2022年4月、電気自動車メーカーテスラ(Tesla)のCEOであり、世界一の億万長者と言われるイーロン・マスク氏が、「言論の自由を守るため」ツイッター(Twitter)を買収すると発表した。しかし、ここで出てきた「言論の自由を守るため」とは一体どのような意味を持つのだろうか。それは、ツイッターにおいてなるべく制限が無い状態、つまり私たちの知らないところでユーザーの発言内容が削除される、他の人にその内容が表示されない、さらには意図的に表示順序が操作されるといった心配が無く、言論の自由が保障され促進される状態を実現するためだ。そして、ツイッターだけでなく他のSNS(※1)やインターネットサービスなどのビッグテック企業でもそのような情報統制が行われており、ツイッター同様に投稿やサイトの表示の順序や表示するかどうかを私たちの知らないところで決められるという事態になっている。
直近では、ロシアがウクライナに侵攻したことを受け、ロシア国内において侵攻に関する真実を隠蔽したり、情報統制が行われていることが注目されている。ロシアにいる人々は真実を知ることができないとされているが、ロシア以外ではどこまで真実を知ることができているのだろうか。言論の自由を謳う欧米諸国を拠点とする、世界中の大部分の情報を管理、運用するビッグテック企業により、我々の見えないところでオンライン上での言論の自由が制限されたり、情報統制が行われているのではないだろうか。実際、そう言えるような事例がこれまでに数多く起こってきている。今回は、この問題について深く見ていこうと思う。
目次
企業によるオンライン上での「情報統制」とは
オンライン上で他者によるコンテンツの投稿や閲覧を制限する行為は、総じて「オンライン検閲」と呼ばれる。検閲とは、「権力者が容認できない、あるいは脅威であるとみなす考えや情報の自由な交換を抑制しようとするものである」と定義されており、基本的には政府により行われることが多い。しかし、政府だけがこのような行動をとっているわけではない。オンラインで情報を管理、運用する企業も同様の行動をとっているのだ。
実際に、ツイッター(Twitter)、フェイスブック(Facebook)、ユーチューブ(YouTube)、ティックトック(TikTok)といったSNSやグーグル(Google)といった検索エンジンなどの運営側が、様々な理由から情報の投稿や閲覧を制限している。これらは、ヘイトスピーチや暴力を促すものなど害を与えると考えられるものや真実と異なるもの、誤解を招くもの、自社もしくは自国政府に不利になるものなど、様々な目的で行われる。ここで問題となるのが、情報統制などの判断基準が企業の裁量に委ねられているという点だ。確かに、ユーザーを危険なコンテンツや誤報、偽情報から守るという大義名分があるかもしれないが、何が危険で何が真実であるかは企業が決めるのであり、必ずしもその判断が他の企業や個人にとっても同じだとは限らない。もっと言えば、単純にその企業にとって都合の良いことが真実で、都合の悪いことが危険や真実でないものと見なされてしまうかもしれないのだ。また、それぞれの企業とつながりが深いアメリカ政府や活動する現地政府といった強大な権力の見解や方針にそぐわない、もしくは相反する場合に危険や真実でないものと見なされ、情報統制が行われるかもしれない。
そこで今回の記事では、このようなオンライン上の情報管理企業による情報統制について詳しく触れていく。まずは、代表的なオンライン検閲の手法である、1)発信されている情報の信憑性を問う警告などを付けるラベリング、2)投稿の表示回数を減らして人々の目に入らないようにするダウンランキング、3)アカウントや投稿をまるごと消してしまう削除・機能停止の3つについて、具体的な事例を交えながら紹介する。その後にこの3つには当てはまらないが特筆するべき事例にも触れていく。
ラベリング
ラベリングとは、特定の内容や話題に関するユーザーの投稿に対し、管理者側によって情報の信頼性が低い、もしくは危険性があると判断された場合にその投稿にラベルを付け、他のユーザーに警告を与えるものだ。
例えば、新型コロナウイルス流行下の2020年5月から「ワクチンやマスクの着用に効果がない」などの「虚偽の内容」を含むと判断された投稿にツイッターがラベリングを行った例が挙げられる。ツイートに誤解を招く内容や未確認の主張があるかどうかを判別し、該当した場合にはその話題に関して「外部の信頼できる情報源」にリンクし、サイトに飛ぶことができるようになっている。また、ツイート内容が世界保健機関(WHO)などの公式機関や公衆衛生専門家による新型コロナウイルスガイダンスと矛盾する場合には、そのツイートに警告を付けるようになった。同時に、警告を受けたユーザーには警告回数に応じて罰則(※2)が与えられることとなった。
また、SNS上での投稿のみならず、ニュースを発信するサイトにも情報の制限を促すラベルを貼るツールも存在する。例えば、ニュースガード社(Newsguard)による、ニュースの信憑性判断ツールがこれにあたる。これは、独自の基準に沿ってニュースサイトに信憑性があるかどうかを判断し、一定の基準を下回った場合にはブラウザー内でサイトに赤信号を付け、人々に信憑性が低いことを表示するものである。実際、アメリカの外交政策をたびたび批判するミントプレス(MintPress)というニュースサイトは、ニュースガードにより信憑性が低いとの判断をされ赤信号を付けられてしまった。ミントプレスはこの評価が恣意的で根拠が示されていないものとして詳細に反論をしている。
さらに、近年ニュースガードはそれ自体をマイクロソフト社(Microsoft)やグーグルといった大手企業のデバイスに導入し、最終的にはアメリカで販売される全てのインターネットデバイスにデフォルトで付けられ、自動的にシステムが実行されることを目指しているという。現段階では、ニュースガードは既にマイクロソフトと提携を結び、そのブラウザアプリであるマイクロソフトエッジ(Microsoft Edge)の内蔵機能としてニュースガードアプリを追加している。また、マイクロソフトはニュースガード社のシステムを積極的に全国の図書館や学校に導入しようとしており、それらの施設全てでニュースガードのシステムが適用される日は遠くないだろう。
ダウンランキング
ダウンランキングとは、アルゴリズム(※3)によって意図的に他のユーザーのSNSや検索サイトのフィードに特定の投稿やウェブサイトなどのコンテンツが表示される回数を減らし、情報の広がりを防ぐものだ。つまりグーグルなどの検索エンジンでは、検索ワードに対してどのウェブサイトが上位に来るかを決め、内容によって意図的に低い順位でしか表示させなくするものだ。またSNSの場合ではある投稿の表示回数を減らす、といったものである。閲覧回数を減らし、広範囲に情報を広めないようにする措置であると言える。
例えば実際にフェイスブックは、報道機関に対しダウンランキングによる情報統制やニュース記事の表示制限を行っている。元々、ホームページのような役割を果たす、フェイスブックのニュースフィード画面に表示されるコンテンツは、ユーザーの閲覧履歴などから興味を持ちそうなものを表示し操作するという仕組みをとっていた。しかし2018年に、アルゴリズムを用いてニュース記事の表示を減らすよう方針が変わった。さらに2021年には、政治的内容を持つ投稿の表示を減らすよう決定し、実験的に4カ国で実施され始めたのだ。
また、複数の報道機関のウェブサイトのアクセス数が不自然に大きく減少したという2017年の出来事もある。これは同年4月にグーグルによって行われた、プロジェクトアウル(Project Owl)という名のもとに進められたアップデートによるものだとされる。グーグル側の説明では、フェイクニュースがインターネットに流布することを阻止するための新たな検索チェックツールであるとしている。だが、実際にはフェイクニュースであるとは考えにくい左派や社会主義派のオルタナティブメディア(※4)へのアクセス数が、差はあるが大きく減少することとなった。具体的には、2017年4月~同年7月の間で、最大でワールドソーシャリストウェブサイト(World Socialist Web Site)(以下WSWS)が約67%減少し、デモクラシーナウ(Democracy Now)が約36%、ウィキリークス(Wikileaks)が約30%減少するなど、約20~67%の割合で13のウェブサイトへのアクセス数が減少したという。
削除・機能停止
削除・機能停止とは、その名の通りコンテンツを一時的もしくは永久的に削除、あるいは強制的にあるユーザーのアカウントを停止してしまうことなどを指す。わかりやすい例を挙げると、新型コロナウイルスが中国武漢の研究所から発生した可能性をほのめかす投稿をフェイスブックが禁じ、これらを削除していた。
削除や機能停止の判断には、政治的な意味合いの強い場合もある。例えば、アメリカのニューヨークポスト紙が2020年のアメリカ大統領選挙直前に公開した、有力候補であったジョー・バイデン氏の息子、ハンター・バイデン氏に関する暴露記事に対し、同社のツイッターアカウントを約2週間停止させられた事例がある。問題となった記事は、ウクライナのエネルギー会社であるブリスマ社(Burisma)の役員となったハンター・バイデン氏が当時副大統領であったジョー・バイデン氏に他の役員を紹介していたことが記載されたメールが、廃棄されたパソコンから発見された、という内容を報じたものであった。 つまり、この記事によって家族関係を利用し政治とビジネスの癒着をはかったのではという疑いがかけられることとなった。大統領選挙直前にこの候補に不利な情報を抑制するという疑いがツイッター側にもかかった、ということがこの例の全容である。ツイッター側はニューヨークポスト紙のアカウントを停止したのみならず、全てのユーザーがその記事をツイートすることやダイレクトメッセージで共有することを禁止したのだ。そして、この話題をツイートしようとした者には警告文が表示され、記事のリンクの安全性が疑われ、最後はツイッターから記事を読もうとするとブロックされてしまうという。
SNS上で報道機関のすべてのコンテンツがまるごと削除されるケースもある。例えば、2022年のロシアのウクライナ侵攻を受けて、ユーチューブはロシアの国営放送のチャンネルであるRTの全てのチャンネルが完全に削除されてしまった。動画が削除された理由について、ユーチューブ側は、ウクライナ侵攻に関するディスインフォメーション(※5)を広めているためであるとしている。しかし、ウクライナ侵攻とは全く関係ない膨大な数の動画まで削除されており、それに対する具体的説明はされていない。同チャンネルで自身が司会を務める動画6年分が削除されたジャーナリストは、番組内でウクライナ侵攻どころかロシアの話題を扱ったことは一度もないと語っている。
情報の流れの壁となるその他の要因
以上でオンライン上の情報統制の主な種類とその手法について述べたが、それらに該当しないが触れるべき重大な情報統制の手法や要素があるので、紹介していこうと思う。
まずは、報道機関による資金調達の方法が制限されてしまうというものだ。例えば、多数の独立系報道機関やジャーナリストは読者などから購読料や寄付を受け取るためにキャッシュレス決済サービスの一種であるペイパル(PayPal)を利用している。しかし、2022年5月にペイパルは「規定違反」を理由に複数の報道機関やジャーナリストのアカウントを一時的に停止し、そのアカウントの残高までもが凍結された。制限を受けた報道機関は、共通してロシアのウクライナ侵攻に対するアメリカ政府など公式の方針や姿勢に、様々な形で異を唱えていた。また2010年12月には、アメリカ政府を含む多くの機関の秘密情報を暴いてきたウィキリークスが注目されていた時に、アメリカ国務省がウィキリークスへの送金を停止するペイパルに求め、ペイパルがそれに応じたという過去もある。
SNSなどオンライン上のサービスがアメリカ政府の見解に合わせて情報統制を行っているとも捉えられる現状の背景には、運営レベルの人材が関連している可能性が否定できない。例えば今や世界で12億人もの人が利用し非常に強い影響力を持つSNS、ティックトック(TikTok)の運営会社は、近頃北大西洋条約機構(NATO)やバイデン大統領の政権下で最も主要な人材供給源となっていて、現在少なくとも10人の社員が国家安全保障や外交の要職に任命されているオルブライトストーンブリッジグループ(Albright Stonebridge Group)(※6)というグローバルビジネス会社出身の「新入社員」が所属しているという。その中でも、過去にNATOの「心理作戦」に参加していた人物も在籍しており、彼らはそれぞれティックトックの運営やコンテンツの管理などに携わる重要なポストに就いているのだ。
運営会社がこのような状態になっているのはティックトックだけではない。先程紹介したニュースガード社の内部にも、多くの米政府関係者が存在している。元国土安全保障長官や元CIA長官、元NSA長官や、太平洋評議会(Atlantic Council)出身などアメリカ政府やNATOと深いつながりを持つ機関出身の経歴を持つ人物が多数顧問として在籍している。更にニュースガードの出資企業もまたアメリカ政府との関わりが強い企業が名を連ねている。さらにフェイスブックも同様にアメリカ政府の関係者が多く運営会社に名を連ねており、ティックトックやニュースガードと同様にアメリカ政府関係者と思われる人物が多く運営サイドに在籍している状態になっている。
これまで述べてきたようなSNSや検索エンジンによる情報統制の措置は数年の間に大きく台頭してきているが、ついに政府レベルでも欧米で動きがみられている。例えば、現在アメリカ政府は偽情報ガバナンス委員会(Disinformation Governance Board)という組織を作ろうとしている。アメリカ政府によるとこの組織は、情報操作の脅威からアメリカを保護することを目的としている。だが、抜擢された初代委員長自身が過去にディスインフォメーションを発信した経歴を持ち、そもそもこの組織自体が明らかな情報統制機関であるという批判が多く寄せられ、この組織は一時停止を余儀なくされた。
何が真実で何が偽情報あるいは誤情報かを決めるのが権力者になると、権力に都合の悪い情報が偽情報・誤情報にされることは容易に想像できる。少なくとも戦争及び外交問題においては、アメリカ政府は数々の偽情報をねつ造してきた歴史があるなか、真実に関する判断をアメリカ政府に任せることは極めて危険であろう。
誰の「真実」?
さて、この記事では様々な情報統制の問題について触れてきたが、そもそもなぜ情報の統制や検閲が問題となっているのだろうか。それは、情報の正しさを権力者が決めても、ビッグテック企業がアルゴリズムによって自動的に決めてしまうとしても、どちらにせよ私たちからは見えないところで情報統制が行われていることだ。つまり、私たちには見えないからこそ、情報統制されていると気づくことができないのだ。その上、国家権力やビッグテック企業自身の利益のために情報統制が行われていると捉えられるケースもあるのではないだろうか。
SNSの企業が自国の政策方針に合わせて許すと許さない例は少なくない。例えば、フェイスブックは、本来なら暴力を促す内容を含む投稿を禁止しているはずなのに、2022年3月にはウクライナに侵攻するロシア兵に対する暴力を促す投稿を例外的に認めることにしたケースである。また、ナチスの思想をもつウクライナ軍に組み込まれたアゾフ連隊は、2019年以降ヘイト集団として、フェイスブックでこの連隊への支持表現を禁じられていたが、ウクライナ侵攻にかかるロシアへの抵抗の分脈であれば例外的に認めることを2022年2月に決定した。
また、偽情報だと判断されて削除、ブロックされたが、後々その内容は真実だったと発覚するケースもある。例えば、上で述べたハンター・バイデン氏のメールに関する事件も、記事が発表された直後にツイッターで抑制されたが、現在ではその報道は真実であるとされている。また中国武漢の研究所から新型コロナウイルスが発生したという話も同様に最初は情報統制されたが、これも今は偽情報ではなく一つの可能性として検証に値する説である、との見方が強くなっているのだ。
このように、真実が権力や企業によって恣意的にブロックされてしまうことが多くあり、たとえ未確認の情報でもそれを押さえ込んでしまうと、その情報に関する真実が出てくるのが遅くなってしまうだろう。
では、私たちは一体どうすれば良いのだろうか。ここで、百年近く前にアメリカ最高裁判所の裁判官が残した言葉を紹介する。偽情報への対策として「沈黙を強制するのではなく、より多くの言論を」提供すべきだと述べた。つまり、偽の情報や間違った情報を抑制するのではなく、そこに多くの正しい情報を提供するべきなのである。また、情報の受け手がその善し悪しを判断できるようにすることも重要な対策だとも言える。メディアリテラシーや、物事を批判的に捉えるクリティカルシンキングを教育の段階においてレベルアップし、読者や視聴者自身でその信憑性を見極められるようになることがその改善につながるのではないだろうか。
※1 SNSとは、ソーシャルネットワーキングサービス(Social Networking Service)の略称である。
※2 警告を2回もしくは3回与えられるとそのユーザーのアカウントが12時間停止され、4回目は7日間停止され、最終的に5回警告を受けるとそのアカウントが永久的に停止される。
※3 アルゴリズムとは、投稿の表示される順序や投稿が表示されるかどうか、そして投稿する内容の制限や利用者のアカウントを削除してしまうかどうかをシステムによって自動的に決める仕組みのことである。
※4 オルタナティブメディアとは、大手新聞社やテレビ局などの主流なメディアに対する代替的なメディアのことを指す。
※5 ディスインフォメーションとは、特定の国家や組織、個人の信用を失わせるために意図的に流される虚偽の情報のことである。類似している言葉にミスインフォメーションというものがあるが、こちらは誤解や勘違い、確認不足などによって故意ではないまま流される誤認情報の事を指す。
※6 オルブライトストーンブリッジグループ(Albright Stonebridge Group)は、マデレーン・オルブライト元アメリカ国務長官が設立した会社である。
ライター:Yudai Sekiguchi
SNS以前の時代にも、新聞やテレビなど大きな影響力を持つソーシャルメディアが、大物政治家や大企業、政府との癒着や忖度で、報道内容を恣意的に操作するということはあり得てきたと思います。今回たまたまそのメディアがネット上に移行しただけだと捉えたとして、問題なのはそれをお金さえあれば個人が会社ごと買収できてしまうという点だと思いました。SNSも立派な情報媒体ですが、その影響力の大きさが故に、公平性や透明性を担保するのはかなり難しいのだと改めて考えさせられました。
この記事を読むまで、オンライン化での情報統制が様々な形で行われることを無意識に受け入れた自分に気づきました。
企業にとっては、投稿の削除等は企業活動の死活問題になりうるため、統制に関して私達個人も認識を改める必要があると感じました。