人々を苦しめることだ」。これは19世紀から語り継がれる名言であり、現在も主に欧米のジャーナリズム業界内で使われている。つまり、メディアの役割とは、声なき声や弱者を代弁することで、彼らを力のある者から加えられる危害や搾取から守り、国家権力や富を持つ者による権力の乱用や不正行為を監視、暴露、抑止するものであるという概念である。
果たして、報道の自由が確保されるべき「民主国家」におけるメディアは、このようなメディア本来の役割を果たすことができていると言えるのか。国家権力や企業は、自らにとって不利な情報を隠すことができる。それゆえ、政府や企業の組織内で不正行為などが起こりやすいのだが、こうした不正を発見した組織内部の人間が、内部告発者とる場合がある。その内部告発者からリークされた情報を受け取った報道機関やウィキリークスのような組織が、市民に対しその情報を発信する。こうした仕組みは、いわば民主主義を担保するための安全措置ともいえよう。
しかし、国家権力はこのようなリークの流出や発信をあらゆる手段を用いて阻止しようとすることがある。ウィキリークスとその創設者であるジュリアン・アサンジ氏が、2022年9月29日現在もアメリカとイギリスから異例の迫害を受け続けていることが代表的な事例であろう。
また、リークの受け手となる報道機関がこうした問題に関心を持たなければ、「真実」が世に知られないままとなってしまう。実際、安全保障や人権の問題を扱うリークや、富豪たちによる不正とも思われる取引を扱うリークに関しても、報道機関の関心が薄いのが現状である。
本記事では、国際報道におけるリークとその課題を探る。

亡命先の在英エクアドル大使館からリモート演説をするウィキリークスのアサンジ氏(2014年)(写真:WorldCloudNews / Flickr [CC BY-ND 2.0])
隠されない真実、隠される真実
日本の報道機関による国際報道に目を向けると、そもそも世界に対する関心が低く、中でも「苦しんでいる人々」が集中する低所得国に関連する報道が極めて少ないことは、これまでGNVでも指摘してきたとおりである。国際報道では「楽をしている人たち」、つまり権力と富を持つエリートや高所得国に関連する報道が圧倒的に多く、その報道の仕方も、エリートの視点で報道する傾向にある。
武力紛争については、日本の報道機関は高所得国政府の関心度の高いロシアによるウクライナ侵攻を大々的に報ずるが、この紛争と比較し何十倍もの犠牲者を出しているサウジアラビア率いる連合によるイエメンへの侵攻やコンゴ民主共和国紛争の存在を触れることはほとんどない。アメリカが、アフガニスタンでのタリバンによる政権奪還に伴い、同国の中央銀行の全財産を奪い、その半分をアメリカのために使用すると一方的に宣言した際も、日本の報道機関はアメリカ政府のプロパガンダ通り、アメリカによる人道支援の一環かのような報道ぶりであった。
また、かつての大英帝国の礎を築いたイギリスの王室に関連する話題、たとえば、個人の結婚や死去などを、まるでエンタメのように大きく取り上げるが、イギリス王室のもとで行われてきた暴力や搾取、および現在も続く非民主的政治制度についてはほとんど取り上げない。さらに、人類が抱える最大の保健医療問題であるマラリア、HIV/AIDS、結核、そして人類史上最大の環境問題である気候変動に関しても、関心が決して高いとはいえない。これらの問題に関する情報は、一部ではすでに明らかになっている事実であり、報道機関もそれを認識しているにもかかわらず、報じようとしないのである。
一方、権力と富が集中するところでは、真実が報道機関の目に触れることなく、権力と富のもとで隠されたままとなってしまうことが多くある。報道機関が「楽をしている人を苦しめる」というメディア本来の役割をまっとうするためには、エリートによって隠されようとする真実を明かす必要がある。その助けとなるのは、内部からのリークである。

ジャーナリストに囲まれる当選当日のカナダの政治家(写真:Olivia Chow / Flickr [CC BY 2.0])
政府によるリーク
リークとジャーナリズムとの関係については、国家レベルの機密情報のリークに限らず、もっと身近で、日常的なものであり、リークなしにジャーナリズムは機能しないといっても過言ではない。民主国家の政府に関するリークの大半は、不正行為を目撃した正義感の強い内部告発者から提供されるものではなく、政治家もしくは関係府省庁や部局内部で「(リークすることを)許可」され提供されるものである。このようなリークの思惑はさまざまである。まず、政治家や政府関係者が、ジャーナリストに対し継続的にエサとして内部情報を渡すことで自身に対する批判的な報道をかわそうとする思惑が挙げられる。
より政策に直結した狙いもある。ある問題をめぐる報道の内容を政府の方針に有利な方向に誘導するためにリークが使われるというものだ。例えば、アメリカ政府は2003年にイラクに対して戦争を仕掛けるために、2002年から同国が大量破壊兵器を所持していたという虚偽をイラク侵攻の正当性として主張した。その一環で、アメリカ政府は、イラクがウラン濃縮用の特殊なアルミニウム製チューブを購入しようとしていたという誤った情報を政府関係者から報道機関にリークさせ、誤情報を報道を通じて広めようとした。それ以外にも、政府が検討中の政策や方針に関する情報を部分的にリークすることで、世論の反応を確認することもある。
このように政府が戦略的にリークを仕掛けることによって、報道機関の力を借りて自らに有利な情報環境を作ることができる。報道機関がリークに頼りすぎれば、政府関係者に寄り添うこととなり、国民を権力から守る「番犬」となるどころか、権力に飼いならされる「ペット」になりかねない。

アメリカ国家安全保障局(NSA)本部(写真:Fort George G. Meade Public Affairs Office / Flickr [CC BY 2.0])
政府がリークを取り締まらずに見逃す場合もある。それは、国民に対し、真実はいずれ明らかになるだろうという安心感を与え、長期的に政府への信頼度を高める狙いがあるという指摘もある。しかし、政府がリークを自由にコントロールすることができるとは限らない。政府関係者からのリークは政府内あるいは政治家間の対立においてしばしば武器として用いられることがある。例えば、与党もしくは府省庁内で検討中の政策に反対する勢力がその政策の導入に不利な情報をリークし、世論の反感を促すことがある。また、選挙期間中にライバルとなる政治家に不利な情報をメディアにリークする政治家や陣営が現れることもある。こうしたケースは、アメリカ、イギリス、スペインなどで確認されている。
内部告発者によるリーク
このほかに、稀なケースではあるものの、組織内の不正行為や不当な言動に関する情報をメディアにリークする内部告発者も現れる。その内容は、安全保障、外交、国内外の諜報活動、抑圧行為、政治・経済的腐敗など多岐に渡る。こうしたリークによって情報が公になったことで、政権交代や法改正などの大改革につながったケースも少なくない。
安全保障に関しては、イスラエル政府が核兵器を所持していた事実について、核開発を進めていた原子力研究所内部で勤務していた技術者が1986年にイギリスの新聞にリークした情報によって明らかになった事例が挙げられよう。また、アメリカの軍事行動については数々のリークが暴露されている。例えば、ベトナム戦争についてアメリカ政府が隠してきた不都合な事実が含まれる内部報告書が、1971年にニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙にリークされた。いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」である。ほかにも、アフガニスタン(2001年)やイラク(2003年)に侵攻したアメリカによる戦争犯罪が疑われる行為を含む軍事行動に関する政府内資料が、2010年にウィキリークスを通じて大量にリークされた。
外交に関しては、ウィキリークスや他の報道機関を通じて公開された数十万件ものアメリカの外交公電が有名だ。ほかにも、サウジアラビアやイランなどの外交公電も数多くリークされている。また、2015年のギリシャ経済危機に関する会議の際、欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)やドイツなどは自らの有利な立場を利用し、ギリシャに対し不当な圧力をかけ解決策を押し付けたとされる。当時のギリシャ財務大臣が、その様子の録音をリーク、公開している。
アメリカの諜報活動や抑圧行為についても、多くのリークが存在する。例えば、米連邦捜査局(FBI)が1956〜1971年に実施していたコインテルプロ(COINTELPRO)と呼ばれるプログラムのもとで、国内の様々な政治組織に潜入したり、違法な監視や事務所などへの侵入、暗殺などを繰り返していたことがリークによって明らかになった。近年では、内部告発者やウィキリークスなどを通じて米中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)のほか、イギリスの政府通信本部(GCHQ)などが、法律に違反する大規模な監視活動を行ってきたことが発覚している。
政治・経済的腐敗を暴くリークに関しては、さらにケースが増える。アメリカの歴史的な政治スキャンダル、リチャード・ニクソン元大統領の辞任にもつながったウォーターゲート事件では、メディアへのリークがひとつの大きな鍵となった。近年は、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)を通じた大規模なリークが多数の報道機関の協力もあり世界各地で大きなインパクトをもたらすようになった。なかでも際立ったのは、タックスヘイブンにおける膨大な数の金融取引を暴いたパナマ文書(2016年)、パラダイス文書(2017)、パンドラ文書(2021年)である。これらのリークによって、一部の国家元首の不正行為が疑われ、辞任、落選、または弾劾につながったとされる。パナマ文書で登場したアイスランドの首相は辞任に追い込まれ、パキスタンの首相は最高裁判所の判決によって首相の座から引きずり下ろされた。また、パンドラ文書に登場したチェコの首相は落選、チリの大統領は弾劾される結果となった。
ICIJを通じたリークではないケースで、国家元首の失脚につながったリークも複数ある。マレーシアでは、当時の政権内外における大規模な腐敗スキャンダルを受けて、同国の元首相は2018年に落選、起訴され、2020年に有罪判決を受けたが、この腐敗スキャンダルはリークがひとつのきっかけで発覚したものだった。南アフリカでも、リークから発展したスキャンダルが原因で、2018年に前大統領が辞任し、2022年9月29日現在も腐敗の容疑で裁判にかけられている。さらに、総選挙を控えているブラジルでは現役大統領の落選が予測されているが、その背景には腐敗問題をめぐるリークがある(2022年9月29日時点)。

ジェイコブ・ズマ南アフリカ元大統領とサウジアラビアのサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ国王(2016年)(写真:GovernmentZA / Flickr [CC BY-ND 2.0])
政治界にとどまらないリーク
国家権力だけがリークによって揺るがされるのではない。ICIJを通じた複数の調査で明らかになった金融取引の大半は一般個人や企業に関するものなのだ。このような調査から、タックスヘイブン問題をはじめ、国境を越えて行われる高額な脱税や租税回避といった問題が相次いで明らかになった。また、別の報道機関へのリークによって、長者番付トップに名を連ねる大富豪による租税回避についても暴かれた。ほかにも、アイスランド最大の銀行(2008年当時)の崩壊につながったリークや、ヨーロッパのサッカー業界における脱税問題を明らかにしたリークなどもある。
リークによって明らかになる内容は、脱税や租税回避行為だけではない。メディアへのリークがきっかけで、たばこ業界がたばこの中毒性について認識しながらも否定していたことが1996年に明らかになったことは当時大きな注目を集め、後に映画化された。また、コートジボワールで多数の死者を出した2006年の有害廃棄物不法投棄事件の責任を問われたオランダの多国籍大手商社(現シンガポール)に関するリークや、2017年にミャンマー軍による大規模な人権侵害が注目される中、日本の酒造会社が同国軍に行った寄付などに関するリークなどがある。
国際機関であっても、内部告発者によるリークから逃れるとは限らない。紛争中のシリアでは、政府が2018年に化学兵器を使用したことが疑われ、化学兵器禁止機関(OPCW)の調査でも同じ結論であったが、同調査にかかわった専門家2人が提出した証拠は結論と矛盾し、化学兵器は使用されなかったと主張した。その証拠および専門家の見解は最終報告書では使用されることはなかったが、内部告発者によってメディアにリークされ、OPCWによる証拠隠しが明らかになった。この証拠隠しはOPCWがアメリカ政府から圧力を受けたためだと主張する内部告発者もいる。
非政府組織(NGO)の内部告発者からメディアへの情報提供がスキャンダル発覚につながった事例もある。例えば、ハイチでは、2010年の地震で人道危機に陥り、赤十字国委員会(ICRC)が住宅建設などを含む大型支援事業を行うことになった。しかし、内部告発者からの情報などを基にした2015年の報道によると、その予算の多くは複数の組織の管理費として執行されることもあり、大型支援事業計画は十分に実施されず、住宅もほとんど建設されなかった。また、2018年には、この地震の被災者支援を行っていたイギリスのNGOであるオックスファム(Oxfam)の幹部を含む複数の職員が現地女性に対し性的搾取を行っていたことが発覚し、内部調査が実施されたにもかかわらず事実がもみ消されたことが内部告発者からのリークで発覚し、大きく報道された。

パンドラ文書に関するICIJのウェブサイト(写真:Virgil Hawkins)
リークと課題
リークは、より公正で公平な世界をつくるのに貢献することがある。しかし、内部告発者からの情報によって重大な不正行為が発覚したとしても、報道が問題の解決や事態改善に直結するとは限らない。例えば、前述のように南アフリカではリークとその後の報道が政権交代につながったとされるが、政権交代にはほかの要因も貢献している。与党内での派閥争いがあったことやリークのタイミングも、政権交代に貢献した重要な要因だったと、その調査に関わったジャーナリストが振り返っている。
また、リークと倫理、法律をめぐる課題もある。内部告発者は組織内の情報を漏洩するによって、自身の雇用契約、場合によっては法律に違反することもある。しかし、権力が人命に直結する違法・不正行為を行っている場合、内部告発者が自らの保身のために権力をかばえば、不正を助長させることになる。内部告発者の多くは、こうした公益性を考慮した上で漏洩行動をとるとされる。
それでも、リークの公益性が高く、社会貢献につながったとしても、政府などから情報を持ち出したとして内部告発者が厳しく処罰されることが多い。政府内で組織的な情報漏洩が行われる場合は、本来なら処罰の対象者になる、リーク関係者が処罰されることはほとんどない。
こうして漏洩された情報を報道機関が対外的に発信するかどうかの意思決定過程においては、情報公開による社会的恩恵とダメージについて適切な判断が求められる。言論の自由が確保された民主主義では、本来であればメディアは権力を監視し、不正を暴く役割を担っている。たとえ違法行為によって収集された情報であっても、ジャーナリスト自身がその違法行為に加担していなければ、ジャーナリストや報道機関がその情報を所持し、公開する自由は確保されるべきだ。しかし近年、ウィキリークスなどによる情報公開を受け、アメリカ、イギリス、日本などでは国家権力によってこうしたジャーナリストや報道機関の権利が脅かされつつある。アメリカ政府は、偽りのない公益性の高い情報を受け取り、公開したウィキリークスの創設者の暗殺を検討していたほどである。

アサンジ氏の解放を求めるロンドンのデモ。「CIAの殺し屋を止めよう」「アサンジを解放、引き渡すな」(2022年)(写真:Alisdare Hickson / Flickr [CC BY-SA 2.0])
メディアはどこへ向かうのか
社会的損害につながる不正を暴くことは「日光消毒」に例えられる。真実をリークすべきか、受け取ったリークを公開すべきかの判断においては、リークがもたらすさまざまなリスクと公益性とのバランスが問題となるだろう。しかし、民主主義社会では、市民がさまざまな情報にアクセスし、自らの意思を表現・表明でき、自由で公正な国政に関与できる環境が必要となる。民主主義が機能するためにはリークする内部告発者や、その情報を公開する報道機関の存在は必要不可欠ともいえよう。
しかし、権力は様々な手段でリークを阻止しようとする。情報通信技術の発達に伴い大量の情報をリークすることが容易になったこともあり、権力はリークする側やリークから得た情報を公開する側に対する迫害を強めている。これはリークや報道機関に対し萎縮効果をもたらす危険を孕んでいる。
スペインで行われたある研究では、内部告発者によるリークよりも政府内から意図的に流出されたリークが大きく報道されたことが検証され、報道機関が政府に従属する傾向が指摘された。日本でも、エリートの関心が低ければ報道機関の関心も得られず、故に、公益性の高いリークであってもないがしろにされる場合もある。
こうした報道機関傾向の背景にあるものは何か。それは、政府の機嫌をとるメリットと政府の機嫌を損なうリスクをめぐる報道機関の価値判断にとどまらない。例えば、報道機関がリークを受け取ったとしても、それが虚偽の情報でないか確認する必要がある。また、その情報に関する調査や取材、情報を公開することでもたらされる社会的メリットとリスクの判断など、報道機関にとって膨大な作業が必要となる場合も少なくない。しかし、財政状況の厳しい報道業界では、エンタメ化と国際報道の減少が進んでいる。そうした中、リークに関する調査報道を行う意思があったとしても、リーク報道によってもたらされるリスクを許容できる報道機関はどれほど存在するのだろうか。
リークには、内部告発者とそれを報じようとするジャーナリズムにとって、さまざまな制約や課題がある。真実をリークする内部告発者の勇気、そしてその情報を世に発信しようとするジャーナリズム精神が失われないことを願うばかりである。
[GNVでは、世界が、そして日本が無視し続ける問題の発信、またその問題に直面する弱者を代弁する取り組みの一環として、読者の皆さまからの情報を受け付けています。GNVへの情報提供についてはこちらをご参照ください。]
ライター:Virgil Hawkins