ルーマニアで生産されている木材の半分以上は違法伐採によるものだと推測されている。このような違法伐採は動植物の生息地や生物多様性への深刻な影響をもたらす脅威となっている。さらに、ルーマニアでは違法伐採によってもたらされる利益のために、森林を守ろうとする環境保全団体のスタッフなどに対する暴力事件や殺人事件も多発している。問題はルーマニアだけにとどまらない。アルバニアからロシアまで、東欧各地で森林の違法伐採が問題視されている。また、これらの違法伐採によって作られた木材は西欧、アジア、アメリカにも輸出されており、グローバルに広がるこの問題に対して、グローバルな視点を持った対策が求められる。この記事では東欧の違法伐採問題について探る。

ウクライナ、クラビエボの森(写真:Аимаина хикари / Wikimedia Commons [CC0 1.0])
東欧諸国の違法伐採の現状
違法伐採とは何を指しているのだろうか。各国には、森林を伐採する場所と量に関する法律が存在し、世界の森林はこれらの法律によって伐採が許されている地域(合法伐採地域)と許されていない地域(違法伐採地域)に分かれている。合法伐採地域であっても、伐採には許可が必要であり、伐採できる量にも上限が設けられている。これらの法律に従わず合法伐採地域の外で行われたり、伐採量の上限を守らない森林の伐採を違法伐採ということができる。また、欧州連合(EU)の加盟国の場合、森林は「ナチュラ2000(Natura 2000)」という環境保護に関するネットワークによって保護されている。例えば、ドナウ川デルタ(主にルーマニアにある三角州)やビャウォヴィエジャの森(ポーランドとベラルーシの国境を跨ぐ森)等の地域がこのネットワークに含まれている。しかし、不適切な監視や地方当局による法の実施の欠如が問題となり、現在これらの地域においても違法伐採が行われている。
では、違法な森林伐採はどのように行われるのか。多くの違法伐採ではまず、違法業者やマフィアが各地の森林付近などで人を雇い、木を伐採する。これらの業者は森から丸太を運び出し、木材に加工するか、製材業者に販売する。国内で利用される場合、その後建物や家具を作る業者などへと販売されることになる。国外で使う場合、合法的な手段で伐採されたもののように見せかけるための書類を偽造したり、輸出手続きを行う担当公務員に賄賂を渡すなどの手段を通じて輸出される。また、木材を輸出する商社が違法伐採による木材だと知りながらも買い取る場合もあり、合法に伐採されたものと混ぜて輸出するケースもある。
違法伐採が行われているいくつかの国の事例をみてみよう。冒頭に紹介したルーマニアは東欧における違法伐採問題が特に深刻な国の1つだと言えるだろう。グローバル・フォレスト・ウォッチ(Global Forest Watch)によると、2001年から2019までにルーマニアにおいて約35万ヘクタールの森林が合法、または違法な手段で伐採された。このような森林伐採を背景に、約20年の間にルーマニアの森林被覆率は4.4%減少した。一方で別の調査では、2008年以降、森林被覆率はほとんど変わっていないというデータも発表されているが、いずれにしろルーマニアの森林被覆率は約30%であり、専門家が試算するルーマニアの森林被覆可能率よりも15%も低い。
ルーマニアでは違法伐採を行なっているとされる企業が複数挙げられる。ルーマニアの林業の約半分を担う国営企業ロムシルバ(Romsilva)には違法伐採に関連した疑惑がかけられている。また、ルーマニア最大の製材会社でオーストリアに本社を置く、木材大手HSティンバー社(HS Timber、旧Holzindustrie Schweighofer)は、合法伐採された丸太と違法伐採された丸太を購入し、製材所で丸太を混合してから輸出しているとされている。丸太のサプライヤーとなる業者やマフィアは賄賂を用いて地元当局の取り締まりを阻止したり、反対するものに対しては脅迫や暴力等を用いてねじ伏せたりしている。
また、世界最大の森林面積を持つロシアでも大規模な違法伐採が行われているとされている。その中で特に注目されているのが、伐採も製材も行っているBMグループ(BM Group)である。2001年、ロシア中央政府が国有林の監視緩和を決定したことと、地方自治体に広がる腐敗が合わさり、違法な森林伐採の拡大につながっている。市民団体であるアースサイト(Earthsite)は、ロシア東部の総木材生産の半分は違法に伐採されているものだと指摘する。また、ウクライナにおいても商業伐採企業が違法伐採を行っているとされる。アースサイトの調査によると、ウクライナで生産される木材の約40%が違法に伐採されている。これらの事例以外に、ブルガリア、北マケドニア、アルバニア、バルト三国などでも大規模で違法な森林伐採が過去に報告されている。
政府公認の違法伐採
ここまでにあげた事例は、森林伐採が禁止されている地域での伐採や、法律で定められた伐採量を上回る伐採を意図的に隠蔽するなど、明らかに違法伐採だといえる。一方で政府が、法律で定められた保護地である国立公園の伐採を承認するなどのケースも起こっている。

ポーランド、ビャウォヴィエジャの森(写真:Greenpeace Polska / Flickr [CC BY-ND 2.0])
東欧の最大の森であるポーランドのビャウォヴィエジャの森で、国家による違法ともいえる森林伐採が起こった。この森は1979年に世界自然遺産として登録され、ナチュラ2000によって一部が保護されている。しかし、2016年にポーランドの環境省がビャウォヴィエジャの森にキクイムシが蔓延しているため伐採する必要があると主張し、政府は森の大量伐採を承認した。これに対して、多くの専門家が反対の立場を表明し、国民によって多くの抗議デモが発生した。また、伐採された森はナチュラ2000の保護地域、つまりEU法に守られている地域であったため、2018年に欧州司法裁判所はこの伐採が違法だという判決を下し、行われていた森林伐採について中止するよう命令を下した。
ブルガリアでも政府によって、法律で保護されているはずの国立公園での伐採が承認されかけるという事例が発生した。2017年、ブルガリアの環境省はピリン国立公園について新しい開発計画を立案した。その計画には公園の敷地の66%で開発工事を行い、48%において伐採を許可する事項が含まれていた。この計画に反対した環境保護団体は政府を相手取った訴訟を起こし、ブルガリアの最高行政裁判所はこの開発計画を差し止める判決を下した。
違法伐採された木材への需要
東欧において大量の違法伐採が行われているのは明らかである。しかし、問題は違法伐採、それだけではない。なぜならば、伐採された木材は東欧から輸出され、他国にある木材関連の会社等によって購入されている。つまり、違法伐採された木材には需要があるのだ。その輸出先は多様で、欧米や東アジアがその中心となっている。では、実際にどこの国や企業が東欧で違法伐採された木材を輸入しているのだろうか。これらの違法伐採された木材は合法的な手段で伐採された木材と混ぜられることが多い上に、手続きの記録が残らない密輸もある。そのため特定するのも、規模を把握するのも困難ではあるが、いくつかの調査が発表されている。

HSティンバー社の製材所(写真:Holzindustrie Schweighofer / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
東欧での木材の多くは西欧などの他のEU諸国に輸出されている。例えばロシアの木材会社であるBMグループの伐採活動を対象にした2020年のアースサイトの調査によれば、BMグループがEUに向けて輸出する木材の69%はジェイコブ・ユルゲンセン(Jacob Jürgensen)、オストウェストホルザンデル(Ost-West Holzhandels)、ルートヴィヒ・ホルツ(Ludwig Holz and Co)などのドイツの会社を通してEU内へと入っている。EUの伐採を規定するガイドラインの調査では、BMグループが活動を行なっている極東地域の丸太の80%は違法に伐採されたものであることが指摘されており、EUに輸入されている丸太にもこれらの違法伐採されたものが混入している可能性が高い。
また、前述のようにウクライナから輸出されている木材の40%は違法に伐採されたと推定されているにもかかわらず、西欧の業者はウクライナからも違法または疑惑がかかっている木材を購入している。その中でも世界最大の木材購入業者であるイケア(IKEA)の存在は大きい。IKEAは2019年に約200万ユーロ相当の違法性が疑われるものを含む木材をウクライナから購入している。また、2015年に同社はルーマニアで違法伐採への関与が疑われているHSティンバー社からも木材を購入していたと指摘されている。
東欧諸国はEU以外にも多くの木材を輸出している。例えば、ロシアにおける違法伐採への大規模な関与が指摘されているBMグループの最大の取引相手は中国と日本にある。中国は2015年から2020年まで約1億1,100万ユーロ相当の木材をBMグループから購入した。また、黒竜江ソンリングループ(Heilongjiang Songlin Group)という中国の業者はBMグループと森林伐採の共同事業を行っている。日本の企業は、2015年から2020年までBMグループから約3,900万ユーロ相当の木材を購入した。
中国や日本はルーマニアからの木材の主要な輸出先でもあり、その多くは違法伐採に関与しているとされているHSティンバー社から購入されている。環境調査エージェンシー(Environmental Investigation Agency (EIA))の調査によると、2015年に阪和興業株式会社や住友林業、伊藤忠商事株式会社などの日本の大手輸入企業はHSティンバー社の木材輸出量の約50%を購入し、これらの木材は住宅用資材として利用されている。総輸出量のどれほどが違法伐採された木材であるかは不明だが、大きな疑惑は残る。
違法伐採への対策
このように、東欧での違法伐採問題には森林伐採や製材を行う業者から、犯罪組織、さらには現地政府、商社、木材商品の製造業者そして他国政府に至るまで、多くのアクターが関わっている。この問題を解決するためにもすべてのレベルにおける対策が必要だ。最後に、いくつかの試みを紹介する。

ポーランド、森林伐採に対する抗議デモの様子(写真:Greenpeace Polska / Flickr [CC BY-ND 2.0])
これらの違法伐採に対して市民レベルで様々な取り組みが行われている。例えば、違法伐採の事実が明らかになった場合、市民が抗議デモを通じて、反対運動を起こすことは少なくない。近年ではルーマニア、ポーランド、ブルガリアで森林を違法伐採から守るための抗議デモが行われた。
また、市民団体が商業伐採会社の行動を監視したり、違法活動の証拠を収集したり、行政機関に違法活動を報告している。世界自然保護基金(World Wildlife Fund)やアースサイト等は独自の調査によってデータを収集しており、情報を発信している。メディアもまた、調査を行ったり、市民団体の調査結果を盛り込んだ報道を行うなど問題に対する注目を導くことができる。加えて、木材の出どころを調査し、消費者が購入しようとしている製品に使用される木材が合法に伐採されたものかを認証する団体もある。国際的に活動している森林管理協議会(FSC)がその一例である。この認証システムにはさまざまな弱点が指摘されており決して万全ではないが、ある程度の対策となっているとも考えられる。
違法伐採問題を抱えている東欧諸国の中で、対策をとる政府もある。例えば、2016年にブルガリアでは原生林での伐採を禁じる法律が採択され、ベラルーシでは違法伐採の疑いのある多くの輸出が禁じられた。また、ルーマニアの政府はデモに応えて、違法な伐採に対する罰則を強化した。その他にも、北マケドニアでは、マケドニア生態系協会(Macedonian Ecological Society)をはじめ様々な市民団体がシャルー山地の保護を提唱したことを受けて、政府がシャルー山地を国立公園として指定し、森林が保護されるようになった。
すでに紹介したように、EU加盟国の場合、EUも違法な森林伐採を阻止する役割を担っている。例えば、EU内において前述の保護地域のネットワークであるナチュラ2000が果たす役割は大きい。また、ポーランドのビャウォヴィエジャの森でキクイムシに悩まされていることを名目にした政府による保護地区での森林伐採を止めた欧州司法裁判所(ECJ)による判決などにも注目すべきだろう。
EU諸国以外の政府からも対策の動きが見られる。東欧から多くの木材を輸入している中国や日本では、違法伐採された木材の輸入を停止する法律が作られた。例えば、日本では2016年にクリーンウッド法(CWA)という法律が作られた。CWAでは、日本の輸入業者は合法に伐採された木材の使用を促進するための措置を講じる必要があると規定されている。現在、複数の輸入業者がCWAに基づいて適切な注意や企業内の対策を実施している。また、世界最大の木材輸入国である中国の政府は2020年7月に違法伐採木材の輸入を減少させる法律を施行した 。

ロシアでの製材所(写真:carlfbagge / Flickr [CC BY 2.0])
まとめ
違法伐採の問題は多様なアクターが何層にも重なり合う複雑な問題だ。これらの問題の解決には、国際機関の環境保護制度、各国の政府の法律、地方当局による伐採の監視や法律の適切な実施等が必要である。また、違法伐採活動は大手企業や政府にとって有益であるだけでなく、実際に伐採を行う者にも有益である。つまり、東欧での違法伐採問題は、グローバルな経済構造に組み込まれた世界全体で起こっている問題のごく一部なのである。気候変動や地球温暖化に対して注目が高まっている今、持続可能な世界を作っていくために地球の資源の適切な使用や、時にはその保護が必要不可欠な課題になっている。問題の解決に向けて、多国間協定をはじめ、国際機関や政府による、より具体的で効果の高い対策の実現と実行が要求されている。
ライター:Adriana Nicolaie
グラフィック:Mayuko Hanafusa
その国だけの問題ではなく、輸出入にかかわるすべてのアクターが関連している問題だと改めて認識させられた。遠い国のことだ、ではなく当事者意識を持つことの難しさがあるだろうと思う。
イケアなど自分にも身近なところから違法伐採の話が出てくるとは思わなくて驚きました。自分の家にある棚とかももしかしたら違法伐採の木なのかなと思ったらとても身近に感じました。
森林伐採の問題については前からメディアでも少し見ていましたが、東欧の現状については全然知りませんでした。日本にも関係のない話ではないことを認識できました。他の問題とも複雑に関わっているからこそ、もっと多くの人に問題意識を持って欲しいと思いました。