10億米ドル。これは、イスラエル政府が世界各地で「パブリック・ディプロマシー(広報外交)」と呼んでいる取り組みに、3年足らずの間に費やした資金のについての控えめな試算である。これは、外国の世論に影響を与えようとして使用された、イスラエル政府の公的支出を示している。

こうした目的に割り当てられる予算は、2023年10月以降急騰した。このときハマースとイスラエル軍との間の武力衝突が激化し、その帰結として、イスラエルによるガザ住民へのジェノサイドが生じたからである。多数の民間人犠牲、大規模なインフラ破壊、ガザでの人道危機により、世界各地でのイスラエルに対する世論の支持は急落した。国外の人々に影響を与える活動への資金を急増させたことは、こうした傾向を逆転させようとする試みを意味している。

イスラエルによる影響工作は、さまざまな場面と形態で行われてきた。その多くは誤情報や偽情報を含み、秘密裏に進められるよう設計されており、その一部は開始からかなり後になってから明らかになった。

以前の記事でGNVは、イスラエル政府が軍事検閲を通じて国内メディアを統制し、イスラエル国内の世論に影響を与えようとしている実態を取り上げた。本記事では、イスラエル政府が国外の世論にどのように影響を及ぼそうとしているのかを探る。

市民広報外交本部(写真:Alonl0504 / Wikimedia Commons [CC BY 4.0])

説明から積極的な説得へ

外国の世論に影響を与えることを目的としたイスラエル政府の行動は、ヘブライ語でしばしば「ハスバラ(hasbara)」と呼ばれ、「説明」を意味する。伝統的に、この語は主として、イスラエル政府が自らの行動を正当化するために発するコミュニケーションを指してきた。たとえば当局者は、イスラエル国防軍(IDF)は攻撃の前に民間人に警告を発する「道徳的」な軍隊である、あるいは病院が爆撃されたのはそこがハマース戦闘員に利用されていたからだ、といった主張を行う。

しかし、2023年の紛争の激化以前から、こうした手法の有効性に疑問を呈する声は存在していた。たとえば2021年にベギン・サダト戦略研究センター(BESAセンター)が発表した論考は、イスラエルは「ダイナミックな広報外交」や「洗練された心理戦」という観点で本来の可能性を活かしきれていないと主張した。この論考は、政府のメッセージは「ハマースやイスラミック・ジハードのジハード主義的性格に焦点を当て、それらの組織をアルカイダやISISといった、戦う正当性が疑問視されていない主要ななテロ組織と結びつけるべきだ」と述べている。

2023年10月以降の出来事により、ガザでのイスラエル軍事作戦を正当化することははるかに困難になった。死亡した民間人や餓えた子どもたち、爆撃された病院や学校、一帯が瓦礫となった住宅街の映像は、世界中の人々が容易に目にできるようになった。イスラエル政府自身の推計でも、攻撃の無差別性が示されている。2025年5月時点で、ガザで殺害された人々のうち83%が民間人とみなされていたのである。

イスラエル国内では、イスラエルの行動に対する強いナショナリズム的支持と、広範なメディア検閲および自己検閲が相まって、この現状を問題視しない人々が多数派を占めているように見える。2025年8月の調査では、イスラエルのユダヤ人の76%が「ガザに無実の人々はいない」という見解に同意していた。しかし、このような見方はイスラエル国外ではほとんど支持を得られない。その結果、イスラエル政府が国外で用いる説得手段は、方向を転換し、同時に強化されることになった。

イスラエルの外務省庁舎(写真:Almog / Wikimedia Commons [Public domain])

2023年のハマースによる攻撃の4日後、元イスラエル情報相はテレビインタビューで、「我々の仕事は広報外交ではない。影響を与えることだ」と述べた。2023年11月にイスラエル国家安全保障研究所が発表した論説記事も同様の見解を示し、イスラエル政府に対して、「説明」から「自らの物語を形作る能動的な影響力行使」への転換を促した。

同時に、ドロップサイト・ニュースへのリークにより、イスラエル外務省が、2023年10月以降に失墜した自国のイメージをいかに回復させるかを探るため、アメリカの世論調査会社スタグウェル・グローバルに欧米の世論調査を委託していたことが明らかになった。調査では、「過激派イスラム」や「テロリズム」への恐怖を利用してハマースを描くことが、外国人の間でイスラエルへの支持を高めるうえで有効であると判明した。

広告、インフルエンサー、ボット

2023年、イスラエルはこうしたメッセージ戦術を素早く採用した。例えばハマースによる10月の攻撃の後、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「ハマースはISISだ」と発言した。これに続いて、イスラエル政府の資金による大規模な広告キャンペーンが、ヨーロッパとアメリカのユーチューブやXの視聴者を対象に展開され、ハマースをいわゆる「イスラム国(ISIS)」と同一視する内容が流された。

その後もイスラエル政府は、イスラエル政府広告庁(IGAA)を通じて、国外で自国のナラティブ(物語)を広めることを狙った多様な文脈での広告を広範に利用している。2024年に見られた一例として、グーグル検索エンジン上に広告を出し、「近東パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)」を検索した人々に、その機関がハマースと関係していると主張する広告が表示されるようにした事例がある。

Google検索エンジン(写真:Stock Catalog / Wikimedia Commons [CC BY 2.0])

翌年、イスラエル政府はグーグルと4500万米ドルの契約を結び、ガザで飢饉が起きているという事実を否定する広告や、パレスチナ支持団体を過激なイデオロギーと結びつける広告を含むキャンペーンを実施した。こうした広告にはメタやXなど他のプラットフォーム上でも多額の資金が投じられている。

イスラエルは、ソーシャルメディア上のインフルエンサーを利用して、親イスラエル的な見解や感情を広めようともしている。たとえば2025年には、イスラエル外務省がインフルエンサーに支払いを行い、コンテンツ制作を支援していたことが明らかになった。このキャンペーンは、フランスのPR会社ハバス・メディアの監督のもと、ブリッジズ・パートナーズという企業が調整した。4か月間で総額90万米ドルの予算のもと、14〜18人のインフルエンサーが、それぞれ一定数の親イスラエル的な投稿をソーシャルメディアに行う契約を結んでいた。政府はまた、国外のインフルエンサーをイスラエルに招くツアーの費用も負担している。

人間のインフルエンサーを超えて、イスラエル政府は自らのメッセージをソーシャルメディア上で広めるため、自動化されたボットの活用も試みている。たとえば2025年のイスラエル外務省との契約では、スタグウェル・グローバルが子会社SKDKを通じて、「各種ソーシャルメディアでボットを利用したプログラムを開発し、外務省の親イスラエル的なメッセージで情報空間を埋め尽くす」ことを任された。この契約は2025年9月に打ち切られ、SKDK側はボット関連の業務は何も行っていないと否定した。

自国の職員に対し、国外の人々に影響を与える訓練を行うことも、情報工作の一環である。2026年には、イスラエル国防省が国内外の世論に影響を与えるための訓練コースを軍人向けに提供していると報じられた。カリキュラムの一部では、「心理戦、プロパガンダ、欺瞞、正統性、公共外交の基礎と、特に外国の聴衆を重視したターゲット集団の細分化」を教えるとしていた。

市民広報外交本部での会合(写真:Alonl0504 / Wikimedia Commons [CC BY 4.0])

標的を絞ったキャンペーン

イスラエルの影響工作は一般大衆だけでなく、ときに特定個人、なかでも外国の政治家を標的としているようだ。たとえば2024年には、イスラエルのイスラエル・ディアスポラ問題・反ユダヤ主義対策省が資金を出し、偽ニュースサイトや多数の偽ソーシャルメディア・アカウントを使って、アメリカの個々の議員に対し、イスラエルの軍事行動支持を促す隠れたキャンペーンを実施していたことが報じられた。カナダでも、同様の情報工作が行われたとされる。こうしたキャンペーンは、STOICというイスラエルの政治マーケティング企業によって実施されたとされている。

さらにブラックコアというイスラエル企業は、フランスの2026年地方選挙において、特定候補者を中傷するための偽ソーシャルメディア・アカウントや偽サイトを使ったキャンペーンに関与したとされているが、イスラエル政府が関与した決定的証拠は出ていない。

標的を絞った別の影響工作として、2025年にショー・フェイス・バイ・ワークス(行いで信仰を示す)という企業が契約を結び、アメリカのキリスト教徒の間で親イスラエル的な見解を広めるキャンペーンを行った事例がある。この契約の一部には、牧師に対して特定のコンテンツ制作を依頼し報酬を支払うことが含まれていた。別の部分では、アメリカ4州の主要教会周辺を「ジオフェンシング」し、教会に出入りした人々の携帯端末に親イスラエル・反パレスチナ広告を配信することが盛り込まれていた。この場合のジオフェンシングとは、教会周辺の一定の地理的範囲を設定し、その範囲に出入りしたと特定されたすべてのモバイル端末に自動的に広告を送信する仕組みを意味する。

イスラエル政府はまた、キリスト教指導者をイスラエルに招く取り組みも進めてきた。とりわけ2025年には、イスラエル外務省が主導し、1000人の福音派牧師らをイスラエルに招く訪問が実現した。

広報外交に関するアメリカ・イスラエル会合(写真:US Embassy Jerusalem / Flickr [CC BY 2.0])

AIへの影響工作

イスラエルによる最近の説得工作は、人工知能(AI)の領域にも及んでいる。2026年、「ハノーバー公共政策研究所」を名乗るウェブサイトがオンライン上に登場した。シンクタンク風の体裁をとる同サイトには、匿名の論考が100本以上掲載されていた。サイトの内容と構造の両面から、それがイスラエルとパレスチナに関する質問に対するAIの応答に、イスラエル側のナラティブが現れるようにするために設計されていたことは明らかだった。記事は質問形式で書かれており、AIが生成したと見られ、さらにAIボットが読み取りやすいファイル形式で大量の情報が掲載されていた。

このサイトは、IGAAからの資金を受け、ハバス・メディアに下請けされたアメリカのマーケティング会社ピロによって作られたことが明らかになった

AIを通じた他の影響工作も確認されている。2026年7月、ドロップサイト・ニュースは、ドナルド・トランプ氏の陣営で元選対責任者を務め、イスラエルを代理する外国代理人としてアメリカで正式登録されているブラッド・パースケール氏が、AI検索結果に影響を与えることを明確な目的とする10のウェブサイトを設立していたと報じた。イスラエル政府との契約のもと、彼の企業クロック・タワーXが作成したこれらのサイトには、イスラエル政府の物語に基づく「ファクトチェック」を掲載するファクトチェック風のサイトや、イスラエルの民間人保護努力や道徳的価値に関する主張を含む物語、データ、目撃証言を共有することに特化したサイトなどが含まれている。

爆撃後のガザ、2025年(写真:Zyanhayato / Wikimedia Commons [CC0 1.0])

より広範な影響エコシステム

ここまで挙げたのは、イスラエル政府による影響工作として判明している事例の一部にすぎない。こうした政府主導の取り組みに加えて、イスラエル政府と民間の寄付金の両方に支えられた官民パートナーシップによる影響キャンペーンも存在する。その一例が「イスラエルの声」と呼ばれるパートナーシップである。このキャンペーンに関わる団体は、他の活動に加えて、SNSプラットフォームに対しパレスチナ支持コンテンツの抑制を働きかけてきた

また、世論を親イスラエル的な方向へと誘導し、多くの場合は西側諸国やその他の国々の選挙結果に影響を与えようとする協調的な民間資金も、多額に存在する。アメリカでは、こうした観点から最も強力なアクターは、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)である。ヨーロッパ諸国においては、欧州リーダーシップ・ネットワーク(ELNET)が特に活発だ。場合によっては、大企業や富裕な個人が、自らの判断で世論に影響を及ぼそうと動くこともある。

イスラエル政府とその同盟者が、特に西側諸国において世界の世論を味方につけようと、膨大な投資を行ってきたことは疑う余地がない。しかし、どれほどの金を費やしたとしても、人々が自ら目撃したジェノサイドを忘れることはあり得るのだろうか。

 

執筆者:Virgil Hawkins

 

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