これまでGNVでは日本メディアの国際報道に関して、日本大手新聞3社を対象に独自に集めたデータを元に様々な角度で傾向分析し、現状を伝えてきた。しかし日本における報道メディアは新聞だけではない。テレビは、情報量は減ってしまうが音声・動画、解説図を上手く組み合わせ、新聞よりもインパクトをもって情報を分かりやすく伝えることができる。これもまた私たちの世界情勢理解に大きな影響力をもつ媒体と言える。そこで今回はテレビに焦点を当ててみたい。
テレビが伝える国際報道として、今回はNHKのBS1で放送されている特集番組「国際報道2016」を対象とした。2016年度の1年間(※1)で取り上げられた国際報道のトピックや国の種類、またそれらの関係性を調べることにする。
今回、232件の特集番組は「取り上げられた地域」「取り上げられた主国」「トピックのカテゴリー」の観点でデータを収集し、分析を行った。以下で3つの切り口でその分析結果を見ていこう。
(1)取り上げられた地域
全232件の特集番組のうち、全体の41.3%がアジア地域で最も多かった。次いで北米、ヨーロッパである。この3地域で全体の84%を占めた。ヨーロッパ、北米地域に関しては2016年度のニュースとして記憶にも新しい、「イギリスEU離脱」に関する記事がヨーロッパ全体の33.7%、「米国選挙」に関する記事は北米全体の67.0%であった。米国選挙は「国際報道2016」の全特集の15%も占め、特に特集が多く集中したことが伺える。候補者攻防の報道から選挙中の状況、終了後の影響や政策内容に焦点を当てたものも含んでおり、ほぼ1年間全てにわたって特集が組まれていた。一方で、中南米の極端な少なさにも注目すべきであろう。1年間を通しても取り上げられたのは、ブラジル・コロンビア・ペルーで各1件のみ、合計してもアメリカ1国の18分の1に値する。これは報道地域の偏りをきれいに表している。加えて中南米ほどではないが、アフリカ地域への注目度も低い。また、アフリカに関する特集の32.8%は日本がPKOに自衛隊を派遣していた南スーダンが占めていた。
(2)取り上げられた国上位10カ国
次に、先ほど若干言及したものを含め国単独で見た時の取り上げられ具合をみていく。全特集番組232件のうち、他国と比較してとびぬけた数値を出したのはアメリカ合衆国で、全体の22.8%を1国で占めた。後に続くアジア・ヨーロッパ諸国との差は図を見ての通りである。貿易および安全保障上、日本にとって関係が深い中国、朝鮮半島、ヨーロッパの大国もランクインしている。また、紛争が目立つシリアとイラク、そして言動が過激的とも言われる新しく着任した大統領が注目されているフィリピンも上がっている。しかしアフリカおよび中南米の国はトップ10には入っていない。
(3)特集内容のカテゴリー
特集内容のカテゴリー(※2)は「政治」関連がほぼ半数(47.6%)を占め、次いで「戦争/紛争」(13.5%)が多かった。具体的なトピック内容は「政治」であれば、やはり英国EU離脱、米国選挙、またオバマ大統領の広島来日、フィリピンのデゥテルテ大統領選出が多くみられた。次に、「戦争/紛争」は主にイラクのモスル奪還作戦、シリアのアレッポ攻防が目立った。この二つを含むシリア紛争・イラク紛争・ISに関する特集は「戦争/紛争」全体の47.5%であった。また、一番取り上げ回数の多かったアメリカ合衆国は、そのうち「政治」の特集が80%で、それ以外に「社会/生活」「テロ」「事件」「経済」と続く。アフリカ地域に関しては41.3%で「戦争/紛争」が一番多かった。
以上のように、報道が集中している地域とほとんど報道の対象になっていない地域で分かれている。しかし、これは2016年度に起きた出来事とその報道を検討する以前に、NHKのより長期的な優先順位も考慮する必要がある。まず、NHKが世界に持つ支局の配置を見てみる。アジア14拠点、北米はアメリカのみに3拠点、ヨーロッパは6拠点あるが、中東は3拠点、アフリカには中東に近いカイロを含む2拠点、オセアニアは1拠点である。出来事が世界のどこかで起きたときの取材・報道するかどうかの判断ではなく、もし将来に起きたら、どこを取材・報道できるようになりたいのかという判断である。上記の配置からNHKが世界のどこを重要視しているのかが明らかである。これは特集だけで反映されているのではなく、普段のNHKニュースでも同じような傾向が見られており、アフリカや中南米に対する報道が乏しい。さらに、同じNHKがBS1で提供する「世界の放送局」にもその優先順位が見られる。この番組では、世界の23のテレビ局からのニュースを日本語に吹き替えて放送している。しかし、そのテレビ局は、アメリカだけで4局、ヨーロッパからは6局が使われているのに対して、中南米ではブラジルの1局のみで、アフリカ発信のテレビ局はない。つまり、NHKの取材網だけでなく、外部から得る情報においても同じような優先順位が見られている。

NHK放送センター、東京都渋谷区神南。写真:Rs1421 ( CC BY-SA 3.0 )
視聴者のニュース理解を促す大きな効果を期待できる特集番組も、実際に取り上げられた国・地域、トピックのカテゴリーには大きな差があった。特集番組は通常のニュース以上の時間を設け、詳しく報道できるからこそ、情報量の多さや解説の深さは視聴者にとって有益となる。しかし、報道の対象となる地域やトピックの幅広さが限られ盲点が依然多く、改善の余地があるのではないだろうか。グローバル化が進んでいる現代には、さまざまな次元で全世界がつながっており、地域を超えた世界の出来事もたくさんある。このままでは、視聴者の世界への理解は偏ったままになるだろう。
ライター:Aki Horino
グラフィック:Aki Horino
脚注
※1 今回の記事における対象期間は2016年4月1日~2017年3月31日の1年間であるが、土日・祝日・一部特集が実施されなかった平日14日分は除き、232日分が調査対象になっている。またデータの分類基準、やり方はNHKが自社ホームページに記載しているものではなく、GNVが設定した分類基準や項目「GNVの分析方法【PDF】」で行っている。
※2 GNVのカテゴリー(16項目)
政治、戦争/紛争、社会/生活、経済、テロ、事故、軍事、事件、科学技術、保健/医療、芸術/文化、教育、環境/公害、スポーツ、気象災害、デモ/暴動