「ホンジュラスでは、武力が必要だ。ロジスティクスが必要だ。血が必要だ。民衆を支配下に置きたいのなら、徹底的に叩き潰さなければならない。締め上げるんだ」。元ホンジュラス大統領フアン・オルランド・エルナンデス氏のものとされるこの言葉は、2026年3月にエルナンデス氏から現職のホンジュラス国民議会議長に送られた音声メモの中で聞くことができる。
これは、2026年4月から5月にかけて、「ホンジュラスゲート」(Hondurasgate)として知られる国際的なジャーナリスト協働体によって公開された37本の音声ファイルの一つである。これらの音声に登場する声は、現職および元大統領を含む、ホンジュラスの有力政治家のものと思われる。ファイルには、エルナンデス氏とその仲間たちが、ホンジュラスでの政治権力への支配を強めるために、腐敗と暴力にまみれた手段を用いる意志があることを示唆する、衝撃的な発言が含まれている。
しかし、会話の内容は国家をまたいだものでもある。2025年に麻薬取引犯罪で有罪判決を受けたエルナンデス氏に対する、アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏の恩赦決定をめぐる疑わしい経緯や、イスラエルやアルゼンチンとの協力、ラテンアメリカの他国政府に政治的打撃を与えようとする試みなどに関する内容も含まれている。
本記事では、ホンジュラスゲートのファイルが提起する問題の背景と、そこに含まれる疑惑を探る。
フアン・オルランド・エルナンデス、2015年(写真:Brookings Institution / Flickr[CC BY-NC-ND 2.0])
目次
アメリカとホンジュラスの関係
ホンジュラスゲートのファイルに見られるホンジュラスとアメリカのつながりを踏まえると、この関係の背景を押さえておく必要がある。
アメリカには、ホンジュラスへの介入と干渉の長い歴史がある。20世紀初頭には、アメリカは複数回にわたりホンジュラスに軍隊と軍艦を派遣した。これは、ユナイテッド・フルーツ社(現チキータ)やスタンダード・フルーツ(現ドール)といった、アメリカの巨大フルーツ企業の利害にかなう政府と政策を、この国で維持させるためであった。この意味で、ホンジュラスは「元祖バナナ共和国」の一つとして知られるようになった。
第二次世界大戦後、ホンジュラスは中央アメリカ全域における米軍の介入の重要拠点となった。冷戦期を通じて、アメリカの存在と影響力は継続した。たとえば1954年には、中央情報局(CIA)が行ったグアテマラでのクーデターのための出撃基地として使用され、1980年代には、ニカラグアの反政府勢力への訓練・軍事支援の拠点として用いられた。
冷戦の終結により、ホンジュラスおよびその周辺へのこの種の直接的な軍事介入は困難になったが、アメリカの存在は地域に強く残り続けている。ホンジュラスは今なお米軍の軍事ハブであり、中部ホンジュラスにあるソト・カノ空軍基地は、中米最大の米軍基地である。
こうした軍事的存在と並行して、ホンジュラスには現在もアメリカの経済的・政治的利害が存在するが、輸出の主軸はフルーツから繊維・衣料品へとシフトしている。低賃金で働く工場労働者の存在が、ホンジュラスをアメリカの衣料メーカーにとって魅力的な生産拠点にしている。こうした工場の多くは、企業がホンジュラス政府にほとんど、あるいは全く税金を支払わずに済むように特別指定された輸出加工区(EPZ)の中に建設されている。
クーデターに対する抗議デモへの軍の対応、2009年(写真:dn / Flickr[CC BY-NC-SA 2.0])
左派から右派へ?
21世紀初頭に、ホンジュラスのアメリカへの一致路線はある程度変化した。2005年、マヌエル・セラヤ氏がホンジュラス大統領に当選した。当初はビジネス寄りの候補と見なされていたが、政権を握った後に実施した政策は、労働者階級をより支持するものへと変化した。たとえば彼は最低賃金を引き上げ、低所得世帯の土地へのアクセスを拡大した。2008年にはホンジュラスはベネズエラのペトロカリベ・プログラムに加盟し、安価で補助金付きの原油供給を受けられるようになった。
2009年6月、セラヤ氏は軍部によるクーデターで倒され、国外へ追放された。アメリカ政府はクーデターを積極的に支持した証拠は現れていないが、その後セラヤが権力に復帰することを阻止しようと動いた。弾圧的な環境の中で選挙が性急に実施され、2010年にポルフィリオ・ロボ・ソサ氏が大統領に就任した。
ロボ・ソサ氏はセラヤ氏の社会・労働改革を解体し始め、ビジネス寄り・アメリカ寄りの政策を再導入した。そうした政策の一つが、2013年に制定された雇用・経済発展特区(ZEDE)法である。ZEDEは投資促進を目的とした特別な自律的開発区として構想された。この法律は、半自律的統治、特別税制、柔軟な労働・土地利用規則、投資家寄りの商法を認めていた。ZEDEにはしばしば外国人アドバイザーも関与した。
ロアタン島に設けられた「プロスペラ」と呼ばれるZEDEプロジェクトは、その一例である。このプロジェクトには、パランティア共同創業者ピーター・ティール氏や同じく億万長者のマーク・アンドリーセン氏らが資金提供をしていた。プロスペラは、「政府をAIが運営し、主要通貨が暗号資産となる、制約なき権力、テックの幻想、資源の囲い込み」を特徴とする民営企業都市を、テック億万長者が築こうとする「新植民地主義」プロジェクトなどと批判されてきた。
フアン・オルランド・エルナンデス政権
クーデター後に国民議会議長に就いていたフアン・オルランド・エルナンデス氏は、2013年の大統領選挙に勝利し、2014年に国民党を代表して政権の座についた。2017年には、暴力的弾圧と不正にまみれたものとして広く批判された選挙で再選され、2022年まで大統領職にとどまった。エルナンデス氏は前任者の親企業・親米路線を継続し、アメリカによる多額の軍事支援を受けた。
こうした支援の多くは表向き、コロンビアからホンジュラスを経てアメリカへ向かう違法薬物の流れを止める目的だとされていた。しかし第2期政権下で、エルナンデス氏が主要な麻薬密売組織と共謀してコカイン輸送を円滑化し、国家権力と公的腐敗を利用して密売人を保護・支援するとともに、法執行機関による捜査を妨害しているという疑惑が浮上した。
エルナンデス氏は、アメリカの利害と歩調を合わせてイスラエルとの関係も強化した。ホンジュラスは国連でイスラエルを支持する投票を行うことが増え、軍事を含む多くの分野でイスラエルとの協力を拡大した。イスラエルは、ホンジュラスにスパイウェアその他の監視技術を提供した主要国とみられている。2021年、ホンジュラスはイスラエル大使館をテルアビブからエルサレムへ移転した4番目の国となった。
政権期間を通じて、エルナンデス氏の麻薬取引関与を示す証拠は、無視できないほど大きくなっていった。彼は第2期任期の終了後の2022年に逮捕され、アメリカへ身柄を引き渡された。2024年、エルナンデス氏は麻薬取引および武器関連の罪で有罪判決を受け、45年の禁錮刑を言い渡された。

再び左派から右派へ?
セラヤの妻シオマラ・カストロ氏は2022年にホンジュラス大統領に就任した。彼女は2009年のクーデターに抵抗する運動から生まれたリブレ党を代表していた。カストロ政権期には社会支出の拡大や最低賃金の引き上げなど、より左派寄りの政策への回帰が見られた。
2022年、議会は全会一致でZEDE法を廃止した。その理由は、これら特別経済区に対する一部国法の適用除外がホンジュラスの主権を侵害するという判断によるものだった。これを受けて、企業都市プロスペラは国際投資紛争解決センター(ICSID)に対し、107億米ドルにのぼる損害賠償を求める請求を行った。これを機にホンジュラスはICSIDからの脱退を決めた。2024年には、ホンジュラス最高裁がZEDEを違憲と判断した。
こうした動きは、ジョー・バイデン政権下のアメリカとホンジュラスとの間に一定の政治的緊張をもたらした。また、イスラエルとホンジュラスの関係にも変化が生じた。カストロ政権はイスラエル大使館をエルサレムから再びテルアビブに戻すことを検討し、ガザでのイスラエルによるジェノサイドが激化するなかで、カストロ氏はパレスチナへの支持を表明した。ホンジュラスは2023年、ガザの深刻な人道状況への対応として、在イスラエル大使を協議のため本国へ召還した。
カストロ氏の任期が終盤に差しかかると、2025年11月の大統領選挙が予定された。その頃、アメリカではトランプ氏が政権の座にあり、彼の政権はこれらの選挙結果に影響を及ぼそうと積極的に動いた。トランプ氏は建設業界の大物であり、エルナンデス氏がかつて率いた国民党の候補者ナスリー・アスフラ氏を公然と推した。トランプ氏は、もしアスフラ氏が勝利しなければホンジュラスへのアメリカ援助を打ち切ると脅迫した。そのうえで、選挙実施のわずか2日前に、トランプ氏は、ほとんど説明や正当化を行わずに突然エルナンデス氏への恩赦を発表した。その数日後、エルナンデス氏は釈放された。
アメリカの干渉と不正疑惑に彩られた極めて僅差の選挙戦の末、アスフラ氏は2025年12月に大統領当選者として宣言された。2026年1月の就任前から、アスフラ氏はまずアメリカ、続いてイスラエルを訪問し、これら両国との関係強化の再出発を示した。
マーク・ルビオアメリカ務長官とナスリー・アスフラ氏の会談、2026年(写真:U.S. Department of State / Wikimedia Commons[Public domain])
ホンジュラスゲートの録音
こうした文脈の中で、2026年4月30日、スペインのテレビ局カナルREDは、匿名のホンジュラス人ジャーナリストと協働し、エルナンデス氏、アスフラ氏、その他ホンジュラスの著名な政治家同士の会話と思われる37本の音声記録の公開を開始した。この協働は、1970年代のアメリカのウォーターゲート事件に由来する「ゲート」接尾辞を用いて、政治スキャンダルであることを示す「ホンジュラスゲート」と命名された。
これらの音声ファイルは、2026年1月から4月の間にワッツアップ、シグナル、テレグラムから抽出されたものである。エルナンデスは、録音に聞こえる声が自分のものだということを否定しているが、ホンジュラスゲート側は、声がデジタル的に生成・改変されたものでないことを高い信頼度で示す音声分析を公開している。ドロップサイトニュースが依頼した第三者専門家による分析でも、録音された声はエルナンデス氏およびアスフラ氏のものと「中程度の確信」で一致し、「AI生成ではない可能性が高い」とされた。この「中程度」の評価は、元の音声品質が悪かったためだとされる。
音声ファイルの真正性を100%の確実性をもって検証することはできないにせよ、問題となっている人物たちの会話である可能性は高いと見られる。本記事での音声ファイルの内容紹介は、事実であると仮定して行う。
権力の集中
本記事はエルナンデス氏の言葉の引用から始まった。これは暴力行使への言及が繰り返しなされる中の一つである。暴力による脅しは、たとえば2025年選挙での不正を暴露・告発しようとした国民選挙評議会のメンバー、マーロン・オチョア氏にも向けられている。音声メモにはオチョア氏への殺害予告が含まれており、彼は2026年4月に国外へ脱出した。録音の中でエルナンデス氏は、「彼(オチョア)がもうホンジュラスにいないなら、それを確認してくれ。そうすれば、アメリカでのインテリジェンスのコネを使ってやつを探し始められる」と話している。また録音は、オチョア氏を含む高官の罷免を目的とした政治裁判において、議会での票買収が行われていたことや、今後の選挙を担当する選挙当局のトップにエルナンデス氏に忠実な人物を据えようとする工作があったことも明らかにしている。
複数の「敵」と見なされた人物が標的となっているように見える。2009年のクーデターを主導した陸軍司令官ロメオ・バスケス・ベラスケス氏が、2026年3月にエルナンデス氏へ送った音声メモでは、彼が「大統領、すでに軍内部に政治的狩りを始めるためのグループを用意してあります。あとは、リストと名前を確認していただければ、動き出します」と語る様子が聞き取れる。
2025年選挙の選挙管理官マーロン・オチョア氏(写真:OEA-OAS / Flickr[CC BY-NC-ND 4.0])
また、エルナンデス氏が再び権力に返り咲く計画と思われる内容についても議論されている。2026年3月にアスフラ氏へ送られた音声メモで、エルナンデス氏は「君(アスフラ)が私を袖にすることはないと信じたい。君がその椅子に座っていられるのは、私のおかげだからな。大統領、次は私だ。そして私は君の支援を期待している。我々はトランプ大統領とそう話し合ったんだから」と語っている。翌月、エルナンデス氏は自分自身について「朗報だ、朗報だ。フアン・オルランドが大統領職に戻る。そのことを心にとめておけ」と述べている。
越境するつながり
これまでに見てきたように、録音の中ではアメリカおよびその政治指導者への言及が繰り返し登場する。アメリカの経済的・軍事的利害も頻繁に現れる。たとえばロアタン島にあるZEDEを拡張し、そこに新たな米軍基地を建設する計画についての言及がある。アスフラ氏はまた、太平洋とカリブ海を結ぶホンジュラスの鉄道回廊開発を加速させる計画にも言及している。2026年2月にエルナンデス氏へ送った音声メモの中で、アスフラ氏はこれをアメリカの「ゼネラル・エレクトリック(GE)に渡すつもりだ」と述べている。
イスラエルへの言及も複数ある。エルナンデス氏は、自身への恩赦をトランプ氏から引き出し、将来のホンジュラス帰国を後押しした功績をイスラエルに帰している。2026年1月の音声メモでは、「イスラエルの首相は我々を支援してくれる。彼にはとても感謝している。今回の件に、彼らは大きく関わっている。というより、私の釈放と交渉には、全てにおいて彼らが関わっていた」と語る。また3月には、イスラエルを支える「ラビ評議会」から出たという「恩赦のカネ」についても言及している。
録音ファイルにおける議論は、ホンジュラス内部での権力集中にとどまらない。メキシコやコロンビアのような左派政権を抱える国々と対峙しようとする、より広範なイデオロギー的野心を示している。
たとえばエルナンデス氏とアスフラ氏は、「ラテンアメリカのニュースサイト」をアメリカ内に設立する構想の詳細について話し合っている。このサイトはホンジュラスと結びつけられないようにアメリカを拠点とし、運営はアメリカ大統領側近チームの一人が担い、一部のアメリカ共和党員が支援するとされる。サイトは当初、セラヤ一夫妻やメキシコ、コロンビアを主な標的とし、「ホンジュラスとラテンアメリカ全体から左派というガンを攻撃して取り除く」ことを狙った「ニュース」を発信する計画だという。エルナンデス氏は、このニュースサイトに対しアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領や、「メキシコの大親友」から資金的支援を受けていると主張している。
エルナンデス氏とイスラエル大統領ルーベン・リブリン氏、2015年(写真:Mark Neyman, Government Press Office of Israel / Wikimedia Commons[CC BY-SA 3.0])
静まり返ったスキャンダル
多くの点で、ホンジュラスゲートは「不発」に終わっているスキャンダルとも言える。ホンジュラス国内メディアの報道は二極化しており、国民党政権に批判的な立場をとるエル・リベルタドール紙のようなメディアはホンジュラスゲートを大きく取り上げる一方、与党寄りとされるエル・エラルド紙のようなメディアは、ほとんど触れていない。他にも、ファイルの真正性が確認されたかどうかを疑問視するメディアもある。
ラテンアメリカ域外では、メディアの関心は概して低調だ。スペイン有力紙の一つであるエル・パイス紙は、ホンジュラスゲートの録音について比較的詳しく報じた。一方、2026年5月にエルナンデスへのインタビューの機会を得ていたイギリスのBBCは、ホンジュラスゲートの録音が提起した疑惑について一切触れなかった。
音声ファイルの声が、ホンジュラスゲート側が名指しする人物のものかどうかを、より高い確度で検証するには確かに課題が残る。しかし、疑惑が真実である可能性が比較的高く、しかもファイルに含まれる主張が衝撃的かつ重大な結果をもたらしうるものである以上、沈黙ではなく、さらなる検証と疑問の提起こそが求められていると言えるだろう。
執筆:Virgil Hawkins
グラフィック:Mohammad Istiaq Jawad





















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