2014年にもっとも深刻な人道危機を引き起こした武力紛争は南スーダン、中央アフリカ共和国、イラク、シリアであった。いずれも、国連人道問題調整事務所(UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs OCHA・オチャ) がレベル3(L3)と呼ばれる最高レベルの緊急事態に指定した状況にあった。紛争における暴力による被害に加え、数多くの難民・国内避難民が発生し、病気、食料不足が膨大な人道危機をもたらした。
石油資源が豊富な南スーダンは2011年、正式にスーダンから独立を果たしたが、大統領と副大統領の権力争いが武力紛争に発展した。2014年には約150万人の国内避難民が生み出されていた。中央アフリカ共和国では反政府勢力が政府を倒したものの、新政権への反発で紛争が激化し、その関連で宗教、民族グループが虐殺や迫害の対象になった。OCHAによると紛争がある程度収まった2016年の時点でも、人道支援を必要としている人数は人口の半分以上の230万人と人道危機が続く。イラクでは、武装勢力IS(イスラム国)が同国の北部を制圧し、すでに別の武力紛争を抱えていたシリアにも進出した。両国から数多くの難民・国内避難民が発生したと同時に、治安上の問題で人道支援を届けられない地域が数多く発生した。
しかし、世界の紛争に対する報道量はそれぞれの危機の重大さを反映するものではなかった。以下の図は2014年の一年分の読売の紛争報道量(紛争の話題を中心に書かれた記事の文字数の合計)を表している。中央アフリカ共和国の報道はほぼ皆無であった。1年間で記事が4つしかなく、そのうちのひとつは日本人の国連ボランティアに着目していた。南スーダンに対する報道は中央アフリカ共和国より多かったが、比較的に少ない。また、その報道の背景には、日本政府による国連平和維持部隊(PKO)への派兵があり、29記事のうち18が日本の関与に言及している。
(データ収集:Naho Hashimoto, Sota Dokai)
イラクとシリアに関しては、紛争報道は比較的に多く、報道量は人道的な被害に見合っているようではあるが、いずれも報道の大半はISに着目しており、特にシリアでは、国内外の他の武装勢力などを含んだ複雑な紛争の全体像が十分に伝わっていないとも言える。
しかし何といっても、2014年の紛争報道において圧倒的に報道量が多かったのはウクライナである。紛争による人道危機の側面からみて、上記の紛争に比べ規模が小さいにも拘わらず、他の紛争より何倍(例えば中央アフリカ共和国に対する報道の154倍)もの報道の対象となった。その要因として、発生地が普段から報道機関に重要視されるヨーロッパであるという事が大きい。さらに、大国ロシアの関与(特にクリミア問題)と、民間飛行機の撃墜も大きく注目される要因であった。
最後に、規模が比較的に小さいイスラエル・パレスチナ紛争も大きく注目されたが、その要因としてはアメリカにおける強い政治的関心が挙げられる。世界的にも数多くの報道機関が紛争の規模あるいは自国の国益と関係なく、この紛争には常に強い関心を示す傾向が見られている。
国内報道では、何らかの事件・事故から発生する被害者数など、問題の規模が報道量を決める大きな要因となるが、国際報道となると、多くの場合、問題の規模と報道量との関係が非常に薄い。武力紛争に関しては、被害の規模ではなく、被害者が「どの国」の「どの人種」というのが最大のポイントになると言っても過言ではない。
ライター:Virgil Hawkins
グラフィック:JT-FSD