蓄音機(グラモフォン)から録音された亡き飼い主の声を聴く犬。まるでその声を認識しているかのように首を傾げる。この光景を実際に目にしたのが、ある一人の画家だった。1898年、この画家が、亡き兄とその飼い犬のやりとりの一幕を「飼い主の声(His Master's Voice)」というタイトルの作品にした。それが後にHMVレコード会社の商標に使われるようになった。
それから100年以上経った2003年、この有名な絵画がアーティストの「バンクシー」によってリメイクされた。バンクシーの手によって、犬がバズーカでグラモフォンを狙い定めるパロディーになる。
この作品にどのようなメッセージが込められているのか。現在音楽はモバイルデバイスやパソコンなどの新しい媒体で聴かれるようになり、グラモフォンやレコードなどを通じた古き良き時代の音楽の楽しみ方や伝統的な音楽会社が時代遅れとなって衰退していくという時代の移り変わりを揶揄しているのか。それとも、飼い犬が、飼い主の日々の指示や命令に耐えられなくなり、飼い主に立ち向かう状態を強調しているのか。飼い主に飼いならされてきた犬、そして同じように権力に「飼いならされてきた」市民。二者を重ね合わせながら権力のプロパガンダに市民が抵抗することの重要性を表したかったのだろうか。
プロパガンダについてもっと知る→「プロパガンダ:アメリカ発、日本着」
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(写真:Pierre Doyen / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])