移住とは、人がある場所から別の場所へ移ることであり、さまざまな状況で起こる。多くの人々は生活の向上やその他の理由で自国内を移住するが、かなりの数の人々が避難、事業活動、あるいは就労を目的として国境を越える。働くために国境を越えることは労働移住と呼ばれ、現代世界における最大級の移住の一つであり、労働年齢の国際移住者のほぼ66%を占める。労働移住は、自国以外の国で技能労働者に就業機会を提供し、同時に移民労働者を受け入れる国の経済成長や発展を支えることで、多くの面で有益である。これは歴史的に新しい現象ではなく、範囲も限定されず、世界中の多様な職業、分野、地域にわたって見られる現象である。
インターネットとデジタル技術の出現は、労働移住にさまざまな影響を与えている。統治や管理の面では、デジタル技術が各国や組織による移住の流れの管理を支援し、ビザや就労許可証などの各種申請手続きの効率化や利便性向上を実現している。また、政府は膨大なデータや情報を活用して、到着した移住者へのサービス改善にも役立てている。しかし、デジタルツールの役割や有用性は統治や管理の範囲をはるかに超える。デジタルツールやオンラインポータルの利用により、移住者は仕事の機会とつながることができ、日常生活の改善や、従来の支援手段では困難だった支援を受けることが可能となっている。全体として、デジタルツールは移住労働者の希望や動機、日々の活動に影響を与えるだけでなく、移住の性質や移住全体の過程にも影響を及ぼす。その影響は地理的な範囲を超え、ほぼすべての地域や移住に関わるあらゆる側面の日常生活に及んでいる。
この記事は、政府や行政の視点ではなく、移住者の視点からデジタルツールが北アフリカの移住にどのように影響を与えているかを示すことに焦点を当てている。まず、技術やデジタルツールが移住労働者やその移住過程に及ぼすさまざまな影響について簡単に概観し、続いて北アフリカの4か国からのいくつかの事例を紹介する。これらの事例は地域にとどまらず、技術が多様に進化・拡大し、世界中の移住者により広く利用可能になる中で、さらなる示唆を提供するものである。
目次
移住におけるデジタルツール
国際移住機関(IOM)は、「技術へのアクセスは移住者や難民の安全とエンパワーメント、そして労働力や社会への包括的な参加にとって極めて重要である」と述べている。私たちが日常的に使用するインターネットやスマートフォンなどの技術も、移住労働者の移住過程を支えている。移住者はこれらの技術を使い、故郷の家族や友人と連絡を取るだけでなく、目的地での新しい生活をナビゲートするためにも利用する。例えば、翻訳アプリを用いて現地の人々とコミュニケーションを取ったり、新しい社会の日常生活に関する情報を得たりすることが挙げられる。
職場では、言語翻訳ツールが誤解を避けるために使われることがあり、場合によっては移住労働者が職場で直面する問題、例えばハラスメントや虐待の事例をデジタル技術を用いて報告することもある。このように、デジタルツールは職場での言語や文化の壁に関連する問題を解決または軽減する上で有用かつ重要な役割を果たすことができる。
デジタルアプリケーションや技術、特にソーシャルメディアやメッセージング・コミュニケーション・プラットフォームの活用は、受入国の移住労働者に対して重要な情報や指針を迅速かつ低コストで提供する手段となる。政府や労働組織は、移住者の日常生活や言語教育、さらには職業訓練に関する支援や情報を提供するための専用スマートフォンアプリを開発することもある。加えて、労働者はデジタル決済ソリューションや送金アプリを利用することで、家族やコミュニティに送金することも可能となっている。
北アフリカに目を向けると、この地域を往来する移住労働者も他の地域と同様にデジタルツールやスマートフォンアプリを活用している。ただし、この地域特有の特徴や状況も存在する。中東や地中海に近接し、独自の歴史的・地理的現実を持つため、地域間および域内の移住ルートが形成されており、デジタル技術やツールの普及が移住の過程に影響を与え、補完している。以下に示すモロッコ、アルジェリア、エジプト、チュニジアからの移住におけるデジタルツールの活用例は、技術がどのように多様な形で移住に影響を与えているかを示す一端である。

モロッコの事例:スマートフォンとソーシャルメディアの利用
ヨーロッパに近接していることから、モロッコは多くのサハラ以南アフリカ出身の移住者や難民にとって、より良い経済的機会や避難を求めヨーロッパへ向かう途中の通過地となっている。モロッコに到着した移住者はスマートフォンを使って有益な情報を収集し、他の移住者と共有することがあり、それが特定の移住ルートの選択に影響を与えることもある。実際、デジタルおよびモバイル技術は、移住への意欲や決断そのものにも影響を及ぼすことがある。たとえば、これらの技術は移住を検討している人々が既に移住した人々と交流し、機会や生活様式に関する情報やメディアにアクセスすることを可能にし、それが移住の決断に影響を与えている。このように、モバイルおよびデジタル技術は移住自体の補完的な原因とみなすこともできる。
モロッコは移住者の通過国であるだけでなく、多くのモロッコ国民も国外へ移住している。国外に定住するこれらの移住者にとって、モバイルやソーシャルメディアは精神的・社会的支援の場としても機能している。主に、移住者コミュニティの他のメンバーや故郷の家族と連絡を取り続ける手段となっているためである。
例えば、フェースブックのグループの利用に関する研究では、ソーシャルメディアが新型コロナウイルスのパンデミック時にアメリカにいるモロッコ移民にとって、情報源であるだけでなく、「実用的かつ精神的支援の場」となっていたことが示された。また、この研究は、モロッコ移民が利用するアラビア語、英語、フランス語といった異なる言語が、ソーシャルメディア上で異なる状況や文脈で使い分けられている点も強調している。これには、実用的・健康関連の情報共有や、パンデミック中に誰かが亡くなった際の感情表現が含まれている。

アフリカ大陸にあるスペイン領セウタとモロッコの国境フェンス(写真: Mario Sánchez Bueno / Wikimedia Commons [CC BY-SA 2.0] )
アルジェリアの事例:動画投稿とソーシャルメディア
すべてのデジタルツールやソーシャルメディアの利用が肯定的であるとは限らない。植民地時代の歴史的背景や関係性により、多くのアルジェリア出身の移住者がフランスへ移動してきた。実際、アルジェリア国籍者はフランスへの移動に際して一定の規制緩和措置の対象となっている。しかしそれにもかかわらず、ヨーロッパへの不規則な移動手段を選ぶアルジェリア出身の移住者は依然として多く、その過程で他者にルートや手段の情報を伝えるために技術が用いられている。アルジェリアや他の北アフリカ諸国の一部の人々は、ヨーロッパへ不規則に到達するためのルートや通過方法について、動画共有サイトなどで情報を共有しており、それは危険やリスクを伴う可能性がある。
一方で、アルジェリア移民によるデジタルツールの積極的な活用例も見られる。コロナのパンデミックの際、国外にいるアルジェリア移民コミュニティは、コミュニティの人々に対する食料や宿泊施設の提供を支援し、また病院への募金活動を促進するためにデジタルツールを活用していた。たとえば、イギリスにおけるアルジェリア系移民は、支援を必要とする人々のために相当額の募金を行うことができた。パンデミックの最も厳しい時期にはロックダウンによって対面での集まりが困難であったが、オンラインやデジタル空間が、移住者の結集と相互連帯の実践の場となった。通常のソーシャルメディア空間に加え、移住者コミュニティの人々は、ズームのようなツールも活用し、コミュニケーションや支援活動を行っていた。
募金や送金の手段においても、デジタルツールが活用されていた。銀行口座の利用に加え、ゴーファンドミー(GoFundMe)のようなプラットフォームやソーシャルメディアアプリが用いられ、支援を必要とする人々に対して迅速かつ円滑に募金や送金が行われた。デジタル技術やツールは、アルジェリアからの移住者の国籍上の連帯、宗教的なつながり、コミュニティに基づく支援やアクティビズムの取り組みを後押しした。また、デジタル空間におけるつながりを強化することにも貢献し、コミュニティの人々が精神的・経済的支援を調整・組織することを可能にした。
この事例は、移住の過程や日常生活における利用を超えて、ソーシャルメディアやデジタルツールが緊急時やニーズに基づく支援のための重要な手段としても機能していることを示している。とりわけ危機の時期には、その役割が一層際立つ。移住経験においては、不確実性や混乱が常に伴うが、それは移住に限らず、公衆衛生上の緊急事態や自然災害、あるいは出身国や受入国における経済的困難や危機といった多様なかたちで生じうるものである。

デーツを収穫する労働者たち、アルジェリア(写真:Radwan Menzer / Pexels [Pexels License] )
エジプトの事例:政府主導のデジタル学習プラットフォーム
移住労働者の状況はしばしば不安定であり、突然帰国を余儀なくされるケースもある。たとえばコロナのパンデミックの際、様々な国で働いていた多くのエジプト人移住労働者が職を失い、エジプトに帰国せざるを得なかった。これらの移住者は、パンデミックによる不確実な状況の中で、帰国後の異なる労働市場に対する準備ができていなかった。
この困難な状況に対応するためにデジタル技術が活用された。2020年、エジプト政府の移民・国外エジプト人事務省は世界食糧計画(WFP)と協力し、「ベダヤ・デジタル」と呼ばれる学習プラットフォームを立ち上げた。このプラットフォームはオンライン学習を通じて職業訓練やスキル教育を提供し、「雇用可能性」の向上に焦点を当てた技能訓練を実施した。また、習得したスキルを活かせる新たな機会を見つけるための採用サービスへのアクセスも提供している。
加えて、この取り組みは失業や機会不足に起因する不正規移動の削減も目的としていた。エジプトの農村部出身の多くの移住者は、地中海を越えてヨーロッパへ向かう危険でリスクの高い不正規移動ルートを利用している。帰国後の労働市場に対応できるスキルを移住者に付与することは、不正規移動ルートを選択する可能性を減らす。WFP代表者は、このプラットフォームを「若者のスキルと市場の需要のギャップを埋める総合窓口」と表現し、スキル構築とマッチングに重点を置いていることを示している。
技能訓練や労働者と機会をつなぐことに加え、このデジタルプラットフォームは帰国した移住者向けの各種ローンへのアクセスも提供するよう設計されている。したがって、帰国者の技能開発と起業支援という二重の役割を果たしている。このことは、政府の持続可能な開発や経済成長の取り組みにも寄与している。WFPのような国際機関の支援を通じて、デジタルツールは経済の変動や不確実性が続く中での雇用可能性向上のための訓練と機会提供を支援しつつ、政府の起業促進の目標達成にも貢献している。これは、特定の目的に特化したデジタルツールが他の重要な目標の達成にも役立つことを示している。

保健、教育、ビッグデータに関する会議に参加する女性たち(写真:UN Women Arab States / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0] )
チュニジアの事例:デジタル・フリーランス労働者
デジタル技術は、移住が実際に起こった後の影響にとどまらず、移住の動機形成にも寄与している。そのため、デジタルツールは移住の原因に直接働きかけ、移住希望者の経済状況を改善することで、移住の流れを減少させるのにも役立ち得る。ここで取り上げるチュニジアの場合、人口の約7%から10%が主にヨーロッパ諸国に在住している。
同時に、チュニジア国内のサービス業は国内総生産(GDP)の60%以上を占めており、デジタル・フリーランスのオンライン労働は国内の若者の間で注目を集めている。主なオンライン労働分野は、ICTやソフトウェア開発、電子商取引、マルチメディア産業である。これにより、多くの労働者が言語や技術のスキルを持ち、国内にいながら外国企業や国外のクライアントのためにリモートで働くことが可能になっている。この傾向は政府にも認識されており、2020年と2025年に「デジタル・チュニジア」イニシアチブを立ち上げ、デジタル変革を支援し、同国のデジタル経済を促進している。この中でオンライン労働は重要な役割を果たしている。
デジタル経済やデジタル・プラットフォームには、その国の熟練労働者にとっての経済的機会を拡大・向上させる可能性があり、それによって移住の流れが始まる前に影響を与えることができる。ある報告書では、チュニジアにおけるデジタル労働者の労働環境の改善は、「国外での雇用機会を求める熟練労働者の移住を抑制し、頭脳流出の軽減につながる可能性がある」と指摘されている。このように、デジタルツールや技術は地域経済の構造そのものを変化させ、国外移住を検討している労働者に対して、代替的あるいは補完的な経済的・雇用の機会を提供することが可能となっている。

イノベーションを促す会議、チュニジア(写真:Elis.org / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0] )
今後の展望
以上に見られるように、デジタルツールやプラットフォームは、単なるコミュニケーションの手段や補助的な役割にとどまらず、不確実な状況においては、主要な問題解決の手段としても機能し得る。また、デジタルツールやソーシャルメディアは、移住者の志向や動機にも影響を与える可能性がある。北アフリカ地域においてデジタル・リテラシーやインフラが今後さらに向上していく中で、こうしたツールの有用性は今後ますます高まっていくだろう。
こうしたツールが移住者に多くの恩恵をもたらす一方で、移住労働者やそのコミュニティにとって、デジタルツールや技術がリスクや危険性を伴う可能性があることにも留意する必要がある。たとえば、デジタル空間の拡大に伴い、誤情報や虚偽の情報が拡散されやすくなり、それが移動の過程に悪影響を及ぼしたり、移動先や経由地の社会において問題を引き起こしたりする恐れがある。また、こうしたツールは、移住者が新しい社会と円滑に関わる機会を制限し、結果として社会的排除や他の問題を引き起こす可能性もある。
このような状況は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)10、特に「人々の秩序ある、安全で、正規かつ責任ある移住および流動性の促進」というターゲットの達成に貢献するためにも、デジタル・リテラシーの向上と、ソーシャルメディアやデジタル空間の責任ある利用を促進する必要性を強調している。
移住の過程や移住労働者の生活において活用されているデジタルツールやプラットフォームの種類と範囲は非常に広く、その影響は肯定的にも否定的にもなり得る。この点を十分に考慮した政策や取り組みを進めることによって、テクノロジーを持続可能な移住を促進するための生産的かつ建設的な手段として活用していくことが可能となる。
ライター:Shah Sardar Ahmed
グラフィック:A. Ishida























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