世界中で毎日約14億人もの人々が利用し、月間アクティブ利用者数は約22億人。現在世界のインターネット利用者人口は約40億人とされるので、世界中のインターネット利用者のうち実に2人に1人が、月に1回以上Facebookのページを開いている計算になる。利用時間に関しては、平均して各人が毎日1時間近く利用しているとされる。また、オンライン広告市場のシェアは、Googleと合わせて61%と、世界のオンライン広告市場はFacebookとGoogleの寡占状態だ。つまり我々がネット上で目にする広告の半分以上が、これらの会社によって提示されたものだといえる。さらに、無料サービスであるにも関わらず、CEOは世界第5位の億万長者にまで上り詰めた。
以上の話から、Facebookがいかに日常の情報収集環境に侵食している存在であるか、そして情報をネット上から得る際、Facebookが我々に与える影響力はどれほど大きいかは想像に難くない。こうして得た情報を参考として我々は日々、社会、政治、世界の情勢を知り、自身の意見を最も代弁してくれる議員に一票を投じる。今回は、Facebookと民主主義の関係を探っていきたい。

Facebookのロゴとマウスポインタ(写真:Simon/Pixabay)
Facebookのニュースフィード
ここで、Facebookについて説明する。Facebookとは、2004年に、マーク・ザッカーバーグが中心となって設立したSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で、現実世界の繋がりをオンライン上に再現するため、実名登録が原則である点に大きな特徴がある。また、InstagramやLINE、Snapchat、WhatsAppなど、他のSNSと比較して、ニュースを得るための情報源とされる傾向にある点も特徴的だ。あるアメリカで行われた調査によると、「ニュースをネット上から収集することがある」と答えた人のうち、実に3分の2に当たる66%もの人が「Facebookがニュースの情報源である」と答えたことが明らかになっている。Facebookを利用する際に、最初に開かれるページが「ニュースフィード」と呼ばれるページだ。ニュースフィードとは、一般のウェブサイトにおける「ホームページ」に該当する。サイト上にて互いに承認しあった友達の投稿や、そのような友達あるいは自分が「いいね!」(ある特定のコンテンツが好き、興味がある、共感する等の意思を表示するための機能)を押した企業ページの更新情報、知り合いの中で人気が出た投稿、フォローした、あるいは関心を示した報道機関や企業、政府による投稿、そしてニュース記事など、様々な更新情報が総覧できる場所だ。
とはいえ、Facebookは利用者と繋がりを持った人や機関の投稿を、ただ単純にニュースフィード上へと羅列しているわけではない。実際には、利用者がどんな言葉を検索したか、どの投稿をクリックし、どの写真に「いいね」ボタンを押した、あるいはコメントを加えたか、繋がりのある人物は誰がいるか、趣味は何か等の情報を収集し、解析することで、各利用者が興味を持ちそうな内容の投稿や広告等を意図的に「選択」し、一部のみを取り上げてニュースフィードへと表示している。解析の対象はログオン時のみだけでなく、ログアウトした後にも及び、他に閲覧したウェブサイトまでがFacebookによって追跡される。このシステムをアルゴリズムと呼ぶ。利用者は面白そうな投稿を次々見つけることができるため、結果として何時間もFacebookに没頭することになるだろう。広告収入を最大限にするために、利用者ができるだけ長時間サイトを利用することこそが、会社の望んでいることなのだ。

データの取り扱いにつて話すFacebook会社CEOマーク・ザッカーバーグ(写真:Anthony Quintano/flickr [ CC BY 2.0])
さらに、Facebookは、社会に害があるものを、独自の基準によるアルゴリズムでニュースフィードを編集し、意図的に表示しない場合もある。だが、その対象には疑問の声が上がることも少なくない。例えば、ベトナム戦時下にナパーム弾から逃げ惑う少女をとらえ、ピューリッツア賞を受賞した『戦争の恐怖』という有名な写真を、ノルウェーの作家がとりあげようとしたところ、Facebook側は児童ポルノ写真と認定し記事を削除した。その事件に対してノルウェーの大手新聞社であるアフテンポステン紙が抗議。最終的にFacebookは、会社側に非があることを認めた。
国家の影響をうけて検閲を行った事例もある。Facebookがイスラエル政府と、ネット上の扇動行為への対策のため提携することに合意した直後に、パレスチナのジャーナリストのアカウントが停止した。Facebook側は手違いだったとするも、イスラエル政府が、「テロリズム」促進の恐れがあるとして削除を要請した、パレスチナ占領に対して抗議的な内容のFacebook投稿150件以上のうち、そのほとんどに応じている。パレスチナに住むFacebook利用者のうち96%が、ニュースを得るための手段として使用している現状を考慮すると、この事実は極めて重要だ。
また、こんな事例もある。2014年は、ニュースフィードに明るい話題と暗い話題を表示することによってどのように人の反応が変化するかを調べる実験を大々的に行っている。そのために約70万人の利用者が何の断りもなく被験者となった。結果、明るい話題を多く目にした利用者は、自身も明るい話題を投稿する傾向にあり、逆に暗い話題を多く目にした利用者は、自身も暗い話題を投稿する傾向が少し増えることが明らかになったという。Facebookの倫理性が問われることもさることながら、人間の考え方や感情に多かれ少なかれ影響を与える恐ろしさが垣間見える実験だと言えよう。

「いいね」のマーク(写真:Pixabay)
このように、ニュースフィードにて何を利用者に「見せ」、何を「見せないか」を取捨選択することから、実はFacebookとは、強大な力を持つ「報道機関」なのではないかという指摘も少なくない。ただし、Facebookはあくまで「誰もが自由に意見を発信できる場(プラットフォーム)を提供する技術会社」であると主張する。
Facebookと民主主義
ただでさえアルゴリズムの作用によって、私たちが得られる情報は編集されていると言える。しかしこれに加えてFacebookは、投稿に関する大きな方向転換を、独断で打ち出すこともある。例えば2018年1月には「社会的なつながりを重視する」という、新たな会社の方針が発表された。家族や友達の投稿を優先的にニュースフィード欄に表示させる一方で、企業や報道機関による投稿は積極的に表示させない。これは、利用者が受動的に画面をスクロールするだけではなく、利用者同士の能動的な交流促進を期待としているという。数多くの利用者が、Facebookをニュースの情報源として頼る中での、この方針転換が与える影響は大きい。
なかでも、最も大きな影響を受けるのが「民主主義」であることに注目すべきだろう。民主主義体制下では、社会における課題と、その解決策に関する判断材料として情報が機能しており、その一環として世論が形成されている。そしてその多くはメディアによって提供される。すべての国民が国の政策決定に対して正しく判断するには、信頼できる情報源が必要とされる。
そして、現実として、民主主義においてFacebookによる方向転換の影響を受けている国が現れている。セルビアの例を見てみよう。セルビアは、民主主義指数をもとに「欠陥のある民主主義」とされるように、民主化が不完全な国のひとつだ。民主化を大きく妨げる原因の一つとして、メディアに対する検閲制度が挙げられる。世間には政府に有利な情報が流布しているため、公正な報道には程遠い。このような国において民主主義を確立させるためには、例えばKRIK(犯罪および腐敗報道ネットワーク)のように、小規模であろうと、政府から独立して真実を伝える、不正を暴く報道機関の存在が重要だ。このように公に報道を行うことが難しい小さなメディアが読者を得るために用いる手段が、小さな報道機関であろうと、多くの読者に情報を提供することが可能なFacebookだ。KRIKがFacebookに頼るところは大きく、また同時に、多くの人々にとっても、政府による干渉を受けない情報を得ることが可能な貴重な場としてのFacebookが機能していた。しかし、ニュースフィードから報道機関による投稿を減少させるための予行演習として秘密裏に行われた「ニュース記事をニュースフィード上から排除する」という実験の影響からアクセス数は激減。同様の傾向がグアテマラ、スロバキア、セルビア、スリランカ、ボリビア、カンボジアでも見られたという。これらの壊れやすい民主主義が、サービスの品質向上のためという名目で軽く扱われている。

セルビア急進党代表ヴォイスラヴ・シェシェリのポスター(写真:Micki/Wikimedia Commons [ CC BY-SA 3.0 ])
しかし、頑丈な民主主義だとされている大国でも、Facebookの役割が問題視されている。特に、2016年の米大統領選以降は、世界中の関心の的となっている。まずはフェイクニュースにまつわる事例だ。フェイクニュースとは、報道に似せた嘘の情報を指す。選挙時には、候補者に関連するフェイクニュースがFacebookを通じて拡散された例も多い。これらが結果として、米大統領選の結果に影響を与えたとされる。また、ケンブリッジ・アナリティカというイギリスのコンサルティング会社は、Facebookから流出した5,000万人分の個人情報を不正入手し、分析。選挙時の投票行動に影響を与えようとしたとされる。Facebookを通じた民主主義に対する「武器」は、さまざまな形をとりうる。
規制をすり抜けようとするFacebook
Facebookが世間に与える影響は、とどまるところを知らない。上記のような問題を受けて、ヨーロッパでは動きが起こっている。EU一般データ保護規則(GDPR)が2018年5月に施行されるのだ。GDPRとは個人情報の保護を目的とした管理規則で、情報の移転と処理に関する法的要件を定めたものである。この規則の施行を目前に控え、Facebookは、これまでアイルランドにある欧州本社で管理していた、北米以外の19億人分の利用者情報のうち、ヨーロッパを除外した利用者情報15億人分を、より規制の緩い米国本社に移すと発表した。15億人の中にはアジアや中南米等の人々が含まる。これは厳格な規則の適応を恐れた逃避のようにも見える。すなわち、人々はより規制の緩い条件下で管理された情報を得ることになる。その情報も、あらゆる情報の中の一つの情報として人々の考えを形成し、選挙行動に寄与することとなろう。どれほど民主主義に影響を与えるかは未知数だ。

欧州委員会の本部ビル(ブリュッセル)前で行われたFacebookへの抗議デモの様子(写真:Avaaz/flickr)
Facebookが各方面から受ける批判に対して、ザッカーバーグCEOはアメリカ議会及び、欧州議会で証言をすることとなった。これまでの問題に対して謝罪はしたものの、質問をかわす場面も多く、規制を懸念している姿勢が明らかであった。
民主主義体制下に生まれたある団体が、自国そして他国、しいては世界の民主主義政治に大きく影響を与える時代になってきている。民主主義における情報の持つ役割は、想像するよりはるかに大きい。Facebookは今まさに分岐点に立っていると言えよう。これからの動きに注目だ。
ライター:Yuka Ikeda
自分にとって都合のよい情報、あるいはfacebookに操作されている情報ばかりを鵜呑みにし、無意識にその世界の中だけで生きているという現実…
facebookの影響力の恐ろしさを知った
現代のネット社会で、個人情報を保護することなんて不可能なんじゃないかなって恐ろしくなりました。
また新しい展開が見られました。
https://www.theguardian.com/technology/2018/may/24/mark-zuckerberg-set-up-fraudulent-scheme-weaponise-data-facebook-court-case-alleges
このガーディアン紙の記事にあるように、やはり、フェイスブックはケンブリッジ・アナリティカの件以上に、
意図的に利用者とその友達の個人情報を利益のために大量に集め、売り出してきた疑いも出てますね・・・
情報を「武器化」したという言い方をしています。
やはり、フェイスブックのビジネスモデルそのものに悪質さを感じます。
厳しく規制をする必要がありますね・・・
ジャスミン革命などの近年の民主化革命に見られるように、SNSは民主主義にポジティブな作用をもたらすものとしてのイメージが強かったので、この記事を読んで新たな視座を得ることができました。勉強になりました。いつも読み応えのある記事をありがとうございます。
facebookの中での検索ならまだしも、ログアウト後も追跡するなんて…
“アルゴリズム” 怖すぎる…
知らないことがいっぱいありました!
ありがとうござます
多くのFacebookユーザーがこの現状を知らずに利用しているのだと考えると恐ろしいです。
このような切り口の記事を読んだのは初めてだったのですごくためになった。
Facebookが本当に”広告収入を最大限にするために、利用者ができるだけ長時間サイトを利用すること”を望んで様々な施策を打っているかは、この記事からだけでは判断できないが、いずれにせよFacebookが民主主義に大きな影響を与えているというのは明白なので、Facebookには社会にとっての報道について考えた上で良い選択をして欲しいと思った。