まとめ記事:アンフェア貿易、アンフェア労働

執筆者 | 2026年06月18日 | Global View, サハラ以南アフリカ, 世界, 北中アメリカ, 南アメリカ, 法・人権, 経済・貧困, 農業・天然資源

2026年6月、イーロン・マスクは世界で初めての兆万長者(トリリオネア)になり、1兆米ドル相当の資産を手に入れた。この不穏な節目は、富を持つ者がさらに自分たちを裕福にするためにその富を利用できる一方で、富を持たない多くの人々が深刻な搾取にさらされ、その労働や資源が十分に対価を得られていないというシステムに注意を促す。

富が貧しい者から富める者へ移転されるこの仕組みは世界的なものだ。企業は商品やサービスの生産コストを最小化し、利益を最大化しようとする。そのために、力の不均衡を利用して原材料や製品を不当に低い価格で手に入れ、可能な限り労働コストが低く労働者保護が弱い国々を積極的に探す。

GNVは複数の記事を通じて世界における巨大で拡大する富の格差や、原材料・労働・生産によって生み出された利益が不公平に分配されるメカニズムについて報じてきた。本記事はこれらの記事のいくつかをふりかえる。

カカオの豆(写真:OutdoorPDK / Flickr [CC BY-NC-SA 2.0])

そもそも「フェア」とは?

不公平な貿易は普通、取引される財やサービスの価格が低すぎることに着目する。一方、不公平な労働は、個々の労働者が労働から得られる対価が低すぎることを指す。しかし、フェアとアンフェアの区別はどのように考えるべきなのか?

「フェア」な貿易については様々な捉え方がある。例えば社会における資源分配の在り方を考える「分配的正義」という哲学をもとにしたものなどがあるが、ここでは2つ挙げよう。

1つ目は、生産者が生産に必要とした労働量に合わせて分配を行うことである。つまり商品の生産に大きく貢献していれば、より多くの対価を得られるということになる。ただし、貢献度は何を基準として測るべきかという問題が残る。労働時間に基づいたものは最もわかりやすく、そして平等であるかもしれないが、労働者のスキルや資本、技術の投入なども考慮する必要がある。

2つ目は人間の生存権や尊厳に基づいたもので、生産者や労働者が最低限の生活を送ることができるような価格設定行うことだ。これは、1つ目の要素に加えて人々の生命や生活を保障する側面を持つ。世界人権宣言第233「労働する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公平かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる。」はまさにこの考えに基づいている。

世界に蔓延るアンフェアトレード」2022年03月10日

鉱物資源の場合

多くの政府は、対価を得て自国の地下資源を外国企業に採掘させる。

有限な資源を採掘したい企業に「売る」仕組みを設ける。これにはしばしば「ロイヤルティ」が用いられる。ロイヤルティは利益に連動するものではなく、採掘された資源の量の割合に基づいて政府に支払われる金銭だ。政府はまた、探査に関連するサインアップボーナスや発見ボーナス、探査・生産が行われる領域の使用料としての賃借料を課すこともある。

なぜオーストラリアは自国のガスをタダ同然で手放すのか」2026年05月14日 

しかし、特に低所得国の場合、これらの資源から得られる富の大部分は採掘企業によって持ち去られる。

たとえ現状の鉱山使用税の税率が適正もしくは極端に低くても、企業側から鉱山保有国へ鉱山使用税の引き下げや、引き上げ反対への圧力がかけられているケースも少なくない。

例えば銅の生産国で知られるアフリカのザンビア共和国では、2010年と2011年の銅の総生産額がそれぞれ57億米ドル、72億米ドルであったにもかかわらず、企業の銅生産に関わる税の支払いは総額でそれぞれ7.8億米ドル、15億米ドルにとどまった。その後、ザンビア政府は銅山使用税を20%に引き上げる法案を提出したが企業側の反対や大統領の交代などの理由から、銅鉱山使用税は露天採掘の場合で9%、坑内採掘の場合で6%に固定されることとなった。つまり鉱山使用税だけに限れば、採掘された銅の価値のうち9割以上が外資系企業の手に渡っているとも言える。

鉱物資源と世界:その利益はどこへゆく?2017年08月17日

ニジェールでも同様の状況が見られる。そこでウランが採掘されており、2014年の時点で鉱山使用税は5.5%程度だった。

電子部品に使用される鉱物資源を集める労働者、コンゴ民主共和国(写真:Responsible Sourcing / Flickr [CC BY-NC 2.0])

農水産業の場合

農民も不公平な貿易で大きな被害を受ける。西アフリカのカカオ農家が自分たちの産品で得られる価格がその一例だ。

チョコレートを味わう人の幸福感がカカオ豆の生産者にも共有されているとは言い難い。統計から見えてくる現実は想像を絶するものだ。世界のカカオ豆の60%がコートジボワールとガーナの2か国で生産されているのだが、最大生産国であるコートジボワールで2018年に実施された調査によると、同国で不自由なく生活できる収入を得ている生産者はたった7%にとどまり、58%は極度の貧困状態にあるという結果であった。この状況は隣国のガーナでもそれほど変わらない。

チョコレート:報道されない「ビター」な現実」2019年02月7日

フィリピンのバナナ産業にも同様の搾取が見られる。

サプライチェーンにおいて、端緒となるバナナ農家が十分に受益できていないこと、及び不透明かつ不公平な労働条件制度が大きな問題となっている。農家の75%と推定される小規模農家は、農家に不利な形で企業と契約が結ばれてきた。その最大の原因は、農家と外資系企業の力関係にある。農家は売り先が限られており、大規模な資本とネットワークでサプライチェーンを掌握してきた外資系企業が取引において圧倒的に優位な立場にある。そのため、農家は企業が一方的に設定した価格でバナナを売ることになり、売上総利益のわずか2.4%しか利益を享受できていないというデータがある。実際ある契約農家は、600~800gのバナナ1袋に対して0.03米ドルほどの対価を受け取っているにすぎないという報告もある。

フィリピンのバナナ業界に潜む現実」2022年08月25日

遠洋の漁業では労働者が完全に孤立し、政府が監視できないことも多い。極端なケースでは労働者が奴隷状態に置かれ、従わなければ殺されることさえ報告されている。

2020年の米国科学アカデミー紀要(PNAS)掲載の調査によって、分析対象の16,000隻の産業漁船のうち、1426%が強制労働を利用している可能性があると判明した。これらの船で働く57,000人から10万人もの人々が強制労働のリスクにさらされている可能性があるという。

また、強制労働の次の段階は奴隷であり、乗組員は更に悲惨な環境に置かれる。ある船舶では、1日の食事は米1杯で、120時間働かされたケースがあるという報告がある。また、2014年のガーディアン紙のタイ沖の奴隷船の調査によれば、一部の船では殴打等の暴力のほか、拷問、乗組員を長期間働かせるための覚せい剤投与や、殺人等が行われたこともあったという。処刑形式で奴隷が仲間の前で殺されたりしたなどの事例も報告されている。

海の上での人権侵害」2023年06月22日

紅茶畑、インド(写真:ঈশান জ্যোতি বৰা / Flickr [CC BY-SA 4.0])

アパレル産業の場合

アンフェア貿易とアンフェア労働は、カンボジアバングラデシュハイチホンジュラスなどの国々で見られるように、繊維・衣料産業でも大きな問題だ。バングラデシュに関しては、

1,130円のポロシャツで誰にどれぐらいのお金が支払われているのかというコンサル会社の2011年の調査がある。

この調査によると1,130円のポロシャツのコストは458円でその中の労働者に支払われる金額は10円で工場の利益の47円の5分の1強しかない。また消費者の購入金額から考えれば工場での労働者の得られる賃金はわずか0.9%しかない。いかに労働者が搾取され、ブランドが利益を出しているかがわかる。

ファッション業界の『裏側』」2017年10月19日

カンボジアにおいても類似の問題がみられる。

カンボジアの繊維産業が抱える問題は、何よりもまず極めて低い賃金にあると言える。初めて最低賃金が定められた1997年以降、繊維産業部門における月間最低賃金は40米ドルから徐々に改善され2022年には月間200米ドルに引き上げることが決定された。しかし下のグラフから分かるように、エシカルな貧困ラインとされる1月あたり約229米ドルという基準に照らしてみても依然として低い水準だ。このような工場でフルタイム・長時間で働いたとしても、家族を養うことができるどころか、働く本人が貧困状態であり続ける。結果的に、繊維産業で得られる収入は家計にとって補助的な役割を果たすにすぎず、従事する労働者のうち約9割が女性となっている。

カンボジア:アパレル産業の実態」2023年02月9日

強国の政府は、衣料を生産する低所得国の政府に対し、最低賃金を低く維持するよう圧力をかけることがある。最低賃金を引き上げようとする現地政府を転覆させるクーデターに関与した例さえあり、最も顕著なのは2004年のハイチにおけるアメリカとカナダの介入だ。

2004年のハイチ大統領拉致事件にはカナダ軍も加担していた。この介入の主な動機は、ハイチ政府が労働者の最低賃金を引き上げたことに対する不満と見なされている。賃金引き上げによって、カナダの衣料品産業など、ハイチをはじめとする国々に生産を委託していた企業に影響が及ぶ可能性があったのである。

不平等な世界と日本のメディア」2026年01月29日

衣料工場、カンボジア(写真:ILO Asia-Pacific / Flickr [CC BY-NC-ND 2.0])

第三次産業の場合

不公平な労働はIT分野にも深く根付いており、低所得国へ業務委託をするテック企業がその例となる。

企業が業務委託を行う目的をコストの削減としている場合、低賃金といった問題が生じうる。この低賃金にも2つのケースが考えられる。1つ目のケースは労働内容や労働時間に見合わない金額しか賃金が支払われないという、そもそもの賃金の設定が生活を営むのに不十分である場合だ。

実際に起きた例をみてみると、アメリカの電気通信会社エーティーアンドティーが業務を委託するフィリピンにあるコールセンターでは1時間当たり2米ドルしか支払われていない。また、アマゾン・メカニカルタークの労働者の中には、1日4~5時間働いて2カ月で700米ドル、1日8時間働いて25米ドルしか得られないという人々がいる。他にも、IT関連会社グーグルが数十カ国の数千人に上る派遣労働者に対して、違法に少ない額しか賃金を支払っていなかったという事例もある。

もう1つは、業務を委託された労働者と業務依頼主の企業で働く労働者の間に発生する賃金格差の問題だ。たとえ同等のスキルや経験のもとに同じような業務を行なったとしてもこの二者間に大きな収入の格差が発生しているのである。プログラミング技術を要するソフトウェア開発における熟練技術者の時給を比較してみると、アメリカやカナダなどは60米ドル前後の賃金であるのに対し、東ヨーロッパのウクライナ、ロシア、ポーランドでは20米ドル前後の賃金しかない。さらに低いのがアジアやアフリカの国々で、インド、フィリピン、ベトナムでは10米ドル前後、エジプト、ナイジェリアでは10米ドルにも満たない。

ITサービスのグローバルな委託に隠された問題」2021年10月7日

民間軍事産業の世界でも、企業が低所得国の元軍人を採用し、高所得国の者よりもはるかに低い報酬で働かせていると報告されている。

利益の追求が目的となっているため、人材についても問題が発生する。民間軍事会社は国軍と違って、社員の国籍は問わないが、国籍とバックグラウンドによって給料が異なる。先進国の退役軍人は高いレベルの訓練を受けていることもあり、高い給料でなければ雇えない。一方、貧困国出身の人材だと給料が安くても雇うことができる。まさに世界の格差問題が現れている。例えば、イラクでの米軍施設の警備を委託されていたイギリスのイージス社(Aegis)の行動が2016年に注目された。当初、米軍からの高額な委託料により、先進国からの退役軍人を主に雇っていたが、委託料が減ってくると、ネパールなどの退役軍人を安い給料で雇い、やがて、さらに安く雇えるアフリカから人材を確保するようになった。軍事活動の経験者を求める中で、トラウマを抱えているシエラレオネの元少年兵もその中に含まれていたことが判明し、問題となった。

戦争の民営化?民間軍事会社の台頭」2018年09月6日

コーディング(写真:Jack Sem / Flickr [CC BY 2.0])

改善へ?

上記のような問題に対して、「フェアトレード運動」が存在する。公正に取引された製品に制度的な認証やラベルを付ける取り組みだ。しかし、この運動が世界の現状を大きく変えるにはまだ程遠い。フェアトレード製品は限られた品目・産業にしか及ばないことが多い。さらに、多くの場合フェアトレード製品の価格が必ずしも公平とは言えず、生産者の大部分は貧困から抜け出せていない。最後に、規模があまりにも小さく、市場に出回る製品に占める割合は非常に小さい。

改善に向けてやるべきことはまだ多く残っている。

 

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