国際NGOオックスファムが2026年1月に発表した報告書によれば、「世界で最も裕福な12人の億万長者は、人類の下位半分より多くの富を持っている」。それにもかかわらず、世界的な不平等と、ビリオネアたちが蓄積している富は拡大を続けており、彼らの総資産は記録的な水準に達している。
GNVは過去に、超富裕層に伴う数々の問題を取り上げてきた。そこには、彼らが富を獲得したときには疑わしい手段や、納税率が相対的に低いがゆえに社会に負担を強いていること、そして彼らの富と行動がもたらす甚大な環境破壊などが含まれる。富の集中や、ビリオネアが持つ政治権力へのアクセスは、社会における優先課題の決定に過度の影響力を行使することを可能にし、民主主義を脅かしている。
これは、数十億人もの人びとが貧困にあえいでいる一方で、社会が極端な富をごく一部の個人の手に集中させることを許しているという、根本的な倫理的問題とは別の話である。この貧困は、食料、水、基礎的な医療へのアクセスがないことに起因する、数百万件に及ぶ防ぎ得た死と結びついており、特に深刻である。
では、メディアはこれらのビリオネアとその行動をどのように報じてきただろうか。本記事では、問題の所在と報道のあり方、とりわけ日本の新聞報道に焦点を当てて検証する。
ビリオネアズ・ロウ、マンハッタン、ニューヨーク(写真:incognito7nyc / Flickr[CC BY-NC 2.0])
増大する富と不平等
ビリオネアが握る莫大な富と、それに伴って生じる衝撃的な不平等の水準に警鐘を鳴らしているのは、オックスファムだけではない。
たとえば「世界不平等報告書2026」に掲載された数字は、富の巨大な集中と、その加速を如実に示している。世界の富のうち最富裕層が保有する割合は、1995年以降、一貫して増加している。たとえば1990年から2025年のあいだに、世界のビリオネア(10億米ドル以上を所有する人)およびセンチ・ミリオネア(1億米ドル以上を所有する人)が保有する富の成長率は、年平均8%に達した。一方で、世界人口の下位半分が保有する富は、おおよそ4%しか増えていない。同報告書は、「ごく少数の人びとが前例のない金融支配力を握る一方で、数十億人が、最低限の経済的安定からさえ排除されている」と指摘する。
このような富の集中は、偶然の産物ではない。富を持つこと自体が、さらなる富の拡大を有利に進める立場を与えるからである。さらに、大企業のトップに座る者は、その企業が生み出した富をどう配分するかについて大きな権限を持つ。大企業を率いるビリオネアはしばしば独占を利用し、自社製品の購入者を囲い込み、価格を引き上げることができる。また、不公正な貿易や不公正な労働慣行からも大きな利益を得る立場にある。たとえばジェフ・ベゾス氏の莫大な資産増加は、彼が採用してきたアマゾン従業員に支払われるわずかな賃金と対照をなしている。従業員の多くは、基本的な生活必需品をまかなうことに苦労しているのだ。
富裕層はまた、税金の支払いを回避するために、きわめて多様な手段を駆使する。企業や富裕な個人による利益移転や所得隠しは蔓延している。タックスヘイブンや保税倉庫(フリーポート)などの租税回避スキームを使えば、(多くの場合匿名で)資金や資産を移動・売却・保管しながら、ほとんど、あるいはまったく税金を払うことなく、富を増やし続けることができる。この国境をまたぐ活動により、彼らは国内の法的管轄から逃れることが可能になる。
ウォーレン・バフェット氏と当時のバラク・オバマ米大統領(2010年)(写真:Pete Souza / Wikimedia Commons[Public domain])
ビリオネアたちは、国内法や自らに有利に設計された税制の恩恵も受けている。たとえばウォーレン・バフェット氏は、自分の秘書のほうが自分より高い税率で納税していると認めたことがある。さらに、2021年にプロパブリカが入手したアメリカ国内国歳入庁(IRS)のデータは、バフェット氏、ベゾス氏、イーロン・マスク氏、ジョージ・ソロス氏らを含むビリオネアたちが、ほとんど所得税を支払っていない実態を明らかにした。
富はまた、ビリオネアを政治権力と結びつけ、彼らに有利なルール作りを後押しし、さらにさまざまな恩恵へのアクセスを与える。彼らの企業は、一般の個人や中小企業には手の届かないような、納税者による福祉的支援や保護を獲得できる。その中には、大規模な企業補助金、救済(ベイルアウト)、減税、インフラ整備、広範な特許保護などが含まれる。
自国の国境を越えた場面でも、政府はこうした大企業の製品販売を後押ししている。また、利益移転や租税回避を抑えようとする国際規制の導入を妨げるためにも動いている。
富と不平等の報道
GNVはすでに、コロナ禍における世界的な不平等の急激な拡大に、日本のメディアが警鐘を鳴らし損ねたことを検証している。メディアは、ビリオネアの急速な資産増加、さらには製薬産業から新たに生まれた多くのビリオネアについて、ほとんど言及しなかった。また、2020年だけで1億人近くが極度の貧困に陥ったという事実も、報じられなかった。
毎日新聞や読売新聞などの日本の新聞は、フォーブス誌が毎年発表する世界長者番付、ビリオネアのランキングについては、恒例のように報じている。その報道スタイルは、まるでスポーツニュースのように、誰が「勝っている」かを読者に伝えるものだ。しかし、これらの新聞は、オックスファムが毎年発表している世界の不平等に関する報告書については取り上げていない。例外的に、朝日新聞は2026年のオックスファム報告書について、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に関する記事の中で遅ればせながら言及し、世界的な不平等の問題に簡潔に触れた。しかし、そこで掲載されたのはビリオネアの資産増加に関する数字だけであり、富裕層と貧困層のあいだに広がる、極めて重大で衝撃的な格差データは抜け落ちていた。
不平等、サンパウロ(ブラジル)(写真:Caio Pederneiras / Shutterstock.com)
また、メディアは不平等拡大の仕組みそのものについて報じることもあまりない。日本のメディアは2016年のパナマ文書については比較的広範な報道を行い、パンドラ文書についても、これに次ぐ報道を行った。しかし、そこでの焦点は、主として個々人の不正行為の可否に当てられ、租税回避・脱税が国際的なレベルで構造的に広がっているという本質的な問題には、あまり踏み込まなかった。この5年間で、日本の新聞が「タックスヘイブン」という言葉を紙面に載せたのは、年に数回にとどまり、その中身に踏み込もうとする試みは、ほとんど見られない。2026年はパナマ文書報道から10年の節目だったにもかかわらず、この問題をあらためて検証しようとした大手新聞はなかった。2026年の最初の5カ月間で、「タックスヘイブン」という語を紙面に載せた回数は、朝日新聞と読売新聞それぞれ1回ずつであり、そのいずれもが通り一遍の言及にとどまっている。
ビリオネアの報道が常に好意的であるわけではない。エプスタイン文書で見られたように、犯罪行為やその他の不正行為の可能性について報じることもある。しかし、全体として、ビリオネアに対する報道は、敬意を払うか、少なくとも中立的であり、むしろ好意的ですらある場合が多い。以下で見るように、メディアは、ビリオネアたちが築いた極端な富がもたらす負の影響よりも、彼らが資金を拠出する慈善活動に焦点を当てる傾向が強い。
ビリオネアたちの「誓約」
2010年、ビル・ゲイツ氏と当時の妻メリンダ・フレンチ氏、そしてバフェット氏は、生前あるいは死後に、自らの資産の半分以上を慈善のために寄付すると誓約した。その後、他のビリオネアたちもこれに続き、当初はアメリカのビリオネア57人が、いわゆる「ギビング・プレッジ(Giving Pledge)」に署名した。2025年時点で、この誓約に署名したのは、256人または家族に上る。その中には、自らの資産の半分以上を寄付すると約束しただけでなく、さらに踏み込んだ人びともいる。たとえばバフェット氏は、自らの資産の99%を寄付することを誓約している。
こうした誓約が実際に守られるかどうかは別として、公の場で大々的に誓約を表明し、その後に続くきわめて目立つ慈善活動は、誓約者にとって格好の広報手段として機能する。これは特に、ビジネス慣行の妥当性に疑義が呈されているビリオネアにとって、あるいは単に、極端な富の集中にともなう問題ゆえに批判的な目を向けられているビリオネアにとって、好都合である。では、彼らはこの誓約をどの程度、実際に履行してきたのだろうか。
「素早く動いて物事を壊せ」、マーク・ザッカーバーグ氏(2014年)(写真:Mike Deerkoski / Wikimedia Commons[CC BY 2.0])
2025年、政策研究所(Institute for Policy Studies)は、ギビング・プレッジが始まってから15年後の時点で、アメリカのビリオネアたちによる慈善活動の進捗を追跡した報告書を発表した。それによれば、最初の誓約者57人のうち22人がすでに亡くなっているが、そのうち誓約を果たしたのは8人にとどまる。存命中の誓約者で資産の半分以上を寄付したのは、(ローラとジョン・アーノルド夫妻)1組だけだ。2025年時点で95歳のバフェット氏は、資産の32%を寄付しており、自らが掲げていた「99%を寄付する」という目標は実現不可能だと認めている。
寄付をすることで資産が減るというイメージとは裏腹に、この誓約を行ったビリオネアの大多数の資産は、2010年以降も増え続けてきた。たとえばゲイツ氏の資産は、この15年で2倍に増え、バフェット氏の資産は3倍に、ラリー・エリソン氏の資産はほぼ5倍に増加している。中でも、マーク・ザッカーバーグとプリシラ・チャン夫妻の資産増加は突出しており、43倍に達している。
さらに同報告書は、誓約者による寄付の大半が、直接慈善団体に渡されているのではなく、自らの名前を冠した私的財団、ドナー指定寄付基金(DAF)、さらには有限責任会社(LLC)に対して行われていることも指摘する。こうした手段を用いることで、資金に対する私的なコントロールを強めることができ、資金の使途に関する秘匿性も高まるうえ、慈善活動と営利活動の境界が曖昧になる場合もある。重要なのは、寄付が税控除の対象となるため、ビリオネアたちが支払うべき税金を減らせる点である。
ゲイツ氏とその財団による慈善活動は、実のところ、彼自身にとっても大きな収益をもたらしてきた。彼の慈善活動の多くは、ワクチンの開発と販売促進に焦点が当てられている。一方で、ゲイツ氏自身と財団は、ワクチンや関連技術を開発する企業に多額の投資を行い、高いリターンを得てきた。
ビル・ゲイツ氏(写真:World Economic Forum / Flickr[CC BY-NC-SA 2.0])
製薬企業の利益の急増がもっともはっきりと見えたのは、新型コロナウイルス・パンデミックの時期である。ゲイツ氏は、製薬企業が持つ独占を守る特許保護を解除することに、積極的に反対した。これにより、低コストのワクチンを大規模に増産し、多くの命を救い得たはずの可能性が奪われた。
政策研究所の報告書は、ギビング・プレッジについて「未達成であり、達成不可能であり、より公正でよりよい未来への切符ではない」と結論づけている。
この誓約の報道
では、日本のメディアはこの誓約をどのように扱ってきただろうか。朝日新聞は2010年の最初の誓約時点からギビング・プレッジを何度も取り上げてきた(※汁1)。ゲイツ氏に焦点を当てた記事では、彼の慈善活動について誓約を額面通りに報じる傾向が強く、彼自身の発言も、ほぼ無批判に引用されてきた(※2)。2019年に同紙のデジタル・マガジン「グローブ」に掲載された記事で、ようやく誓約に対する一部の批判が紹介され、税控除の問題や、社会福祉政策に対する民主的なコントロールを脅かす可能性が指摘された。
2025年、朝日新聞はゲイツ氏へのインタビューの機会を得た。インタビューの中で、ゲイツ氏は自身の慈善活動とギビング・プレッジについて語っている。その数カ月後、同紙は、ゲイツ氏が「2045年までに財団の全資産を寄付する」と新たな誓約を行ったことを報じた。これらの記事で朝日新聞は、ゲイツ氏自身の発言をそのまま引用するかたちで慈善活動を紹介するにとどまり、その慈善活動をめぐるさまざまな問題には踏み込まず、言及もしなかった。2010年の「資産を寄付する」という誓約と矛盾して見えるほどに彼の資産が増え続けている事実についても、検証も疑問も示さなかった。なお、朝日新聞のウェブサイト「with Planet」は、ゲイツ財団から資金提供を受けている。
毎日新聞(※3)や日本経済新聞も、朝日新聞ほどではないにせよ、同様のスタイルでギビング・プレッジを報じている。読売新聞は、バフェット氏が資産の99%を寄付するとした誓約について報じた(※4)。しかし、それから10年後、バフェット氏の資産が3倍に膨れ上がっていた時点で、同紙が大々的に報じたのは、彼がバークシャー・ハサウェイのCEO職を退くというニュースであり、誓約がどうなったのか、あるいは彼自身が誓約不履行を認めたことには、一切触れなかった。
プライベートジェット、ヴヌーコヴォ(ロシア)(写真:Alex Snow / Wikimedia Commons[CC BY-SA 4.0])
2025年に政策研究所が発表した、ビリオネアの15年間の慈善活動を検証する報告書は、主要紙でこれまで報じられたり言及されたりしていない。そこから浮かび上がるのは、世界の大富豪たちが派手な誓約を打ち出すたびに、その内容を忠実に報じる一方で、その誓約を批判的に検証したり、履行状況をフォローアップしたりする姿勢に欠けるメディアの姿である。
ビリオネアに寄り添うメディア?
ビリオネアに対するメディアの報道は、より広い意味で、メディアと富・権力との関係の延長線上にあるものと考えることができる。ここでの関係は、メディアが富や富裕層に共感的な立場をとる傾向を示している。GNVが過去に行った分析によれば、日本のメディアは、比較的豊かな国々に対してより強い関心を示す傾向がある。また別の分析では、大手日本企業が絡む国外でのスキャンダルについては、報道を避ける傾向があることが示された。
エドワード・ハーマン氏とノーム・チョムスキー氏が提示した「プロパガンダ・モデル」は、メディアが政治的・経済的エリートとどのように寄り添うのか、その仕組みを理解するうえで有用な枠組みである。両氏はアメリカのメディアを事例にこのモデルを論じているが、GNVが過去に行った検証が示すように、このモデルは日本のメディアにも当てはまりうる。
ビリオネアたちの富と権力は拡大を続けており、その富の集中が私たちの社会や地球にもたらす被害もまた拡大している。メディアは、かつてから語られてきたその役割、「弱きを慰め、強きを震わせる(to comfort the afflicted and afflict the comfortable)」という言葉を、そろそろ思い起こすべき時なのかもしれない。
※1 「資産の半分寄付、米富豪40人賛同 実現すれば計50兆円 バフェット氏・ゲイツ氏ら」朝日新聞、2010年8月5日。
※2 「子の命を守ることは基本的な価値 ビル・ゲイツ氏、社会貢献を語る」朝日新聞、2015年12月5日。
※3 「水説:寄付と「新しい公共」=潮田道夫」毎日新聞、2010年8月11日。
※4 「『投資の神様』後継課題 84歳 バフェット氏 米経済最前線で50年」読売新聞、2015年5月6日。
ライター:ヴァージル・ホーキンス





















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