2026年7月、ナミビア史上最大規模になると見られている裁判が10月まで延期されることが発表された。これは同事件でこれまでに起きた複数の延期のうちの一つである。「フィッシュロット事件」として知られる事件に関連して10人が起訴されている。このスキャンダルは、ナミビア政府高官と、欧州最大級の漁業・水産加工会社の一つであるアイスランド企業サムヘルジ(Samherji)との間の贈収賄疑惑を中心とするものだ。サムヘルジは、ナミビア沖での高収益な漁業割当枠(クオータ)を確保するため、閣僚レベルのナミビア政府高官に多額の賄賂を支払ったと考えられている。
このスキャンダルが明るみに出たのは2019年で、サムヘルジ内部の内部告発者から提供された大量の文書やメールをウィキリークスが公開し始めたことがきっかけだった。この内部告発者は、自らの賄賂支払いへの関与を認めている。疑惑を裏付ける証拠は膨大に存在すると見られている。だが、これらの疑惑が事実だと仮定すると、フィッシュロット事件は、単に賄賂を支払う企業とそれを受け取る政府高官という構図にとどまらない。世界各地のタックスヘイブン(租税回避地)に設立されたペーパーカンパニーのネットワークと、事実上見て見ぬふりをして資金移動を扱ったとされるノルウェー最大の銀行も関与したことで、こうした不正が可能になったと考えられる。
本記事ではフィッシュロット事件を振り返り、とりわけ今日においても世界中の企業と政府の関係に深く関わる構造的要因に焦点を当てる。
ウォルビスベイのドック(写真:世界銀行(World Bank) / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
目次
ナミビアの海洋資源とサムヘルジ
サムヘルジは1983年にアイスランドで漁業会社として設立されたが、その後急速に事業を拡大し、漁獲から加工、さらには水産物の販売・輸出までを一貫して手がけるようになった。成長するにつれ、同社はアイスランドをはるかに超えた漁場と市場を求めるようになった。人口は比較的少ないが、豊かな海洋資源を有する長大な海岸線を持つナミビアは、サムヘルジが狙いを定めた国の一つとなった。
ナミビア(当時は南西アフリカと呼ばれた)は何十年もの間、南アフリカによる人種隔離とアパルトヘイト式統治を受け、その間に同国の資源は収奪され、その利益は南アフリカなどの企業に渡っていた。1995年には、資源の価値の「ごくわずかしかナミビアやナミビア人に帰属していない」と指摘した論者もいた。
南西アフリカ人民機構(SWAPO)が主導した南アフリカ支配への長い抵抗闘争の末、ナミビアは1990年に独立を達成した。新政府は、「ナミビア化」と呼ばれるプロセスの一環として、主要産業部門における外国資本を地元資本に置き換え始めた。漁業・海洋資源も、そのような改革が行われた分野の一つである。
1990年代初頭、ナミビアは商業的に重要な魚種について政府が総漁獲可能量を定める漁獲割当制度を導入し始めた。政府はこの総量を個別企業に割り当てるクオータに分ける。2019年までは、こうしたクオータの多くが国営漁業会社フィッシュコー(Fishcor)に配分され、同社がさらに個々の漁業会社にクオータを分配していた。サムヘルジのような外国企業がクオータを得るには、ナミビア資本の企業との合弁事業に参加することが求められた。
冷蔵室(写真:国際労働機関(ILO) / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
贈収賄の疑惑
サムヘルジは2013年にナミビアで初めて漁業権のクオータを購入し、3万トンのマアジの漁獲権を取得した。しかし同社はさらなるクオータを求め、関係政府ポストに近い人物たちと協力してこの枠の拡大を図った。これを実現するためにサムヘルジが一連の賄賂を提供したと考えられている。その主要な手段の一つがフィッシュコーであり、同社を通じてサムヘルジは有利な条件でクオータを得ていた。
さらに、2013年に締結されたナミビアとアンゴラの二国間漁業協定も、サムヘルジがナミビアの漁業クオータをより多く獲得するのに利用されたと見られる。同協定の下で、ナミビアとアンゴラの合弁漁業会社ナムゴマールSAペスカ(Namgomar SA Pesca)が設立され、マアジのクオータを付与された。サムヘルジはこれらの一部を市場価格より低い価格で取得し、その後、ナミビア政府高官とつながる仲介者と見られる人物が所有するオフショア企業に追加で資金を支払った。この追加支払いはキックバックと見なされ、クオータを異常に安価に取得する見返りとしてサムヘルジが政府高官に資金を渡したものとされる。
数年にわたり、サムヘルジがナミビア政府高官や実業家に支払った賄賂は最大1000万米ドルに上ると推計されている。現金を詰めたスポーツバッグが手渡されたこともあったが、資金の大半は電子送金によって支払われ、資金の流れを隠すために複雑で入り組んだ経路が頻繁に用いられた。
スキャンダルの発覚
ヨーハネス・ステファンソン氏は2013年から2016年までナミビアにおけるサムヘルジ事業のマネージング・ディレクターを務め、ナミビア高官への賄賂支払いの手配に関与していた。彼は2016年にサムヘルジを退社する際、明細書、メール、支払い受領書、請求書、銀行口座情報などの資料を持ち出した。のちに彼はこれら3万件の文書を、匿名情報源からの機密文書やリーク情報を公開する非営利メディア組織ウィキリークスに提供した。
ウィキリークスはこれらの文書を自らのウェブサイト上で公開し、衛星放送局アルジャジーラに調査を依頼した。さらに、ザ・ナミビアン紙やアイスランド公共放送RÚVなども独自調査を開始した。RÚVは2019年11月に最初の報道を行い、アルジャジーラは同年12月にこの問題を扱うドキュメンタリー番組を公開した。
これらの疑惑に対し、サムヘルジは2019年11月に声明を発表し、同社は支払いの存在を知らず、違法行為があったとしてもステファンソン個人に全責任があると主張した。トールステイン・マル・バルドヴィンソンCEOは一時的に職を離れたが、2020年3月に復帰し、サムヘルジはナミビアから撤退した。またサムヘルジは、内部告発者や、このスキャンダルを報じるアイスランドのジャーナリストに対して、威嚇や嫌がらせを行ったとの非難も受けた。
一方ナミビアでは、元水産相バーナード・エサウ氏、元法相サッキー・シャンガラ氏、フィッシュコー会長ジェームズ・ハトゥイクリピ氏ら6人が、2019年11月にこの事件に関連して逮捕された。その後、他の人物も逮捕された。事件発覚からほぼ7年が経つ現在も、審理は予備審問段階にとどまっている。
タックスヘイブンの役割
サムヘルジによるとされる賄賂の大半は電子送金で行われたとみられるが、その多くはナミビアに直接送金されたわけではなかった。リークされた銀行取引記録には、世界各地のタックスヘイブンにあるペーパーカンパニーへの送金が示されている。
ナミビア・アンゴラ合弁事業に関連してサムヘルジが支払ったとされるキックバックは、同社の子会社から、フィッシュコー会長が所有するドバイ登録企業トゥンダヴァラ・インベスト(Tundavala Invest)に送金された。これらの支払いは410万米ドルと見積もられ、取引の多くには「コンサルティング料」と表示されていた。これは、後に特定のナミビア政府高官に渡される資金を洗浄する試みと見られた。
マーシャル諸島におけるケープコッドFS社の設立書類(ウィキリークスが公開した文書のスクリーンショット)
フィッシュロット事件に関連する送金は、キプロス、モーリシャス、マーシャル諸島など、他の複数のタックスヘイブンにある多数のペーパーカンパニーや信託を経由して行われていた。例えば、サムヘルジはマーシャル諸島に登録されたケープコッドFS(Cape Cod FS)という会社に多額の送金を行っていた。同社は、サムヘルジが資金を他の場所に移すために利用したフロント企業だと考えられている。
こうしたオフショア法域の利用は、一部には、送金がナミビア政府高官と結びつかないように不透明化する手段として用いられたと見られる。タックスヘイブンは、資金の流れやペーパーカンパニーの実質的所有者を追跡しにくくするよう設計されている。
しかしタックスヘイブンの利用は、サムヘルジが利益移転スキームを多用することで、ナミビアでの経済活動に見合った税負担を回避するのにも役立った。フィッシュロット・スキャンダルに関連する文書によれば、サムヘルジは820万米ドルをグループ内の子会社間で移転し、法人税率が比較的高いナミビアで計上される利益を減らしていた。
例えば、ナミビアで生じた利益を人為的に圧縮するため、サムヘルジはナミビア沖で漁獲した魚を、自社のキプロス子会社(低税率国)に対して市場価格より低い価格で販売していたと見られる。一方で、ナミビアにあるサムヘルジ子会社は、他のタックスヘイブン所在の子会社に対し、多額の「サービス料」やロイヤリティを名目とした支払いを行っていた。例えば、サムヘルジの最高会計責任者が、「ナミビアでの事業から生じるロイヤリティをナミビアからモーリシャスへ移す」ことについてメールしている。こうしたグループ内の利益移転により、サムヘルジはナミビアで支払うべき税額を減らすことができた。
サムヘルジの取引(DNBの銀行記録のスクリーンショット、ウィキリークス)
ナミビアからタックスヘイブンの口座へ資金を移動する際にサムヘルジが利用したノルウェー最大の銀行DNB NORも、フィッシュロット事件後に批判の的となった。批判の一つは、同銀行とマーシャル諸島のケープコッドFS社との関係に起因する。同社は数年間DNBの顧客であったが、銀行側は同社の実質的所有者が誰なのかを把握していなかった。
さらに、サムヘルジが資金洗浄リスクの高いとされる法域に対して多数の大口取引を行っていたにもかかわらず、DNBはデューデリジェンス義務を怠ったと非難された。例えば、DNBがドバイのトゥンダヴァラ・インベストへの送金に関して、ノルウェー当局へ疑わしい取引の報告を一件も提出しなかったと報じられている。
影響
言うまでもなく、あらゆる形の腐敗は問題である。例えば、政府高官が国内企業から賄賂を受け取り、有利な条件で公共調達契約を与えるといった国内レベルの腐敗であっても、その害悪は明白だ。税収は減少し、公共支出はゆがめられ、貧困や不平等は悪化しうる。政府への国民の信頼も必然的に損なわれる。
しかし、フィッシュロット事件は国際的な要素が加わることで、問題はさらに複雑になる。高所得国に本拠を置く強大な企業サムヘルジと、ナミビアの高位政治家との共謀により、同国から膨大な富が不正に流出したのである。

魚加工工場 (Photo: International Labour Organization / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])
サムヘルジはナミビア政府高官から市場価格を下回る条件で漁業クオータを購入し、その結果、資源の利用に対する適正な対価を政府にもたらさなかった。さらに、サムヘルジが積極的に用いた租税回避スキームによって、同国の天然資源から得た利益に対して本来支払うべき税金も不当に圧縮された。フィッシュコーとの共謀も問題であり、本来なら同社は得た収益の一部を社会プログラムに配分する役割を担っていた。
また、サムヘルジが不正な手段で得たクオータにより、地元の漁業会社は不公平な不利を被った。例えば、ある地元企業では、2014年にマアジのクオータがサムヘルジに振り替えられた結果、1,000人の雇用が失われたと報告されている。
植民地支配と、その後の南アフリカによるアパルトヘイト統治を経て、ナミビアは世界で2番目に(南アフリカに次いで)所得不平等が深刻な国となっており、このような体系的な富の流出は一層憂慮すべき事態である。2015年時点で、人口の57%が、1人1日あたり7.4米ドル程度と推計される倫理的貧困ラインを下回る生活を送っていた。
フィッシュロット事件に関連する出来事の結果として、ナミビアが失った金額は正確には分かっていない。ナミビア金融情報センターは、フィッシュロットに関連する疑わしい取引として6億5000万米ドル相当をマークしている。もちろん、これはそのまま損失額を意味するものではないが、サムヘルジが1000万米ドルもの賄賂を支払う用意があったとみられる事実と合わせて考えると、問題の規模が極めて大きいことを示している。
2021年の新しいサムヘルジの漁船(写真:Dagvidur / ウィキメディア・コモンズ [CC BY-SA 4.0])
過去の事件か、それとも現在進行形か?
フィッシュロット事件が明るみに出てから、ほぼ7年が経過した。この間に何が変わっただろうか。スキャンダルに関与したとされる10人の著名なナミビア人が起訴されていることは、一定のアカウンタビリティが(ゆっくりではあるが)追及されつつあることを示している。さらなる延期がなければ、公判は2026年10月に始まる予定だ。
これに比べ、サムヘルジおよびその関係者に対するアカウンタビリティは限定的だ。2026年時点で、サムヘルジはフィッシュコーからの大規模な訴訟に直面しており、1,000人以上のナミビア人労働者も、アイスランドの検察当局に対し、同社による被害者として認定されることを求める申し立てを行っている。しかし、同社の代表者の誰一人として訴追を受けていない。その一方で、サムヘルジは引き続き高い利益を上げ続けている。
この種の不正な資源収奪を可能にしている世界各地のタックスヘイブンの役割は依然として深刻な問題であり、その対策はきわめて緩慢なペースでしか進んでいない。現在進行中でまだ発覚していない「フィッシュロット事件」が世界のどこでどれだけ存在するのか、私たちは知る由もない。しかし、違法・無報告・無規制(IUU)漁業は、アフリカ大陸全体で確実に深刻な問題になっている。システムのレベルで見れば、フィッシュロットが露呈させた脆弱性は解消されておらず、今後も同様の乱用を許す余地が残されたままだ。
執筆:ヴァージル・ホーキンス(Virgil Hawkins)





















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