2016年4月3日、パナマに拠点を置く法律事務所から流出した1150万件の文書をもとに、世界中の100以上の報道機関がタックスヘイブン(租税回避地)の不透明な実態を共同で調査し公表した。これらの文書とそれに続く調査は「パナマ文書」と呼ばれた。文書は当初、現在も出所不明の内部告発者からドイツ紙ズュートドイチェ・ツァイトゥングに漏れた。
パナマ文書は、富裕層がタックスヘイブンを利用して、本来住み働く社会に納めるべき税金を回避できるという深刻な不公平を明るみに出した。文書は、個人や企業、その他の組織がペーパーカンパニーや国外(オフショア)の仕組みを使って資産や取引を隠し、税金を回避する手口を詳細に示している。調査は複数の逮捕や未納税の大規模な回収、有力な政治家の失脚をもたらした。また、タックスヘイブンや秘匿管轄区域がほとんど規制されていないことが引き起こす広範な問題についての議論を呼び起こした。
パナマ文書の調査が公表されてから10年が経った。これらの調査は何を成し遂げたのか。提示された問題はその後どう変化したのか。

パナマ文書関連のイベントに登壇するフレデリック・オーバーマイアー氏(内部告発者からパナマ文書を受け取った記者の1人)(写真:Nordiske Mediedager / Wikimedia Commons [CC BY-SA 2.0])
目次
パナマ文書について
2015年、モサック・フォンセカという単一の法律事務所からパナマ文書が流出した。事務所はパナマに拠点を置いていたが、世界中の顧客を抱えており、彼らを21のオフショア区域にあるペーパーカンパニーや秘匿口座とつなげていた。文書は数十年分にわたり、21万4千社以上の会社に関する情報を含んでいた。
文書は当初ズュートドイチェ・ツァイトゥングに流出したが、情報量の膨大さと世界各地の顧客や金融取引の関与のため、同紙は文書を国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に共有した。ICIJは世界中でジャーナリストのチームに声かけたり、調整役を果たした。記者が文書に安全にアクセスし、情報や調査結果を共有できる仕組みを整えた。参加した記者は自国や身近な地域に焦点を当て、データベース内で個人や企業を検索し、調査に取り組んだ。
調査は秘密裏に1年以上続いた。すべての報道機関が同じ日に公表を始めることで合意し、その合意は守られた。2016年4月3日、世界各地の著名な個人や企業の隠し資産や秘密の取引に関する報道が一斉に出始めた。
オフショアのペーパーカンパニーやタックスヘイブンに関する大量の流出文書がICIJを介した共同調査を促したのはこれが初めてではない。2014年のルクセンブルク文書や2015年のスイス文書が先例にあった。しかし、今回の文書量は確かに前例がなかった。

スイス文書で発覚したHSBC銀行の口座の持ち主の所在地。多くの資金は他のタックスヘイブンから集まっている(写真:Martin Grandjean / Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0])
タックスヘイブンの役割
ここでタックスヘイブンに伴う問題について探る。
名前が示すとおり、タックスヘイブンは個人や企業が税負担を最小化できる法域だ。税率はもちろん重要な要素で、個人税や法人税が非常に低く設定されていたり、ゼロであったりすることもある。しかしそれだけではない。所得や取引、法人設立などを規定する法的枠組みもタックスヘイブンの重要な特徴だ。非居住者を含め誰でも低コストで容易に資金を移動させ、ほとんど監視や手間なく法人を設立できるように法律が整えられている。多くのタックスヘイブンでは、金融サービスを利用する個人や企業の大半が現地に実際に拠点を置いていない。
この規制枠組みの大きな特徴は秘匿性だ。秘匿性は資金を国外に隠すことを助ける上で重要な役割を果たす。タックスヘイブンは、そこへ移したり通過させたりした資金が他国の当局によって容易に追跡できないようにすることで、個人や企業が租税回避ができるようにする。例えばペーパーカンパニーや信託が容易に設立され、それらの実際の所有者が隠される形で利用される。
タックスヘイブンの利用が常に違法というわけではない。法律事務所や会計事務所、その他のオフショアサービス提供者は、顧客がタックスヘイブンの法的抜け穴を見つけて租税回避を手助けする。ただし、これは必ずしも合法であることを意味しない。そのような抜け穴はしばしば法的グレーゾーンにあり、当局によって異議を唱えられ、起訴される可能性がある。だが秘匿性は、明白な違法な脱税を助長することもある。
例えば、企業はタックスヘイブンにあるペーパーカンパニーを使って利益を移転し、実際の課税対象となる経済活動が行われた国ではなくタックスヘイブンで利益が発生したように見せかけて課税を回避することが多い。場合によっては表面的に合法的な抜け穴を利用するが、多くの企業は取引の品目やサービスの価値を不正に偽って利益を移すと考えられている。この手法は貿易における不正な請求(トレード・ミスインボイシング)」として知られる。

コンテナ船(写真:PickPik [Terms of service])
企業が自ら所有するタックスヘイブンのペーパーカンパニーに製品を低価格で「販売」し、その後価格をつり上げて本来の買い手に売るといった手口がある。利益が課税されないタックスヘイブンで上がったように見えるため、元の取引が行われた国で課される課税所得を最小化できる。
タックスヘイブンで守られる秘匿性は、制裁回避、麻薬や武器の不正取引、人身売買などの犯罪行為に関与する者も引き寄せる。タックスヘイブンを通じて、そうした活動から生じた取引や利益を隠し、資金をマネーロンダリングすることが可能になる。
タックスヘイブンでは秘匿性が法律によって厳格に守られることが多い。たとえばスイスでは、違法な金融活動を暴露した内部告発者が秘密保持法違反で刑事訴追される一方で、違法な金融行為自体はほとんど罰せられない事例がある。
上記のような特徴があっても、タックスヘイブンは必ずしも特定しやすいものではなく、合意された定義が存在しない。税率や秘匿性の度合いは管轄区域によって異なる。さらにタックスヘイブンは国全体ではなく、国内の一つの州や地域である場合もある。たとえばアメリカではデラウェア州がタックスヘイブンとしてしばしば挙げられる。また、イギリス本国自体はタックスヘイブンと見なされないが、英領バージン諸島、ケイマン諸島、バミューダなど、かつての大英帝国の遺産である支配下の国外領域は主要なタックスヘイブンとされている。
パナマ文書の直接的影響
それでは、パナマ文書の調査報道はこれらの問題に対して何を成し遂げたのだろうか。影響は即座に現れたものもある。当時のアイスランド首相シグムンドゥル・グンロイグソン氏は、調査公表当日に議会入閣時に申告していなかったオフショア会社の保有を突き付けられ、2日後に辞任を表明した。パキスタンのナワズ・シャリフ首相も、パナマ文書で国外の家族所有不動産が明らかになったことを受けて辞任し、汚職で起訴され懲役10年の判決を受けた。その他の何人かの国家元首についても一定のスキャンダルが起きたが、辞任に至ったのはこの2人にとどまった。

パナマ文書がきっかけで辞任に追い込まれたパキスタンのナワズ・シャリフ元首相(写真:World Economic Forum / Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])
他の影響については、各国当局が捜査を進め、裁判に持ち込んだため、より長い時間よう要した。パナマ文書の中心にあった法律事務所の創業者ユルゲン・モサック氏とラモン・フォンセカ氏は2017年にマネーロンダリング容疑で逮捕され、彼らの事務所は2018年に解散した。その後の数年間で、世界各国で未納税や罰金の回収が進んだ。回収額が特に大きかったのはイギリス、スウェーデン、フランス、スペインで、それぞれ約2億米ドルを回収したとされる。総額では10年で約13億ドルがパナマ文書の暴露によって回収されたと推定されている。
また、パナマ文書の調査は、他の事務所にあった同種の内部情報にアクセスできる関係者を刺激し、文書をメディアに流出させる動機を与えた可能性がある。パナマ文書後、さらにいくつかの流出に基づく調査がICIJを中心に行われた。特にパラダイス文書(2017年)やパンドラ文書(2021年)は大規模な流出で、いずれもパナマ文書と同程度の文書数を含んでいる。パンドラ文書の場合、文書は1つの法律事務所だけでなく、14の異なるオフショアサービス提供者や法律事務所から提供された。
依然として残る体系的問題
パナマ文書は、富裕な個人や企業が資産を隠し本来納めるべき税を免れるためにタックスヘイブンを利用することが、珍しいのではなく広く行われている慣行であることを暴露した。
モサック・フォンセカやその顧客に必ずしも特別な点はなかった。世界中に同様の機能を果たす法律事務所は多数存在する。法律事務所は会計事務所、銀行、その他のオフショアサービス提供者といった、利益移転や資産隠匿、租税回避・脱税を助長する広範なインフラの一部に過ぎない。たまたま内部告発者がアクセスできたのがこの事務所の文書だったにすぎない。したがって、パナマ文書の成果は、タックスヘイブンを取り巻くより広範な体系的問題への影響という観点から評価することが重要だ。
ICIJによるパナマ文書からの10年に関するレビューでは、「多数の国が金融の秘匿を助長する支援者を取り締まり、制度の抜け穴を塞ぐ透明化改革を推進してきた」と指摘している。多くの国で、法人の登録・所有やマネーロンダリングに関する法律が強化された。また、国際的には経済協力開発機構(OECD)が各国当局間で金融口座情報をより良く共有するための措置、特に自動的情報交換(AEOI)制度を導入した。

モサック・フォンセカ社のホームページ(当時)(写真:Фотобанк Moscow-Live / Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])
しかし、タックスヘイブンに隠された課税対象外の富の規模は依然として膨大だ。国際NGOオックスファムがパナマ文書公開10周年に合わせて発表した分析によると、2023年時点で世界の上位0.1%の富裕層がタックスヘイブンに隠す課税されていない富は2.84兆米ドルに上ると推定される。この額は世界人口の下位半分、つまり41億人が保有する総資産を上回る。
国際NGOタックス・ジャスティス・ネットワークは2024年の報告で、国境を超えた租税回避・脱税による世界的な歳入損失を最大4920億米ドルと推計した。また、低所得国はこうした租税回避・脱税の影響を不均衡に受けており、徴収税収の3.7%を失っているのに対し高所得国は2.4%にとどまると報告している。
国連税条約に向けて
パナマ文書以前から、上記のような問題に対して、包括的で有効な国際的税協力の枠組みを確立しようとする取り組みは存在した。こうした動きは主に低所得国が主導しており、多国籍企業(主に高所得国に拠点を置く)による国境を越えた租税回避・脱税が自国の税収に不均衡な打撃を与えていることを痛感していたためだ。2015年にエチオピアで開催された第3回開発資金国際会議では、税を巡る国際機関の設立を目指す努力が行われたが、複数の高所得国の反対で頓挫した。
それでもグローバルな税制改革を求める国々は粘り強く続けた。2022年12月、国連総会は「包括的かつ有効な税協力の推進」という決議を採択し、加盟国に対し「国連の政府間プロセスで策定・合意される国際的税協力の枠組みまたは手段の策定の可能性を含む」税協力に関する更なる議論を行うことを約束させた。
しかしこのプロセスが形を取り始めると、再び複数の高所得国が反対を強めた。2024年8月、国連総会の委員会で税協力に関する事前交渉条件に反対したのはオーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、ニュージーランド、韓国、イギリス、アメリカの8か国だけだった。タックス・ジャスティス・ネットワークは、世界の失われた税収の43%がこれら8か国によって可能になっていると推計し、彼らを「阻害する8か国(hurtful eight)」と呼んだ。後にアルゼンチンが加わり、同年12月に税条約設立プロセスを始動させる総会決議に反対したのは193か国中わずか9か国となった。

国連総会(写真: U.S. Government Works / Rawpixel [Public domain]
アルゼンチンを除き、これらの国はすべてOECD加盟国である。これまでOECDは税政策に関する世界的なアジェンダ設定を独占してきており、税協力改革に反対する国々は世界の税制問題を自身の管理下に留めようとしているように見える。OECDが推進してきた税政策はこれら加盟国に拠点を置く多国籍企業の利益に資してきたといえるが、現行制度下で世界各地で発生している巨額の税収損失は、そうした政策が失敗していることを示している。
改革の具体的提案には、企業や資産の実質的所有者の登録制度の強化、これらの企業・資産・所有者に関する情報の各国間の自動交換の改善などが含まれる。だが最も重要な提案の一つは、多国籍企業による利益移転を抑えるための単位別課税(unitary taxation)の導入である。これは「多国籍企業を、公式に利益を計上する地域(すなわちタックスヘイブン)ではなく、実際に事業活動を行っている場所、つまり従業員を雇用し、工場を運営し、商品やサービスを販売している場所に基づいて課税する方法」である。
まとめ
パナマ文書は、10年前に租税回避・脱税という広範な問題に重要な注目を集める転機となった。皮肉なことに、オフショア構造やタックスヘイブンの仕組みを利用して公共サービスの恩恵をただ乗りできるのは、社会の最も富裕な層である。一方で、税負担は主に低・中所得の個人や企業に重くのしかかっている。
この現状は不公平なだけでなく極めて破壊的だ。世界各国の政府から、公共インフラや保健、教育その他の社会サービスの維持に欠かせない税収を奪う。こうした租税回避・脱税の影響は低所得国で特に深刻であり、税収の喪失がしばしば生命の損失につながる。
国連での政府間税協力に関する交渉は2027年まで続く予定だ。複数の高所得国の反対があるにもかかわらず、国連を通じたグローバルな税制改革の試みは、こうした改革を導入・標準化・実施する歴史的な機会を提供する。GNVはこのプロセスの動向を引き続き追跡する。
ライター:Virgil Hawkins






















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